3・異世界召還
本日3回目
すぅー、と光が引いていったと思えば、数百人はいるであろう人達が俺達を囲んでいた。
「成功しましたわ!」
一歩——前に出て、嬉々とした声を上げた少女。
息を呑むような美少女であった。
読ヶ原さんは包み込まれるような温かさがあるが、その美少女は思わずからだが固まってしまうような美少女。
読ヶ原さんが『火』だとするならば、この美少女は『氷』といった雰囲気だろうか。
そんな美少女は見慣れない煌びやかな衣装に身を包んでいる。
「おぉー、成功したぞ!」
「やった! これで世界は救われる」
「それに一人じゃなく……一……二人……えぇい! 一杯いるぞ!」
美少女に続いて歓喜の声が巻き起こる。
「こ、これは……」
パーフェクトヒューマン、中丸であってもこの状況は言葉を続けることが出来ないらしい。
そんな状況でありながら、俺は周囲の風景を観察する。
……何というのだろうか。結婚式の会場? 広い室内には赤絨毯が敷かれている。
俺達——クラスメイトを取り囲む人達は鎧であったり、ドレスであったり、ローブに身を包んでいる。
異様な光景。
「ここは何処だ……?」
「結婚式に紛れ込んだのか?」
「いや……変な服を着ているし、結婚式の二次会か?」
やっとのこと意識が追いついてきたのか。
周りのクラスメイトも次々に声を上げだした。
(結婚式? ……いやそれよりも——)
まるで中世ヨーロッパのような雰囲気じゃないか——。
そうやってみると、ここはお城。謂わば王室のようにも思えてくる。
ほら、よく見ると一段高いところにこれまた豪華な椅子に座っている白髭を生やしたおっさんがいるぞ。
俺の視線に気付いたのか、おっさんは椅子から立ち上がり、
「うむ! 異世界召還は成功したようだな」
「異世界……召還……?」
中丸が疑問を吐く。
「そなた達はこの世界とはまた違った世界にいた住民。それをワシ……であったり、宮廷魔導士や召還士が召還させたのだ」
また違った世界?
まさか異世界というのだろうか。
この状況に付いていけず、というかおっさんの言っていることにいまいち理解が追いついていないクラスメイト。
だが俺はみんなに反して、一足早く状況を把握していた。
(異世界召還! 王族が俺達を異世界に召還したというのか? これまたテンプレートな……)
よくネットの小説で『クラス全体が異世界に召還されてしまう』……異世界クラス召還の物語があった。
それと今の状況は酷似している。
これがテンプレートな異世界召還モノであるならば、おっさんの口から次に続く言葉は……、
「ふむ。ワシ達は魔王討伐のために異世界からの召還者の力を借りたい——! そう考えているのだ」
ほら、やっぱりそう来た。
それからおっさんや最初に言葉を発した美少女がこの世界の状況を喋り始めた。
・ここはこの世界で最大規模の国家。グレトハム王国の首都、王都ヴァープルのヴァープル城内。偉そうなおっさんはグレトハム王であり、氷のような美少女は王女でありラズベリー・グレトハムという名前。
・三百年前、この世界に魔王が現れモンスターを解き放った。しかし同様に異世界からの召還者の力によって魔王は封印された。
・ただモンスターは残ったままで、それを討伐する冒険者も増え続け、冒険者ギルドという施設も存在する。
・ある程度世界は安定していたが、二年前。突如魔王の封印が解かれてしまい、モンスターは凶暴化していき、甚大な被害が出ている。
・なのでおっさん……グレトハム王は宮廷魔導士の力や、世界中から名だたる僧侶や召還士を召集し、三百年前と同じように異世界から召還者を喚び出した。
……掻い摘むとこんな感じだ。
何処までもテンプレートな話である。
「一つ質問してもいいですか?」
やっと理解が追いついてきたのだろう。
まるで「こういう時は誰よりも早く手を挙げなさい」と教えられているかのように。
学級委員の中丸が口を開いた。
「何じゃ?」
「三百年前、魔王を封印したのが僕等と同じ『異世界からの召還者』だった、ということですよね」
「そうじゃ」
「それだけが理由なんですか? その時の異世界が同じ異世界とは限らないですけど……僕等の住む国では長い間、戦争もなく戦い方なんて知りません。僕なんて喧嘩もしたことありませんしね」
肩を竦める中丸。
そうするだけでも映画のワンシーンを切り取ったようになる。
「それは心配しなくてもいい。『異世界からの召還者』は——」
「貴重なジョブに就いている場合が多いのですわ!」
興奮しきった様子でラズベリー王女が声を上げる。
ちなみにラズベリー王女……見た目は俺達、高校一年生と同じくらいの歳である。
冷たさを感じる王女であるが、このように子どものような無垢な笑顔を見せている……。
俺じゃなくても、ラズベリー王女に惹かれるのは無理もない話であろう。
「ジョブ……職?」
頭上にクエスチョンマークを浮かばせる中丸。
それに対して、王様を制する形でラズベリー王女が、
「はい! この世界では生まれながらにして『ジョブ』と呼ばれる才能が備わっていますわ……といっても魂の形が定まるのが十三歳以降なので、一部の特殊な例を除いては十三歳にジョブを教えられるのですが……」
「ジョブ? 才能? それは何ですか?」
「つまり剣士だったら剣の才能が備わっていて、魔法使いだったら魔法の才能が備わっている。そういうことだろ?」
ここまで異世界召還モノのテンプレだったので口を挟ませてもらった。
「剣士だったら剣の才能が備わっており、魔法使いだったら魔法の才能が備わっている……ということですわ」
今、俺が口にした同じことを説明したラズベリー王女。
おい、俺のこと無視かよ。ラズベリー王女の眼中には俺は入っていないらしい。
まあ俺の言葉、クラスメイトの耳にも届いてないみたいだけどよ。どんだけ俺、存在感ないんだ。
「……早坂君の言った通りだね」
前言撤回。
どうやら読ヶ原さんの耳には届いていたらしい。
前から思っていたが、やっぱり読ヶ原さんは天使だ。
まあクラスメイトがいる前で喋りかけるのは止めて欲しいけどよ……何故か殺気を向けられるから。
それに比べ、何だ。あのラズベリー王女は。
『私、虫の言葉は理解出来ないの』
とか平気で言いそうな顔をしている。
上の人間には良い顔を見せるが、俺のような下の人間には笑顔一つも向けない。
このラズベリー王女……キレイな顔して腹黒の臭いがしてきた。
まあ召還した王女が腹黒、っていうのも異世界のテンプレだけどよ。