これから
「魔女よ、猫になってしまったが人間になれるのか?」
猫の姿のスイは魔女であるサリノに問うた。
「実はね、私の手違いでスイにあげてしまったこの魔法薬、まだ未完成なのよ」
スイは、思わず口をポカーンと開けてしまった。
「で、未完成だから元に戻す薬を作っていないの」
「じゃあ、今すぐに人間になることもそればかりか人魚に戻ることも出来ない……のか?」
ポカーンとさせた口をどうにかこうにか動かしてサリノに問いかけた。
「そうなのよ。でも、すぐに完成させるわ。少し時間を頂戴な」
「まあ、なってしまったものはしょうがないな。だが、早めに頼む」
サリノの言葉に頷いて、元に戻す薬を早く完成させるように促した。
「了解。急いで取りかかるわ!あ、そうだ、スイだけ仲が良いからといって特別扱いするつもりは無かったのだけれど、今回は、私が対価にしていたスイの声は貰わないわ」
「いいのか?」
「ええ、私の手違いで猫にしてしまったお詫びよ」
フフッとサリノは笑って、真剣な表情でスイを見つめた。
「でもね、スイが猫から人魚に戻り人間になる場合の薬の代償は貰うわよ。それがないと人間になる魔法薬を飲んでも意味がないから」
「ああ、分かっている。確か、自分の一番に叶えたいことを成就させるだったな」
「そう、あなたの場合は、人間との恋の成就。……出来なければ、泡になるわ。それでも、本当に人間になる?今なら、やめられるわよ」
「やめない。泡にならずに人間になる。そして、センリとの恋を成就させる。大丈夫だ」
恋を成就させると言ったが嘘をついてでもセンリに好きだと伝えたいのだ。例え、泡になったとしても。
スイは、魔女を安心させるために、自信満々な笑顔を向けた。
その笑顔を見たサリノは、今は、猫であるスイを勢いよく抱き上げ抱きしめた。
「わっ!」
スイは、びっくりして声を上げた。
「スイ!絶対に恋を成就させて泡になんてならない事を約束して。じゃないと、その人間を呪うからね。フフフ……」
サリノは、そう言って不気味に笑った。
「あ、ああ。約束するよ」
サリノの言葉の中におっかない言葉も含まれていたような気がしたが、それ程までにサリノはスイの事を心配してくれているのだと嬉しく思った。
「で、これからの事だけど、元に戻す薬ができるまでどうする?」
サリノは、スイを床に下ろして、これからの事を聞いた。
「うーん、そうだな……。陸の世界へ行くことにするよ。猫の姿だけれどセンリに会いたい」
「了解。薬が出来たらスイの所に届けに行くわね」
「分かった。頼む」
サリノは、スイの頭をふわりと撫でた。
こうして、猫の姿である元人魚は、陸の世界に住んでいる人間の元へと魔女に送り届けられるのであった。