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11・シーフ証明書

 記憶を辿りながら、シーフギルド内を歩き回って受付へと戻る。


「あら、意外に早かったのね」


 アリサさんは受付の向こうで椅子に座り、本を読んでいた。

 かけていた黒縁の眼鏡を受付のテーブルに置くアリサさん。

 アリサさんは俺の姿をジロジロと見るなり「ふふふ」とほくそ笑み、


「腕の一本や二本。もしかしたら十本くらい取れて帰ってくると思っていたわよ」


「アリサさんの目には俺が阿修羅か何かに見えるんですか?」


「阿修羅は知らないけど……五体満足で帰ってこれて良かったわね。正直、今からあなたのお墓を作ろうと思っていたのよ」


「生きて帰ってこれると思ってなかったんですか?」


 アリサさんの言葉は何処まで本当かどうか分からない。


「アリサさん……俺がひっそりとポータルで帰ってきて逃げるという可能性は考えなかったんですか?」


「無駄よ。偽造ポータルは転移履歴も見られるからね。定期的にあなたが勝手に戻ってきてないか、確認していったのよ」


 俺の行動は全て筒抜けだったということか!

 それに転移履歴も見れるとは……異世界にしてはハイテクである。一体、この人は何者だろうか。


「はい。これご褒美」


 愕然としている俺にアリサさんは一枚のカードのようなものを投げつけてきた。


「これは……」


「それはHランクのシーフ証明書。あなたも今日からシーフギルドの一員なんだからね。大切に持っておきなさい」


 顔写真は貼られておらず、現在の俺のレベル・名前等の情報が印字されている。


「そこのレベルの部分は上がる度に勝手に更新されていくわよ」


 一体、どのような仕組みなのだろうか。

 うーん、謎である……。

 冒険者証明書も似たようなものなのだろうか。


「この証明書。どういう時に使うんですか?」


「そうね……たまーに私の気紛れで証明書の提示を求める時があるわ」


「実質必要ないじゃないですか!」


「証明書携帯の義務があるから、持ってなかったら死刑よ」


「意外に重罪!」


 絶対になくさないようにしておこう……。

 元の世界では免許証を持っていなかったが、それよりも不携帯だったら恐ろしい目に遭いそうである。


「Hランクのシーフ……ってありますよね。何ランクまであるんですか?」


「最低がH。H〜A、とあってその上にS、SSランクがあるから全部で十段階ね」


 冒険者証明書がどうか分からないが、そこらへんの仕組みは同じなのではないだろうか?

 異世界モノのテンプレでは、クエストをクリアするごとにポイントが与えられていき、一定以上になったらランクが上昇する。どうせ男ならSSランクを目指したいところではある。

 シーフのランクシステムも同様なのだろうか……?


「そのランク。私の好感度によって上下するわ」


「まさかのアリサさんの好感度システム! シーフ証明書の必要意義がどんどんなくなってくるじゃないですか……」


「ちなみに私はSSSランクよ」


 この人だけランクを超越していた。

 そりゃ、この人が作ったルールなのだからランクを決めるのも自由なんだろうが。


「さて、肌も老けてきたしね」


「はい? アリサさんの肌が……って目が! 目がぁああ!」


「今度、変なこと言ったら目潰しするわよ」


 既にしてるじゃないですか!

 そういえばアリサさん、歳は何歳くらいなのだろう? 聞いたら恐ろしいことになりそうなので聞かないが。

 ちなみに見た目的には俺よりも一歳、二歳年上くらいである。

 ドSでキレイな先輩、という雰囲気というか。


「間違った。夜も更けてきた、って言おうとしたのよ」


「わざと間違えたでしょ!」


「そろそろ明日に備えて寝ましょ。明日からもカケルに迷宮を攻略してもらうわよ? せめて五階層は到達出来るくらいの実力がないと、クエストも任せられないわ」


「あ、明日も同じことをやるんですか?」


「嫌なの?」


 嫌、と言えるわけがない。

 仕方ない。

 命を落とさないレベルで気楽にのんびりとレベル上げをしておこうか……。

 時間の制限はないんだしな。


「じゃあ俺は……宿屋を探しに行ってきます」


 踵を返しシーフギルドから出て行こうとすると、


「待ちなさい」


 アリサさんに止められる。


「あなた、お金もないのにどうやって宿屋に泊まる気なの? それにシーフってことがバレたら、泊めさえもしてくれないと思うけど」


「そ、そそそうだった!」


 ……野宿?

 憂鬱になっていたら、アリサさんは溜息を吐いて、


「シーフギルド内にあなたが泊まれる部屋を用意してあげたわ。取り敢えずしばらくはそこに泊まりなさい」


 おお!

 忘れかけた頃に優しさを見せるなこの人。


「ありがとうざいます」


 大袈裟に頭を下げて、アリサさんにお礼を言う。

 とにかく今日はもう寝よう……今日は疲れた……。


 それから俺はアリサさんに言われた部屋へと向かった。


  ◆


「わあ……」


 思わず声が漏れてしまった。


 シーフギルド内に用意された部屋は、俺が想像しているよりも遙かに豪華な部屋だったからだ。

 天井からはシャンデリアが吊られており、部屋中を明るく照らしている。これも電気ではなく、魔石を使用しているのだろうか?


 大きいソファーには五人くらいが並んで座っても、まだ余裕があるくらい。

 さらに極め付けはベッドであった。

 お姫様が寝るような大きくてふわふわのベッド。


「アリサさん……何だかんだ言って優しいな。こんな部屋を用意してくれるなんて」


 正直、アリサさんのことだから馬小屋みたいなところに案内されて「トイレはここにしてね」と袋を渡されるだけ、と思っていた。

 高価なホテルのような一室を調べていると、どうやらトイレもお風呂も用意されているみたいだった。


 しかもトイレは洋式。

 良かった。異世界のトイレ文化は知らないが、この部屋だったら元の世界と同じように……いや、それ以上に過ごせそうであった。


 部屋の探索も終了して、少し戸惑いながらベッドに腰掛ける。


「異世界に来て三日目。色々なことがあったな……」


 いや殆どは草とかゴミとか食っている記憶だったけどよ。

 一時は死も覚悟したが、アリサさんと出逢えて何だかんだで幸せだったかもしれない。

 最悪、あの路地でチンピラ三人衆に殺されていたかもしれないしな。

 ちなみにあのチンピラ三人衆。予想していた通り、ここのギルドに入っているシーフらしい。


『あの三人もあなたと同じように野垂れ死ぬ寸前だったのよ。その時に私が助けてね……恩を感じてくれて、よく働いてくれているわ。だからあなたも私のために尽くしなさいよ』


 とアリサさんに説明してくれた。

 明日から——地下迷宮の攻略が本格化する。

 とはいっても目的は『攻略』というより『レベル上げ』だ。


 俺が語った「誰よりも強くなりたい」という目標。

 それは「いつか中丸にも勝てるようになりたい」という目標であった。

 シーフという不遇ジョブのまま勇者ジョブの中丸に勝つことは不可能かもしれない。

 実際、レベルが3になっても中丸の初期ステータスには遥か及ばない。


 しかし……地道にレベル上げをしていけば。

 何より、中丸をも凌ぐ(であろう)素早さ値を活かせば。

 城でぬくぬくと温室育ちをしているであろう中丸に勝つことが出来るかもしれない。


「ふわぁ……取り敢えず、今日は寝よう」


 ベッドがふわふわすぎて、自然と瞼が重くなってしまう。

 欠伸をして、ベッドで横になる。

 こうやっているだけでも意識が溶けていく。


「今まで……固い……床の上……とかだったからな……」


 ああ、もうダメだ。

 そのまま俺の意識は夢の中に没入し、快適な夜を過ごしたのであった。

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