僕を選んで
こんばんはにゃฅ^•ω•^ฅ
ほんとーにお待たせ致しましたにゃん…
今回は、外見重視派筆頭、小鳥遊さんの回です!
何をしてもつまらなかった。
退屈退屈退屈退屈退屈退屈退屈退屈退屈退屈…
あぁ…満たされない。
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小さい頃から勉強以外は、努力せずとも何でも出来た。野球をすれば、県大会優勝。陸上競技をすれば、県代表で全国大会出場。サッカーをすれば、U-18のスカウトが来た。
勉強はとんでもなく嫌いだったから、全くやらなくて…やらないから、そこそこにしか出来なかった。
やっていれば出来た、かも?
何でもそこそこ以上に出来てしまって、大人にはチヤホヤされてきた。
それでも、満足感が僕の心を訪れることはなかった。
何をしても満たされず、気が付いたら23歳になっていた。
チヤホヤしてくる大人に言われるがままに、いつの間にやら僕は、サッカー選手になっていて。
色の無い、興味も湧かないこの世界で、所謂イケメンスポーツ選手として人気が出ていた。
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僕の名前は、小鳥遊 咲。
名前の「咲」は「さく」と読んで、笑うという意味なんだ…って何時だったか、誰かに聞いた気がする。
女の子みたいだって、よく揶揄われてきた。
だから、僕はこの名前が嫌いだ。
モノクロの世界の中、弧を描く僕の口唇。
僕は笑う。
嘘の「エガオ」で。
皆、僕に、騙されてるんだ。
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いつも通り、白と黒しか分からない視界。
サッカーをする。
僕は淡々と試合をこなす。
もちろん、エガオで。
僕にとって、女の子達は誘蛾灯に寄ってくる虫みたいなモノだった。スタジアムを出れば、呼んでもいないのに、勝手に群がって来る。本当に邪魔で仕方がない。
そう言えば、今日はVIP席に若い女がいたな。
因みに、いつもならVIP席にはしわくちゃな爺さんか、太って脂ぎった中年のオッサンしかいない。
試合中に、珍しいな、と思ったっけ。
僕が帰るためにスタジアムを出ると、人混みが僕を飲み込んだ。あっという間に取り囲まれて、周りでぎゃーぎゃー騒ぐ女の子達に心底、辟易する。
うんざりしていた僕の耳に、コツ、コツ、と澄んだ足音が届いた。音のした方に目を向ければ、女神と見紛う程、美人な女性がいた。
欲しい、そう思った。
こちらに寄ってこない彼女にイラついて、思わず叫んで呼び止めた。
「!君!!」
呼び止めたかった女神美人と一緒に歩いていた、和風美女が振り向いて、騒ぎ始める。
「まぁ!あの方、容姿端麗と話題の小鳥遊選手ではありませんか!むぅのことを呼んでいらっしゃるのかしら?」
むぅっていうのは、女神美人の愛称かな。
どんな名前なんだろう?
今まで女性の名前なんて気にしたこともなかったのに、なんだか無性に気になった。
「?」
女神美人が振り返る。
ぱっちりとした澄んだ瞳、形の良いすっと通った鼻梁、薔薇の蕾のような小振りな唇、陶磁器のように滑らかな白い肌、それらを縁取る濡れ羽色の髪。
僕のものにしたい…!
一目惚れ、という言葉がストンと胸に落ちてきた。
僕はこの人に惚れたんだ。
「君に惚れた。僕と付き合ってほしいな。」
自分から告白することなんて、生まれてからしたことなかった。大抵、相手の女の子に呼び出されて、好きですと叫ばれて終わりだったから。
周りに一切興味が無かったから、告白されても特に考えずに受け入れていた。二股は流石に最低だと自分でも思っていたので、同時期に彼女が2人ってことにはならない様に気をつけていた。だけど、納得しない子が僕と付き合っているんだ、と吹聴するのも別に止めたりはしなかった。
だって別に、不都合はなかったから。
でも、この人だけは、僕だけのものにしたい、自分の力だけで手に入れてやる、そんな思いが湧き上がる。
「お断り…」
予想と違う答えが返され、呆然とする。
断られた?
なんで?
僕、かっこいいよ?
稼ぎもいいよ?
恥ずかしがり屋さんなのかな。
「待って!遠慮しなくていいんだよ?」
ヒールを鳴らして立ち去ろうとする彼女の、腕を掴んで引き留める。
素直になってよ。
きっと、君だって僕に惹かれているんだろう?
僕の気を引きたくて気のない振りをしているんだよね?きっとそうだ。
「しつこいですわ!むぅは断りましたの。アナタはフラれたのですわ、おわかり?」
「そう…私、断った…」
あーあ。断られちゃった。
お嬢様言葉の女の子にも、釘を刺されちゃったし。
残念だなぁ。
それにしても、フラれるってこんな気分なんだね。
生まれて初めて、僕にこんな感情を思い知らせてくれた彼女がのことが、どうしても、どうしても欲しい。
「この僕の告白を即断するなんて…ますます気に入ったよ。追いかけていいよね?必ず、振り向かせてみせる。」
本当に、気に入った。
口数が少なくて、表情の変化に乏しい感じなんか、もう最っ高。僕無しじゃいられない程に甘やかしまくって、どろどろに蕩けさせてやりたくなる。
絶対に諦めてなんかやらない。
いつも道化のように上げている口端が、何年かぶりに自然と持ち上がるのを感じた。
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女神美人との出会いのあと、僕はありとあらゆるコネや伝手を使い尽くした。
まずは彼女らが来ていた試合の日付から、VIP席に招待されていた者の名前を割り出し、その中の女性の名前を探した。
その日招待されていたVIPで、女性は1人だけだった。その人の名前は、桜院 梨亜。
桜院グループの本家のお嬢様だそうだ。同伴者1名ってなっていたから、恐らく彼女を連れたお嬢様言葉の女性のことだろう。
桜院さんの存在を突き止めてからは、少し行き詰まった。どうやって彼女の付き添いとして来ていた女神美人の名前を調べるか、とんと思いつかなかった。
でも、僕は諦めなかった。
桜院グループのパーティに、スポンサーの同伴者として呼んでもらい、桜院さんの仲のいい友達についてそれとなく聞いて回った。
桜院本家には子供が3人いるらしい。嫡男、長女梨亜、そしてその弟の次男。嫡男は後継としてそれなりに厳しくされているが、他は長女も次男もかなり自由な立場だという。
そして声をかけ始めて20人にもなると、それなりに役に立ちそうな情報が手に入った。
桜院本家の長男以外は中学から私立校に通っており、そこで出来た友人との交友が今も続いているということ。
梨亜お嬢様には、唯一無二の親友とも言うべき、ご友人がいること。
その親友の名前は、綾辻 夢月ということ。
その綾辻さんは、中学時代から美人で有名だったこと。
そして、綾辻さんは〇〇社△△課に勤めていること。
話を聞いた人の中に梨亜さんの中学からの同級生がいたそうで、綾辻さんのことも色々と喋ってくれた。
個人情報…ダダ漏れだったね。
しかも、その同級生さんはちょっと頭の弱い人だったのか、僕が少し優しくすると、学生時代にいた恋人のように僕を所有物扱いしようとしてきた。
そこでとことん活用してから、切ることにしたんだ。
彼女はなんと、綾辻さんの連絡先を持っていたのだ!
付き合ってあげるふりをして、彼女に近づき、綾辻さんの連絡先をゲットした。それ以降、用済みの同級生さんに連絡することはなかったけれど。
綾辻さんのアドレスを手に入れた僕は、沢山メールした。同級生さんの名前を出して、連絡先を聞いたことを伝えた。デートのお誘いも、もちろんいっぱいしたけれど、相手にしてもらえなかった。
でも雑談みたいなメールには時々返事が返ってきて、それだけで心が弾んだ。大抵、メールの返信は短文で悪い時は一言だけとかの時もあったけど、僕は素っ気ない彼女にも惹かれていった。
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綾辻さんともっと距離を縮めるためにはどうすればいいのか、思い悩んでいた矢先の事だった。
綾辻さんからメールが来ていた。僕から送ることが多かったから、彼女から連絡が来たことにも驚いたけれど、もっと驚いたのはその内容だった。
『日曜○○公園に来て。デートする。小鳥遊さんは昼間のプランを考えて。綾辻』
何かあったのかな?とは思いつつ、彼女の言う通り、日曜日の昼間どこに行こうか考えを巡らせる。
そこからはもう、楽しみすぎてあっという間に日曜日だった。
指定された場所に着くと、綾辻さんはあの時の梨亜さんといた。2人は談笑していたので、話が終わるのを待とうと横に立った。
すると、もう1人地味な男がやって来た。
「綾辻、どうした?デートプランを考えて来いなんて…お前らしくない。」
「佐藤!?貴方だったのですか!同窓会で、むぅに告白したと言う猛者もさは!」
「桜院?何故ここに…?しかも何故そんな…護衛兼監視役ってわけか…」
「…突然でごめん。リアにはそばにいてほしくて…」
「まぁ、いいけど…」
「僕も居るんだけどなぁ?…君たち、知り合いなのかい?」
佐藤と呼ばれた男は綾辻さん達の知り合い、というか同級生らしい。3人で盛り上がる様子に疎外感を覚え、思わず会話に割り込んでしまう。動揺していて、思わず分かりきったことを尋ねてしまった。
「もちろん。」
「…当たり前。」
「寧ろ、それ以外に見えます?こんなに仲良しなんですのよ。」
知り合い、というか同級生らしいことは会話からだいたい把握したが、言い合っているような雰囲気だったので、梨亜さんが言う「仲良し」には少し疑問が残った。
「仲が良い、のか…?……まぁ、それはそうと。君から誘いがあるなんて、驚いたよ。僕とデートする気になってくれたんだね。」
「…自意識過剰。」
「じゃあ、なんで呼び出したんだい?デートプランを考えて来い、との指命付でさ。」
「貴方たち二人の本性を探り見極める為ですわ!」
「要は、僕らがテストされるってことか…」
「平気か?仲良くもないヤツとデートなんて。」
「…気合い…リアいるし。」
「そうです!むぅは、私が守りますわ。」
「そうか…桜院、絶対な。」
「はっ!もちろん。当たり前じゃなくって?」
「だから、僕を、忘れないでほしいなぁ…」
綾辻さんにデートの意図を聞いてみたかった。
聞いたら3人がまた盛り上がってしまい、また口を挟むことになる僕だった。3人よりも2つ年下だし、ね。
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僕が考えたのは、遊園地だった。今まではデートなんて、恋人だった子に「□□に行きたい!」とか言われて決めていたから、デートプランとかよく分からない。
小さい頃、家族と遊園地に行ったような、そんな記憶がある。その時はまだ、こんなひねくれ者じゃなかった。
僕は自分の性格が最低だっていう自覚がある。
情報収集の為に女の子に近づいて、必要なことを聞いたら捨てるような男だし?
今日も、「エガオ」の仮面を貼り付けて楽しんでいるふりでもしようか。
「さてさて。僕のデートプランは…遊園地です!」
「…安易ですわね。」
「そこ!聞こえてるからね⁈」
「…楽しみ。なかなか行かないから。」
「むぅがそう言うなら。」
元々、綾辻さんと2人でデートのつもりだったから、チケットは2枚。着いてきたいなら、自分で買ってもらおう。
「チケットは2枚買ってあるから、君にはこれを。さぁ、入ろう?」
「俺たちのは?」
「え?無いけど?二人は自分でチケットを買うんだな。嫌なら、外で待っていたらどうだい?」
「ほら、チケットを買いに行きますわよ、佐藤。なんなら、私が2枚買いますけれど。」
「いや。自分の分は買う。」
「…行こ。」
綾辻さんの無表情が僅かに綻んでいるようだ。
口出していたように、本当に楽しみなんだろう。
その様子に思わず頬が緩む。綾辻さんが横にいると、僕の「エガオ」が本物に近づくのを感じるんだ。
手始めにメリーゴーランド。
綾辻さんの希望だ。初めから絶叫系とか言われなくて良かったかな。にわか仕込みの知識じゃ案内することもままならないし。
「…馬と馬車どっちにしよう?」
「私と一緒に、馬車に乗りませんこと?」
「…馬にする。ごめんね?」
「可愛いから良しとしますわ。」
綾辻さんは馬に乗るか馬車に乗るかで悩んでいるみたいだった。梨亜さんに馬車に誘われてたみたいだけど、結局彼女は馬に乗っていた。
佐藤は女性陣に写真撮影を頼まれたらしく、カメラを構えて2人が乗った馬や馬車が回ってくるのを待っていた。
目の前に2人が来る時、綾辻さんが微笑みこちらに手を振った。
「「「わ、笑った…!」」」
女性陣が乗る、メリーゴーランドがゆったりと回る。
無表情が崩れるだけで破壊力が…
僕の「エガオ」の仮面も彼女の前じゃ形無しだ。
お次は定番のお化け屋敷。
2人一組で中に入る。
まずは、僕と綾辻さん。
中は薄暗くて、おどろおどろしい雰囲気が漂っていた。少し進んでいくと、曲がり角を曲がったところで突然目の前に、夥しい量の血がついた、ゾンビだかグールだかが飛び出してくる。僕はホラー系には興味がないので、本格的だなーと思っていただけだった。
「きゃっ!」
綾辻さんは、可愛らしい悲鳴をあげ、なんと、僕の腕に抱き着いてきた。腕に、彼女の細い腕が絡み、ぎゅっと締め付けられると、何やら柔らかい感触が…かぁっと顔に熱が集まるのを感じる。
後続の2人の声も僕の耳には入ってこなかった。
「ひぃ!私に近寄らないでくださいましっ!寄るな触るな、ですわー!」
「お、ゾンビ。…こっちはドラキュラか。それに、貞子?もいる!小さいお化け屋敷なのに、種類豊富だな〜。」
なんだろう…怖さとは別の意味でドキドキした。
役得だと思っておくとしよう。
次はジェットコースター。
左から、梨亜さん→綾辻さん→僕→佐藤の順で四人乗りの列の席に着いた。
綾辻さんの隣で良かった。
「「きゃー!」」
「うわー!」
「っ!」
綾辻さんは左隣の梨亜さんと手を取り合い、叫んできゃいきゃいと楽しんでいたようだ。
僕も結構叫んで、普通に楽しかった。
最後は観覧車に乗った。四人乗りのゴンドラに、僕と綾辻さんだけで乗らせてもらう。僕はここで、綾辻さんに改めて告白するつもりだったから。
スタジアムの前では、最低な告白だったと自分でも思う。
仕切り直しだ。絶対に綾辻さんを落としてやる。
ゴンドラに乗っている時間には限りがある。
足を踏み入れ、腰を落ち着けるとすぐに話し出す。
僕には、彼女がいなきゃダメなんだ。
綾辻さんじゃなきゃいけない。
彼女がそばにいてくれて初めて、僕には人間らしい感情や表情が生まれるんだ。
これは、これだけは曇りない本心なんだ。
「僕は、今まで沢山の女性と軽い気持ちで関係を持ち、信用に値しない行為を繰り返してきた。でも君を好きなこの気持ちに、嘘は欠片も無いんだ。それは、信じてほしい。今日ついてきたあの男、彼も君に迫っているんでしょう?僕を、選んで。誠心誠意、君を幸せにすると誓うよ。君は、僕を幸せにしてくれないかな…?」
いくつも嘘をついてきた僕。
嘘の「エガオ」を貼り付けて生きてきた僕。
目的のためなら残酷なことも平気でできてしまう。
こんな汚れた僕だけど、綺麗な君に、どうしようもなく惹かれている。
神様どうか、僕にチャンスをください。
綺麗な彼女に、僕の爛れた過去を全部なんて話せやしないけれど、僕にも彼女を愛する資格をください。
君がいなきゃダメなんだ。
「…ぁ…」
「君を、愛してる。」
「…は、ぃ…」
「僕のこと、好き?」
「………嫌い……じゃ、ない。」
「嫌われてはないんだね。良かったよ!」
夕暮れ時、オレンジ色に染まる空に浮かぶゴンドラの中で僕は彼女に、想いを伝えた。
これは、酷い男だけど人間らしく生きたい僕の話。
諦めてなんか、やらない。これはホント。
だけど、最低にもなりきれない、中途半端な僕の恋。
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1年後―
「さぁ、どちらの殿方を選ぶんですの?むぅ。」
「僕を幸せにして?」
「俺の隣で笑っていてくれ。」
「…決める前に、候補を増やしてもよろしくて?」
なんか、ライバルがもう1人増えるらしい。
「私の弟、樹果がもう1つの選択肢ですわ。」
「オレを選ぶよね?夢月。懺悔したオレを許して、期待させたのは、夢月なんだから。ちゃんと責任、取って?」
さあ、僕を選んで。
僕の「エガオ」の仮面を剥がしてくれる人。
僕は君の隣で人間らしく笑っていたい。
あの日、夕焼けの中で口にした言葉は、自分への誓いであり、貴女への誓い。
だからどうか、僕を選んで。
読んで頂きありがとうございますにゃ^._.^
前回の佐藤くん回とは違って、自分語りに力を入れましたにゃ…上手く表現出来てないところが多々ありますが…
佐藤くん回は内心の文章には「ー」を入れましたが、今回は自分語りがメインと言っても過言ではにゃいので…カットしました!
前半、小鳥遊さんのキャラがマジで最低男にゃんですが、嫌わないでやってください…