王子の執務室にて
ひとつ驚いたことがある。
何を驚いたのかって?
それはだな、センリは王子様だったからだ。
センリは今、執務室で書類と睨めっこをしている。
私は、邪魔をしないように近くにあったソファーの上にいる。
ふわふわだ。
私の家に持って帰りたい。
心地の良いソファーに横になりうとうと眠りそうになっていると扉をノックする音がした。
「センリ王子、フレドリックでございます。書類を持ってまいりました」
「入れ」
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは、赤茶色の髪で眼鏡をかけた人だった。
「これにサインと判を頂きたいのと、この書類を早急に見て頂きたいのです」
と、王子に差し出した。
「分かった。すぐに目を通す。そこに座ってでも待ってろ」
「お願いします」
フレドリックは、ソファーに目を向けると猫がいることに気づいた。
「王子、この猫は例の猫ですか?」
「そうだ」
「お名前は何と言うのです?」
書類に目を向けたままセンリは答える。
「……スイカ」
「は?」
「スイカだ」
センリはフレドリックに目を向けて今度は答えた。
「……」
これには理由がある。
……だが、それについてはしょうもないのでまた今度。
「ぶはははは!!!」
「にゃっ!?(なんだ!?)」
突然扉の外から大きな笑い声が聞こえ、スイは驚いた。
フレドリックは、扉を開け笑い声の主を入れた。
濃い茶色の髪を下で結んでいて、背が高くがっしりとした体つきをしている。
「何だそれはー、そりゃーお前が好きな食べ物だろ。ぶはははは!!!」
「うるさい」
「すまんすまん」
笑いを絶えつつ一応謝っているが顔がにやけている。
「はぁ、もういい。……アルド、要件はなんだ」
「陛下がお呼びだ」
「父上が?」
「何か企んでそうなとてもいい笑顔をしていたぞ」
「行きたくない」
「そう言うなって。お前が行かないと俺が怒られてしまう」
「はぁ、分かった」
センリは、のろのろと椅子から立ち上がりスイの頭を撫でた。
「いい子で待ってろな」
「にゃお。にゃおにゃおにゃおにゃーん!(分かった。何かよく分かんないけれど、センリ頑張れ!)」
何故かセンリはふっと笑みを見せた。
「フレドリック、直ぐに戻るからスイカを少しの間、見ててくれ」
「はい、承知しました」
そして、センリはアルドを引き連れて執務室を出ていった。