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9・地下迷宮(前編)

 アリサさんの体の感触を味わう暇もなく、地下迷宮——であろう場所に転移が成功する。


「はい。ここが地下迷宮の一階層」


 ポータルから一歩出て、地下迷宮へと足を付けるアリサさん。

 地下迷宮は——予想していた通りの外観。

 整備された洞窟? とでも表現した方が言いだろうか。

 地下だというのに内部は比較的明るかった。アリサさん曰く魔石によって迷宮内を明るくしているらしい。


「夢とロマンを追い求める場所——地下迷宮。一階層に設けられたポータルね。入り口と二階層へ続く階段の丁度、真ん中くらいに設置されているわ」


「ここの地下迷宮って何階層まであるんですか?」


「三十階層ね。下に行けば行く程、モンスターも強くなっていくわよ。

 といっても三十階層を全てクリアした人間は三百年前の勇者くらいなんだけど……気をつけてね、カケル。一階層とはいえモンスターも出てくるし、調子に乗った冒険者が年間何人か死んでいるんだから」


 そりゃあ、一階層とはいえ気を緩めるようなバカじゃないつもりだけど。


「ほら、早速モンスターが出てきたわよ。倒してみましょうか」


 アリサさんの視線の方向を見ると、ゼリー状の奇怪な生き物がいた。

 体長三十センチ〜四十センチと言ったところだろうか。

 小さくてあまり脅威には感じないが、ゼリー状の生き物がちょっとずつ移動しているのは見ているだけで鳥肌が立ってしまいそうだった。


「あれはスライム……どうやらレベル1のスライムみたいね。あのスライムを倒してみなさい」


「スライムって強いんですか?」


 異世界モノのテンプレではスライムとかコボルトって最弱なんだが……。

 いきなりシーフになって、城から追い出される俺の人生だ。

 そうじゃない可能性は十分に考えられる。


 そんな考えを裏切るようにして、アリサさんは首を振り、


「いえ。この世界において最弱のモンスターだわ。それにレベル1。あのスライムを倒せなかったら、地下迷宮攻略は諦めた方が良いわね」


「そうですか……っ! じゃあ早速、倒してきますよ」


 アリサさんの言葉で勇気が湧いてきた。


 いや……初めてのモンスター戦なんだが、相手が小さいこともあっていまいち恐怖を感じないんだろうな。

 どうせ攻撃手段も体当たりくらいだろ?


 ちょっと「痛っ!」くらいで済みそうだしな。


「そうそう」


 剣を抜いて、スライムへと向かっていると、


「最弱とはいえ、あなたのHPはたったの3。スライムとはいえ、一発でも攻撃をくらっちゃったら死んじゃうかもしれないから気をつけてね」


「えっ」


 そんなことは早く言ってくださいよ!

 そうこうしている内に——俺を敵だと認識したのだろうか——スライムの動きが急に速くなり、器用に跳躍して腹部めがけて体当たりをかましてきた。


「ぬおっ!」


 間一髪!

 体当たりが直撃する寸前に回避する。


「とりゃあ!」


 文句を言っている暇はない!

 滅茶苦茶な動きで剣を振り回し、スライムに当てようとする。


 ……命中。

 五閃、六閃したところでその内の一つがスライムに当たる。

 一発で倒れてくれるか……と思ったが、スライムは怯まず再度攻撃してくる。


「よっと」


 今度は余裕を持って回避することが出来た。

 素早さ値のおかげだろうか……冷静に見るとスライムの動きが止まって見えるようであった。


「トドメだ!」


 剣を振り下ろしてスライムを両断することに成功。

 すると真っ二つになったスライムはそのまま溶けるようにして消滅してしまった。


「ふふふ」


 後ろでアリサさんの笑い声。

 もしかして……「あら、初見でスライムを倒すなんてね。才能のある子を仲間に出来て嬉しいわ」……という意味の含み笑いだろうか?


「アリサさん。俺もなかなかやるもんでしょ? 初めての戦闘でモンスターを倒してみせましたよ」


「まさかレベル1のスライムでそんな死闘を演じるなんてね。五階層ごとにいるボスモンスターと戦っているみたいだったわよ」


 笑われているだけであった。


 うん……今ので確信した。

 この人、根っこのところで性格が悪い。


「じゃあどんどん行ってみましょう。何回かやってたら戦闘にも慣れてくると思うわ」


 振り返ると、今度は一体のコボルトがこちらに向かってきていた。


「……く! 死んだら化けて出ますからね!」


「出てきたら紅茶くらいはご馳走するわ」


 もうヤケクソだ。

 片手剣を振り上げてコボルトとの戦闘を開始するのであった。



 それから三十分が経過しただろうか。


「ぜえぜえぜえ……アリサさん。俺、本当に強くなってるんっすか?」


 肩で息をする。

 立っているだけでも辛い。

 それにアリサさんから渡された剣……やっぱり重いんだよな。一振りするごとに腕が取れてしまいそうだ。


「ん?」


 当のアリサさんは戦闘中、迷宮内の岩に腰掛けてひらすら本を読んでいた。

 黒い表紙で禍々しい雰囲気を放つ本であった。

 小説……ということじゃないと思うけど。魔法書とかだろうか? そんなものがこの世界にあるのか分からないが。


「あれからスライム一体とコボルト二体しか倒していないわよね? その二体は迷宮内でも最弱クラスのモンスターなんだから、経験値も少ないに決まっているわよ」


「経験値が一定以上になったらレベルアップするんですよね?」


「そうね。ああ……この世界の常識から教えないといけないなんて面倒臭いわね。あなたをシーフギルドに招き入れたことを後悔し始めたわ」


「早すぎですよ!」


「冗談よ」


 どうやら経験値が累積しレベルアップし、ステータスの値が上昇していくのが俺の知っているRPGゲームと同じらしい。

 何故かゲームと同じようにレベルという概念があるのも異世界モノのテンプレである。


「アリサさんも手伝ってくださいよ」


「嫌よ。何のために迷宮に連れてきたと思うの? あなたの苦しむ顔が見たかったからよ」


「ドS!」


「まあそれは冗談として——あなたの『強くなりたいのずら〜』っていう願いを叶えるためでしょ?」


「俺、そんな語尾じゃないっすよ!」


「この世界での経験値、っていうのはね。与えたダメージの割合で配分されるの。例えばあなたが一%のダメージ、私が九十九%のダメージを与えてモンスターを倒したら、あなたに入る経験値はたった一%。それじゃあなかなか成長しないでしょ?」


「トドメを刺した人が経験値総取り、とかじゃないんですか?」


「何よそれ。そんな都合の良いことあるわけないじゃない」


 相変わらず俺に都合の悪いところだけテンプレじゃないよな!

 剣の重みで自然と腕が下がっていく。


「アリサさん……貰っておいて何ですが、もっと軽い剣はないんですか?」


「あなたにはそれで十分。文句があるならお金を貯めて自分で買いなさい——まあ買えるかどうか分からないけど」


 失礼な!

 買い物くらい、俺にだって出来るんだぞ!

 アリサさんは俺を買い物も出来ない子どもだと思っているのだろうか……。

 いや、まあ、この世界の買い物システム知らないからもしかしたら出来ないかもしれないけどよ。


「ほら、そんなこと言ってたら次のモンスターが来たわよ」

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