始まりの音は鳴り響く4
いやはや、皆さまお久しぶりです。
さて今回で6話目です。
今まではあんまり薔薇について書いてなかった分今回はこれでもかってぐらい(そんなにないけどw)薔薇園を押しに押してみました!
静かな朝。
目覚まし時計は4時55分を指す。
アラーム五分前。今までで慣れてしまった習慣の一つ・・・アラーム五分前起床。
今日から新しい生活が本格的な始まりをむかえる。
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
雲がわずかに動くその速度から風向き、天候を予測し、窓を開けて気温を測る。
祖父のおかげで執事見習いとしてのおおまかな技術の一つである朝の準備は9年間で身につけた最大の特技と言っても過言ではないだろう。
白いワイシャツに袖を通し、深い青色のネクタイをつけネクタイピンで止める。
そのうえにかるい黒色のベストを着用し正装が整う。
自室を掃除して今日の予定を頭に入れる。
昨日あの後は城内をざっくり確認したが、お嬢様と同行するのは南館、北館の南北だけだが東西館も把握しなければもしもに対応出来ないかもしれない。
そんなことでは執事なんて務まるはずがない。
そう考えながら自室を後にして渡り廊下を抜け、薔薇園の方に足を向ける。
薔薇園はアーチ方になっていたり、サイドを薔薇が覆い道を作っているため道が入り組んでいる。しかも一本道でないため昨日のように迷う可能性がないとは言えない。
「やっぱし王城って半端なくでかいよな~。」
「ふふふ・・・何を今さら・・。」
独り言への返答に驚き辺りを見渡す。
薔薇園の左へと曲がる曲がり角から黄色のリボン端が見えた。
そちらに歩いて行くと黄色の後ろに大きなリボンをあしらったワンピースに白のカーディガンを羽織った紗凪お嬢様が薔薇の手入れをなさっていた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
薔薇から目を離さずに挨拶を交わす。
「お嬢様は朝が早いのですね。」
チョキンッ。
薔薇の茎をハサミで断つ音が響く。切りとった薔薇を眺めながら悪戯ぽく微笑む。
「そうね。今日は目が冴えてしまったの。」
足元の籠にハサミをしまいながら「はい」と薔薇を押し付け、朝日に被るようにくるりと周りこちらを見る。だが表情は逆光によって見えない。
「ねぇ、この薔薇園を教えてあげましょうか?」
「えっ?」
「だってさっき『王城って半端なくでかいよな~』って言ってたでしょ?」
「うグッ!」
「昨日も迷子になりかけてたし~。」
「・・・。お嬢様・・・」
クスクスと笑う仕草が逆光でも分かる。
「質が悪くはございませんか?」
「よく言われるわね。で、どうするの。」
はぁーと、ため息を一つついて気を引き締める。
「大変お手数ですが教えていただけますか。」
「もちろん!」
てこてこと走りよって来るや否や左手首をつかまれスタート地点となる自室がある東館入口まで戻ってきた。
「まず、南館への最短ルートから。左手の曲がり角を曲がる。」
ゆっくり歩きながら説明をしてくれるお嬢様。
説明だけなら左手を握らなくてもいい気がするが・・・。機嫌を損ねられないように黙っておこう。
「本当はこのまま道のりに行けば行けるけど急ぎの時はこの曲がり角から五つ目の植木鉢と六つ目の植木鉢の間をまっすぐ抜けて行くと・・・」
「えっ?!」
そんな所を?と聞くよりも先にお嬢様はすり抜け、僕は後をついていくしかない。
本当に人1人がやっと通れるような一本道を迷いなく突き進んで行く。
「はい!南館到着。」
「うわぁっ!」
薔薇の根に躓き、転けかける。
ヒョイっとズレて転けかける僕を避けるお嬢様は少し・・・いや、かなり悪戯な笑みを浮かべ、笑い声を出さないようにしている。
・・・。
絶対あの薔薇の根で躓くのを知っていたんだろう。
「お嬢様・・。何を笑ってらっしゃるんですか?」
「ふっ、ふふふ。別になんでもないわ。」
ジト目で見つめる僕に対し、笑顔で「ほら」っと南館の入口を指さす。
確かに最短ルートだけどどこか納得仕切れない部分をモヤモヤと考えながらため息をつく。
「次は北館に行く?それとも西館かしら?」
お嬢様は大変楽しそうに笑われている。
僕ばかりあたふたしてなんだかズルイ気がする・・・。
「では、北館でお願いします。」
「うん。」
左手を握られたまま小走りに歩きだす。
次は南館から真っ直ぐアーチを潜って中央に位置する机と椅子のある場所から三歩右にずれ、12番目の薔薇の茎と13番目の茎の間を横歩きしながら抜けて行く。
「はい!北館です。」
今度は慎重に、転けないように足元を注意する。
「よかっ・・・!!!ぶはっ!?」
今度は薔薇の葉が顔面に衝突というより覆いかぶさってきた。
「あはははははははははは!」
お嬢様がお腹をおさえながら堪えきれず声を出して笑われる。
「ーッ!お嬢様知っていましたよね。何故教えてくださらないんですか!」
「だって、反応が新鮮で面白いんだもの。」
人差し指で目尻に溜まった涙を拭いながらまだお腹をおさえている。
プイっとそっぽを向くと「ごめんなさい。」と震えた声で謝られた。
まだ、笑ってるし。
「最後の西館への行き方を教えてください。」
「えぇ。と言っても西館だけは最短ルートとかないねよね。」
「そうなんですか?」
お嬢様は髪を払いのけ、その髪がザワッと舞い込んだ風にのってなびく。金色が朝日を浴びて黄金に輝く。
その横顔はどこか淋しそうに見えた。
「西館は国王と王妃様の自室があるから。」
「あぁ。確かそうでしたね。」
だから、か・・。西館だけ抜け道がないのも納得出来る。
東館からほぼ真っ直ぐに突き進むと西館の入口にたどり着いた。
「さてと。これで大丈夫かしら?」
「はい。助かりました。ありがとうございます。」
西館に向かう道の間そして着いてからも1度たりともお嬢様は顔を合わせようとしない。
西館に着いた途端すぐに北館に戻ろうと歩みはじめて仕舞われるし・・。
なんだろう。様子がおかしい気がする。
「お嬢様。」
「何かしら?」
歩みを止めず聞き返してくる。
「何か気に触りましたか?」
バッと振り向いたお嬢様はズカズカとこちらに歩み寄ると「なんでもない!」っと強い口調で言い切るとまた、歩み出してしまう。
・・・。
「なんでもないなら何故西館を避けられるように1度も顔を合わせてくださらないんですか?」
ピクっ。
お嬢様の歩みが止まる。
今度はこちらから歩み寄り、お嬢様の前に立ってみる。
!
お嬢様は俯かれていて表情は見えずらいが、ただ、唇を強く噛んでいるのだけが分かった。
「おじょ・・・」
「おや?これはこれは朝早くから薔薇園に人がいるのは珍しいじゃないか。」
言い終わる前に第三者の声によって掻き消される。
声の主は水色の古びた作業着を着て軍手の先には大きな金バケツを持ちガチャガチャと音をたてて歩きよって来る。
「おはようございます。ナーベスさん。」
「おやおや、おはようございます。紗凪お嬢様。今日もお早いのですね。」
「えぇ。薔薇の水やりをしたくて。」
落ち着きをはらった声、大人びた顔つきで挨拶を交わすお嬢様にもう一度西館での事を聞いてもはぐらかされる気がしてならない。
「それよりも、こちらの方は?」
ナーベスと言われた初老の男性がこちらを不思議そうに見つめる。
「あっ、えっとはじめまして。おはようございます。昨日から紗凪お嬢様の執事見習いとなりましたアルビネア・シャーロットと申します。よろしくお願いします。」
「あぁ!よろしくお願いします。アルビネア執事長のお孫さんですね。いやはやいつもお世話になってます。ナーベス・グラフと申しますこの城の庭師です。どうぞお見知りおきを。」
にっこり笑うとたくさんの皺が生まれ、この人の人の良さが伺える。
軽く話をして、ナーベスさんとは別れて北館へと戻ってきた。
時間を確認するともう6時5分になっていた。
「お嬢様そろそろ朝食のお時間となりますがどうなさいますか?」
「・・・そうね。朝食をいただきましょうか。」
「はい。」
そう言って北館の入口を開けてお嬢様に入るように目配せするが、お嬢様は何故かもじもじと下に目線を落とす。
?
「どうかなされましたか、お嬢様。」
「・・・」
ぎゅっと猫耳カチューシャを握りしめ、勢いよくこちらを向くと
「さっきの、西館での、その、冷たい態度をとってしまってごめんなさい!」
早口にそう言って走って食堂に向かって行く。
途中カルナスさんが「走ってはいけません!」と注意しているのが遠くで聞こえた。
廊下をかけていくお嬢様の後ろ姿を見ながらさっきまでとは違ったため息が口から漏れる。
「不意打ちじゃん。」
右手で顔を隠すようにしてその場にかがみ込んでしまう。
あぁもう、たぶん今自分の顔がきもいと思う。
熱くなった頬を手で扇ぎながら緩んだ顔と云うよりは口元を引き締めようと試みる。
人の顔ってあそこまで紅くなるものなのか…とお嬢様の顔を思い出すと笑ってしまって口元が緩んでしまう。なんとも、愛らしいお方だ。
(まぁ、この日と同じくらい紗凪お嬢様が顔を真っ赤にするのは3回程度あるのだが…それはいずれ分かるだろ。)
「シャ~ロット~、は~や~く~!!」
入口から離れた、食堂の入口前から人の気も知らないで紗凪お嬢様が声を張って僕の名を呼ぶ。
その声に向かって僕は立ち上がり笑顔で歩きだす。
読んでくださりありがとうございました。
次回からちょこちょこ紗凪お嬢様の秘密を掘り下げるつもりです。ฅ(´・ω・`)ฅ
今後もよろしくお願いします!
感想、意見などお待ちしてます( ˙꒳˙ )