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10・地下迷宮(後編)

 アリサさんの指差す方へ視線を移す。

 すると口から涎を垂らし、瞳が赤色に染まっている狼のようなモンスターがいた。


 マッドネスウルフという名前でレベルは1らしい。

 ちなみにモンスターを見て念じれば、名前とレベルを確認することが出来る。


 このシステムをアリサさん曰く『モンスターターゲット』と言うらしい。

 人間に対して使うためには、アリサさんのような【魔眼】スキルが必要になるんだが。


「スライムとかコボルトの最弱モンスターと違って、一階層では頭一つ飛び抜けている強いモンスターね」


「どどどどどうしましょうか!」


「安心しなさい。一発くらえば間違いなく即死だから」


「余計ダメじゃないですか!」


 ええい! こうなったらヤケだ。

 アリサさんに良いところを見せてやる。


 剣を振り上げて、マッドネスウルフへと向かっていく。

 しかしマッドネスウルフの動きも俊敏。

 何とか動きを目で捉えることが出来るが、それも精一杯。

 それに「一発くらえば間違いなく即死」というアリサさんの言葉が気にかかって、どうしてもへっぴり腰になってしまう。


 結果、なかなか攻撃を当てることが出来ず……戦闘が長引いてしまう。


「ぜえぜえ……もうダメだ」


 もう三回くらいは攻撃を当てているだろうか。

 それなのにマッドネスウルフは倒れる素振りも見せない。


「うわぁあ!」


 大きな口を開けて突進してくるマッドネスウルフから逃げようとすると、小石に躓いてしまう。

 体勢を崩すことによって、俺の最大の取り柄である素早さが封じられた形となってしまう。


(俺はこんなところで死んでしまうのか——!)


 死を覚悟した瞬間。


「ホント、世話のかける子なんだから——《フレイム》」


 迫り来るマッドネスウルフの体が突如、火炎で包まれる。

 火炎と共にマッドネスウルフが消滅する。


 俺は地面に尻餅を付いた状態で、アリサさんの方を振り返った。


「い、今のは?」


「魔法よ——ホント、後一発当てればマッドネスウルフも倒れてくれたのに」


 ヘタレね、とアリサさんは続けた。

 魔法……いきなり燃えだしたマッドネスウルフ。あれが超常現象を引き起こす魔法なのか。

 初めて見る魔法に感動を覚え——、


「ってアリサさん。魔法ってMPと魔力が備わっている人にしか使えないんじゃないですか?」


「そうよ。バカなカケルにしては勘が良いわね」


「バカは余計ですよ」


「まあそこは追々話すことがあれば話そうと思わないわけもないわ」


 政治家みたいな曖昧なことを言って誤魔化すアリサさん。

 とは言っても、シーフであってもアリサさんみたいに魔法が使えるようになるのか気になるので追求しようとすると、


『カケルはレベル2にアップした』


 脳内にそんなメッセージが浮かんできて、魔法のことなんて何処かに吹っ飛んでしまう。


「ア、アリサさん! レベル2に上がりました」


「そう。良かったわね」


 飛び跳ねて喜んでいる俺に対して、どうでもよさそうに言葉を吐くアリサさん。

 そしてアリサさんは一人、ポータルの上に乗って、


「じゃあ私はそろそろ帰ろうと思うわ。カケルもレベル3になったら戻ってきなさい」


「え、えアリサ……さん?」


「大丈夫。レベル2になってHPと防御力も上がったはずだから、二発くらいなら死なないと思うわ。レベル3になる前に帰ってきたら……どうなるか分かるわよね?」


「ほ、本気ですか! 俺、まだ異世界の初心者ですよ!」


「カケル——このことは覚えておきなさい。強さじゃ何も変えられない——ってね。じゃあ頑張りなさいね」


 ウィンクするアリサさんはそう言い残して、目の前から姿を消してしまった。

 おそらくポータルを使いシーフギルドへと戻ったのだろう。

 初めての魔法、レベルアップの感動も薄れ、


「やっぱりアリサさん。ドSだぁぁぁあああああ!」


 と迷宮内に響き渡るように俺は絶叫したのであった。



「とりゃあ!」


 何体目か分からないスライムを撃破し、俺は一息吐く。


「なかなかレベル3にならないな……」


 アリサさんはポータルで帰る前に、ポーションがいくつか入った袋を置いてくれていた。

 有難い。これで一発くらえば致命傷、という状況からは少しだけマシになったと言えるだろうか。


「それにしてもこの剣……重すぎなんだよな」


 片手剣ウロボロス。

 初心者用の剣のはずなのに——いや、だからなのか。振りすぎて腕が疲弊しダンベルのような重さのように感じる。


「絶対、いつかもっと良い剣を買ってやる」


 そうやって自分を奮い立たせて、モンスター狩りを再開する。

 スライムやコボルト、その中でもレベル1のモンスターを中心に倒している。


 当たり前だ。

 いくらレベルが2になったとはいえ、マッドネスウルフのような強力なモンスターとそうそう戦いたくない。


 そういう点ではシーフというジョブが役に立った。

 何故ならこのシーフというジョブ。素早さだけは異常に高いのだ。

 レベル1の時に比べて、レベル2はさらに体が軽く感じ、またモンスターの動きもスローモーションに見えた。

 なので余裕を持って、モンスターからの攻撃を避けることが出来る。


 それでもマッドネスウルフのような「ちょっと苦戦する」レベルのモンスターと遭遇すれば、俺はすぐさま背中を向けて逃走した。

 所謂、そういう逃げ足といった要素も素早さ値に関係してくるらしい。


「くっ……!」


 そんなことを考えていただろうか。

 スライム二体を相手にしている時。

 もう一体のスライムに気を取られている隙に、もう一体からの攻撃を避けきれずに当たってしまう。


 腹部への体当たり。


 HP減少という観点ではそれは微々たるものである。

 しかし「体当たり直撃に際しての痛み」はしっかりと体に刻まれている。


 痛みに慣れていない俺は一瞬怯んでしまう。

 そうしている間にもスライムは襲ってくるので、ステップを踏んで距離を取る。


「うりゃぁあ!」


 少し離れたところでポーションを飲んでHPを回復。

 その後、スライム二体を剣で斬り裂いた。


『カケルはレベル3にアップした』

『カケルはスキル【とんずら】を習得した』

『カケルはスキル【最速のとんずら男】を習得した』


 脳内に直接刻まれるようなメッセージ。


「やっとレベル3になったか……」


 良かった。

 これで帰ることが出来る。


「スキル【とんずら】……【最速のとんずら男】って何だろ?」


 まあ良いや。

 後でステータスオープンをして、調べてみよう。


「じゃあ帰るか」


 剣を鞘に収めて偽造ポータルの前へと移動。魔石もちゃんと持ったことを確認。

 そのまま装置の上に乗ったら、前回と同じく。紫色の光が濃くなっていき、気付けばシーフギルドの偽造ポータルがあった部屋へと転移していた。


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