繋がりは強く
いつもお読み下さりありがとうございます
「貴様」
紗凪がビクリと肩を震わせて声のする方に顔を向ける。
紗凪とはじめに話していた妖が人を殺さんばかりの視線で俺を睨む。視線で周りを確認する限りおそらく囲まれている・・・
円状ではなく、弧を描く様に囲まれているのがまだ救いに感じる
「春志」
紗凪が俺の腕の中から離れ隣に並ぶ。握られた手にぎゅっと力が入るのが感じられる。そして少しだけ震えているのも…
「私は王城へ帰ります。お母様のなせなかったことを私がする為に―」
「我々をお捨てになるのですか?」
「違う!!私は、わたしは―」
ぎゅっ
紗凪が驚いて俯いていた顔をあげる。目と目が重なる。
大丈夫、お前の気持ちを蔑ろにする奴らはここにはいない。だって今までお前をずっと見守ってきてくれたんだから
にっと笑いかける。
紗凪は驚いたような泣きそうなようなそんな顔で力強く頷く。
握った手が熱さを増す。
「私は妖も人もどちらも大切で片方なんて選べない。選べるわけないじゃない!私はみんなが大好きなんですもの!」
妖の動きが止まる。
「それなのにさっきから裏切るとか捨てるとか訳わかんないよ!!なんでそうなるの?どうして人と仲良く出来ないの?!お母様とお父様がそんなこと望むはずないのにどうして、どうして―」
薄ピンクの瞳から透明な雫が頬を伝って足元に落ちる。
叫ばれる想いは妖にどう伝わるのか、紗凪の姿は彼らにどう映るのか…それによって行動が変わる。
いくら紗凪が妖を信じてもそれが伝わる保証はどこにもない。だからこれは賭けだ。
紗凪と妖の絆を試すようなものであって俺からしたら命を狙われかねない―てか、殺されかねない―博打だ。
それでも今やらなきゃいけない事だ。
紗凪の執事として、友として
「私はお祖父様にだって認めて欲しい。みんなにだって認めて欲しいのよ!だから私は逃げない。ちゃんと認めてもらうまで・・・だから私は帰るの私が居るべき場所に!!!!」
凛とした声が響く。
もう、紗凪は泣いてはいない。
真っ直ぐ前を見すえる。
小さく息を吸って吐いて気を入れ直す。
紗凪に負けない声で、腹から出す声で
「ってことだから俺らは帰る!」
ザワっ
妖がどうしようかとざわめく。紗凪の想いを踏みにじることは彼らだって望んでいないが、易々と大切な存在を人間に連れていかれるのを容認するはずもない。
「姫様申し訳ありません。ですが我々にも譲れないものがあるのです」
「春志!」
春志と呼ばれた妖の手には火の玉が作られ・・・やるしかないか…
ため息ひとつ零し紗凪を抱き抱える。
小さな体はふわりと持ち上がり壊れそうで怖くなる。それでも大切に、しっかり抱きしめ反転し走り出す。
もうこうなれば逃げるが勝ちだろう。
「なっ、貴様!」
「ちょっとシャロ?!」
「悪いけど俺は妖と戦いたくはないんでね、逃がさせてもらいます!」
足元から「ぷぎゅー」「ぶぎゅー」と聞こえるからあの毛玉も一緒に走っているのだろう。
「シャロ、帰り道分かるの?」
「知らない」
「はぁ?!」
「うんなことより今は逃げることが先だろ」
「有耶無耶に逃げたってここは妖の世界よ?すぐ捕まる」
「ならどうすればいい?!」
「どうって知らないわよ!」
「知らないのかよ!」
「だって私初めてこっちに来たのよ」
「あーもー、毛玉案内出来る?」
「ぷぎゅぷぎゅ〜」
どっちか全然わかんねぇよ
「―ッ!」
尋常ならざる殺気を感じて足を止め、後ろに跳躍する。
ザッ
そのまま走っていれば通っていたであろう場所に溝(人為的な)が出来ていた。
「「エッ?」」
二人揃って間の抜けた声が出る。
どう見ても・・・・・
「悪いが人間側に返す気はないんで」
漆黒の羽を広げてた妖が俺たちを見下ろしていた
次回更新日は12月28日です。
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