現れない
いつものように、スイの待つ海岸へやって来た。
今日は、猫のスイカも一緒だ。
1人で出掛けようとしたのだが、後ろをついてきたのでスイにも猫のスイカを紹介しようと思い、抱いて連れてきたのだ。
けれども、いつまで待ってもスイが現れない。
「どうしたんだろうか。今日は、来ないな」
「にゃー」
「……もう少しだけ待ってみよう。」
そう言って、膝の上に乗せていたスイカの背中を撫でながら、海面をじっと見つめていた。
「今日は、来そうにないな……。また、明日来るか……」
「……にゃー」
だが、次の日以降もスイが現れる事は無かった。
スイが、会いに来てくれない事に残念な自分がいた。
俺と会って話す事に飽きてしまったのだろうか。
それとも、彼女に知らず知らず何か嫌な事でもしてしまったのだろうか。
……と、色々と原因を考えるが分からない。
「モヤモヤする」
「今日は、晴れ晴れとしたいい天気なのに何がモヤモヤするって言うんだ」
「……一応聞くが、何故ここにいる?」
「休憩だ!」
「はぁ……」
執務室のソファに座りくつろいでいるアルドを見て、ため息をついた。スイカは、アルドの隣で寝ていた。
「どうした、どうしたー、辛気臭い。悩み事ならお兄さんが聞いてやるぞー」
「ひとつしか変わらないじゃないか」
「ひとつでもひとつ分だけ人生経験は上だぞー」
アルドは、笑いながら声を掛けた。
「で、王子様は、何がお悩みで?」
「……」
「もしかして、夜のお散歩で何かあったんじゃないか?」
言い当てられた事に、少し驚いた。だから何故か聞いてみた。
「どうして、そう思う?」
「少し前は、1人で夜出掛けた後、楽しそうな幸せそうな顔をしていたが、最近は、寂しそうな顔をしていたからな」
「よく見ているな。そんなに分かりやすかったか?」
「俺とお前は何年の付き合いだと思ってる。でも、お前の様子の変化に気付いているのは俺とフレドリックくらいじゃないか?」
「そうか。だが、大丈夫だ。心配かけたな」
「……ま、無理やり聞き出す事でもないか。話したくなったら、話せばいい。そん時は、優しくてかっこいいお兄さんが最後まできちんと聞いて相談に乗ってやる」
「すまない、ありがとう」
「気にするな」
アルドは、ニカッと笑った。
俺の様子がおかしい事に気付いて話を聞こうしてくれたが、話せない自分に無理強いはせずに話したい時に話せと言ってくれた事に少しの申し訳なさと嬉しさを感じた。
「──!」
「ん?何か部屋の外から声聞こえてくるが……」
遠くから叫んでいる声が聞こえてきた。段々とその声は、近づいていた。
「──の集め──のを──……」
「こ……の声は……」
「──のは、──です!けれ──怒ら……」
アルドは、急に青ざめた顔を晒し、素早くソファから立ち上がった。
その顔を見て、俺も、何故アルドが顔色を悪くしたのか理由が分かった。
「アルド、迎えが来たぞ」
「……」
「──は嫌だからと、フレドリック様のせいにしたんですよー!センリ王子が集めて大事にしていた」
「アルン、やめろー!!!」
バンッと扉を勢いよく開けて執務室を出て行った。
後で、事の詳細をアルドに聞いてもいいがはぐらかそうとするからアルンに聞くとしようか。
ソファを見やると、スイカは、物音など気にせずに気持ち良さそうに寝ているようだった。