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2.おめめ隠して、乳隠さず

どうやら、異世界に飛ばされたよ~。裸の女の子がいたよ~

  そこには全裸の少女が立っていた。


 別に大事なことだから、二回言ったわけでなく、本当に僕の脳味噌は、状況をうまく認識できず、同じ情報を二度吟味してしまったのだ。


「きゃああああ、み、見ないでくださ~い!」


 少女が叫ぶ、そこで遅ればせながら僕は、少女を見つめたまま固まっている事実に気づいた。


「わっ、あああ。ご、ごめんなさい!」


 僕はなんとも情けなく、なんの特色もない動揺の感嘆詞と謝罪の言葉を口にすると、くるりと後ろを振り向いて、目を閉じる。


 後ろを振り向いた時点で、目を閉じる必要はないだろうことは、ちょっと経ってから思い至ったけど、とにかく見てはいけないモノを見てしまったという罪悪感と、もうちょいしっかり見とけばよかったな的な、破廉恥な下心を振り払う気持ちが、僕の瞼を押し下げてしまったのだ。


 というか、本当、もう少しちゃんと見ればよかったなぁ。


 完全に想定外で、本気でパニクっていたため、僕のごく普通の脳細胞は、全身肌色の少女を見た瞬間、女らしさを特色づける情報をインプットする努力を怠ってしまったのだ。


 女らしさとは、あれだよ。おっぱいだったり、丸みを帯びたお尻だったり、おっぱいだったり、顔だったりだ。


 おっぱいを二回言っちゃったけど、二つあるから問題ないよね。


 とにかく僕の脳が認識したのは、薄いピンク色の長い髪を持った少女が、横向きに体を反らし、そのピンク髪がうまい具合に胸の先端を隠していて、「ちくしょう」と年頃の男子よろしく悔しく思いながらも、女の子の裸を見るとはなしに見てしまった僕のごく普通の人生は、今後どうなってしまうのだろう?


 やっぱり警察に捕まるのかな?

 という主に刑法上の心配だった。


 女の子の裸を見たのに、悔しい思いと将来の心配しかしてないや。

 でもこれが、突然女の子の裸を目撃してしまったときの、普通の反応だと思うよ。


「いやぁ、見ないでくださ~い!」


 再び女の子の悲鳴が聞こえた。

 鈴が鳴るような可愛いらしい声。

 たぶんだけど、僕と同じくらいの歳じゃないかな。

 

 くそぅ、どうせ覗き容疑で警察に突き出されるくらいなら、もっとちゃんと見ていればよかったなぁ。


「ご、ごめん。もう見てないよ。っていうか、さっきもよく見えなかったから!」


 僕はもう一度謝ったあと、できれば警察に突き出さないでほしいという願いから、見たけどよく見てなかったという、半分本当で半分嘘の科白を並べた。


「ふえぇ、見ちゃいや~!」


 三度同じ科白。

 あれ、僕の言った言葉が聞こえていないのかな?

 

 向こうもかなりパニクっているようだし、冷静に状況を把握できていないのかも、と半分冷静になりながらも、それってかなりやばい状況じゃないのかな? と思った。


 あることないこと言われて、覗きじゃなく痴漢、ひいては強姦魔呼ばわりされるパターンじゃ?

 ちょっと勘弁してよね。


 僕は頭の中で、刑務所の中でごついマッチョの囚人に「レイプでぶち込まれた奴は、ムショでは肉便器になるんだよ」と貞操を奪われそうになる妄想をちょろっとしたあたりで、不意に背後に気配を感じた。


 温かく細い小枝のような感触が僕の両目を覆うと同時に、背中にやけにやわらかい、経験があるわけじゃないけど、まるでおっぱいのような、っていうか、絶対これはおっぱいだろう、という感触が襲ってきた。


 それを証明するかのように、少女の声が僕の背後、すぐ近くから聞こえてくる。


「見ないでくださ~い!」


 僕は冷静に状況を把握する。こ、こここここれっておっぱいなんじゃっていうかだだだ抱きつかれているよねこれ背中からむぎゅって感じで両目を覆うついでにバカなのこの子!?


 ………ごめん。ぜんぜん冷静じゃなかった。


 だけど、どうやら僕は後ろから抱きつかれるようなかたちで、少女の両手で目隠しされるという、あの状況からどうしてこうなった、的なシチュエーションに陥っていることを理解する。


 たぶんだけど、彼女は僕に裸を見られたくない一心で、いやその心境は理解できるけど、自分の体を隠すよりも僕の目を隠すという、ぜんぜん理解できない積極的な方法を選んだみたいだ。


「ちょっと、当たってるよ!」


 全裸からの背中抱きつきアンドおっぱいむにゅ攻撃を受けた僕は、当然ながらそんな強烈コンボを受けた経験がないので、拒否感のほうが強く出てしまった。


 強引に少女をふりほどこうとする。


 少女の力は強くなかったけど、胸の弾力に弾かれるように仰け反った僕の体は、バランスを崩して倒れ込んでしまった。


 故意ではないけど、身の安全をはかるように、体を捻りながらーー。


 どすんという音。


 どうしてそうなったのかを説明すると、ディオのスタンドを目の当たりにしたポルナレフよろしく、ぜんぜん理解でないので、ありのままに起こったことを説明すると、少女を地面の上に押し倒し、彼女の胸を片手で鷲掴みにしながら、少女とキスをしてしまっていた。


 本当、なに言ってるか分からないよね。


 ちなみに僕のファーストキスである。


 ごく普通の僕は、ごく普通の恋愛を、ごく普通の女性として、ごく普通のシチュエーションでキスをするだろうと思っていたから、まさか初対面の全裸の女の子を押し倒した拍子にファーストキスを済ませてしまうとは、夢にも思っていなかった。


 っていうか、これってカウントしていいの?

 事故扱いでいいんじゃない?


「ご、ごめ──」


 僕は慌てて起きあがろうとして、少女の胸を鷲掴みにしている事実を再認識し、そのあまりのやわらかさと、押し返すような張りのある矛盾した最高に気持ちよい感触に動揺して、思わず手を払いのけた瞬間体制を崩し、再び少女とキスしそうなほど顔が近づいてしまう。


 本当、不可抗力って恐ろしいね。

 こう言うとあれだけど、本当に不可抗力だからね。


 そしては僕はおそらくは初めて、少女の顔をはっきりと見た。


 大きなぱっちりした目は潤んでいて星空のようにきらきら輝いていた。睫毛も長く、二重の瞼とぷっくりしたフェロモンタンクが、目元を魅力的にしている。


 鼻筋は通っていて、けれども鼻自体は大きくなく、ちっちゃくてツンとしていて、バランスがとれていて、桜色の唇はみずみずしくぷっくりとふくらんでいて、思わずしゃぶりつきたくなる感じだ。

 顔は驚くほど小さく、卵形で輪郭がはっきりとしていた。


 僕のごく普通のボキャブラリーでは、おそらく彼女の容姿はうまく伝わらないと思うから、可愛いか可愛くないかで言うと、めちゃくちゃ可愛いよマジで。

 この子本当に人間なの!?


 女の子の容姿を比べるなんてとても失礼でデリカシーのないことかもしれないけど、僕が片思いしているクラスの女の子より、百倍は可愛い。

 可愛すぎて物理的に手が出せないレベル。


 そんな僕の心境を知ってか知らずか、っていうか、普通は知らないのよね。

 少女は壮絶に可愛い表情のまま、桜色に光を放つ唇を動かしてこう言った。


「このまましちゃうんですか? 痛くしないでください」


 パリン!


 僕の中で何かが弾けた。といってもニュータイプに覚醒するための種じゃないよ。


 つーか、この子今なんて言った?


 しちゃうって何よ!?


 いや、わかるよ。

 この状況でこの空気で、相手は全裸で僕は覆い被さっていて、キスやらなんやらTOLOVEる的な偶然でしちゃったけど、それを差し引いても、その科白はどんな心境から出てくるモノですかぁ!?


 もしかしてドッキリか?

 ドッキリだな?


 どこかにカメラが設置してあるはずだけど、その前に冷静に考えろよ、僕。


 さすがに僕を騙すためだけに、こんな美少女を全裸にするか?

 いったいこの子は、どんな弱みを握られているんだよ。


 借金返済のため?

 いや、普通にアイドルとして売り出せば、ボロ儲けだろ、こんなに可愛いんだし。


 それ以前に、お茶の間で全裸シーンが流れることになるから、放送できないだろう。

 ってことはガチ!? ガチなのか?


 ってことはあれ?


 これってオッケーってことだよね?


 法律用語で言えば、和姦だよね?


 和姦って意味がわかんない、というシラケたギャグを思いつくくらいには僕は混乱していて、でもこんなシチュエーションになれば、下心よりも恐怖や保身のほうが上回るモノで、しちゃったあとに手を掴まれて「この人強姦魔です」とか、言われちゃう?

 とか心配のほうが大きくなってきた。


 なので、僕は慌てて否定する。


「ち、ちちちちち違うよ! これは事故で、不可抗力で、不本意というか、ぜんぜんそんなつもりじゃないから!」


 とここまで全力で否定しておいて、


「で、でも、どうしてもって言うのなら。その、僕はぜんぜん強制しないんだけど……。やっぱりお互いの気持ちって大事だと思うんだ。キミが本気でしてほしいというのなら、僕もその、吝かじゃないというか……」


 と、未練がましく和姦の確認をしはじめたときだ。


「姫様ッ!」


 鋭い声が聞こえてきた。


 僕は思わず上半身を起こし、声のした方を向く。


 見ると、ほとんど水着に近い、まるでリオのカーニバルの帰りに現れたような露出の激しい衣装というか、鎧のような物を身にまとった女性が、こちらに走り寄ってくるところだった。

 その顔には怒気が張り付いている。


 その女性に続くようにして、ぞろぞろとこれまたリオのカーニバルのように、肌の露出が多い女性の集団が姿を現す。

 あれってビキニアーマーってやつじゃないかな?

 手足には甲冑らしきものをつけているし。


 そして抜刀。

 剣というよりは包丁に近い、短い刃を手にして、僕を取り囲んでいく。


「貴様! 姫様に何をしている!」


 やばい。これは非常にやばい。


 姫様と呼ばれた相手が、誰のことだが、さすがに僕でも理解できた。


 そして僕が今はどんな格好をしているのかも、パンツを脱がす前にそこに性器があるのと同じくらい、指摘されなくとも分かる。

 っていうか、なに下ネタ言ってるんだよ、僕は。


「ち、違うんだ! 誤解だ! 僕は何もしていない」


 僕は立ち上がると、両手と首を必死に振って、本当に呆れるほど普通の、誤解を解く文句を口にする。


「その状況で何を言う!」


 ですよね~。


 女性の怒りもごもっとも。

 だけど、本当に誤解なんですけど。


「本当ですって。僕はなんにもしていない。この子に聞いてくださいよ!」


 僕は惨めなくらい狼狽して言い放った。


「姫様、どうなんですか?」


「あ、あの……。裸を見られて、押し倒されて、胸を鷲掴みにされたあげく、キスされました」


「ぶっ殺す!」


 ものの見事に火に油を注いでしまった。


 っていうか、姫様俺のこと嫌いなの?

 ちょっとくらい庇おうという、民に対する慈悲の心はないんですか?

 このままじゃ僕、マジで殺されそうなんですけど!?


 そんな僕の未練がましくも動揺した心情を知る由もなく、女性が短刀を振り上げて襲ってくる。

 そして容赦なく、主に刺さったら死ぬだろう的な物騒な武器を振り下ろしてきた。


「うわわわっ!」


 僕はそれを必死になってよけた。


「バカな!? 私の斬撃をさけた!?」


 女性が驚愕の声を発する。

 驚いた拍子に殺意も忘れてくれるとうれしかったんだけど、女性は屈辱に感じたようで、

 結構な美人な顔を、餌を取られたブルドックのように醜く歪めると、僕に向かってさらなる斬撃を繰り出してくる。


「ちょっ、当たったら死ぬって! やめて!」


 さすがにここが現代日本じゃないことは段々理解してきたし、女性が本気で僕を殺そうとしていることも、あの短刀が本物であることも分かってきていたので、僕は恐怖に竦んで動かなくなりそうになる体を必死に動かして、なんとか攻撃をかわし続けていた。


「よけるな! この強姦魔!」


「だから、違うって! 僕の話を聞いてよ!」


 僕は叫んで、迫り来る殺意に抵抗するように、女性の顔めがけてパンチを放った。

 半分は無意識で半分は本気の攻撃。


 何度か彼女の攻撃をかわすうちに、隙のようなモノを見つけたのだ。

 それを認識した瞬間、僕は喧嘩なんてしたことないのだけれど、短刀で追い回されて頭にきていたこともあって、女性をぶん殴るという、お母さんが聞いたら卒倒しそうな行為に出てしまったのだ。


 僕の拳がクリーンヒットする。

 思いのほか軽い感触。


 そして女性は、僕が驚くくらい大きく吹き飛ばされると、そのまま倒れ込んで動かなくなった。


 え? あれ?

 僕、勝ったの?


 予想外の結果に僕が呆然としていると、周囲がやけに慌ただしくなった。


「た、隊長!」


「大変だ。隊長が倒されたぞ!」


 うん。

 すごく嫌な予感がするぞ。


「隊長の仇だ!」

「奴を殺せ!」


 案の定、チンピラ相手に偶然喧嘩で勝ってしまったときのような、僕は経験あるわけじゃないけど、漫画などでよく見かけるある意味ワンパターンな展開が起こった。


 たくさんの、ほとんど裸に近い格好をした女性たちが襲ってくる。

 もちろん性的な意味ではなく、刃物的な意味でだ。


 だけど、僕はすぐに違和感に気づいた。


 なんというか、全員の動きが遅いのだ。

 たとえるなら、無双シリーズの雑魚キャラなみの動きしかしない。


「なんてスピードだ!」

「くそっ! 当たらない!」


 そんな驚愕の声が聞こえてくるところを見ると、どうやら彼女たちは真剣に僕を殺そうとしたうえで、この動きらしい。


 僕自体はぜんぜん普通の動きなんだけど。


 そう思うと、心にだいぶん余裕が出てきて、このまま避け続けると体力がもたないだろうという至極当然の結果を想像し、攻撃は最大の防御という言葉どおりに、攻勢に出ることにした。


 相手の攻撃の隙をついて、心の中でごめんなさいと謝りながらキックを入れたり、パンチを入れたりする。

 罪悪感はあったけど、背に腹は代えられないし、僕の命がかかっているのだ。


 すると攻撃を受けた女性たちはみんな、う~んと唸って「ばたんきゅ~」と気絶してしまった。


 そこで漸く僕は気づく。


 この人たちめちゃくちゃ打たれ弱っ!


「ひっ! ば、化け物!」

「に、逃げろー!」


 十人くらいいたうち、七人を倒したところで、残りの三人が逃げ出した。


 僕は呆然と、人を殴ったばかりの自分の拳を見つめる。


 今まで喧嘩とかしたことなかったら気づかなかったけど、僕ってもしかしてめちゃくちゃ強いの!?


 くぅ、こんなことなら高校デビューしておけばよかった。

 そしたらたぶん、女の子ともにゃんにゃんぱふぱふな関係になれたはずなのに──。


 と少しの間だけ、自己肯定的な優越感と興奮に浸ったあと、ふと我に返る。


 そんなことあるわけないよね。


 自分の強さくらい、自分でよくわかる。

 剣道の授業だったり、柔道の授業だったり経験したから、僕の強さが至って普通で、今の戦いだって至って普通の動きと攻撃で勝ったのだという事実は理解できた。


 つまりは、あれだ。


 この人たちがめちゃくちゃ弱いだけなのだ。

 まるでHP1の雑魚キャラを倒すみたいな感じ。


 よくこんなんでお姫様とやらを守れるな、と僕は思ったところで、

 そういやお姫様は? と彼女の姿を探した。

お読みくださりありがとうございます。


次回は、女の子の名前がパンティと判明し、パンティネタがさく裂します。

こうご期待!


楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!

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