万年竹
竹林に迷ってしまった子供の運命は…?
山城の国にあったはなしである。
子供達が、山中で遊んでいると、
一人が、竹林をみつけた。
筍でもとって、家にもちかえろうと
子供達はじゅんぐりに中に入ったが、
季節は夏で筍などあるはずもない。
子供達はそれはそうだと、
外に出ようとしたが
どうやら迷ってしまったようだった。
空を見上げて方角を計ろうとも
竹が鬱蒼と繁っての葉が見えるだけで、
空など一つも見えはしない。
皆恐ろしかったが
“迷った”というと、本当に
それが現実になってしまうようで
誰も口にはしなかった。
やがて、葉の隙間からみえる日の光もなくなり
夜になったことがわかった。
皆一様に腹が減ってそこにへばりこんでしまうと
竹の木の上から声がする。
「小僧、小僧」
子供達は、しまった!
この山に住む天狗だ!
さらわれてしまう!
と思ったが勇気をもって訪ねてみた。
「どなたさまですか?天狗さまですか?」
「いやなに、私は万年竹だ。」
万年竹とは、竹が万年生長すると人語を解し、
人々を迷わせるという、妖怪である。
これは、自分たちは万年竹に迷わされ、
倒れたところを餌食にされると思ったが
「その方たちは、どうやら迷ったようだな。
見れば、どこそこ村のものであろう。」
と、子供達の名前をピタリピタリと言い当てた。
「山中に入って夜に至っては狼や、山姥にくわれるかもしれん。
今宵はここで夜をあかし、明日になったら、道を教えてやるから
山をくだるがいい。」
子供達は恐ろしくてしょうがなかったが、
万年竹のいうことが、いかにも教養があったので
それに従って、そこで夜明かしをした。
朝起きると、竹が一斉に弓のようになって、
自分たちの村が見えるようになっていた。
これは、万年竹の思し召しだろうと思い、
急ぎ山をかけおりて、村にたどり着いた。
大人達にいうと、ウソのような話だといって
それでは、それを探しに行こうというので
みなで、また山中に入ったが、
結局その場所は杳として知れなかった。