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解答篇


「じゃあお前は、弟の純樹じゃなく兄の友樹がクリスマスプレゼントを入れ替えたといいたいのか。それとも、純樹がいたずらをした目的には何か重要な意味があったとでも」蒲生は挑発的な目を碓氷に向けた。

「結論からいえば、いたずら犯は兄の友樹くんだと僕は思っている。でも、彼がいたずらを実行したのは決して、弟に対して悪意があったとかそんな理由じゃない。文字通り、友樹くんは弟にとって本当のサンタクロースになりたかったのさ」

「いつものことだが、お前は結論を先走りすぎなんだよ。きちんと順を追って話してくれ」

 両手を横に広げるオーバーリアクションで蒲生が碓氷に説明を促すのも、いつものことであった。

「まず前提として、兄の友樹くんは海外のジュブナイル小説、弟の純樹くんは飛行機の模型をクリスマスプレゼントに頼んだ。そして、今年のクリスマスは兄弟のパパとママの都合によって、日を早めた十二月二十四日にプレゼントがサンタによって届けられることになった。ここで重要なのが、兄弟はこの日に幼馴染の女の子とクリスマスマーケットに出かける予定だったということだ」

「どうしてそんなことが重要になるんだよ」蒲生は眉を八の字にする。

「子どもの心理を考えると、たとえばサンタからもらったプレゼントを友だちと見せ合いっこしたり、自慢したりしたくなるんじゃないのかな。だから、もしかすると友樹くんと純樹くんも、幼馴染の女の子――仮に華子ちゃんとでもしようかな――に見せびらかすつもりだったのかもしれない」

「だが、昨日兄弟がそんなものを持ってきている様子はなかったぞ」

「そう。きっと兄の友樹くんにとっては予想外だったんじゃないかな。本来ならば、弟の純樹くんが()()()()()()()()()()()を通して華子ちゃんと接近することを期待していたはずなのだから」

「ん、ちょっと待て。海外小説を頼んでいたのは兄の友樹だろ。それに、どうしてそこで華子ちゃんが登場するんだよ」

「蒲生は、純樹くんが話の途中で場を離れたのは、自分がいたずらの犯人で話を聞き続けることが辛くなった、そしてたまたま都合良く華子ちゃんが現れたからと話していた。でも、僕はそう思いたくなかった。パパとママの『良い子にしていなさい』という言いつけを頑なに守り、毎年のクリスマスを楽しみにしているはずの兄弟が、年に一度のイベントをいたずらなんかで台無しにするだろうか」

 次第に熱を帯び出す碓氷の言葉に、蒲生はじっと耳を傾けている。

「たとえばね、こんなストーリーはどうだろう。弟の純樹くんは、幼馴染の華子ちゃんに淡い恋心を抱いていた。一方、華子ちゃんは同い年の友樹くんと仲むつまじい様子で、弟は兄に対して密かに嫉妬もしていた。そして、友樹くんは弟が華子ちゃんに恋焦がれていることを知っていた。心優しい兄は必死に考える。弟は華子ちゃんとは学年が違うから、学校で近づくことのできるチャンスはなかなか訪れない。何とかして、弟が華子ちゃんと接近できる機会を作れないものだろうか。そして閃いたんだ。クリスマスプレゼントを利用して、弟と華子ちゃんの恋のキューピッドになれるかもしれないと」

「華子ちゃんも友樹と同じように読書が好きだった。自分のプレゼントであるはずの海外小説を弟にあげることで、弟がその小説をきっかけに華子ちゃんと仲良くなれないかと画策した」

 碓氷はにっこりと笑みを浮かべると、

「兄のいたずらによって、弟は気付いたのかもしれない。自分が華子ちゃんに対して抱いている感情を、兄が知っているのだということを。多分ね、プレゼントを戻そうと最初に言い出したのは純樹くんなんじゃないかと思うよ。彼は決意したんじゃないのかな。ずるをして成就した恋で幸せになんてなれない、だから正々堂々と立ち向かうことにした。兄という恋のライバルに」

「弟にとってのサンタクロースってのは、恋のキューピッドという意味だったのか」蒲生はふっと短く息を吐く。「お前にしては珍しいな。そこまで兄弟に感情移入していたとは思わなかった」

 碓氷はメニュー表を改めて開くと、悪戯っぽい眼差しを友人に送る。

「蒲生、二段ベッドの梯子はどこについている?」

 碓氷の出し抜けの問いに、蒲生は虚を衝かれたようにぽかんと口を開ける。

「どこって、そりゃ上と下にあるベッドの間だろう」

「位置は? ベッドのどのあたりを想像する?」

「そうだな、端寄りが多いんじゃないのか。足元近くとか」蒲生の答えに、碓氷は満足したように大きく頷いた。

「蒲生、単純に考えてみてよ。足元付近に梯子があるとすれば、仮に弟がプレゼントを入れ替える場合、どうやって兄の枕元まで行くと思う」

「そりゃ、梯子を登りきってベッドの上を」不意に言葉を切って、蒲生は両目を大きく見開いた。「お前、まさか」

「弟がいたずら犯なら、ベッドの上を忍び足で進んで兄の枕元まで行かなくちゃならない。一方兄がいたずら犯なら、梯子を降りて床の上を進めばいいから、弟と比べると不用意な音が立つ可能性が低いと思わないか。ベッドの上は軋みやすいだろうし、眠っているすぐそばを誰かが歩いていれば、気配に気付きやすくなってしまう。でも、寝床から離れた床の上なら足音を殺して歩きやすいし、仮に弟から『夜中に足音がした』と指摘されたとしても、トイレに行ったとでも言えば誤魔化せる。それに、上から下に降りるなら、自分のプレゼントに紐の類を結びつけて、クレーンの要領で先に床へ降ろして自分は手ぶらで梯子を伝いやすくなるしね」

 碓氷はしてやったりという顔で蒲生を見つめ、

「謎解きで重要なのは、いかに論理的に事象を捉えるかだろう。ミステリにサンタクロースの夢物語なんて必要ないよ――もっとも、僕は昔からサンタクロースの存在なんて信じてやいなかったけれどね」

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