貧乏神
何をやってもついていない男。ある日、財布を振ってみると…。
ドイツのライネ川付近にある町にある男がいた。
男は大変貧乏だった。
それとは逆に男の兄は大変な金持ちだったが、
弟は絶縁状態だった。
なぜなら、兄は、とほうもない吝嗇家で、
弟に1マルクも貸してやらないというひどい男だった。
弟は懸命に働いたが、なにをやっても失敗続きで
すぐに首になってしまった。
(ああ…子供ですらお金をもっているのに、
オレはパンを買う金すらない…。)
と嘆いて、からっぽの財布を振ってみた。
すると、中から、小人がでてきた。
歳は若くはなく、白いヒゲは胸まであり、
頭はツルツルだった。
「あなたはいったいどなたで…?」
「わしか?わしは、その~…
貧乏神じゃ。」
男はビックリした。
それは何をやっても上手く行かないはずだ…。
「何時まで私の財布にいるつもりです?」
「オマエさんの財布じゃない。
オマエさんのところに居たいだけだけなんじゃよ。」
「わたしの方では困るんですが」
「そしたら、わしに今から路頭に迷えというのか?」
なにをいっても始まらないので、男は一計を案じ、
「それじゃ、キミにとっておきの家をプレゼントしようじゃないか。」
「ほほう。家とは?」
「これさ。」
「これは?マッチ箱じゃないか。」
「そう。キミの体格にぴったりだし、
家に帰ったらワラで暖もとってやろう。」
「…おお~、優しいのぉ~。
だからオマエが好きなんじゃよ。
ずっとオマエさんのところに居させてくれ。」
といって、マッチ箱に入っていった。
男は急いで、松ヤニで隙間を固め、
森深くもっていき、
雨などで箱がやぶれないように、
石で固めて、土をかぶせて帰っていった。
それからというもの、男はなにをやっても成功した。
若い奥さんも娶り、
自分で事業を興して、たちまち大金持ちになった。
弟の成功をみて、兄が
「オマエはどうやって成功したんだい?」
「実は兄さん、こういうわけさ。」
というと、兄は、羨ましいやら妬ましいやら。
くだんの森に入り、土をほり、
松ヤニで固めたマッチ箱を見つけた。
「これだ…」
といって、マッチ箱をあけると、
中には貧乏神がちょこんとすわっていた。
「オマエか貧乏神は。」
「そうじゃ。オマエは。」
「オレは、オマエが取り憑いていた男の兄だ。
さっさと戻って、弟をもう一度貧乏にしちまえ!」
というと、貧乏神は深いため息をついて、
「いや、あの男はこりごりだ。
こんなところに押し込めてしまうなんて…。
オマエはわしを助けてくれた。なんて優しい男なんじゃろう。
わしはいつまでもオマエのところにいるよ!」
といって、兄の服にしがみつくと、それきり、見えなくなってしまった。
兄は必死で貧乏神を探したが、
どこにもいなくなってしまった。
それから、
兄はなにをやっても失敗続きで…。




