13・惑乱の騎士
騎士レヴァンは驚きで落としそうになった剣を掴み直す。
――え? 199人も? 処女を? 赤毛の娘が言っていたことは本当だったのか。妖精騎士が乙女の純潔を奪うというのは。ということはあの赤毛の娘はタームとムニャムニャ……、ななんてうらやまけしからん! だがタームの苦しそうな顔、これは妖精の呪い、そう全ては妖精のせいでタームの意志じゃない。
あ、でもタームだって男といえば男のわけだし、男であれば当然の欲もあるのかも?
いやいや、タームは有象無象の男どもとは違う。誇り高く理想の騎士を追い求めるタームが、自分からそんなことするわけ無い。
え、でも、100人以上って、嘘――
騎士レヴァンが混乱から気を取り直してる間、騎士タームが口を開く。
「私のしたことをは王国に仕える騎士として許されない。たとえ呪いが解かれたとしても私はこの国から離れるつもりだ。レヴァン、私のことは忘れてくれ」
「ターム!」
「私を友だと思ってくれるなら、私は単眼巨人と相討ちになり死んだということにしてほしい。私の恥と汚名をこの森に閉じ込めて、隠してくれないか」
「そんな……」
妖精女王は騎士レヴァンに囁く。
「ということよ女騎士。さぁ選ぶがよい」
「なにを選べと?」
「霧の森に迷う乙女が森から出るには、銀の指輪を捧げるか、又は純潔を捧げるか。我が騎士の友としてその願いを叶えるなら、銀の指輪を置いてこの森から去るがよい。だが、友では無いというのなら」
「私はタームの友だ!」
「「えー?」」
妖精達の疑問の声が合唱する。
「な? なんで?」
ドライアドがゆらりと騎士レヴァンに近づいて、
「友って友達? 友人?」
「そうだ!」
ニンフが首を傾げて、
「友達? 親友? 無二の友? それともただの遊び友達?」
「私とタームは親友だ!」
リャナンシーが苦笑して、
「どう見ても貴女がタームを見る目は、友達を見る目じゃ無いような気がするんだけどー?」
「なな何を言う!」
まわりの妖精達もえー? という感じでワイワイガヤガヤ。
上手く誤魔化せてたと思うは本人ばかりなりってね。妖精にはそういうのお見通し。
だからちょっかいかけたくなるのも妖精ってもんだ。
「人はおかしなところで素直で無くてややこしいのよ。では女騎士、うくく、この妖精女王がその背を少し押してやろう」
「なんだと?」
「我が騎士の願いの為に。女騎士が本当に我が騎士の友であり、騎士の名誉を守るというなら、我が呪いで女騎士の心と頭から騎士タームの思い出と記憶を消してやろう」
「やめろ妖精! タームのことを忘れてたまるか!」
「女騎士よ、友の願いを叶え名誉を守るならば、友として銀の指輪を置いて去るがいい。騎士タームのことを忘れての。しかし、友では無くなったとしても騎士タームのことを忘れたく無ければ……」
妖精女王がパチンと指を鳴らすと、騎士タームの足は1歩1歩とゆっくりと騎士レヴァンに近づいていく。
「さぁ、女騎士よ、霧の森に迷った乙女よ。我が妖精騎士の手が触れる前に選ぶがよい。ふたつにひとつよ」
ゲームスタートと、はしゃぐ妖精達。
結果は見えてても、混乱してる女騎士の心の動揺と胸のモヤンモヤンを楽しんでいる。こういうところが人のおもしろ楽しカワイイとこだ。
――なんだそれ? 妖精の呪いでタームのことを忘れる? 嫌だそんなのは! だけどタームは――
騎士タームはゆっくりと騎士レヴァンに迫りながら、
「レヴァン、指輪を。そして私のような恥知らずのことは忘れて、立派な騎士になってくれ。私がなれなかった理想の騎士に……」
騎士レヴァンは剣を捨てる。右手で左手に嵌めた銀の指輪を抜き取って、指に挟んで見る。
――これを渡せば、タームのことを、思い出も記憶も無くしてしまう?
レヴァンが思い出すのはタームとのこと。
剣のことはタームにいろいろと教えてもらったこと。タームと剣の腕に差はあっても、いつも一緒に修練した。
唯一タームに勝てる馬術で、タームに馬のことを教えていたこととか。
ふたりで街の酒場に行ったら女がタームに寄ってきて、落ち着けなかった。
なので騎士団の詰所の屋上で、二人で月を肴に酒を呑んだこと。
そして、タームが単眼巨人討伐で行方不明になったと聞いたときの喪失感。
回収された、ひしゃげた騎士タームの鎧の肩当て、そこに着いた血の跡を見たときの暗い穴に落ちたような気持ち。
そのタームが生きていた。辛そうな顔をしながら近づいて来る。
――タームのことを、忘れるだと?
「……レヴァン、早く、指輪を。頼む」
「いやだぁ!」
騎士レヴァンは一声叫んで指輪をポイッと投げた。
「あ、」
ひゅるりと飛んだ指輪はチャポンと泉に落ちる。
「レヴァンー!?」
「忘れるなんて絶対にいやだー!」
「レヴァン? このままでは私はレヴァンのことを襲ってしまうぞ!」
「え? あ? う?」
ジリジリとにじり寄る騎士タームに、混乱してキョロキョロする騎士レヴァン。
妖精達はおもしろい可愛いとケラケラ笑う。
「しょうがないなぁ」
泉の妖精ニンフがトテテと歩いて泉に手を入れて、
「んーと、あ、あったあった。女騎士ー、貴女が落としたのはこの金の指輪? それともこっちの銀の指、」
「知らないっ!」
首をブンッと振って指輪から視線を外す騎士レヴァン。
「レヴァンー!?」
「知らないったら知らないっ!」
「あ、じゃあ、この指輪、貰っちゃうよ?」
「レヴァン! 何を考えてる?」
「うるさいターム! 私にも解らない! タームがいなくなって寂しくなって! 胸にポッカリ穴が空いたように苦しくなって! やっと見つけて無事に生きててホッとしたら、もう帰らないとか忘れろとか言うし! タームが何人も処女を犯したとか! 妖精が呪いとか思い出を消すとか! もうなにがなんだか解らない!」
「だが、銀の指輪が無ければ私はレヴァンを!」
「よし! かかってこい!」
「え? レヴァン? 君はそんな人だったか?」
「ターム! 私も女だった! タームがいなくなるまで私も気がつかなかったけど!」
「こんなことをしたら、もう友には戻れない!」
「それはそれで嫌だー!」
ふたりは言い合いしながらも騎士レヴァンはその場を動かず、騎士タームはジリジリと迫り、ふたりの距離は縮んでいく。
ふたりを見る妖精達は大笑い。人ってこういうとこ、もどかしいやら可愛らしいやら。
妖精女王は笑いながら、
「あはははは、愛も友情もタームもムニャムニャも全部欲しいか。強欲なことよ」
「くうっ! 人を惑わせて楽しいか妖精女王っ!」
「もちろん楽しいおもしろい。それに女騎士、人の命は短いものよ。気取ってカッコをつけるよりも、欲しがるものに手を伸ばす姿の方が可愛いぞ」
「なにおうっ!」
「素直に心の底を見るといいのよ」
――心の底? 私、私は――
騎士タームにかけられた呪い、蠱惑の瞳とか魅惑の香りとかもあるけれど。
立場とか役割とかそーゆーのに縛られる奴ってのは、そこから脱け出さないと自分の気持ちも解らなくなるもんだ。
欲望ってのは悪いもんじゃないだろう。そこから目を反らして大事なことに気がつかなくなる方が、いろいろとおかしくなる。
だけど、気がついてしまえば簡単で単純で。
――私はタームの側にいたい――
「私はタームとムニャムニャしたいっ!」
騎士レヴァンは叫んで騎士タームの胸に飛び込んだ。
パチパチと拍手する妖精達。
「レヴァン?」
「私は貴族の娘だ。いずれは親の決めた相手のところに嫁ぐ、それが役目で不満は無い。だけどその前に、タームがいなくなる前に、忘れられないような思い出をくれ」
「レヴァン……」
「私はそれを抱いて騎士に戻るから……。タームがそんな女を鬱陶しいと思ってることは知っている。態度に出ないように気をつけてるのは知ってるけど……」
「では、私がレヴァンに友であることを強いていたというのか? 私は知らないままにレヴァンを苦しめていたのか?」
「タームの1番の友でいたいのも私の思いだ。だけど、他にもあることに気がついた。タームがいなくなって、初めて気がついたんだ。ターム……」
「レヴァン……」
なんだか甘い雰囲気になってきた中でドライアドがボソリと、
「そんなこと言ってても開きなおってヤることヤったら、意外とこんなものかー、とスッキリしちゃうのよねー。そんなものよ」
「私とレヴァンの友情をそんなもの呼ばわりしないでくれ」
「はいはーい、ベッドはこちらよお二人さん」
「だが、これまで友だと思ってたレヴァンを相手にするのは」
「安心せい、我が妖精騎士よ」
妖精女王が抱き合うふたりを見て満足そうに片手を上げて、
「我が呪い、荒々しき情欲はたとえ相手が親友でも母親でも姉でも妹でも娘でも、乙女であればギンギンのカティンコティンよ! 最高じゃろ!」
「最悪だ!」
「あ、タームが私にこんなになってる」
「レヴァンっ、触らないでっ、あっ」
「記念すべき200人目は凛々しき女騎士じゃな!」
「さぁ私の直弟子よ、これまでに身につけた技で格別にじっくりたっぷりと可愛がってやるのよ!」
「友の思いに応えてやれ。お前のハートの輝きを見せてみろ」
「普通の友で無くなるなら、夜の友になればいいじゃない。ねー」
「女騎士ってわざわざ頭に女ってつけるあたり、なにかやらしい響きがあってお得よねー」
という感じで、女騎士レヴァンは友情?エンドを迎えた。ベッドの上で目を開けばニマニマ笑う妖精達が目に入るので、恥ずかしくなって目をつぶっていたけど、途中からはタームしか見えなくなったみたいで初めてのわりにはけっこう激しかった。
騎士タームはなんか難しい顔してたけどね。
そーいや、森の中の泉の側で、妖精達の衆人監視の中、見物されながら初体験する乙女もこれで200人目か。




