君が生まれた日
更新遅れてすみません。今日は短めです
いつだったか。胸元に飛び込んできてぎゅっと抱き着く紗凪の頭をそっと撫でる。
昔にもこんなことがあった。泣きそうな嬉しそうなそれでいてどこか困ったような顔をしたこの子は前もこんな風に私に抱き着いた。そして頭を撫でていると薄いピンクの髪を手で押さえつけながら彼女は嬉しそうに笑った。何がそんなに嬉しいのかは分からなかったが彼女は自身の娘と私の様子を心から嬉しそうに見つめていた。
ふと目を開ければ紗凪がこちらを見上げて笑っていた。
彼女によく似た顔で。
「いつもありがとう。雛葉」
「かまわないさ。そろそろ行かなくてはいけないだろう?」
紗凪はコクリと頷くと身体をそっと離す。遠ざかる温もりを名残惜しく感じながらももう一度頭を撫でてやる。
そこにはもう先ほどとは違った表情をした一国の姫がいた。
「楽しんできなさい」
「うん!」
パッと花咲くように笑った彼女は扉へと身体を向け背筋を伸ばして歩いていく。
その背中には想像にできないほどの責任が既に課されているのだ。それをいったい誰が望むのだろうか。
そして—
扉が閉まる刹那に見えたあの子の表情は複雑な気持ちに揺れていた。
ほんの一瞬。そのわずかな表情であの子を見ている者には気づくのに難しくない。それでもきっと…
気づく者はいないのではないだろうか
窓から見える城下の景色を見ながらため息を吐き出す。
もし私が本当にあの子の母親ならば‥‥そんな考えが頭に過るのだった。
紗凪の心情は複雑ですね