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希望的ネバーエンド  作者: 武士博士
2/3

第1話 夏休みは寝るしかないはず

閲覧していただきありがとうございます!

武士博士です。


まあこれが普通の始まりですね、、、笑

楽しんでくれたら幸いです!

 壁一面の窓とカーテンを閉めているにもかかわらず、外気からガラス、ガラスから教室内の空気を通してセミの鳴き声が震えている。七月があと10日ほどで終わりそうな時期でこの暑さだ。夏本番である8月は蒸し風呂かのようになることは目に見えている。藍堂陣あいどうじんは窓際の席で頬杖をつきながらカーテンを下から少しめくって外の様子を伺った。相変わらず日差しがきつい。教卓では担任の先生が長々と夏休みの注意点やその他諸々の話を必死に説明していた。高校1年の頃から2年の今まで、担任である内田真帆うちだまほは去年教師に就いたばかりの新任でいつも一生懸命に生徒に接する裏表のなく誠実で熱心な先生だ。その熱心さが度を越して生徒たちとすれ違うことが多々あるのは目を瞑りたいところだが。しばらく外を見ていると、蝉が鳴り踊る大きな広葉樹よりももっと先の空に、肩まである黒髪を流す人間が豆粒のように小さく浮かんで見えた。風に飛ばされた黒い傘か何かの見間違いかと思った陣は目をこすってもう一度見上げたがそこには何もない。しかも今日は雨も降っておらず、傘を飛ばすような強風も吹いていない。先程からずっとけたたましく鳴っている蝉が証拠だ。首を傾げて、くの字に曲げ親指を伸ばした右手で両頬と口を覆って物思いに耽っていると、後ろに座っている巫木玉藻(みこたまも)が肩を叩いてきた。


「ねえ、何見てんの?あのさ、それより、夏休みどうしてる?あたし…、暇なのよね」


玉藻は先生に喋っているのを気づかれないよう、しどろもどろ陣の耳元で囁いた。すらっと伸びた腰元まであるかと思われる綺麗な長い黒髪の、いわゆる触覚と言われる前髪の横部分が陣の首元をなびく。


「おい、こんなこと他の男子にすんなよな」


まだ昼の11時だと言うのに夕日のように玉藻の顔が赤く染まる。


「普通だったらこんな耳元で話されるなんて、興奮しすぎて鼻血ノンストップ急行列車行きだぜ。俺はもう慣れてるから、どうってことねぇけどよ」


間髪入れずに右横に座っていた佐田恵美さたえみが喝を入れる。


「ちょっと陣!あんたさ、ちょっとはデリケア?とか気にしなさいよね!それになんなの鼻血ノンストップ急行列車って。意味わかんないわよ」


「デリカシーな。それと一応言っとくが、デリケアは男性局部の蒸れによる痒みを抑える薬だぞ」


赤面した恵美は黙ってしまった。


「あのな、俺と玉藻は小学校から一緒につるんでんだよ。こんなんしょっちゅうだぜ?いやでも慣れねーとこっちの気がもたねえっつーの」


恵美と玉藻は顔を見合わせた。


((あ、気にはするんだ。))


顔を先生の方に向けながら答えた陣は、顔を右後方に向け玉藻の目を覗く。


「俺はな、ぜんっぜん暇じゃねーぞ?てかむしろ…、忙しいくらいだ、寝ることで」


言うセリフを間違えたような顔をした陣は慌てて弁解に入る。


「いや、お、お前ら高校生にとってはな、家でダラダラ寝ることを一般的に暇を持て余す、と言うらしいがそれは全くの逆だ。いいか、暇だから寝るんじゃない、寝ることが俺のやるべきことであり、決して暇だから寝る、と言うわけじゃあない。よ、よく考えてみろ、人間の生涯ってのはな少なくとも3分の1以上は睡眠だ。だっ誰が寝ることを否定できる。」


陣が何を意味しているのか玉藻にはさっぱりだったが、それでも彼女は必死に話をする陣の弁解に聞きいっている。


(じゃあ、起きてる時間の3分の2は何すんのよ)


恵美にとっては、こんなに慌てて話をする陣は暇だという事実を必死に玉藻から隠そうとしているとしか見えなかった。ぱちぱちと瞬きを数回した玉藻は口を開いた。


「んじゃああたしも陣と一緒に寝るか!」


玉藻のド天然発言に陣の頭の思考回路の電気信号がピタリと止まった。そしてその数秒後に自分で発言したことのトンデモさに気づいた玉藻は陣と同じように、電源の無くなったロボットみたく固まった。相変わらずセミの鳴き声は鳴り止まず大きくなっていく一方だ。


「ちょっと藍堂くん?しっかり夏休みの話を聞いてください、これはとっても大事な話なんですよ!あの、藍堂くん?大丈夫ですか、聞いてますか?」


固まった二人をため息とともに横目に先生の方に向き座った恵美は少し悲しげな顔を浮かべ、陣の椅子と玉藻の机を見た。


「付け入る隙は10センチもないなぁ」




「皆さんわかりましたから、もう少しで終わりますから、もうちょっとの辛抱ですよ!あとは、皆さんもうすでに何回も聞かされてご存知かと思いますが、クレアと呼ばれる方たちの説明と注意点だけです」


内田真帆は必死に生徒たちに注意を促す。先程まで横や後ろだけでなくかなりの距離でもガヤガヤと話していた生徒たちの口数がすぐに減った。先生の必死さが功を奏したのかそれとも、クレアという魅力的な言葉に魅入られていたのかは明白であったが、先生は嬉しそうな顔を浮かべて、また口を開いた。


「いいですか、知っていると思いますが、クレアと呼ばれている方たちは、何かしらの能力を有しています。現状、地球上には神様の数だけ存在していると言われていますが、実際はその数は定かではありません。もしそうだとすると、八百万の神が存在していると言われるここ日本には、クレアの方たちがそれだけたくさんいるということになります」


周りのすべての生徒たちは食い入るように先生の話を聞いていたが、陣と玉藻だけは違う方向を見ていた。恐らく陣は十数分前に北側の窓から見えた、人影のような形をした何かのことを頭に浮かべていたのだろう。玉藻から見た、陣のその黄昏姿からはそうとしか推測できなかった。


「ここにいるどの生徒でも、クレアになる可能性は十分にあります。というかクレアの生徒さんも、もしかしたらいらっしゃるかもしれないですが…、いない、ですよ…ね?」


陣が通う学校に限らず、すべての学校は生徒たちに対して、クレア申請義務を課しており、これは政府が公的に文部省から公布された立派な法律である。つまりクレアである場合は、私はクレアです、と学校もとい国に申請しなければならないのだ。


(クレアかどうか判断できるような方法もわかってねーのに、自己申告制なんて馬鹿らしいな。だがもしこのクラスに心を読み取る奴がいるっていうなら言っとくぜ、お前、頭いいねって他の奴らに言われてんだろ)


陣は左ポケットに入れていた折りたたみ式携帯電話を取り出して、メールを立ち上げた。


 白チョークを手に取った先生は、黒板に天秤を描き、一つの皿に「願」、そしてもう一つの皿に「呪」の二文字を書いた。


「クレアは誰にでもなり得ると言いましたが、実際は、クレアになるにあたり、あるルールがあります。それがこれです。クレアの方は、クレアではない方に能力を引き継がせることができるのです。その際に、リチュアと呼ばれる儀式が行われるのですが、誰かその方法を知っている方はおられますか?」


待ってました、と言わんばかりの勢いで恵美が立ち上がり答える。


「はいはいはい、私知ってるよ!あれでしょ、お願いを一つだけ聞いてもらえるんでしょ?ホント羨ましい、能力ももらえてお願いも聞いてもらえるなんて、クレアってホントラッキーよね」


「ありがとう、佐田さん。でも半分合ってて半分間違いね。クレアの方たちはラッキーでは決してありませんよ。なぜならお願いを聞いてもらう際に、正と負が釣り合うような、能力とお願いに釣り合う大きな呪いを背負うからです。今黒板に書いた風にね。そして、能力と呪いがどのような性質になるのかは、その方の性質とお願いによって影響されます」


相変わらず陣と玉藻は上の空で、陣に至っては、机の下で先生にばれないようにメールを打っていた。陣に気づかれないように後ろからメールの画面を覗くと、宛先には、「妹」と記されている。本文は打ちかけだったが「すまん」という三文字がかろうじて見えたので、おそらく学校が長引いているということを連絡しようとしているのだろう、と玉藻は頷いた。


「クレアにはくれぐれも気をつけてくださいね、政府はクレアになるな、と間接的に言っていますが、私は個人の自由だと思います。けれど、触らぬ神に祟りなしです。そのような危険につながる可能性を少しでも秘めている行動は責任をしっかり果たすことができるような方になってからしましょう、というのが先生の立場である私からの忠告です。それに最近ニュースになっているクレア同士の戦闘もありますしね…。まあ、あなたたちは大丈夫でしょう!では、これをもちましてホームルームを終わり…、ついに夏休みの始まりですよ!」


 セミの鳴き声が陣の心の高揚とともにまたさらに大きくなり始めた。クレアにとって忘れることのできない激動の夏休みが今始まる。

ついに夏休みが始まりますね…

今年の夏休みはもう終わっちゃいましたが、皆さん何をなされましたか?

私は休みはほぼありませんでしたが、陣くん同様寝てばっかりでしたね 笑


また読んでください、コメント待ってます。


武士博士

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