繋がりは強く
いつもお読みくださりありがとうございます。
「何を言っている」
低い声が響く。
声のする方に視線を送ると春志と呼ばれていた妖がわなわなと震えている。
その瞳には憎悪と驚愕を滲ませながら。
「妖と人間が手を取り合うって話を提案した」
「貴様は何もわかっていない」
春志の瞳はもはや俺しか映していない。紗凪が不安になってかか細い声で俺の名前を呼ぶ。大丈夫だと心で答えながら視線は奴に向けたままその答えを促す。
「人間と人とが分かり合い手を取り合えていればそもそもウレーナ様と我らが主があのような不憫な思いをせずに済んだではないか!!!」
‥‥‥
「人はいつでも歩み寄った我々を認めずあまつさえ姫様をあの城で隔離していたではないか。そんな輩とどうやって手を取れと?対等に接しようとしない輩に何故我々が振り回されなくてはならない?貴様の妄言は聞くに値しない」
妖の殺気が膨れ上がる。
確かに人間は妖を恐れ、対等と思わなかった。だけどそれは—
「俺は妖も人も対等に扱うよ。だってそうじゃないと紗凪と友達になんてなれない」
きっとこいつらは知らない
人間がなぜ妖を恐れるかを、妖がなぜ人間を恐れるかを
「俺は自分の視える力を今まで不幸だと思ってたよ。でも今はこの目が合ってよかったと思う。だって紗凪のことを知れた、あんたらと会話が出来た」
「何を言っている」
ただただまっすぐにその声が響くように願いながら笑う。
「きっとそんなもんなんだって。人と妖が分かり合うことも手を取り合うことも案外簡単なんだ。だって要はどうとらえるかの問題じゃん?最初の一歩を勇気をもって踏み出せば思ってたのと違うものが見えてきたりするもんだよ」
それにウレーナ様は確かに国王陛下に認められなくて国を捨て、地位を投げ捨ててまで駆け落ちを選択したけどそこにはきっとわかり合おうとしない人間の考えに心痛めたんだと思う。
だからこそなんじゃないのだろうか。
娘にその思いを託しているのは…あきらめきれなかった思いの欠片なんじゃないだろうか。
「それにどっちの血も引く紗凪という存在は妖と人間が手を取る機会の大切なピースなんだよ。だからさ—」
俺は視線を鴉天狗に向ける。
「その最初の一歩に付き合ってよ?鴉天狗の伊鶴だっけ?俺達が帰れるまで後ろのお相手頼みたいな~なんて」
さすがに後半はかなわないかもだけどこいつが味方になってくれたら少しでも時間稼ぎは出来る。
「伊鶴」
紗凪が名前を呼ぶ
「お願い、助けて」
その言葉が小さなトリガーになったのは言うまでもない。
伊鶴はふわりと俺らの前に跪くと俺を一瞥した後、紗凪に微笑みかける。そのほほえみはどこまでも穏やかだった。
「我が主のために」
そう言って俺らの背後の妖に己の武器の切っ先を向ける。
ただすれ違う時に「二度目はない」と言われたのはさすがというかなんというか…
紗凪は愛されてるなと感じて苦笑してしまったのは言うまでもない。
「伊鶴!?貴様裏切るのか?」
「裏切り?笑わせるな春志。俺たちが忠誠を誓ったのはお前じゃない。あの方とウレーナ様、そしてそのお子様である姫さんだけだ」
「ッッ!!」
「悪いが姫さんの想いを守らせてもらう」
妖が怯む。その隙に毛玉たちとともに走り出す。
これが人と妖が手を取った最初の一歩になることをまだ誰も知らない。
次回更新は1月23日です。
よろしくお願いします。




