第一話 BI
格差是正の為の税制改正案が議長に提出された――実質的にベーシックインカムを日本に導入しようという法案、それは可決されるのだろうか?
疑問に思いながら、彼を見た。
暗闇の中、プラレールの玩具で彼は遊んでいる。
……ニ年前、SNSによる選挙攻略を打ち出した彼は。
傍らのカップを見た。中にはジュースが入っている。
彼はまだ酒が飲めない。
成年でもなければ、青年でもない。幼いのだ、彼は。
――ほとんど子供だと言ってもいい彼がネットに大きな影響を与えたのだと、誰が信じるだろう?
ネット? いや、この社会に、国に。
マスコミは公に騒がないが、はてなブログやツイッターでは大きな話題になっているようだ。Yahooニュースのコメントを見ても、恐らく可決されるだろうとの声が目立つ。
可決か否決か、肯定か否定か、その比率はおおよそ半々といったところか。
世界マネジメント的に、と彼なら言うだろうか?
こちらが何を思っているのか見透かしたように、
「にへら」
と彼は笑うのだが、それは正しく、この前に彼が見たはずのアニメの登場キャラクターのよくする仕草に他ならなかった。
……にへら、とわざわざ声に出しながら、唇を歪めつつ笑うキャラ、それを真似ているのだ。
感情移入しているらしい、このキャラは自分なのだと、どこか本気で信じているのかも知れない。
ご丁寧に小道具的なもの、オレンジを片手に持っているのだが、彼の真似ているらしいそのキャラの好物というのがリンゴで、それはいつもリンゴを片手に持ち、演出的効果音が挿入される度に齧るのだった。
そうして、齧られた痕を見せながら毎回の決め台詞を言い放つ。
……飽きるほど。
真似しているのだろうと言っても、彼は否定し、反発するのだが、そのアニメを見る前まではオレンジをねだりなどしなかった。
これも世界マネジメントの効用なのかも知れない。
彼の頭の中で、あの特殊効果音が鳴ったのか、どうか。
「次は、……」
と話し出す。
作戦? アニメキャラを真似ての思いつきの戯言? 分からない。
区別なんかつかない。
ただ、大きな物事が動こうとしていた。
彼の話す間、顔を逸らしてゆく、思考は妄想との間を彷徨う、そしてふと、これは、ゲームなのだろうかという疑問が浮かび上がる
――ゲーム?
勝者は何を手にするのだろう?
「聞いてる?」
彼は問いかけてくる。
ゆっくり、顔をそちらに向けて直してゆくと、それを否定と受け取ったのかどうか、
「次は革命を起こすよ」
なんて彼は言う。
威勢がいい。
少し揶揄ってやろうと口を開く。
――しかし、爆発音がすべてを吹き飛ばしていった
窓から入る光に彼が浮かび、何事かが起こったのだと気付かされる。
それは一つの前兆でもあるようだった。