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私が恋愛できるまで  作者: ぷー
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『ゆみっ、、、ゆみ!!』


私を呼ぶ声が遠くから聞こえる。

誰・・・??


『起きて!ゆみ!!!お願いよ、、、』



知ってる。この声、お母さんだ。。。


すごく懐かしい。



「ぉ、かぁさ、ん。」

私の掠れた声も母にはしっかりと聞こえたようだ。

母の涙が私の頬に落ちた。


そして、私は元の世界に戻ってきたことを知った。

義兄が居ない世界に。






母からの話によると、私は3日間意識不明で眠り続けていたらしい。義兄と過ごした二年間はこちらの世界ではたった3日間だったのか。もしかしたら、全部夢だったのだろうか。

現時点で知るすべはないが、義兄のことを想うと切なくなる気持ちは本物だった。




私は順調に回復し、今後も一年間は毎月精密検査を受けるよう医師から告げられ、目覚めてから一週間後に退院することになった。

元々外傷は少なかったそうだ。

それなのに、意識が戻らず、医師たちも頭をかかえていたらしい。


退院日に病室で荷造りをしていると母が言いにくそうに話始めた。

「本当は、由美に話したらあなたが気に病むんじゃないかって思って言わずにいるつもりだったんだけどね。あなたが事故にあったとき、軽い怪我ですんだのはある人がとっさにあなたを庇ってくれたからなのよ。その人はあなたよりずっと怪我が酷くてあなたと同じように昏睡状態だったんだけど、昨日、意識が戻ったそうよ。少し落ち着いたら一緒にお見舞いに行きましょう。」

思い返すと、確かに車にひかれる前に人とぶつかった記憶がある。酔っぱらっていてすれ違った人とぶつかったせいで車にひかれたとずっと思っていたが、違っていたようだ。私はその人に助けられたのだ。

「うん。お見舞い行きたい。」

来週末にでも訪ねてみようと話をまとめ帰路についた。



母と家に着くと父と6つ年下の妹が出迎えてくれた。

我が家がとても懐かしい。

現実ではわずか2週間程しかたっていないが、異世界で二年以上過ごした私にとっては久しぶりの我が家だ。

家に着くなり夕御飯は私が作りたいと立候補してみたが、

何故か家族の反対にあう。

病み上がりだしと母、今はまだゆっくり休んでなさいと父、

家族を殺す気!?と妹。

ん?何か変なの混ざってなかったか?

皆の説得に耳を貸さずに私は夕御飯づくりにとりかかった。

『仕方がないわ。珍しくやる気が湧いてるみたいだし、やりたいようにやらせましょう。みんな胃腸薬の用意は任せて!!』

と、母が皆を説得している声が遠くできこえる。


家族の不安も実際わかるのだ。

私は一切料理をしない残念な女だったからだ。しかも、砂糖と塩を間違えるのは序の口、焦げてない料理を作ったこともない!!(自信満々に言うな)


でも、私はどうしても料理をしたかった。

異世界で生活した二年間、辛口な義兄に納得がいくまで繰り返し料理を教え込まれプロも顔負けとまではいかないが、

包丁さばきも含め、そこそこ美味しいご飯を作ることができるまでには上達したのだ。

義兄との二年間は夢だったのか、現実だったのか、

私はどうしても知りたかった。

そして、義兄を想うあまり全て夢だったのだと思いたかったんだ。



結果、全て夢・・・ではなかった。

一ミリ程に線切られたキャベツ。

切り込みを入れれば中から肉汁が溢れるハンバーグ。

鰹節とこんぶから出汁をとった味わい深い味噌汁。


どれをとっても文句なしの出来だった。


「交通事故にあって、お姉ちゃんのシックスセンスが開花した。」

妹よ。これは、単に姉の二年間の努力の賜物よ。

何事にも精進なさい。

料理が出来るようになった理由を悔しくもつたえるこたができない私は心の声で妹に答えた。


これだけ、料理ができるようになったのも全て義兄のおかげなのだ。この分だと、仕事面でもパソコンスキルが急激に上がっているだろうし、3日間意識不明で寝込んでいたからだと前よりも細くなっていた身体もよくみればしっかり筋肉がついた均等のとれた身体になっている。

身体だけ、二年の月日が経っているのか?

どちらにしろ、義兄と過ごした日々は確かに存在していたのだろう。


『この味噌汁めっちゃうまいじゃないか!上達したな!』

お椀を口に運ぶ手が止まり、唇が震えた。

ふとした瞬間に義兄との思い出が甦ってきてしまう。

それだけずっと一緒にいたのだ。

こんなに好きなのに私はいつか彼を忘れることができるのだろうか。

私はしばらく新しい恋愛はできないだろうことにため息をはいた。




退院してから三日後、私は早くも仕事に復帰し、至って平凡な日々を過ごしていた。

いや、平凡と言えないのかもしれない。

職場では、何故か事故にあってしばらく休んでいたはずの私が明らかにスキルアップして戻ってきたことに、交通事故は嘘でパソコン教室に通っていたのではないかという有らぬ噂が流れているらしいことを同僚の美月が教えてくれた。

パソコン教室に行く為に事故ったことにするってどんだけ私はイカれた人に思われてるのか。


「その噂きいちゃったときは笑いが止まんなくて本当に困ったわ!あははっ、やばっ思い出しちゃった!」

そう言って悪びれもなく笑う美月は唯一ライベートでも付き合いがある人物だ。

皆、腹のなかでは何を考えているかわからない奴らばかりだが、

上司にも思ったことを堂々と言いのけてみせる美月は見ていて気持ちが良く信頼のおける友人だ。


「ちょっと、笑いすぎですけどー。」

私は冗談っぽく不機嫌な顔をあえてつくる。

金曜日の夜ってこともあり、混みあっている居酒屋の店内では

爆笑している美月の声もそれほど目立たない。

私はもう3杯目になるビールを一気に飲み干した。

「はぁ、ごめんごめん!ってもう、病み上がりなのにそんなに飲んで大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫!元々怪我は擦り傷だけだったんだから。」

「でも、本当に無事に何ともなく戻ってきてくれて安心した。元彼のことは災難だったけどね。男なんてたくさんいるんだし、また合コン誘うからさぁ!」

「ありがとう、美月。そういえばお見舞いにもきてくれたんだって?本当にありがとう!元彼のことはもう全然気にしてないんだけどね、、、」

「ん?元彼のことはって何?元彼以外に気にしてる人がいるわけ?」

目敏い。相変わらず目敏い。

「まぁ、そんなところかな。でも、“叶うことはない“から。

いつか話すからそれまで待ってて。」

「叶うことがない、か。うん、また気が向いたら教えてよ。

それにしても、事故にあって復活するまでそんな日数なかったはずなのに、仕事も前よりできるようになってるわ、新しい恋もしちゃってるわ、本当に謎だわ!」

「うぅっ、、、それも含めてまた今度話すからさっ。」

「はいはい!無理強いはしませんよー。」

彼女は私の義兄との二年間の出来事を信じてくれるだろうか。

遂に頭がおかしくなったって思われるかな。

どんな反応をするのか考えてみたが、きっと彼女は信じてくれるだろうという答えにいきくつ。

そう思える友人がいることに幸せな気持ちになった。




翌日の土曜日に、私は母と共に事故で私のことを助けてくれた恩人のお見舞いに病院へと向かった。

当たり障りのない果物の詰め合わせをかかえてナースステーションで面会受付をしようとしたが、恩人は昨日退院してしまったという。何ともタイミングの悪い、、、。

母が何とか連絡を取りたいと伝えるも個人情報はこちらから伝えることはできないと断られてしまった。

個人情報の漏洩で巨額の賠償金問題になってしまうこのご時世だ。致し方ない。

私たちは諦めて帰宅することにした。

もちろん、果物は夕食でおいしくいただきました。





休み明けの月曜日。

眠気が抜けきれない頭で出社した私は、

まさかの出来事に一気に目が覚めたのだった。








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