竜玉
夢を見る竜玉
洛陽に胡遜という大商人がいた。
あるとき、外国から来た男に不思議な玉を見せてもらった。
なんでも、山中に竜の化石があり、
その手に玉を握っていたのだという。
その玉は両手に余るほどで、
玉の中には「義」と書いてあるように見えた。
「これは、すごい。
私に売ってくれまいか?」
「よございますが、多少、値ははります。」
「いくらか?」
「一万両でございます。」
胡遜は、はたっとため息をついた。
なにしろ、家財のほとんどだ。
「この玉をもっていると、夢をみます。」
「どんな夢か?」
「あなたに一万両でこの玉を売る夢でございます。」
胡遜は面白いと思ったが、夢のために
一万両は払えないと思った。
「では、一晩、百両でお貸ししましょう。
それで、夢をみましたら、
一万両で買っていただくというのは?」
と言われたので、
うーんとうなりながらも
百両で一晩借りることにした。
その晩、胡遜は夢をみた。
竜玉をかかえて山中にはいると、
竜に出会い竜玉を返すと、途方もない金塊や玉(翡翠)の山を手に入れる夢…。
朝目覚めると、
胡遜は外国商人に夢の話をした。
「それなら…。」
「いえ、竜玉はお返しいたします。」
といって、竜玉を返還した。
下僕の一人が聞いた。
「ご主人様、なぜ、竜玉を買わなかったのです?」
「いや、夢がそのままそうなるとは限らない。
現に、あの商人は一万両手に入れられなかったではないか。」
といって大笑した。
のちに、外国商人は、時の皇帝に献上し、
大金を得たが、帰国の途中に馬賊におそわれ、
命こそ助かったものの、家財のほとんどを失った。
また、宝物殿にあった、竜玉は大乱の際にどこかに紛失し、
誰の手に渡ったのかも分からなくなってしまったという。