新しい仲間
1週間後、ミリアとした約束の日だ。俺はこの1週間、ボーンタワーに朝から晩まで籠っていた。ボーンタワーに出るスケルトンナイトは、ナイトというだけあって剣や槍、盾などを装備していて動きは遅いが1人で数体相手にすれば中々の訓練になる。そしてスケルトンナイトが落とす素材、赤黒い骨は強度も高く加工しやすい為、鍛冶職人にはありがたい素材なのだ。訓練もできてお金も貯まる美味しいモンスターだ。
貯めたお金で投擲用のナイフを頼む。素材は勿論スケルトンナイトが落とす骨、普通のナイフより丈夫で軽い。戦闘スタイルが回避特化型の俺にはありがたいものだ。貯めたお金は減ったけどね。
「へ~髪切ったんだ?」
声がした方を向くとフィリアとミリア、それと2人の女冒険者がいた。
「おせ~よ。それにしても見事に女ばっかだな?」
俺がそう返すと一人の女冒険者が前に出る。
「ぼ、僕は男です・・・。」
うん?何言ってんのこいつ?どっからどう見ても女なんだけど?しかも結構可愛い。金髪ロングで翆眼で背には弓を背負っている。背もフィリアとミリアよりも低い。声も高いし。
「よし。ちょっとこっちに来い。」
俺はその冒険者を物陰に連れ込む。やっぱ確証を得るためにはあれしかないよね?そして俺達は物陰から戻ってくる。
「男だったわこいつ。」
「いや、わかってるし。変態。」
「グレンさん。変態ですね。」
「神速のグレンが・・・ちょっと憧れてたんだがな・・・」
いや、別にいいじゃん?男同士だし。いや、よくないな。お前も頬を染めるな。余計誤解されそうだ。
「ああ、まあ、なんだ。立ち話もどうだし座って自己紹介でもしない?」
反論すれば傷口が広がりそうなので話を逸らす。全員が座ったのを確認して、まずは俺から紹介を始めた。
「俺はグレン。まあ、最近じゃ腑抜けのグレンと言った方が知られているかもな?ランクはAランク。使う得物は刀だ。」
そう言って俺は刀をチャリ、っと鳴らす。
「恰好つけても二つ名が腑抜けじゃねぇ。あっ、次は私ね。私はフィリア、18よ。剣と盾を使うわ。よろしく。はい次。」
そっけなく言ってるがこういった場が苦手なのだろう若干顔が赤い。
「もう、上がり症なんだから。私はミリア18よ。私は杖を使うわ。あと治癒術も使えるわ。」
へえ、珍しいな。この世界には二つ魔法がある。一つは治癒魔法。もう一つは魔物が使う魔技と呼ばれるものだ。まあ、治癒魔法といっても効果自体は軽度の傷口を塞ぐことができるというもので、しかも発動まで時間がかかるので戦闘中には使えないだろう。ポーション代は浮くがな。
「じゃあ、次は私だな。私はサイガ、歳は20だ。ランクはC。武器は使わず盾術をつかう。神速のグレンとパーティーを組めるとは光栄だ。」
サイガは女性でありながら180cm以上はあり、体つきもかなりいい。重鎧に盾か、貴重な守りの戦力になるだろう。
「ぼ、僕はディアス。16です。弓を使います。あの、よろしくおねがいしましゅ!」
何この可愛い生き物?本当に同じ男なのだろうか?さっき確認したがもう一度確認した方がいいのか?皆が困った顔で俺を見る。
「あーとりあえず、リーダーはフィリア、サブリーダーはミリアだ。お前たちが見つけた仲間だからな。ただししばらくは俺の言うことを聞いてもらうがいいな?」
その言葉に皆が頷く。するとフィリアが早速張り切りだす。
「じゃあ、今から行くわよ!ゴブリンタワーに!」
「ハイ却下。」
「どうしてよ~~。」
バンバンとテーブルを叩き俺に詰め寄る。こいつほんと気が短いな。
「おいおい、自己紹介が終わったらやることはひとつだろ?カリエちゃん頼むよ。」
俺がカリエちゃんに声を掛けるとわかりました~と返事が来る。そして、飲み物と料理が運ばれてくる。
「今日は俺のおごりだ!じゃんじゃん食え!」
時刻はまだ昼前だが、その日俺達は夜遅くまで飲んで騒いだ。
「あー頭痛い。ミリア酔いざましの魔法ってないの?」
「あったら自分で使ってるわよ。」
一夜明けてフィリアとミリアは、集合場所のギルドに向かう。
「遅いぞお前ら。」
「なんであんだけ飲んでそんなに元気なのよ。」
「別に大した量じゃないだろ?なぁ、サイガ?」
「ああ。」
「二人で半樽あけて大したことないって・・・。」
俺とサイガの言葉に呆れるフィリア。ディアスは横で青い顔をしている。
「オイオイしっかりしろディアス。今からジェネラルゴブリンの討伐に行くんだから。」
ジェネラルゴブリンはゴブリンタワー5階層から現れるモンスターで、ジェネラルと言うだけあってゴブリンどもを率いている。更にジェネラルゴブリンは強激と言う魔技を使うので、駆け出しの冒険者にとっての難敵だ。
「取り巻きのゴブリンは俺とディアスが仕留める。サイガはジェネラルゴブリンを引き付けて、フィリアは隙をついて攻撃。ミリアは治癒魔法をいつでも使えるように集中。何か質問は?」
「治癒魔法を使うのに集中するために、目を閉じないといけないのだけれど・・・」
「知ってるよそれくらい。」
死んだレイナも治癒魔法の使い手だったのでその弱点は知っている。だが、弱点は克服できるものだ。実際レイナも動きながら治癒魔法を発動できることに成功している。そのお陰もあり、俺達は過去最速でAランクへと上り詰めることができた部分もあるだろう。
「いきなりは無理かもしれないが、慣れてくればできるようになる。っというよりはできなければボーンタワーより先では足手まといだ。前の俺の仲間のように、治癒術士でありながら怪力の持ち主なら別だがな。」
レイナは治癒魔法だけでなく、その見た目からは想像もつかないほどの怪力だった。ああ、いつの日か事故でレイナの胸を触ってしまった時の俺の4回転ジャンプが思い出される。
「そんな言い方は…」
「おいおい?俺達は生死をかける仲間だぞ?気付いたことはキチンと言うべきだ。」
「わかりました。絶対にモノにしてみせます。」
「その意気だ。」
ミリアはおっとりした外見とは裏腹に負けず嫌いだった。フィリアはまだブツブツと言っている。
「ハア・・・。フィリアお前はなぜ冒険者になった?仲間を作ってピクニックでもするきだったのか?」
「ちがうわよ!けど言い方ってものがあるじゃない!」
「ハハ!お前にそれを言われるとはな!」
「確かに、フィリアにそれを言う資格はないわね。」
俺と、ミリアの言葉に形勢不利とわかったのだろうフィリアはしゅんとなる。
「あ、あの僕は迷宮に入るのも初めてなんです。」
上目遣いで申し訳なさそうに手を上げるディアス。
「心配するな!俺が守ってやる!」
あまりの可愛さに俺の庇護欲がかきたてられ、ディアスの肩を掴み宣言してしまう。ハッとなりフィリアたちの方を見ると滅茶苦茶引いてた。
「・・・あんた。「さぁ出発だ。」・・・。」
フィリアにみなまで言わさず、俺は冒険者ギルドを颯爽と出ていった。メアリーが休みだったのがせめてもの救いだった。