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5・異世界でチンピラに殺されそうになってみる

本日5回目の更新です。

 こうして俺はいきなり異世界を一人で生き抜いていくことになってしまった。

 王都ヴァープルの市街に放り出されたわけだが、石畳や煉瓦造りの建物といい、まさしく中世ヨーロッパのイメージと重なり合った。

 異国情緒溢れる——間違った。異世界情緒溢れる光景に自然と胸を踊らせるのも無理はないだろう。


 ちょっとした海外旅行に来た、みたいな。

 しかし世間の風は厳しかった。


「一昨日来やがれ!」


 バシャー、と頭から水をかけられる。

 取り敢えず宿屋に行って休もうかと思ったのだ。


 だがよくよく考えたらこの世界の通貨を一つも持っていないことに気付いた。

 まあそれだけでは水をかけられるには至らないが、ジョブを聞かれたので「シーフです」と正直に答えられたら尻を蹴られて、宿屋の外に追い出されて……こうなったわけだ。


「やっぱりお金を稼がないといけないな」


 王様からの話を聞く限り、シーフというジョブは迫害されていることは分かっていた。

 なので大して気にせず……あの宿屋の親父も札束で足元を照らしてやったら、ニコニコ笑顔になってくれるだろう、って。

 考えが成金そのものだな。

 ならば次に考えることは『どうやったらお金を稼げるのだろう』だ。


「やっぱり地下迷宮かな?」


 街の中か近くに地下迷宮があって、そこでモンスターを狩ってお金稼ぎをする。

 うん、これもテンプレである。


 というわけで通行人に聞いていくと……ビンゴ! 街中に地下迷宮があるらしい。

 早速、そこに行ってお宝を取りに行こうと思ったら、


「地下迷宮は冒険者しか入ってはいけないんだ。まずは冒険者ギルドに行って冒険者証明書を発行してもらいなさい」


 地下迷宮の前に立つ門番? 守衛の女性にそう諭された。

 ふむ、これもテンプレ。

 守衛の女性に教えてもらって、次は冒険者ギルドへと向かう。


「シーフ? シーフが冒険者になれるわけないだろうが!」


 本日二度目。

 冒険者証明書を発行してもらおうとギルドで書類を書き込んでいたら、変な色をした石を掲げられた。

 あの石が何だったか分からないが、その瞬間。ギルド職員のかっと目を見開いて、水をぶっかけてきたのだ。


「一体なんだよ……何もしてないっていうのによ」


 全身びちょ濡れである。

 衣服が肌に引っ付いて気持ち悪い。


 こうしてお金を稼ぐ手段もなくし、だからといってシーフというジョブのせいで水をかけられながら、俺の異世界の一生は幕を閉じるのであった。

 ——というわけにはいかないが、寂しさを背中に背負いながら、目的もなく街を彷徨っていると、


「……あれ? 詰んだ?」


 そんな考えが浮かんでくるのであった。


  ◆


 それから三日後。

 いきなりで申し訳ないが——俺は餓死しかけていた。


「死のう……今、思えば城から飛び出すんじゃなかった。一人暮らしも経験したことないのに、異世界で生き抜いていけるはずがなかったじゃないか……」


 拾った木の棒を杖にして、目的もなくヴァープル市街を歩き回っていた。

 太陽の日差しが肌に堪える。

 三日間——雑草を食ったり、ゴミとして捨てられたパンを食ったりして、何とか生き抜いてきた。

 元の世界から着たままの制服もボロボロ。


 そう——何と物語開始五話目にて、俺は死にかけているのである。


「ちくしょう……全部、中丸が悪いんだ……あいつがいなかったら、こんなことにならなかった」


 王都内の何処から見ても、高くそびえ立つヴァープル城を眺めることが出来る。


 今頃、クラスメイトはどうしているだろうか……。

 そりゃあ魔王を倒す手段として召還されたんだ。

 ボロ雑巾のように死にかけている俺とは違い、丁重に扱われているだろう。


「中丸……あいつだけは許さん……っ!」


 いや中丸がいなかったら、そもそもあそこで死刑にされていたかもしれないけどよ。

 ただ中丸の顔を思い浮かべるだけで胸がムカムカとしてくる。

 暗い方へ——暗い方へ足は進んでいく。


「はあはあ……」


 やがて辿り着いたのは建物の間の暗い路地であった。

 ここにいるだけで気分が落ち込んでしまうような。

 地面にはゴミが落ちており、まるで溝に片足を突っ込んだような感覚になる。


「はあはあ……」


 息も絶え絶え。

 有り得ない話だが、今——モンスターに襲いかかられたら、即死するだろう。


 まあ市街でそんなことは有り得ないと思うが……。


「おい! てめぇ!」

「誰の許可があって、ここに来やがった!」

「てめぇみたいな男が来ていい場所じゃねぇんだよ!」


 モンスターは現れなかった。

 だが——チンピラ三人に遭遇してしまった。


「はあはあ……」


「てめぇ……何か言ったらどうなんだ!」


 前に立ち塞がる三人の屈強な男達。

 顔を見るだけで威圧されてしまう、テンプレなチンピラ達。

 ファンキーな髪型のチンピラにいちゃもんを付けられていた。


「はあはあ……」


「早くここから出て行けって言ったんだ!」


 顎を蹴り上げられる。

 まるで糸が切れたように体は前のめりに倒れていった。


 視界が擦れていく……。


 ああ、俺の人生もここまでか。

 まさか異世界に来て三日目に餓死しかけて、モンスターでも何でもなくチンピラに殺されるとは思ってもいなかった。


 でもこれで楽になれるかもしれない。

 そう思い、瞼を閉じ——、



「待ちなさい。モン、イチャ、ツケル。迷い込んだだけみたいだし、乱暴は止めなさい」



 ——透き通るような声であった。

 その一声であれだけ騒いでいたチンピラ三人の声が停止する。


「アリサさん……っ!」


 チンピラの声。


(アリサ……さん?)


 最後の力を振り絞って顔を上げた。


 そこには黒の美少女がいた。

 黒、としか例えようがないのだ。

 ヴァープル市街を歩き回っていて、俺みたいな黒髪は珍しく赤や青、銀色といった髪色が殆どであった。

 しかし突如現れた美少女は俺と同じ黒髪。

 さらには全身真っ黒のドレスに身を包んでいる。

 言葉を失ってしまうような美しさであるが、同時にこの溝のような汚い路地に似合っているような。

 ネオン街に羽ばたいている蝶を思わせるような優雅さ。


「あなた……なかなか面白いわね」


 目の前に手が差し伸べられる。

 全身黒色の姿とは反対に、美少女の肌は白く発光しているようであった。


「が、がぁ……何の、つも、りだ?」


 必死に声を絞り出す。

 すると美少女は「くすっ」と小さく吹き出して、


「あら、何もしないわよ。ちょっとあなたに興味があってね。どうせこのままじゃ死ぬんだし、騙されたと思って私に付いてこない?」


 美少女の声はやけに耳に残り。

 キレイな顔から何故か視線を外すことが出来なかった。


 俺の右手は無意識に美少女の手を取る。


「ふっ。ようこそ、地獄へ。このままだったら死ぬだけだったのにね」


 と背筋が凍るようなことを言われた。

 だが、体力が枯渇している俺の足では逃げることも出来ない。

 ただ美少女の手に引かれるままに足が前に動く。


「あっ、そうそう。私の名前はアリサ。アリサ・トロメリア。きっと、今あなたの独白では『美少女』って呼んでて不便そうだから、先に名前を名乗っておくわ。あなたの名前は?」


「カ、カケル……」


「そう。良い名前ね」


 全てを見透かすような黒い瞳——。

 美少女——アリサさんはネコのような顔を浮かべて、そう言うのであった。

モンスターとの戦闘シーンはもう少し先になります

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