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3.パンティって、どんな意味?

異世界の人と戦ったよ。めっちゃ弱かったよ。

 お姫様は、最初に僕が押し倒した位置にぺたんと女の子座りで座っていて、僕のほうを惚けた顔で見ていた。


 無論、全裸のままだ。


 僕は今度こそ、ばっちり見てしまった。

 そして、すぐに顔を逸らす。


「す、凄いです」


 お姫様が心底感心したように言った。

 いや、凄いのはキミのその肉体と格好なんだけどね。


「何しているの。は、はやく服を着てよね」


 少女の裸をばっちり海馬の奥に閉じこめた僕は、急に恥ずかしくなって、そんな紳士的な科白を口にした。


「へ? ふぇ?」


 お姫様が、鈴が鳴るような声で、間の抜けた科白を漏らす。

 そして、


「み、見ないでくださ~い!」


 先ほどと同じ格好で両手を突き出しながら、こっちに突っ込んできた。


 僕は一応は目を逸らすふりをしながら、ばっちり盗み見ていたため、その動きを目の端に捉え、いや、そうじゃないでしょ、僕の目を塞ぐんじゃなくて、自分の体を隠しなよ、この子馬鹿なの? という気持ちから、お姫様の両手を掴んで止めた。


 ぷるんぷるん!

 ぷるるるるん!

 …………。


 僕の思考が真っ白になる。


 いや、違う。

 これはあれだ。


 野球選手がピッチャーの投げた球を打つ際、研ぎ澄まされた集中力によって生み出されるという、音も色もなく、ただ白と対象だけが存在する世界で、そこでは球に書かれた文字まで読めるという、集中力の世界なのだろう。


 お姫様が両手を突き出して、突進してきて、僕をその両手を掴んで止めたから、当然のことながら、全裸の彼女の無防備な姿を見ることになり、その主な集中力の先は、リンゴほどの大きさの、びっくりするほどきれいな曲線を描く真っ白な胸のふくらみであり、この集中力の世界では、彼女の胸しか存在せず、まさに禁断の果実と呼ぶに相応しい魅了の魔力をもって、思わず触るか舐めるかつつくか顔を埋めるかしたくなる、とどのつまりはおっぱいだ!


 おっぱいが今、僕の目の前で、ぷるんぷるんしてるよ!


 おっぱい祭りだ。

 ひゃっはー!


 僕は文字通り茹で上がったみたいに、顔が急速に熱くなるのを感じた。

 このままだと頭が爆発してしまうよと指摘されても、思わず信じてしまいそうなくらい顔に血が昇っていることを自覚する。


「私、このままエッチなことされてしまうんですね。せ、せめて優しくお願いします」


 パリン!


 僕の中の何かが割れた。

 潤んだ瞳で、可愛らしい顔で、子犬みたいな口元で、なんてことを言うの、この子。


 思わずその、僕の分身とも言うべき、アレが固くなっちゃったじゃないか。


「ち、違うよ。僕はそんなことしないよ。それよりも早く服を着てよ! 本当に僕の頭が破裂しちゃうよ!」


 僕は目をしっかりと閉じて言った。

 あまりにも魅力的なモノを目の前にして、罪悪感と羞恥のほうが上回ってしまったらからだ。


 本当、初対面の女の子の胸をまじまじと見るなんて、勇者でもない限り無理なんだからね!


「服?」


 まるで、それが何かわからないような、間の抜けた声。


「そうだよ、服だよ。服を着たら、僕の目を隠す必要がなくなるじゃないか!」


「ああ、そうです! 服さえ着れば、こんな恥ずかしい思いをする必要もないですよね!」


 お姫様がまるで宝くじにでも当たったみたいに、弾んだ声を出した。

 一連の長いやりとりを通じて、漸くその事実に気づいたらしい。


 ……もしかしたら、この子馬鹿なんじゃないかな?


 

「もういいですよ」


 着替えが終わったらしいお姫様の声がして、僕はたまにちらちらを開けてはすぐに閉じていた目を、再び開けた。


 べ、別にちらちら見てたわけじゃないよ。


 目を閉じているとかえってエッチな妄想をしてしまいそうになるから、定期的に目を開けて気分転換していただけなんだから!


 まあ、ぶっちゃけ着替えるところを見たりしてたけどね。

 だって、気になるし……。


 ほかの女性がリオのカーニバルのような露出の高い服を着ていたから、だいたい予想はついていたけど、お姫様の服装も、ほとんど、水着に近い布の部分が少ないものだった。


 水色のビキニタイプの上下に、丈の短いベストのようなトップス。

 そして羽衣みたいな半透明なズボンと、これまた半透明のジャケットのようなモノを身につけている。


 正直、まだ目のやり場に困る格好だったけど、全裸のときよりは遙かにマシで、半分残念に思いながらも、半分ほっとしている僕がいた。


 ちなみに彼女が全裸でいた理由は、露出が好きな美少女ってわけじゃなく、小川で水浴びをしていたからだ。

 さっきはパニクっていて描写が追いつかなかったけど、ここは小川のほとりにある開けた草原だったりする。


「あの、本当にレイプ魔さんじゃないんですか?」


 お姫様がおずおずとした態度で、直球な質問を投げかけてきた。


 甘えるのが下手な仔猫みたいな雰囲気を醸し出している。

 構ってもらいたいのに、どうやったら構ってもらえるか分からないような、おどおどした感じ。


 うん。

 やっぱりこの子、めちゃくちゃ可愛いよ。


 だから僕は、お姫様の顔をまともに見ることができず、主に草むらと、そこに気絶したままの女戦士を眺めながら答えた。


 っていうか、女の人を倒れたままにしておくことに気が引けたけど、寝ている女の人に触れることのハードルのほうが高くて、結局はそのままにしていた。


 だってあれだよ。

 胸元からちょっと小ぶりな胸の谷間がくっきり見えているんだよ。


「うん、違うよ。裸を見てしまったことは謝るよ。だけど、本当に不可抗力なんだ。気づいたら、ここにいて……。あのさ、一つ聞きたいんだけど」


 僕はずっと気になっていたことを尋ねた。


「ここって日本じゃないよね?」


「え? あ、はい。ここはハラハラの森です」


 ……。ん?


 なんか僕が聞きたかった答えと微妙に違うぞ。

 そんな局所的な名前じゃなくてね。


 僕はもう一度、この国の名前を尋ねた。


「ここはプルプリル国です」


 やっぱりか。

 僕の知らない国の名前だった。


 なんで彼女たちが日本語でしゃべっているからは知らないけど、漫画やラノベとかで、こんなシチュエーションの知識はあったしから、一応状況はすぐに理解できた。


 なんでか知らないけど、僕は異世界に飛ばされてしまったのだ。


 本当はもうちょい驚くべきだろうけど、お姫様の裸騒動でずいぶん騒いだため、もはや僕に驚くだけの気力がなく、というか、いまさら驚いてもシラケるだけだと思うし。


 それに人間、本当に不思議なことに出会うと、驚くくらい腹が据わるもので、というか慌てても仕方ないという達観した思いもあり、僕は何故かごく自然に今の状況を受け入れてしまっていた。


「あの、もしかしてあなたは異世界からやってきたのですか?」


 あなた、という表現にちょっと戸惑った。

 妙なよそよそしさと、変なくすぐったさを感じる。


 そういえば、自己紹介がまだだった。


 異世界という単語がすんなり出てくるところをみると、僕以外にもこの世界に飛ばされてきた人がいるということか。


「うん。どうやら、こことは違う世界からやってきたみたい。僕の名前は、木村良平。キミは?」


「私は、この世界の住人です。異世界の者ではありません」


 ……うん?

 僕は名前を聞いたつもりだったんだけど。


「それはなんとくなく理解していたよ。キミの名前は何かな?」


「ああ、ごめんなさい。私、あんまり頭がよくなくって」


 うん、それもなんとくなく理解していた。


「私の名前は、パンティ。──パンティ・フリル・クルクルパーです」


 ……。

 ……………………………。

 …………………………………………………………は?


 この子いま、なんて言ったの?


「あの、もう一度」


「はい。パンティ・フリル・クルクルパーです」


 き、聞き間違いじゃなかった。


 なんて凄まじい名前なんだ。

 インパクト絶大だよ。


 って、待てよ。

 名前を聞いた以上、僕はこのお姫様のことを「パンティ」と呼ばなければならないの?


 どう考えても、ギャグにしかならない流れなんだけど。


 だって考えてみてよ。

 

 仮に、仮にだよ。

 僕が彼女のことを好きになって、たまたま何かの偶然で、告白する流れになって、どこかの風景がきれいな場所で、ロマンチックな雰囲気になりながら告白するとしたら、僕は真剣な表情でこう言うんだよ。



「僕は、パンティが好きだ」


 変態じゃないか。


 どう考えたって、変態の科白だよ。


 何が「パンティが好き」だよ。

 真顔で言うことじゃないよ。

 頭がおかしい奴だと思われちゃうよ。


 あと、もしもお姫様がピンチになって、僕が叫んだとしても、


「パンティ危ない! 後ろだ!」


 いや、危ないのはその科白だよ。


 何が「パンティ危ない」だよ。

 いったいどんなパンティだよ!? 


 後ろが危ないパンティって、脱がなくともウンチができる仕様だったりするの!? 


「パンティには笑顔がよく似合う」

「早くパンティ来ないかな」

「パンティと一緒にいるだけでいい」


 ダメだ。


 何を言ってもギャグにしか聞こえない。

 僕にはハードルが高すぎる名前だよ。


 っていうか、パンティも酷いけど、クルクルパーってファミリーネームも酷いよね。


 このお姫様がたぶんっていうか間違いなくだけど、お馬鹿だから余計に痛く思えちゃう。


 たぶん、単語レベルでは意味が違っていて、インカ・マンコ・カパック国際空港やエロマンガ島くらい、不幸な文字の組み合わせが起こっただけだろうけど、ちょっとこれは酷いよ。


「あの、お姫様」


「あの、名前を教えたのだから、パンティと名前で呼んでくれると、うれしいです」


 もじもじとはみかみながら言う美少女の破壊力は凄まじく、今の僕ならば、人通りの多い往来でも、彼女の名前を絶叫できそうな気がした。


「ぱ、ぱぱぱぱ、パン──」


 ごめん。やっぱり無理だった。


 言えそうな気はしたんだけど、そう思っただけで、実際は羞恥心のほうが勝ってしまった。


 っていうか、こんな可愛い子の前でパンティと言わせるなんて、これっていったいなんの罰ゲームなの!?


「あの、どうしたんですか?」


 僕の態度がよほど変だったのだろう、パンティが首を傾げて尋ねてきた。

 くぅう、可愛いなぁ。


「あのね。とても言いにくいことなんだけど、僕の世界の言語だと、その……、キミの名前が、女性の下着を指す言葉になるんだ」


 僕は意を決して、正直にそう言った。

 ほかに気の利いた科白を思いつかなかったからだ。


 気を悪くしてしまうだろうか?


「ああ、私の世界でもそうですよ」


 パンティがぱんと両手を叩いて、うれしそうに答える。


 ダメじゃん!


 どうして自分の名前を、女性の下着を表す言葉にしちゃったの!?


 っていうか、この子には罪はないか。

 悪いのはこんな名前をつけた両親だよ。


 ふと、僕は嫌な予感がした。

 念のため確認してみる。


「……そういや、クルクルパーって、この世界だとどんな意味?」


「はい。頭が残念な人を指す言葉です」


 ダメじゃん!


 どうしてそんな名前にしたの!?


 改名しようよ。

 僕だったらグレてたよ!

お読みくださりありがとうございます。


次回は、一歩間違えば死ぬようなシチュエーションで、股間の男の子の部分を、くちゅくちゅされてしまいます。天国と地獄。

こうご期待!


楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

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