01 喪女の人生十七年
死んで吹っ切れた喪女があれこれ頑張るお話です
基本的にギャグですし、勢いとノリで作っているので主人公以上にツッコミどころ満載ですが細けぇことはいいんだよ!的にのんびり見ていただけると助かります
私、霧島梅子はブスでデブでオタクであった。なんかもうどうしようもないことは自分で理解していた。
出来のいい妹や弟と違って私は昔から運動も壊滅的だし容姿は人並み以下。
勉強はせいぜい頑張って人並みだったけれど、学力主義の母の理想に叶うようなものではなかった。
私は毎日毎日妹弟たちと比べられ、母の嫌味に身を斬られ、反動から過食になって体重は平均よりもはるかに増えた。
そうすると高校入学あたりできらきらしいグループに目を付けられるようになり、まるでテンプレートのように転がり落ちる一直線である。
ホラー漫画であればここらで自殺して呪いの遺書を残したり、少女漫画であれば一念発起してダイエットして劇的に変ったりもするのだろうが……残念ながら母に生きる気力というMPを搾り取られた私にはそんな力はもう残っていなかったのだ。
なんとか健康に障りのない範囲まで体重は落せたが、やはりボンキュッボンとはいかない。そもそも私は貧乳だ。デブなのに貧乳っておかしくないか。
学校ではちくちくときらきらグループから虐められ、家に帰ると家族からの嫌味に耐える日々。
そして現実から逃げるようにゲーム、アニメ、ラノベの世界にはまり込みますます家族とは疎遠になっていったのだ。
家族の中で孤立してもその世界があるから私は全然平気。
しかし、そんなささやかな楽しみを糧に生きる私に事件が起こったのは十七歳になったばかりの事だ。
―――おかしい、なんでこんなことになってるの。私はゲームを買うための預金を降ろしに来たはずでは…。
一方的に飛び交う怒号。一塊に集められた銀行の職員や客たち。
そう、此処は銀行で今まさに強盗の立てこもり会場真っ盛りなのだ。
銀行の職員の対応が早かったのか警察が早かったのか知らないが、先回りされた犯人は銃を持ち、職員と客を人質に立てこもり中というわけだ。
こんな大きな銀行襲うなら仲間か逃走ルート用意しとけや!!!
と思いはするが口にはしない。突っ込みたいのはやまやまだが命は惜しい。
職員まるごと人質なので人数は結構なものだ。客の中には泣き出している人もいてそりゃそうだろうとなんとなく暗い気持ちになる。
しかし、私はといえば、恐怖と戦いながらもどこか平静を保っていた。何故だかは分からない。
ただ、今まで感じたクソみたいな人生を惜しむ意味が見つからなかったからかもしれない。
いや、でもこんだけ虐げられてこれで死ぬっていうのは嫌だな……。
ぼやっとした間抜けな顔でそう考えていると横のお綺麗な女性が耐え切れなくなったようにボロボロと泣き出した。うわごとのように誰かの名前を呼んでいる。
彼氏だろうな、そりゃそうだこんな美人が一人身だったら世の中の男の正気を疑うわ。
ただ、そのうわごとのような言葉が犯人の男の耳に入ってしまったのだ。
「なんだコラァ!めそめそとうっせぇんだよクソアマがぁ!!」
「きゃぁぁぁ!やめて、はなして!!」
案の定もう精神状態がお亡くなりに近い犯人にその綺麗な髪の毛を引っ張られ、人質の群れの中から連れ出されてしまった。美人は良くも悪くも目立つな!などと言っている場合ではない。
警察官に追い詰められて正直もう完全に逃げ場のない犯人はいつ発砲してもおかしくない。
美人さんの命は風前のともしびなのだ。
美人は性格が悪いとよく言われるが、きっとそれだけではないはずだ。だが私の身体能力でさっそうと美人さんを助け出せるわけもない。
まずは落ち着かせることだ。落ち着かせることが生命線になるのだきっと。
「あ、ああああ、あの、落ち着きましょう?ね、強盗の上に殺人なんてことになったら、めっちゃ罪重くなりますよ…」
口から出た言葉は戻らない。良い言葉だよね。私は昔から空気が読めなかったものね。
せめてもうちょっと相手の事を思いやって言葉を選べばよかったよねーーー!!
だけどもちろんそんなのは無理。無理に決まってる。
やっぱり激昂した犯人が次に銃を私の方に向けたその時―――
「いい加減離してよ不細工!!!!」
其れは勿論私の言葉じゃない。犯人に髪をわしづかみにされていた美人さんの言葉だ。
え、ちょっと待ってくれこれ以上犯人の精神状態を追い詰めないでくれ。そう思ったが、度肝を抜かれたのはどうやら犯人の男も同じだったようだ。突き飛ばされた身体が美人さんの髪を離して、宙に浮いて。
どさっと銀行の磨かれた床に倒れた瞬間に乾いた音がした。
「―――はへ……?」
間抜けな声と共に下を見ると私の白いコートのど真ん中には真黒な穴が開いており、わりと高かったそれを嘆く暇もなくそこから次は真っ赤な液体が噴き出すように溢れる。
其れから一拍遅れるように口からも真っ赤な液体がまるでマーライオンのように…は言いすぎだけども、どんどんと溢れ落ちていく。
人体の身体の中心から少し左。あれ、其処って心臓とか肺がちょうど重なっているところじゃなかったでしたっけ―――。
そんなのんきなことを考えている間に意識は混濁し、血は流れおち、ついに立ってられなくなった私はどしゃりとその場に崩れ落ちた。
銃声を聞いて突入してきた警官の中のイケメンが、美人とひっしと抱き合っているのがちらりと見えた。
おい、こっちは死に掛けてんだぞ。ああーやっぱイケメンと美人には性格が悪い奴が多いのかなー…。
最期の言葉もないまま、私の意識は血だまりの中悲鳴に紛れるようにかき消されていった。