その手の中に
いつもお読みくださりありがとうございます
「ぷぎゅー」「ぶぎゅー」
変な音が聞こえ踏み出した足が止まる。
聞き間違えだったのかだろうか。今は止まっている暇なんて―
「ぷぎゅっ」「ぶぎゅっ」
また聞こえた。
「ぷぎゅぷぎゅ」「ぶぎゅぶぎゅ」
「だァー煩いわ!今忙しいんだよ!」
音のする方に目を凝らす。
マリーローズの鉢の横にそれはいた。
灰色がかった毛玉と白い毛玉…その二体の目と目が合う。
やバッそう思った時には時すでに遅し。二体は俺めがけて飛んでくる。
「―だっ!」
尻もちをつく。
迂闊だった。まさか毛玉に目がついてるだなんて
しかも小さいからって油断したのはかなり手痛かった。
「ぷぎゅぷぎゅ」「ぶぎゅぶぎゅ」
二体の毛玉はさぞ愉快そうに跳ねている。
「悪いけど俺今お前らにかまってる暇がねぇんだよ。紗凪を探さなくちゃならないんだ」
毛玉は跳ねるのを止め、何やら話し合いを始める。
その隙に逃げようと立ち上がり背を向ける。
「―っ‼」
背中に衝撃が走りこける。
目の前にはおそらく俺の背中にアタックをかました白い毛玉がぴょんぴょん跳ねている。
こんなところで足止め食らってる暇はないのに
もう一度立ち上がり足を踏み出せば今度は灰色毛玉が顔面にアタックをしてきたので手で掴む。
こういう時に動体視力がいいことに感謝する。
「まったくなんなんだよ!今お前らにかまえないって言っただろう」
掴んだ毛玉を睨む。
毛玉は俺の瞳を見ながら何かを訴える。
「ぶぎゅぶぎゅぶー」
首をひねる俺の足元をもう一匹の白毛玉がグイグイ引っ張る。
引っ張る方向は俺が向かおうとした方向とは逆
まさか‥‥
「紗凪がいるとこまで案内してくれるのか?」
「ぶぎゅ!」「ぷぎゅ!」
二匹がまるでそうだ!というように応える。
もしもこれが嘘だったら?
二度と紗凪に会えないかもしれない
だけど、このまま何も分からないまま探すよりは確率が上がるかもしれない
「分かった」
灰色毛玉を放し、地面へおろす。
「紗凪のところまで俺を案内してくれ」
「ぷぎゅ」「ぶぎゅ」
毛玉たちが案内する道を走り始める。どうか、無事でいてくれ紗凪
カーテンがさわさわと靡く明かりのない紗凪の部屋に一人戻ってきた。
アイリスやシャーロットがいるとやりにくくてもう一度戻ってきたのだ
ずっと気になっていたソレに向き合う。
「妖ってのはもっと隠れるのが上手いって思ってたけど案外違うんですかね?」
相手は答えない
「2人は気づいてなかったけど僕は気づいちゃうんですよ。なんせ育ちが悪いんでね」
部屋には自分の声だけが響く
「まだ答えないんですか?僕らの主人を勝手に攫っておきながらわざわざ僕らを監視ですか?ご苦労様ですね。でも、敵がいてみすみす逃がすほど騎士は甘くないですよ!」
腰に隠していた短剣を振りかぶりソレに向かって振り下ろす。
ソレは器用に短剣から逃れ、ベットからの脱出を図ろうとする。
そこにもう一つの短剣を横に振りかざす。
ザシュッ
短剣が浅くではあるがソレにあたる。
間髪入れずに短剣を刺そうとソレを掴んだ瞬間ソレ―ひよこ型のクッション―は人型に変わる。
短剣を簪が受け止める。
「へェ~ようやく姿を現してくださいましたね」
「たわけが」
声からして女なのだろうその妖は簪で短剣を押し返そうとする。
「無駄ですよ。いくらあなたが妖でもこの剣および僕の所有する剣はすべて退魔用ですから」
「無駄かどうかはやってみなくては分からないでしょう!」
ピクッ
体の一部に変な痺れを覚え妖を蹴って距離をとる。
おそらく僕に姿が見えるほどの高位または力がある妖ってことだ
油断はできない。
「紗凪はどこですか?」
ゆらりと起き上がった妖は簪片手に鼻で笑う
「私達が答えるとでも?」
さて、このまま逃がすのはごめんですからね。
どうしましょうか。
紗凪の部屋に会ったものを思い出す。少しでも不意がつければ…
「では、質問を変えます。貴女方は紗凪の気持ちを確認したうえで誘拐したんですか?」
「誘拐?違うわ。もともとお嬢を人間側で育てようとしたこと自体が間違いなのよ」
「妖側なら傷つかなかったと?」
「えぇ。その通り。はじめから妖側に居ればあの子は傷つかずに済んだ‼」
「それは違いますよ」
「!」
妖が息をのむ。
おそらくだが今までだって誘拐しようと思えばする機会はいくらでもあった。なのにしなかったのは人間側と紗凪が決別するきっかけが必要だったから。…つまり理由が必要だったのだ。
妖は何度も傷つく紗凪に妖側へ来るように誘ったが結局紗凪が折れなかったのだ。
だからこそ今だったんじゃないか
そんな風に思ってしまう。
「きっと紗凪が妖側で育てばウレーナ様の様に立場は逆でもいずれ人間に興味を持ち出て行ってしまった」
「そんなこと―」
「ないとは言い切れないでしょう。紗凪は良くも悪くもウレーナ様に似ていますから」
それは大臣や執事長がまれに溢す紗凪への口癖の様なものだった
にっと笑って少しずつ間合いを詰める。
「周りの反対と恋焦がれる思いの果ての行動がどうなったか貴方達は知っているでしょう」
「うるさい!紗凪を傷つけた人間が偉そうにあの子を語るな!」
「確かに紗凪を傷つけたのは僕ら人間です。ですが、紗凪は本当に僕らと決別して妖側へ行ったんですか」
「えぇ。そうよ!」
「嘘はつかないでください」
張り詰めた空気が流れる。
「嘘?」
「はい。それは嘘ですよ」
「なんで言い切れる。たかが人間が」
「…紗凪に聞いたからです」
「は?」
「紗凪にどうして外に出たいのなら妖に頼らないのか一度聞いたことがあるんです。そしたら紗凪は『お母様は本当はここを出て行ったことを後悔していたの。お祖父様やお祖母様に心配をかけてしまったって。だから私はみんなが認めてくれた上で外に出ることが誰にも心配かけない、お母様が出来なかった本当にしたかったことだと思うから』って」
こつん
腰辺りに紗凪の机がぶつかる。
確かこの辺りに、、、
「そんな紗凪が勝手に出ていくなんて考えられないんですよ」
「そんなの!」
「それに、シャーロットが紗凪を追いかけてから紗凪は一時的ですが泣き止んでたんですよ。見える人間同士だからかあそこはお互いが特別視してますからね」
「お前…」
「わるいですが僕は他の面子より他者を信用していないので周りをよく見てるんですよ」
後ろ手に探していたものを見つけ、相手にばれないように手繰り寄せる。
「そんな二人が話し合った後で紗凪が自分の意思で出ていくのは考えられないんです。ですから、紗凪は返してもらいます!」
バッと手に握ったものを相手に向かって投げつける。
「なっ‼」
投げつけたにはクールパウダーというきらきら光る粒子だ。
本来は室内にぶちまけるものではないが仕方がない
相手が怯んだ隙に出入り口に走り電機のスイッチを押す。
暗かった部屋が一気に明るくなり、粒子が輝きを増す。
次回は9月12日の更新になります。
よろしくお願いします




