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4・シーフという名の犯罪ジョブ

本日4回目です

「つまりそのジョブによって才能が定まる……例えば『超強い剣士』なんていうジョブが存在していたら、その時点で『剣士』のジョブを持つ者より強い。そういうことですわ」


「聡明で助かりますわ。えーっと……」


「中丸です。中丸飛鳥……あっ、もしかして名を先に言うべきだったかな? だったらアスカ・ナカマルです」


 ニコッと笑みを向ける中丸。

 ラズベリー王女が何やら頬を赤らめている。

 中丸の【全方向好感度上昇システム】って俺が名付けたスキルは異世界でも発動するのかよ。

 というかさっきの例え。俺が言うのも何だが、なかなか安直なものだったな。


「というわけで……早速、召還者様達のジョブを調べさせてもらっていいですかな?」


 年輪のように皺が刻まれている、ローブを着た老人が一歩前に出る。

 雰囲気的に僧侶……とか司祭と言ったところだろう。多分。


「では召還者達よ! 一人ずつ司祭の前へと行き、己がジョブを教えてもらうがいい」


 まだクラスメイトの中には「えっ……一体、これは何。ドッキリ?」みたいな反応をしている人もいる。

 ただ一方に「ワクワクしてきたぜ!」と少年漫画の主人公のように腕まくりをしている輩もいる。

 引き気味な人間も王様の偉そうな雰囲気に圧されているようだ。

 出席番号順……というわけでなく、適当に司祭の前へと移動していく。


「そなたは大魔導士! 早速、レアジョブが出たな」


 一番目に司祭にジョブを教えられたのは姫井桃香ひめい ももかさん。

 茶髪のギャルで中丸軍団の一人でもある。


「はあ? それって何か凄いの?」


 姫井さん髪を弄くりながら、興味のなさそうに聞く。

 正直、この場に一番似合わないのは姫井さんだ。異世界とか何やら言われても、オタク文化から程遠い姫井さんは理解出来ないだろう。


「ふむ! 百万に一人と称されるジョブだ。一人で国を相手に出来る、とまで称される魔法の才能が備わっている」


「ふーん……まあ私だったら当たり前か」


 後頭部に手を回して、司祭の前から退く姫井さん。

 おいおい、何気に凄いことじゃないか……百万人に一人って。


「剣士!」

「魔法使い!」

「僧侶!」

「おお! そなたはレアジョブの竜騎士!」


 次々にジョブが言われていく。

 クラスメイトの反応は一喜一憂。

 というより微妙な表情が多い。


 当然だ。いきなり異世界に召還されて、ジョブとか言われても戸惑うだけだろう。


「そ、そなたは! 何と聖女! レアジョブの上のレアジョブ。神ジョブと言われるジョブじゃ……一億人に一人の確率、と称される!」


 腰が抜けたのは、床に座り込む司祭。こいつ、メンタル弱すぎだろ。

 ちなみに神ジョブ『聖女』を引き当てたのは読ヶ原さん。


「へ? へ? 私?」


 キョロキョロと挙動不審になる読ヶ原さん。

 読ヶ原さんに聖女というジョブは似合いすぎているだろう。


「では次——アスカと言ったな?」


 唯一、名前を覚えられている中丸が司祭の前に立つ。

 司祭が仲間の額に手をかざすと、


「——っ! これは」


「ドムトクルム司祭。どうしたのじゃ?」


「勇者です! 神ジョブの勇者! 我々は当たりを引き当てましたぞ! ふぇえ……」


 興奮し過ぎたのかまたもや床に尻を着ける司祭。

 マジかよ……いや、何のことかよく分からないが、中丸は読ヶ原さんと同じようにレアジョブ中のレアジョブを引き当てたらしい。


「やれやれ……忙しくなりそうだね」


 そう言いながらも、満更ではないご様子の中丸。

 むかつく。どうしてこんなヤツが勇者なんだ? クラスの中で数少ない(というか俺一人かもしれないが)アンチ中丸の俺はイライラを募らせる。


「次は俺の番か……」


 とうとう俺の番が回ってきた。

 というよりクラスメイトでジョブを教えられていないのが俺一人だけになったのだ。

 悲しさを受け止めながら司祭の前に立つと、


「そ、そなたはっ!」


 司祭の目が驚いたように見開く。

 も、もしや……。


 この反応——俺は神ジョブを引き当てたのか!


 元の世界では目立たない少年が、チートなジョブやスキルを引き当てて異世界を無双する……。

 その異世界召還モノのテンプレを引き当てたと言うのか!

 司祭は声を震わせ、



「シーフじゃ!」



「……シ、シーフ?」


 俺の疑問の声が静寂になった室内に響き渡った。

 異世界の人達が全員、口を半開きにして絶句している。


「あのー……司祭様? シーフってどんなジョブなんですか?」


「ふむ。それについてはワシから説明しよう」


 説明好きの王様の口から『シーフ』ジョブの概要が語られる。


「シーフ……HPや攻撃力、防御力は最低クラスながらも素早さだけは高い特化型のジョブである」


「ふむふむ」


「そしてその素早さを活かして盗賊であったり暗殺者、といった仕事を請け負うことが多い」


「ほう」


「ちなみに盗みも殺人も犯せば、王都ヴァープルでは犯罪者として牢屋に入れられ、最悪の場合死刑ということにも成り得る」


「まあ当たり前だな」


「つまり……シーフは犯罪ジョブ。そのジョブを持っているだけで、将来的にジョブを犯しやすいとも言われ危険とされるジョブじゃ」


「というと——?」


 コホン。

 そうして王様が咳払いを一度し、


「引っ捕らえろぉぉぉおおおお!」


「何でだぁぁああああああ!」


 兵士によって羽交い締めにされる。


 って何でだよ! 


 こういうのって、俺だけチートなスキルやジョブ……そうじゃなくても、一見弱そうに見えて実は強いジョブを授かるのが普通だろうが!


 それなのに俺のジョブはシーフで……犯罪ジョブと言われていて……いきなり捕まえられるなんて!

 そんな理不尽なことあってたまるか!


 何とかして兵士の手を振り払おうとすると、


「待ってください!」


 室内に中丸の凜とした声が響き渡った。


「いくら将来的に犯罪を犯す可能性が高い……と称されるジョブだったとしても、それだけで捕まえるのは些か早計なんじゃ?」


「ふ、ふむ……」


「それに僕達は何も言われず、いきなり異世界に召還されてきた。それなのにいきなりジョブを言われて、牢屋に入れられる……それは流石に酷すぎるんじゃ?」


「むむむむ……っ!」


 おっ、中丸。たまには良いこと言うじゃないか。

 学校のテストでいつも読ヶ原さんと一位を争っているだけあるな。

 こういう時の頭の回転度は素直に感心する。


「それもそうじゃな……兵士よ。その者を離すがいい」


 鬱陶しい拘束から解放される。


「な、中丸……ありがとう」


「クラスメイトじゃないか。助け合うのは当たり前じゃないか?」


 白い歯を見せる中丸。

 ヤバ……もしかして今まで俺、中丸のこと誤解していたかもしれない。

 しかしその認識こそがやっぱり一時の気の迷いであったことが判明するのだ。


 何故なら次に中丸は俺の肩に手を置いて、


「でもさ……犯罪ジョブっていうのは間違いないみたいだし。ちょっと君は特殊なジョブというかさ……」


「中丸?」


「だからさ……輪が乱れる、というかさ。だから……えーっと、早坂君。僕の言いたいこと分かるよね?」


 ——そうだ。

 こいつはそういうヤツだったんだ。

 こいつの言いたいことは分かる。


 つまり「邪魔だからここから出て行け」ってことなんだろう。


(また薄っぺらい正義を振りかざしやがる……)


 こいつはそれを悪いことだと思っていない。


 何故ならそれがクラスメイト……みんなのための最善だと思っているから。

 だから不安因子である早坂翔、という存在を取り除くことが中丸の仕事だ、と。


 そうやって勘違いしているんだ。

 薄っぺらい笑みを浮かべている中丸を見ていたら、何だかむしゃくしゃしてきて、


「……あぁ! 分かったよ。こんなところ、俺の方から出て行ってやるよ!」


 中丸の手を振り払い、部屋から出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと! 早坂君!」


 後ろから読ヶ原さんの声が聞こえる。


 読ヶ原さん、きっと君もそうなんじゃないか?

 ここで「一応、止めてあげる」のがお約束なんだ、と。

 そこに読ヶ原さんの意志は含まれていない。台本に書かれたお芝居を演じているだけなのだ。


「王様? それで良いですよね?」


「ふ、ふむ……仕方ない。捕まえない代わりに、勇者パーティーにも加えないようにする。それが最大限の譲歩、と言ったところか……」


 中丸と王様が喋っていることも聞こえる。

 しかし俺には関係ない。


 俺はこいつ等……『中丸が学級委員を務めるクラス』に辟易していたところなのだ。

 そんな居心地の悪いところにいたら、それこそ魂が腐っちまう。


 読ヶ原さんの制止の声も無視して——。

 異世界に召還されて、いきなり俺はヴァープル城から出て行くのであった。

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