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15・あなただけ見つめてる


「これはまた派手な髪色の乙女が来たものよ」

「珍しいか? 王族にはたまに産まれるという銀髪だ。おばあ様が言うには、祖先に妖精の祝福を受けた者がいるということだが?」

「どうりで懐かしい香りがするものよ」


 霧の森の奥の泉の側で、対峙するのはふたりの女。


「お初にお目にかかる、夜の夢の女王よ。余はこの国の王女、ジャネット」

「迷わずに霧の森の奥まで来るとは、心に迷いが無いのかの」


 妖精女王の前に堂々と立つのは、紫の艶に輝く銀の髪のジャネット王女だ。

 女騎士レヴァンとメイドのアネッサのふたりを連れて、早速霧の森に突っ込んで来た。


「余は迷いも悩みもいくらでもあるが? 先ずは余の騎士、レヴァンが妖精女王に無礼を働いたことを詫びよう」

「その詫びは要らんぞ。こちらが煽ったものでもあるし、女騎士の寸劇には楽しませてもらったからのー、うくく」

「寸劇、というのはあれか?」


 ジャネット王女が視線を向けるところには、森の中には不釣り合いな大きな豪華なベッド。

 そのまわりを妖精達が囲んでいる。

 そのベッドの上では、絡み合うふたりの男と女。


「ぁあーーーー!」


 のけ反って声を上げるのはお嬢様。

 妖精騎士がツインテールのお嬢様にクリティカルフィニッシュを決めたところ。

 肌を桃色に染めてピクンピクンと痙攣してグッタリするお嬢様を見てジャネット王女が呟く。


「あれはフレッツ男爵家の令嬢か?」


 応えるのは黒のメイド隊、総隊長のアネッサさん。


「最近、婚約破棄されてヤケになってると聞いています」

「ヤケになった挙げ句、霧の森で花散らす妖精の騎士相手に処女を捨てに来たのか」

「うくくくく。乙女はいろんな理由で我が妖精騎士に会いに来るのー。さて、王女ジャネットはどのような理由でここまで来たのかよ?」

「騎士タームを連れ戻しに」

「やはりみんな欲しがるか。あれほど美しい男はおらんからのー」

「余は以前よりタームと結婚の約束をしているのだ」

「ほぉ?」

「そのときはタームは、その話は余が大きくなってからもう一度、とか言っておったが」

「それは子供の言葉を騎士殿が流しただけでは?」

「だが、余は大きくなった今でも気持ちは変わらんのだ。これは約束をしたも同然」


 女達が見てる中、騎士タームは気絶したツインテールお嬢様の身体の汗を拭いている。

 

 ――ジャネット王女とレヴァンが見てる前でフレッツ男爵家の令嬢を私は……、私はもう、歪んだ騎士の鎧を着けた、ただの強姦魔……、もう、どうにでもなれ――


 3年間、霧の森での妖精との暮らし。呪いのままにヤリまくりの生活で、話し相手もガンコナーとかリャナンシーとか。

 悪い奴等じゃ無いけれど人の常識とか知らない飛んでる奴等に囲まれて。

 流石の騎士タームも最近ちょっと危ない。頭と心が。

 友人と思ってたレヴァンを抱いてから、もう人の世界には帰れないとか諦めてきたのもあるけど。

 友達と思ってたレヴァンと一線を越えたのが効いてるらしい。女騎士レヴァンの方はなんかスッキリした顔してるんだけど。

 王女ジャネットは妖精女王に問いかける。


「夜の夢の女王よ、どうすれば騎士タームを返して貰える?」

「返す気など無い。あれはもう我のものよ」

「妖精の女王とは趣味が合いそうだ。余もタームを手に入れたい。妖精の呪いを解く方法も探してはいるのだが、妖精女王の呪いの解き方など知る者はいなくて困っている」

「人ができるのは知恵でエインセルやボギーを追い払うくらいであろーよ」

「ならばヒントだけでも教えて欲しいものだが」

「それに見合う見返りでもあるのか?」

「これから余の寸劇を眺めるには代価が足りんか?」

「ふむー」


 妖精女王は椅子に座りホブゴブリンの入れた紅茶を一口呑む。


「我ら妖精は人の想いをこそ愛で楽しむもの。故に想いを亡くした者には飽きるし、妖精がちょっかいかけても変わらぬ者にはさして興味が無い。例外もあるが、まーこんなところかの」

「なるほど」


 ジャネット王女は腕を組み妖精女王を見て、騎士タームを見て、なにやら思案顔。


「では、騎士タームと話をさせてもらっても良いか?」

「我を楽しませてくりゃれー。騎士殿、こちらへ」


 騎士タームはパンツとズボンだけ履いて、上半身裸で重い足取りで近づいてきた。

 ジャネット王女の前で膝を着き頭を垂れる。

 何も言わない騎士タームにジャネット王女は声をかける。


「騎士ターム、立って顔を見せてくれ」

「はい……」


 立ち上がった騎士タームは視線を地面に落としてジャネット王女の顔は見ないようにしてる。


「騎士ターム。なぜ余の顔を見ない?」

「私の視線には妖精女王の呪いがあります。なのでどうかこのままで」

「誰を前にしても堂々と在った騎士タームが、ずいぶんと変わったようだ」

「私はもはや、王国の騎士ではありません。その資格もありません」


 理想の騎士を己に課して、常に誇り高くあった騎士ターム。それが少し背中を丸めて、まるで捕まった空き巣のような。

 そんな騎士タームを見ても王女様は、


「王国の騎士でなくなっても、ターム=レィインが余の騎士であることに変わりは無い」


 背の低いジャネット王女は下から騎士タームを見上げて微笑む。


「ジャネット王女、どうか銀の指輪を置いて霧の森から去ってください。私のことは忘れて下さい」

「その気が無いからここまで来たのだ。それに、」


 ジャネット王女は両手の指を開いて広げて騎士タームに手のひらを見せる。その手に指輪はひとつも嵌めて無い。

 ジャネット王女はニヤリと笑う。


「余は初めからそのつもり」

「ジャネット王女……」

「呪いの解き方が解らんのですぐにタームを連れ帰るのは難しい。今回は妖精とタームの様子見。そのついでに当面の問題を先送りするのが目的」

「当面の問題とは?」

「父上が余を結婚させようとしている。だが、余はターム以外には婿に迎えるつもりは無い。霧の森で妖精のイタズラで処女を失ったとなれば、余の結婚相手はどう思うのだろうな? 父上も諦めてくれるだろう」

「ジャネット王女……」

「余はタームを一目見たときから欲しいと思っていた」


 無言で項垂(うなだ)れる騎士タームを見上げてジャネット王女は続ける。


「なにやらかつての自信を失っておるようだが、それはそれで好都合。高潔なる騎士タームであれば女遊びなどはしない。だが妖精の呪いを受けた妖精騎士ならば」


 ジャネット王女は嬉々として、森の中を動き易いようにと履いてきたズボンのベルトをカチャリと外す。


「村の娘に猟師の娘、貴族の令嬢、羊飼いに旅芸人。レヴァンを含めて200人以上、純潔の乙女を抱いてきたのであれば余が相手でも臆することはあるまい。かつての騎士タームであれば余が強引に迫ったところで相手はしてくれなかっただろう。ならばこれは好機!」


 ジャネット王女はズボンを下ろしていそいそと上着のボタンを外していく。


「ん、引っ掛かった。アネッサ、手伝ってくれ」


 騎士タームは頭を抱える。


「ジャネット王女、私は王女に相応しくありません、私にその価値は無い」

「タームの価値は余が決める。責任も余が負う。さぁ、ターム。このジャネットを抱くが良い。欲を言えば一発で孕ませてくれれば僥倖」


 妖精女王は紅茶を飲みながら一言。


「我の孕まずの呪いで子を成すことはできぬよー」

「それは残念だ。だが、今の結婚話が流れればそれでいい。呪いはいずれ解いてやる」

「言うのー、ちみっこ。だがこの霧の森では人の立場も役職も身分も関係無い。乙女はすべからくただの乙女よ。さぁ我が妖精騎士よ、思い知らせてやれ」

「このジャネットが王女の身分も無く裸一貫で試されるか、おもしろい、心地好い。さぁ、ターム。余をタームの好きにするがいい!」


 すっぽんぽんで両手を開いて立つジャネット王女は満面の笑顔。

 挑むように声を上げる。


「余の本気を見るがいい! アネッサもレヴァンもよく見ておけ、証人だ!」

「なんでこんなことにー!」


 霧の森に来る乙女って、ヤケになってたり開き直ってるのが多かったけれど、ジャネット王女はその中でもとびっきりだった。


「くふぅっ! タームが余のおっぱいをペロペロしてるうっ! たまらんっ!」


 これまでの乙女の中で最も積極的だった。


「大きいっ! これが入るのかっ? 入ってしまうのかっ? よし来いっ!」


 回りの妖精達が驚くくらい。


「私の直弟子が初めて圧されているッ!?」


 リャナンシーもビックリ眼。


「わー、うわー」


 女騎士レヴァンもメイドのアネッサさんも顔を赤くして両手で口を抑えて目が離せない。


「ちみっこ王女、貴様……」


 妖精女王が視線を鋭くして王女を見る。

 霧の森にジャネット王女の歓喜の絶唱が響く。


「念願成就ううううあああああ!!」


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