お嬢様と執事と友達 2
お久しぶりな投稿です?が定期的に頑張ってます
「お嬢様。いったいどういうお考えで執務を投げ出しましてや彼らとお戯れになられていたのか説明願えますか?」
眉をピクリとも動かさずにカルナスさんは怒りを声のトーンだけで露わにする。
「別に・・・。息抜きに運動をしただけよ?何か悪くて?」
それに対しお嬢様はカルナスさんに目を合わせることなく執務を続けている。
・・・。
事の始まりは夕食後。
最近、紗凪お嬢様の執務脱走が多く指導講師の方や騎士、貴族らの報告に差支えが少しばかり生じたことをカルナスさんが耳にしたことから始まった。
カルナスさんは見習いの僕らに側付きを任せてからはお嬢様のお側から少し距離を置いていた。
その為だろう…今まではなかった。僕らが来てから始まったこの案件を重く見ているのだ。
外部では紗凪お嬢様はまだ若いから世継ぎには不安と考える人がいない訳では無い。むしろ多い。
だが、お嬢様の努力あってそれらを黙らせているのであって認めさせている訳では無い
その事を心配しているのだ
「お嬢様は見習いと戯れ執務すら出来ない」
「やはり王にはなれない」
そんな声が上がるのを危惧しているのだ。
が・・・、お嬢様は反省のはの字もない。
まさに火に油を注ぐ行為でしかない。
カルマ、アイリスそして僕の3人はカルナスさんと共に執務室に来てから早くも30分が経とうとするが先程から一向に話が進まない。
(主にお嬢様が聞いていないから)
「お嬢様いい加減になさったらどうですか?」
「何が?」
先に仕掛けたのはカルナスさん。
お嬢様は書類から目をあげる気はないらしい。
「見習いが来る度に戯れられたら困るのがわかりませんか。臣下の者の進行を妨げるとはいかなるお考えがあっての事か…真面目にお答えください。」
カタン。書類からサインペンを置く。
「真面目に?」
そこで初めて紗凪様がカルナスさんと視線を交える。
「さっきから真面目に答えているわ。息抜きよ。」
「では、言い方を変えましょう。」
コホンと咳を一つつく。
「次期国王としてのご自覚はおありで?」
「・・・・・」
?
何故言い返さない。
紗凪様は次期国王になるのは明らかなのに。
「お嬢様は国王陛下が現在ご病気で執務がままならない為、早期からの国王としてのお勉強の一種として執務があるのをお忘れですか?」
お嬢様は視線を外し、虚を見据える。
「国王となった際貴女が信頼できる者が身の回りにいれるようにすべく、貴女は今の立場にあられるのをお忘れですか?」
カルナスさんの視線はお嬢様から離れることはない。
「貴女はこのローズタスト王国の次期国おー」
ガタンッ!!
「いい加減にしてよ。・・・」
勢いよく椅子から立ち上がり、俯くお嬢様。
髪が邪魔をして表情は見えない。
「お嬢様・・・」
カルナスさんからぽつりこぼれ落ちた言葉はお嬢様に届かない。
「次期国王、次期国王って!私は好きで国王になるんじゃない!!
なりたいだなんて思ったことなんて無いわ。
責任を押し付けられて共用されるなんて・・・まっぴらごめんよ!」
真っ直ぐにカルナスさんを射るその瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「この国の未来のために臣下を?笑わせないでよ。
誰が…誰が私を信用するのよ。
みんな、みんな、みんな心のどこかでは私を恐れているくせに!?
信頼出来る臣下なんてこの国に…私の周りにいるわけないでしょ?!」
!
それはいったいどういう・・・
紗凪お嬢様の頬を透明な雫が伝う。
伝うや否やそのままお嬢様は走り出してしまう。
執務室の扉を体当たりさながらに開け放ち、廊下に飛び出す。
気がつけば追いかけていた。
理由はわからない。
ただ、1人にしておけなかった。
放っておいたら後悔する気がした。
考えるよりも身体が先に反応していたんだ。
執務室で紗凪お嬢様とカルナスさんが言い合いになった。
お嬢様が泣きながら走り出してしまったのを私は何も出来ずに見送るかたちしかできなかった。
シャーロットはお嬢様が出ていって間を開けずに走り出した。
・・・。
「カルナスさん…」
「いや。すまないね。君達にこんな所を見せてしまうだなんて。」
カルナスさんは涙を流してはいなかったが酷く自分を責めているように見えた。
さっきの会話で所々気になる発言があったが今それを聞き出すことは出来そうにない。
そんな場面でもない…か。
「あの、カルナスさん」
隣りのカルマがおずおずと発言する。
「紗凪お嬢様は僕らと戯れなさっていただけではありません。それに、あれは大半が僕らのためでした。」
カルマの言わんとすることを悟り援護する。
「紗凪お嬢様は私達見習いが王城に1日でも早く慣れるようにとわざと鬼ごっこの形式を使用して執務室から出られていました。」
カルナスさんが少し驚きの表情になる。
「僕らに王城の様々な場所を探させ、覚えさせ、もしもの時の最短ルートを見つけさせたかったんだと思います。」
「それに、」
「「お嬢様は備品や使用人の様子、中庭の薔薇にも気を配りながら確認されていました!」」
「えっ?」「アレッ?!」
カルマと顔を見合わせる。
打ち合わせはなし。なのに…
『『被った!!』』
・・・なんだかおかしくなってどちらともなく笑いはじめる。
カルナスさんは驚きと私達の明るさに感嘆気味だ。
「君達はとても主想いのいい従者になりますね」
微笑むカルナスさんはどこか安堵しているようで悲しげだった。
「ありがとうございます。」
頭を下げる。
「私はまた…見ていなかったのですね」
「えっ。」
聞き取れなかったことを聞き返すと「なんでもありません。」と言われてしまった。
ただ、カルナスさんはお嬢様が使っていたペンを見て小さなため息をついて黙ってしまった。
コンコン
「紗凪お嬢様?シャーロットです。入りますよ」
少し乱れた息を整え、お嬢様の部屋の扉を開ける。
真っ暗な部屋。
ベッドにダイブする形でお嬢様が寝転がっている。手短なまくらを抱きしめてスンスン鼻を鳴らしている。
「お嬢様。」
ひっくっ。ひっくっ。
「わ、私だっであんな事いいたくなかったけど…だって、だって〜ぅぅぅっ」
ひっくっ。ひっくっ。
お嬢様は枕に顔を埋めながらしゃっくりをあげる。
・・・よかった。さっきのあれは本心ではなかったのか。そう思うとなんだかおかしくて気づいたら微笑ましくて笑っていた。
声は出さずともただ安堵が溢れて、お嬢様が可愛く思えて笑ってしまった。
「何を笑ってるのよ!」
お嬢様が枕を投げ飛ばすが、それを軽々掴む。
泣いて擦ったからだろう。目が少し腫れている。
まるで小さな子供が駄々をこねた時のようだ。
「申し訳ありません、お嬢様。
ただお嬢様がお可愛らしいなと思いまして。」
「!! 何言ってるのよ!?」
また、手短な枕を投げ飛ばしてくる。
照れているのか顔が真っ赤だ。
「お嬢様。先程のカルナスさんにおっしゃったのは本心ではありませんよね?」
赤らめた顔からすっと表情が抜け落ちる…
三角座りの立てた膝に顔を埋める。
「何故あのような言葉を」
またうっすらと涙が溜まるのが見えた。
「それは・・・」
「カルナスさんを傷つけるため?」
「違う!!違うわ!ただ…私は自分の意志で執務をやっているのではないから。やらなくては居場所がなくなってしまうかもしれないから・・・。」
「何故そのように思われるのですか」
「私はここではお母様の代わりだから」
小さな声が部屋に籠る。
自分は母親のウレーナ様の代わりでしかないと思っていたのか?そんなこと…
「お言葉ですがお嬢様、それは嘘です。」
「ふぇ?」
お嬢様は虚を付かれ間抜けな声を出す。
「なぜなら、お嬢様ほど国を思い自ら執務の幅を超えたことをなさっている方はいないと思います。
まぁ、お嬢様は無自覚のようですが。」
紗凪お嬢様が埋めた顔を起こし、真っ直ぐこちらを見つめる。
「たった数日。貴女の側で貴女の執務を見ていて僕は、いえ、僕らには貴女がお母上の代わりにやっている風にもましてや嫌々やっている風にも見えませんでした。」
ニッコリ微笑み息を吸う。
お嬢様の瞳が微かに揺れる。
「それに、お嬢様はとっくに周りから信頼を得ています。
嫌々やってあの様に国を見通し判断できるとは思えません。確かにお嬢様の言う通り、それは存在意義を見出すだけの行為かも知れませんがそれでもよろしいのではないでしょうか?
僕達だって、お嬢様の側に居ることで存在意義を見出しているようなものですし。」
・・・
「あと次期国王とか考え抜きで既にお嬢様の周りには信頼のできる臣下はいますよ。」
「それは誰?」
真っ直ぐ射る瞳は力強く、ただ僕の意志を、声を待っている。
「カルナスさん、騎士団長、メイド長、諸先生方、料理長、庭師のナーベスさん、紗凪お嬢様に関わる使用人一同です。」
「でもみんな私のことを…」
「僕やアイリス、カルマは貴女を信頼しています。
だからこの身を捧げています。
ですから、どうか忘れないでください。信頼されるにはご自分が相手を理解し信用しなければならないことを。
貴女にとってカルナスさんは信用できませんか?」
「ーっ、そんなことない。カルナスさんはここに来てからずっと一緒にいるもの。1番信用しているわ。」
「ほら、答えは簡単でしょ?貴女が信用する人は貴女を1番想ってくれている人ではありませんか。」
ベッドまで歩み寄り、お嬢様の手を引き寄せる。
ベッドからずり落ちる弾みを生かして立ち上がる。
「お嬢様を心配しているからカルナスさんは怒られただけです。」
不安げに瞳が揺れる。
「それに今頃アイリスとカルマがお嬢様が僕らの為に執務を抜け出したことや、お嬢様自身の目で王城の現状を見ようとしていたことも弁解済みです。」
不安の色は驚きに変わり、握った手に無意識に力が込められる。
「さぁ、行きましょう?仲直りは早い方がいいですからね!」
こくんと頷き、歩み出す。
繋がれた手が小さいこと、少し先を歩む肩が震えていたことは僕だけの秘密。
お嬢様も僕らと変わらないただの子供と分かった安堵(?)とともに、やはりカルナスさんとお嬢様の会話の部分部分が引っかかりはする。
だが、それはあとで分かるだろう。
そう言い聞かせ、お嬢様の後をついて元来た道をゆっくり、でも少し早足で戻って行く。
本編をお読みくださりありがとうございます!
まだまだ至りませんが今後も精進して継続していきます!
今後のお嬢様達の成長にも乞うご期待٩(๑òωó๑)۶
また、次話で会えることを楽しみにしています(・ω・`*)ネー