22 異世界って最高!
中村さんを倒してしばらくは、プリプリル国は連日お祭り騒ぎだった。
数日過ごした経験から言うと、この世界には娯楽のたぐいが極端に少ないので、戦争に勝ったというのは、何日も飽きることなく語られるほどの刺激であって、僕とパンティと王様たちは輿の上に乗って、毎日のように街中を練り歩き、民の賞賛をこれでもかというほど浴びまくった。
だけど、ご馳走のほうは漫画で見るような豪華な食事が並ぶとかはなくて、神様が栄養を管理しているらしく、きちんと切り分けられた様々な味のコンニャクが並ぶだけの宴で、ちょっと個人的には盛り上がりに欠ける気がした。
そこで雨樋さんに電話で尋ねたところ、神様に言えばある程度の食料を持ち込めることが判明し、ものは試しにとサンドイッチの材料を注文したところ、神様からオッケーがでたので、今度パンティとピクニックに行くことになったのだった。ヒャッハー!
むろん、こちらから誘えるほど、僕には度胸がなく、主に言い出したのはパンティのほうだけどね。
あとヒャッハーで思い出したけど、モヒカン国はそのまま存続することになった。
まず僕が皆殺しとか奴隷化とか、そういうのに強い抵抗があったし、彼ら曰く、中村さんに脅されて嫌々戦争をしかけてきたということだったので、なんとか和睦に至った感じだ。
ちなみに中村さんは、ずっと地下牢に閉じこめたままにしている。
彼には特段憎しみを抱いていたわけじゃないけど、外に出られると取り返しがつかないレベルで損失を被る可能性が高いので、苦肉の策というやつだ。
もうちょいスマートな解決方法はなかったのかな、と思ったりはするけど。
何はともあれ今は、僕の興味は目下、パンティとのピクニックであり、二人きりということは、これはもうデートと言っても過言ではないような気がして、このまま行けるとこまで行ってしまったあげく、イッてしまうのではなんて、思春期さながらの悶々かつ幸せな妄想に浸っていたわけである。
──やがて、その日はやってきた。
「静かですよね、良平様」
僕の横に、サンドイッチのケースを挟んでパンティが座っている。場所は初めて僕とパンティが出会ったあの草原だ。
近くには小川が流れていて、さらさらときれいな音を奏でている。
目を閉じれば、あのときの光景が思い出された。
全裸で水浴びをしているパンティ。
たわわに実った胸とそれが作り出す谷間、ぷっくりと膨らんだお尻と、なめらかな腰のライン。
水に濡れた髪の毛がなんともエロティックで、ああ、そうだ。
僕はパンティの胸を触ったり、あの可憐で蠱惑的で小さな唇にキスをしたりしたんだ。
本当、ラッキースケベって怖いよね。
「良平様。なんか凄く幸せそうな顔をしていますね。何を考えていたんですか?」
え? あ、いや。僕、顔に出ていた?
ここでかっこよく「もちろん、パンティ(お姫様)のことだよ」と言えたら、さぞよかったんだろうけど、やっぱり僕にはハードルが高くて、「いや、サンドイッチ美味しかったね」と、普通のなんのおもしろ味もない科白しか返せなかった。
でも、パンティは「そうですね。こんな美味しいものは食べたことがありません」と最高の笑顔を返してくれたので、それはそれで僕は、自分に合格点をあげたいと思う。
本当、パンティって最高に可愛いよ。
「うぉほん」
僕とパンティがにこやかに笑い合っていると、背後からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
なんでかって、そりゃ、ここには僕とパンティ以外の人々が大勢いるからさ。
ウルザさんをはじめとした親衛隊の面々。
ちなみに先ほどのわざとらしい咳払いはウルザさんが犯人。
僕がパンティに卑猥なことをするのではないかと、迷惑にも目を光らせている。
いや、パンティは二人っきりと言ったけど、お姫様の言う二人っきりというのは、なぜか親衛隊のメンバーはカウントされておらず、デートだと思っていたのに、当然のように親衛隊のメンバーに周囲を取り囲まれて、まるで親がついてくるデートのように、妙な緊張感のなかで僕たちは食事をとったり笑い合ったりしているのだ。
正直、勘弁してよ、と思った。
まぁ、でも距離は五メートルは離れているから、無視しようと思えばできないこともないんだけどね。
「ここで、初めて良平様と出会ったんですよね。ほんの少し前の出来事なのに、なんだか懐かしいです」
「実は僕も、パンティと初めて会ったときのことを思い出して──。あ」
僕はついうっかり、その科白を口に出し、
「そうですよね。確か私はちょうど水浴びをしていて良平様に裸を見られ──。はっ! あわわわわわ! だ、駄目です、良平様! あれは忘れてくださ~い!」
パンティもその事実を思い出したようだ。
そしてパンティは、相変わらず何がしたいのか分からないけど、たぶん恥ずかしさのあまり僕を攻撃してきているのだろうけど、覆い被さるようにしてパカパカと僕の頭を叩きはじめる。
「忘れてくだ──きゃっ!」
と次の瞬間、パンティが何かに足を滑らせたみたいで、そのまま僕のほうへと倒れ込んできた。
──むにゅん。
パンティのおっぱいが僕の顔を押し潰してくる。
やわらかい。
まじでやわらかい。
本当、おっぱいをマシュマロにたとえたやつ天才じゃね、というくらい、やわらかくて温かい感触と、甘くてとろけるような匂いが鼻孔をついてくる。
僕は慌ててパンティをどかそうとしたけれども、パンティの片手で抱けるくらい細い腰に触れた瞬間、これは触れちゃいけないものだと、罪悪感と羞恥心を覚え、つい手を離してしまった。
その間にも、バランスを崩したパンティは倒れないように、必死に僕の頭を抱え込み、そのせいで僕の顔は完全にパンティのおっぱいに押しつけられているわけで、き、気持ちいいけど、い、息が……。
「貴様、姫様から離れろ! 殺すぞ!」
ウルザさんが襲いかかってくる気配。
だけど僕の視界と呼吸器官はふくよかな双丘に塞がれていて、見えないし息はできないしで、だけどパンティの体を触ってどかせるほどの勇気もなく、僕は幸せのなかで、絶体絶命のピンチを迎えるのだった――。
僕は平凡である。
なんらかの特殊な力を持っていたりだとか、優れた身体能力を持っていたりだとか、天才的な頭脳を持っていたりだとか、容姿が優れていたりだとか、人気者だったりとか、そんなところからは、磁石の同極のように、反発するかのような離れた位置にいる。
そんな僕だったけども、ふとしたきっかけで未来の日本にタイムスリップしてしまい、そこは未来はというよりは文明の退化したファンタジー世界といった感じで、すべてにおいて残念な人たちが住んでいて、でも容姿はすごく完璧な女の子がいて、僕は本当なんの努力をもしていないのに、すべての身体能力がトップレベルで、誰にも負けない高い知能と知性を持っていて、さらには美的文化の違いから、イケメンだとちやほやされる現実を手にいれてしまったわけである。
本当に異世界って、――実際は未来だけれども、あれだけ文化が違えば、それはもう異世界と言えるモノで――、本当に異世界に飛ばされるって最高だね、と僕言いたい。
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