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14・防具を買おう

「今日も生きて帰ってきやがったようね」


「何で嫌そうな顔をしているんっすか!」


 前回と同じように受付で座っているアリサさん。

 受付のロビーでは見知った顔……モン、イチャ、ツケルの三人が丸テーブルで何やら話し込んでいた。


『ちっ、あいつまだ生きてやがんのかよ』

『アリサさんと気軽に喋りやがって』

『とは言ってもアリサさんが気に掛けているあの小僧を勝手に殺したらどうなるか分からないしな……』


 背筋が凍るようなことが聞こえたが無視だ無視!


「おかげでレベル7になりました」


「そう……」


 興味のなさそうに返事をするアリサさん。

 迷宮でレベル上げをしろ、って言ったのはアリサさんでしょうが!


「それから……アイテムも拾ってきましたよ」


 アイテムバッグから今日収集したアイテムを受付に置く。


『スライムの元×12

 コボルトの棍棒×5

 ウルフの牙×2』


 である。

 実際はもう少しモンスターを狩っているのだが、倒せば必ずアイテムをドロップ出来るとは限らないらしい。

 ドロップ率にバラツキがあるのもゲーム的である。


「どうする? 受付でこちらのアイテムを買い取ることも出来るし、あなたの部屋のアンティークとして飾ることも出来るわ」


「自分の部屋なんてないんで買い取りでお願いします」


「つまらないわね」


 アイテムを持ち奥に引っ込むアリサさん。

 受付の奥に座っていた少女にアイテムを預けて、その娘と喋っている。

 このシーフギルド内の事務をしている娘だろうか。


 程なくしてアリサさんはトレイに貨幣をいくつか置いて持ってきた。


「はい。スライムの元が一つ800D。コボルトの棍棒が1200D。ウルフの牙が3000Dだから——合計して5Dになるわ」


「こっちの貨幣事情も分からないのに、誤魔化さないでくださいよ!」


「冗談よ。はい——2万1600D」


 トレイに置かれたのは十八枚の貨幣である。

 アリサさんからこちらの貨幣事情を聞くと、


『金貨=100万D

 銀貨=1万D

 銅貨=100D

 鉄貨=1D』


 ということらしい。

 なので銀貨二枚と銅貨十八枚を渡された計算となる。


「それから……これがシーフスタートキャンペーンとして10万D。銀貨十枚をあなたにあげるわ」


 アリサさんが素っ気ない表情をして銀貨を渡してくる。

 スマホゲームみたいなことをしているんだな。


 見ると、アリサさんが頬を赤くさせて視線を外している。

 もしかして……俺へのプレゼントだったとか。


「ありがとうございます!」


 アリサさんの手を強く握って、プレゼント(であろう)銀貨を受け取った。

 今、何気なく触ったが女の子の手なんて……触ったの小学生ぶりかもしれない。


「アリサさん……このお金で武器とか防具を買いたいんですけど」


 そう口にすると、アリサさんは素の表情に戻り、


「防具は買うことは出来るけど……武器は王都内では冒険者証明書が必要になるわよ?」


「マジですかっ?」


「ええ。防具は身を守るものだけど、武器は犯罪にも繋がるからね。だからシーフが武器を買いたい場合はギルド内で買うことになるわ」


「じゃ、じゃあ! 武器を買わせてください! ……で、その武器は何処で買えばいいんっすか?」


「ギルド内の武器屋担当は私よ」


 終わった。

 自分を指差すアリサさん。


「……勿論、あなたにはその剣で十分だと思うから売るつもりはないわよ」


「ですよねー」


 そこは今までのアリサさんの反応を見る限り何となく分かっていた。

 というかこの人……ギルド長なのに、そんな下っ端みたいなこともしているのかよ。相変わらず何でもありだ。


「でも防具を買うのはあなたの自由だわ。変な服着ているしね。街に出て防具を買いに行けば?」


「そうさせてもらいます」


 今までずっと学生服のまま迷宮を攻略していたしな。

 ここらで一丁異世界らしい服にも身を包みたいところなのだ。


「じゃあ行ってきます!」


 アリサさんにそう言って、シーフギルドを出て行こうとすると、


「気をつけてね。もう日も落ちてきたから……夜の街は変な輩もいるからね」


 と意味深なアリサさんの声が後ろから聞こえてきた。

 俺はそれに答えず、立ち止まらずに外に出る。


  ◆


 夜の王都。

 元の世界みたいに夜遅くまで営業している店は一部だけで殆どが閉まっている。

 電気を作り出す魔石はそれなりに高価らしいので、街灯だったり建物から漏れる光というのも殆どない。


 月明かりの下。

 俺は鼻歌を歌いながらシーフギルドへの帰り道を歩いていた。


「一時はどうなることかと思ったが……これで俺も異世界人っぽくなった? といったところだろうか」


 俺は今——軽鎧を身につけている。

 基本的には革で出来ており、一見ただの『服』に見えないこともないが、腕と肘を守る篭手であったり、胸とお腹を隠す銅が軽い鉄で守られている。


『シーフは素早さが重要。防御力を上げようにも限界があるわ。もし防具を買うなら、守りは最低限で動きを阻害しなようなものを買いなさい』


 アリサさん談。


「よっ、と」


 少しジャンプして一回転してみるが、特に動きにくくなったとは感じない。

 こうしていると冒険者になったんだな……と感慨深い。

 いや正しくは冒険者ではないが。

 この『初心の軽鎧』は防御力上昇高価は少ないものの、10万Dと他の防具に比べて安価で見た目もカッコ良かったので購入させてもらった。


「明日も迷宮で頑張っていこ……ん?」


 足が止まる。

 反射的に建物の壁に背を付けた。


「離してください!」

「うるせぇ! 逆らうんじゃねえ」

「ヘヘヘ……顔も可愛いし高く売れそうでだなぁ」


 それは噴水の前であった。

 まず目に付くのは銀色の髪の少女。夜だというのに髪が光り輝いて見えた。

 十二〜十四歳……くらいだろうか? 幼い少女の頭からは二本の耳が生えていた。

 言葉の通り可愛い少女である。おそらく後、数十年もすれば絶世の美少女になりそうな予感を含んでいる。


 その少女を取り囲んでいるのは三人の男であった。

 見るからに人相の悪い。


「離して……だ、誰んんん!」


 男達は騒ぐ少女の口を押さえる。


「こ、これは……」


 男達に襲われている?

 無理もない。あれ程、可愛い少女である。

 どういう理由か分からないが、少女は夜の王都を歩き回っていた。

 それをあのゲスな男達に見つかり、取り囲まれているわけである。


(高く売れそう……? そういう台詞を吐いているというころはエロい店にでも売る気なのか?)


 少女は必死に暴れているが、押さえる男達を振り払うことが出来ない。


 ……まあ、何というか、残念だったな。

 こんな夜にウロウロしているのが悪かったな。

 もし『今度』があるなら、夜は大人と一緒に出歩きましょう。


 俺には関係のないことだ。

 トラブルは避けたいしな。

 無慈悲ではあるが、その場を立ち去ろうとした瞬間、


「痛ぇっ!」


「た、助けて!」


 口を押さえていた男の手を少女が噛み、必死に言葉を張り上げた。


『助けて』


 その台詞で頭の中の変なスイッチが入ってしまった。


「……くそ! そんなこと言われて、見捨てる男なんているわけねえじゃねえか!」


 熱くなってしまい、男達の前に姿を現す。


「おい! そこの男達! 女の子を離しやがれ」


 指を差して命令する。


「何だぁ? こいつは」

「変な面しやがって」

「それに俺達は何もこいつをイジめているわけじゃなく……」


 両足が震えている。

 無理もない。モンスターとは違う、意思疎通が出来る相手なのである。


 凄んでくる男達。

 俺はなけなしの勇気を振り絞って、


「うるせぇ! 変な面だろうが——お前等から女の子を助けることくらいは出来るんだよ」


 走り出し、男達の手から女の子を奪取する。


「て、てめぇ!」


 殴りかかってくる暴漢。

 それを間一髪のところで回避する。

 頬に男の拳が擦ってしまった。


「逃げられると思うなよ!」


 女の子をお嬢様抱っこしている俺をすぐさま取り囲んでくる男達。

 男達の体は大きく、とても逃げられるスペースがないように思えた。


「あ、【加速アクセルⅠ】——!」


 しかし俺はシーフ!

 体力5%と引き替えに、素早さ値を50%上昇させる。

 さらに……、


「【とんずら】!」


 続けてスキルを重ねて発動させる。


「そこだ——っ!」


 取り囲んだ男達の僅かにある穴。

 身を低くして滑り込むようにして、その穴から逃げ出した。


「てめぇ!」


「待ちやがれ!」


 後ろから男達が追いかけてくる足音が聞こえる。

 だが今の俺はスキル【加速アクセルⅠ】と【とんずら】を重複して使用しているため、誰も追いつけないはずだ。

 俺の逃げ足にな!


「何で防具を買いに出ただけなのにこうなるんだよぉぉおおお!」


 叫びながら王都内を疾走する。

加速アクセルⅠ】の効果が切れる十秒後。

 振り返ると男達の姿は見えなくなっていた。


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