始まりの音は鳴り響く
階段を上りきって一番手前の部屋の扉をノックする。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません。執事見習いのアルビネア・シャーロットです。」
開かれた部屋の中にはすでに3人が待っていた。
「遅れずに済みましたね。」
と柔らかい笑みを浮かべながらこちらに話しかけた長身の男性がおそらくこれからの僕の上司になる人だろうと直感で判断する。
男性の側にいた薄茶色の髪を一つ結びにし、エメラルドグリーンの瞳が大人びた雰囲気を感じさせる少女が軽い会釈をしてきた。
その仕草から彼女がメイド見習いだと判断できる。
最後に一番扉に近い所に立っていた同じ年頃と思わしき焦げ茶色のツンツン髪の少年がにっこり笑いかけてきた。
「さて、みんな揃ったところで軽い自己紹介でもしようか。」
長身の男性が僕らに円になるよう促し自己紹介を始めた。
「まずは私から。私はローズタスト第一皇女に仕える執事のカルナス・ヒナニカルです。
今後君達の上司にあたるのでよろしく。」
一礼したカルナスさんの動作はとても自然体でかっこいいと思わずにはいられなかった。
いつか自分もあんな執事になれるよう・・・。
カルナスさんが右隣の少女に自己紹介を促す。彼女は両手を前でそっと組み合わせ頭を下げる。
「本日より王城にてメイド見習いとして働かせていただきます。現メイド長の孫のミャニャー・アイリスと申します。不束者ですがよろしくお願いいたします。」
メイド長の孫。
さすがメイドとしての品と口調が完璧なわけだ。と、納得と同時に自分も周りからは祖父の孫として見られる事実に少し違和感を感じつつも彼女のように祖父の恥にならぬようには頑張ろうと改めて認識する。
続く3番手の少年は全く緊張を見せることなく自己紹介をしてのけた。
「僕は騎士見習いとして今日からお世話になりますネルヒナーラ・カルマと申します。
歳は10。あまり慣れない場で馴染めるか不安ですがよろしくお願いします。」
最後に深々とお辞儀をするところ、さすがは騎士見習い。
そして最後は自分の番だ。
「初めまして。執事見習いとしてお世話になりますアルビネア・シャーロットです。
国王仕え執事アルビネア・カルバンの孫です。よろしくお願いします。」
軽い礼をして緊張をふっと息と共に外へ押し出す。
パチパチパチパチ
いきなりな拍手に心臓・身体がビックリする。
カルナスさんが小さく笑い、僕らに暖かな王城にようこそという拍手をくれたのだ。
それになんだかほっとすると見習い3人は互いに顔を見合わせて小さく笑いあう。
少し落ち着いたところでカルナスさんが僕らが今後仕える予定である第一皇女とご挨拶をする為に皇女の部屋へと移動するように促した。
東館の4階。1番奥の部屋が全第一皇女・ウナーレ様のお子様であられるお方がいらっしゃる。
皇女部屋の前にある左側の部屋が今後のアイリスの部屋。右側の手前がカルマ、奥が僕の部屋となる。
皇女の部屋の前で立ち止まり、カルナスさんが軽いノックをする。
「お嬢様。見習いの御三方がお着きになさいました。・・・失礼致します。」
ガチャッと両開き扉のドアノブが奥に押し開けられると同時に室内から白い・・・猛獣のような何かが飛び出してきた。
その白いのは僕らに襲いかかるように向かったくる・・・⁉︎
そう判断し、即座に一歩後ろに飛び退き、蹴りを食らわそうとしたが素早い動きで蹴りを軽々と交わされる。
そのまま後ろのカルマに飛びかかろうとするがカルマも僕と同様即座に飛び退き一定の距離を保とうとする。
だが、その白い猛獣?みたいなのはカルマに襲いかかることなくあろう事かアイリスに背後から襲いかかろうとしている。
しかも彼女の前方には僕らを襲った奴のもう一匹が彼女に襲いかかろうとしているのだ。
なのに彼女は一切逃げる素振りを見せない。
ただ真正面の猛獣をじっと見つめているだけだ。前後の猛獣が同時にアイリス目掛けて飛びかかろうとする。
何やってる‼︎逃げろと叫ぼうとした刹那、アイリスは右手で手刀を作り、その手刀を前後の猛獣にむけて振り下ろす。
ボフン。
アイリスを中心に白い煙が上がりあの白い猛獣は姿を消してしまった。
いや、元の姿に戻ったと言う方が正しいのだろう。彼女の足元には小さな人型に切り取られた紙が二枚落ちている。
おそらくあの紙切れがさっきの猛獣なのだろう。
アイリスが人型の紙切れを手に取り、皇女の部屋・・・室内へと呼びかける。
「お遊びが過ぎはいたしませんでしょうか?姫様。」
アイリスが睨み付ける室内からはクスクスと悪戯っぽい笑いが聞こえてくる。
すると開きかかった扉が勢いよく開き、中から何処かで聞いた声で、
「申し訳ない。これは一種のテストだよ。ようこそ見習い達よ、今日から当分の間宜しく頼もうか?」
と上から目線な発言をされ、僕らは皇女の部屋に足を踏み入れた。
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ようやく次で大まかなメンバーが全員揃います!
物語が動き始めます。
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