傷つくのなら
どうして どうして この人はここまでしてくれるの?
私が泣いた顔を見たくないと‥私が泣くと自分も悲しいだなんて…人のために泣くだなんて
だって、それは貴方には、シャロには全く関係がないのに・・
どうして、どうして
いいままでずっとそうだった。
さっきみたいに「化け物」と言われると多くの者が私を見る目を変えた。
薄気味悪いと思っていた。
思われていることが分かってしまう。
それがつらくて逃げだした。
確かにシャロのように追いかけてきた者もいた。
でも―みんな彼のように怒りをぶつけたり、泣いたりしなかった。
ただ仕事だと面倒くさいと思いながらもその場限りの心にもないことを言って慰めようとした。
心と声に出される言葉が違っていて気持ちが悪かった。
怖かった。
なのにどうして彼は心から私を―
笑った彼の表情はとても澄んでいた。
ポロポロとまた涙が溢れ落ちる。
さっきとは違う涙が‥‥
「だから泣くなって」
「違うの、これは違うくて。たぶん“嬉し”くて」
ギュッと抱きしめられる。
優しくて温かなぬくもりが伝わる。
あぁ、きっと私はずっとこうして欲しかったんだ―。
シャロの背中に腕を回す。
「メイド長。何故彼女はあそこまで紗凪を見て取り乱したんですか?」
「…」
泣き叫んだメイドは何人かの執事やメイドに引きずられるようにして医務室に連れていかれた。
「答えてください。メイド長‼」
祖母の前に回り込み視線をぶつける。
祖母は黙ったまま静かにため息をつく。
「お前はまだ知らなくていいんです。」
! それを―
「それを決めるのは貴女ではない!私の主が傷ついているのに何も知らないのは許されるはずがない‼何故、何故あの子があんなに傷つかねばならないんですか」
「それは‥」
「私はあの子の友であり、側付きメイドなんです。だから…‥だから知る必要があるんです。」
引けない。ここで引いてしまったらきっとあの子が紗凪がどうしてあんな辛そうな、申し訳なさそうな表情をしたのかわからない。
・・・紗凪の隣で胸を張って立てない。
「お前は‥アイリスは紗凪お嬢様のことを思っているのですね」
「えぇ。もちろんです」
「分かりました。ですがこの話はお前だけでなく見習い3人に伝えます。」
「分かりました」
「11時に南館の私の部屋のに来なさい」
「はい」
祖母の瞳をまっすぐ見る。
目を閉じ、小さく息を吐いて一礼。シャロに紗凪のことは任せてはいるが急いで行かないと―
知らない間にちゃんと成長しているのですね、アイリス。
主のために、他人のために必死な顔をできるほどに貴女はお嬢様を好いているのですね。
小さな背中が背を向け走り出す。
まっすぐな瞳は本当に親子だと苦笑してしまう。
母に似てちょっと頑固で他人思いなあの子を紗凪様と出会わせて間違いはなかったと確信しながら走り去る孫を微笑ましく思う。