闇より伸びるもの
注意!
・本作はクトゥルー神話物です。が、宇宙的恐怖はありません。
・作者はオーガスト・ダーレスが結構好きです。『永劫の探求』とか好きです。
・でも一番好きなのはロバート・ブロックです。『アーカム計画』大好き。
・用語は基本的に『クトゥルー 暗黒神話大系シリーズ』に沿っています。例えば『クトゥルフ』は『クトゥルー』、『ニャルラトホテプ(ナイアルラトホテップ)』は『ナイアーラトテップ』になっています
・習作かつ私自身の神話技能が左程高く無い為か、クトゥルー神話的ではないと思われる描写、展開、設定などが御座いますが、事前にご了承ください。
私がこれを示すのは、誰かに読んで貰いたいという破滅的な欲求から来る物ではない事を最初に示しておく。
この世には成る程不思議な物が幾多も有るとかねてより考えていた私だったが、まさか自らが計り知れぬ経験をするなどとは夢にも思わなかった。ましてや<HPL>と呼ばれた作家とその仲間達が作り上げた冒涜的なものどもの実在を知る、そんな事が我が身に起こるなど妄想でしかないとすら思っていたのだ。
しかしながらそれらは確実に存在し、塵の如き人間を何時か踏み潰さんとして、恐らくは今も私を監視しているのだ。強壮なるものが、黒い何者かが窓の外で私を見ている事が分かる。もしかすると妄想かもしれないが、私にとっては真実だ。
私はこれを示した後に自ら命を絶つかもしれない。これを書いているのは、あくまで自らの精神に個人的な満足を与える為であり、決して他者を名状しがたい神話に取り込む目的ではない事を言い訳としておこう。
そもそも、私が言葉にするのもおぞましき体験をしたのは何がきっかけだったのか。始まりは間違いなく父の死が知らされた時だが、もしかすると自室で<ロバート・ブロック>の<アーカム計画>を読んでいた事が全ての発端だったのかもしれない。
そう、父の死を告げられた時、私の手には<アーカム計画>が握られていた。
三十年代の作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、通称<HPL>を原典(エドガー・アラン・ポオやロード・ダンセイニに源流が有るとも言えるが、今は無視を決め込むとしよう)とし、幾多の作家が作り上げた<クトゥルー神話>、あるいは<ヨグ・ソトホート物語>。それを題材とした七十年代の小説こそが<アーカム計画>である。現実にHPLの作り上げた神性が存在するという設定の小説で、とても面白いものだ。
そんな本を読み込んだ私の耳に飛び込んできたのが、父が突然死したという話である。電話という形で連絡をしてきたのは私の弟で、酷く狼狽した弟を落ち着かせて話を聞き出すのは容易ならざる事であった。
だが、話を聞いた私の反応も五十歩百歩だったと考えざるを得ないだろう。それほどに父の死は驚くべき事だった。何せ昨日まで元気という言葉すら小さく思える程に元気で、当たり前の様にジムへ行き、健康的なトレーニングを重ねていたのだ。健康診断も良好なもので、私の方が先に死ぬとばかり思っていたが、どうにも世の中は予想通りには行かぬ物だ。
ともあれ、父が死んだからには一人暮らしの私も父の死に顔の一つでも見に行かねばなるまい。電話の向こうの弟が焦って遺品を傷つけでもすれば大変だ。
こう書くと私が遺品目当ての酷い男に思えるかもしれない。無理もないだろう、勿論悲しむ気持ちも有ったのだが、それ以上に父のコレクションに関心があったのだ。生前の父は色々な場所から物品を買っては家の地下室に置いていて、私も幼い頃は何度も見せて貰った物である。その中には明らかに宝石などの価値の有る物が有ったので、出来れば相続したいという打算めいたものが私の心に有った事は否定出来ないだろう。それこそが愚かさであり、最大の失敗であったのだが、その時の私は慌てて父の家に向かうのみだった。
急いで父の自宅に飛び込むと、弟が暗い顔で私を迎え入れてくれた。家屋には異様な気配の欠片すらも無かったが、私は何故か玄関から一歩踏み入れる事を恐ろしく感じて、その場で弟に状況の説明を求めた。
弟は老け込む程に落ち込んだ顔をしていたが、やがて少しは気が楽になったのか、ゆっくりと話し出した。どうやら弟が偶然に父の家を訪れた時、父は既に死んでいたらしいのだ。原因は今の所不明らしいが、持病を持っていた訳でもない父の突然死だ。私は些かの疑念を抱いていた。
私がそんな事を考えているとは気づいてもいないのか、弟は何時の間にか遺品の話へと移っていた。弟にとって父の死は衝撃であっても苦しみではない様で、なら何故これほど落ち込んでいるのか、と問いつめたくなる物だ。とはいえそんな事をする気など無かった私は、父の遺体が病院に有る事を聞いてからは頭の中を父のコレクションで一杯にさせていた。思えばこれはHPLやその弟子達が作り上げたクトゥルー神話における、最も基本的な神話的存在との接触の前触れだったのかもしれない。現実に私は無性に強い好奇心で身体を揺らせ、身近な人が亡くなった事を余り気に病んでいなかったのだ。
何も気づかない蒙昧である私は、何となく感じた不安感を父の死の衝撃だと勘違いする事にして、玄関から足を踏み出した。肩を落とす弟を何とか宥めて父の家に置いてある物を見る事にすると、弟は少し嫌な顔をしていた。そんな場合ではないと言いたいのかもしれないが、遺品整理の話をしていた者に言われたくはない。そんな気持ちで適当に流し、私は軽くコレクションが置いてある部屋に向かった。
父は死ぬ前まで地下のコレクションルームで掃除をしていたらしく、部屋の中は埃一つ無い状態にされていた。天井は山の様な天体模型や地図で埋め尽くされ、床の一部には囲いが作られていて、様々な国の珍しい土が飾られている。一番に目立つのは置物であり、古代エジプトで発掘された物と思わしき物や、古代ローマ時代の彫刻に見られる特徴を有した印象的な人間の像が目に飛び込んでくる。名作映画のセットに使われたと思わしき物体。更には幾多の珍しい物が有った。それらは個々が奇異なる異彩を放ちつつも、不思議と雑多には思えなかった。父は余程物の配置に気を使ったのだろう、私も久しぶりにこの部屋を見て、少々の驚きと敬意を抱いてしまった程だ。
さて、コレクションルームに入った私と弟が注目したのは、部屋の中央に置かれた大きめの像らしき物だった。それはシートが上から被せられていて、完璧に隠されているが故に大まかな形すらも判断する事は出来ない。弟の話によると父は像の側で死んでいたらしく、それを聞いてしまえば、私がシートを被せられた像に対して恐ろしい何かを感じるのも無理は無いだろう。
それでも像の中身を確認したいという気持ちが私の中から沸沸と現れてきた。どうもその時の私は雰囲気に圧倒されてしまっていたらしく、弟が像には興味無い様子で壁の宝石などを見ていた事すらも、私にとってはどうでも良い事の一つに過ぎなかった。
私は恐らく這う様な足で像に近づき、シートを剥がした。と、思う。どうも像の正体を目撃した時の衝撃が恐ろしく強すぎて、前後の記憶は取るに足らない物となってしまっている様だ。それほどまでに像は恐ろしくおぞましき衝撃を私に与えて見せた。
その像を視覚に捉えた私の驚愕と興奮は筆舌に尽くし難い。言葉にするのも小さなくらいに巨大な感情が爆発し、私は膝を崩しそうになってしまったのだ。
像の頭の部分は、水棲生物の物に見えた。どちらかと言えば無脊椎の動物、あえて言うなら蛸や烏賊が近いだろう。その口と思わしき部分には触手が存在し、目の部分からは邪悪な力が溢れているとすら思えた。胴体は竜の様な立派な物で、背中に生える蝙蝠に近い羽こそその存在を象徴しているだろう。
全体的には驚く程に両生類の様な肌をしていて、感触も似ている。しかし、それが両生類という既存の人類の価値観に入り込む要素の有る生物などとは私は思わない。そうだ、あれは太古の地球で<古のもの>や<ミ=ゴ>と戦いを繰り広げ、オーガスト・ダーレスの四大霊説では水に当てはめられる神性であり、<ハスター>と対立し、<旧支配者>達の中でも最も人間に知られた存在にして、かのHPLが記した物の中でも<這い寄る混沌>すら上回る知名度を持ち、邪神と戦う多くの愚者達が敵視する、その存在。
その名を<大いなるクトゥルー>と呼ばれる神性の像で、間違いは無かった。
『That is not dead which can eternal lie.』
『And with strange aeons even death may die.』
私はそれが<クトゥルー>だと認識した瞬間、頭の中でその言葉が現れる事を止められなかった。それは<ネクロノミコン>内に記述されていると設定された筈の一文であり、これ以上無い程に大いなる<クトゥルー>の存在を表した文章でもあるのだ。
急に全身を震わせた私を見て、弟が訝しげな表情をしていた。だが、私には弟の反応に対して言葉をかける余裕などまるで無く、今にも止まりそうな呼吸で<クトゥルー>の像に指を這わせた。異常なまでに現実的な感触が私を襲い、私は小さく叫んで勢い良く指を引いていた。
弟は何の事なのか分からずに居た。当然だ、弟はクトゥルー神話を知っているが、ただ名前を知っているというだけの話で、HPLの著作どころか、<クトゥルー>の姿すら知らないのである。
どちらも知っている私は熱心に弟へ説明をした。しかし、弟の反応は芳しくない物であった。それどころか呆れた顔で何処か、恐らくは脳裏の父の顔を眺めている様ですらあった。仕方無いだろう、私だってこの<クトゥルー>像が精巧という言葉を放逐する程に現実的な物でなければ、一瞥するのみで冷笑を浮かべていたのだ。
何せ父は際限無く物を集める人ではあったが、小説やコミックの世界に登場する物の像を手に入れている姿は想像の及ばぬ物であった。それに、父は確かに収集家のきらいが強い人物だったが、パルプ雑誌を集めているという話は一度も聞いた事が無かった。少なくとも、コレクションルームを見る限り<ウィアード・テイルズ>が一冊でも保管されていた事実は無い。しかし、現実として<クトゥルー>はそこに有った。
どうも私の説明が不味かったのか、弟は呆れた様子で上の階に戻ると告げて去ってしまった。考古学的な価値を持つ訳でも無い像に執着する気持ちは理解に苦しむ物だったのであろう。
私としても鼻で笑って<クトゥルー>像にシートを被せる事が出来れば、どれほど良かっただろうと思っている。しかし像は冒涜的ながら不可思議な魅力を含んでいて、吸い込まれる様な気分にさせられる事を否定は出来なかった。
それでも数十年の常識有る人類としての経験は私の心に否定を生み出した。完成度の高さ故に関心を寄せた父が像を買ったというだけの話であり、<クトゥルー>など実在する筈が無い。父が死んだのは単なる不幸な偶然なのだ。そう判断する材料は特に無かったが、<クトゥルー>の実在を証明するよりは簡単に飲み込む事が出来る考えであった。
そんな風に自己の思考を否定しながら像をぼんやりと眺めていた私であったが、唐突ながらシートの方に何かの紙が貼られている事に気づいた。紙に書かれた内容は要するに領収書であり、購入日や売り手の住所なども確かに記入された物である。無意識の内にメモ帳を取り出して、私はその相手の住所を書き取っていた。既に頭の隅では『ひょっとすると私は神話的存在と関わってしまうのだろうか』という懸念が有ったが、愚かな妄想だと言い聞かせる事で無様な姿を晒す事だけは避けていた。
購入日を見ると、それが昨日買った物である事がすぐに伝わってきた。どうやら父はつい昨日届いた<クトゥルー>像の前で原因不明の死を遂げたらしく、その事実は私の背筋に薄ら寒い物を与えてくる。精神安定の意味も籠めて、私は部屋の何処かに<旧神>の印でも落ちていないかと探ったが、中央に鎮座する像の他にはクトゥルー神話に関係の有りそうな物は何一つとして無かった。
役に立たぬコレクション達に落胆の意志を覚えながらも、私はこれから何をするべきかを考えていた。<クトゥルー>の像に関する事を調べようという気持ちが有るのは全く誤魔化す事の出来ぬ現実ではあったが、どうも恐怖から来る好奇心を私の中の神話知識が止めている様にも感じられた。<クトゥルー>を調べた者達で無事に生きていける者など、<ハスター>の配下の力を借りた者くらいなのだ。私などが<クトゥルー>の事を調べるべきなのか、そんな疑念は浮かんでは消えていた。
そんな恐怖を抱きつつも、私は鞄に仕舞っていた<アーカム計画>を手に取って、静かに読み始めた。この作品にも、<クトゥルー>は現れる。
落ち着く為の行動の筈が、余計に心を乱されてしまった。魂が掴まれるが如き闇が私の命へ這って来るのが分かる。その原因が<クトゥルー>の像に有ると理解出来て、私は冒涜的なおぞましさに指先を震わせながらシートを被せた。すると、見る見る内に私の心は落ち着きを取り戻した。
そうだ、馬鹿馬鹿しい。神話的存在の有無など論じるまでもなく『無』だ。宇宙はアザトースの夢などではなく、この世界にはミスカトニック大学もインスマスも実在しない。HPLが原型を作った世界のみに存在するのだ。ならばルルイエが実在する筈も無く、<深きもの>や<ダゴン>または<ハイドラ>が私に何かをする事はあり得ないのだ。
私の気持ちはとても楽になったが、自分がメモを取った場所への興味は微塵も薄れなかった。一体、何処の誰があの様なおぞましい造形、いや、素晴らしい完成度の<クトゥルー>を作り上げたのだろうか。
もしかすると、作者はインスマス面だったのかもしれない。私は冗談めかしてそんな事を考えていた。
心強い事に視覚的に見えなければ人類の心は大きく揺れる事は無いらしく、そんな楽な気持ちすら浮かんで来てしまった。今思うと、此処で止めておけば良かったのだ。さっさと像を売り払って、私は父の遺産を弟と半分ずつ相続するべきだったのだろう。
だが、現実の私は好奇心と、言い様の無い興奮、そして自分がまるでHPLの小説の世界に入り込んでしまったかの様な恐怖に押される形で、足を前に進めてしまったのだ。
気づいた時には自宅に戻り、片手にメモ帳を、もう片方の手に鞄を持って、私は家の玄関から車に乗って飛び出していた。鞄の中には幾らかのクトゥルー神話関連書籍が入っていて、何よりも重要な位置にHPLの<クトゥルーの呼び声><ダゴン><インスマスを覆う影>、ついでに<ナイアルラトホテップ><アーカム計画>を詰め込んでいた。何処かの店で売っていた星形の首飾りを微かにでも<旧神>の印と同じ効果が有れば良いと願って身に着け、私は気楽なのか警戒しているのかも分からぬ態度で出かけていた。
目指す先は車であればそれほど遠く無い町であり、むしろ近場と言っても差し支えは無かった。町の入り口に辿り着く途中、言い様の無い恐怖、不安を抱く事が有ったが、周囲を見ても両生類の様な動きを取る人間が居る訳ではない。気のせいだろうと考え、私は構わず目的地に進む事を決め込んだ。
自動車で暫く行くと、幾らかの小さな家が並ぶ地に辿り着いた。それは不思議なまでに妙な魚臭さの漂う場所である。そんな臭いに思わず眉を顰め、私の目は自然に地名を記す看板に向かい、此処がマサチューセッツ州のインスマスという町ではない事を確認していた。残念と言えば残念な事に、アーカムでもインスマスでも無かった。安心してしまい、私はそのまま目的地へと車を走らせていた。地図を見た限りでは海に面していない町の筈なのだ。ならば、目的地に近づく程に凶悪になる臭いは何なのか、という疑問が出る訳だが、その疑問は即座に解決する事となった。
もしも目的地に住む者が危険であったら、と私は少々の警戒を抱いていたので、車を一度停留させ、道行く人々に目的の人々に関する質問をぶつけてみた。排他的な住民ばかりであれば、諦めて帰るつもりでもあった。
だが、幸いにもこの町の住民は開放的な面の有る者ばかりだったらしく、皆が私の質問に答えてくれた。目的の家に住む者はどうも町に移り住んだばかりらしいが、当初から魚の臭いを毎日の様に散布し、周辺住民達の怒りを買っているそうだ。私がその家に尋ねるつもりだと伝えると、彼らは「危ないから止めろ」と言ってくれた。
私の興奮は些かの足止めを受けたが、それだけでは止まる筈も無い。私は彼らの善意を無視して、家の前に立ってしまったのだ。何せ、HPL達の描いた主人公達も周囲の制止を無視し、深い恐怖の底へと落ちてしまうのだから。
さて、私は町の隅に建つ家に辿り着いてしまった。そこを見た私の顔はとてもではないが、周囲に見せられた物では無かっただろう。何せ一見しただけで、その家だけが異彩を放っていたのである。
つまり、そこだけが奇妙なまでにインスマスのイメージに見合う家となっていたのだ。わざとらしいくらいに<駒形切妻屋根>の家であり、所々が崩れ欠けたデザインとなっていた。魚臭さの元らしく、異常な臭いが私の鼻を貫いていた。それでも私の目は注意深く家の周辺を観察し、家の存在感が強烈過ぎて目が離せずにいた。
よく注目して見ると、その表札には<ダゴン秘密教団>と<星の智恵派>の名前が書かれていた。言うまでも無いが、どちらもクトゥルー神話の中で登場する組織である。前者はクトゥルー、後者はナイアーラトテップが絡んでいて、別々の作品で活躍した事を私は知っている。
今までとは別の意味で、私は身体を震わせた。この先に居るのは間違いなく自分以上にクトゥルー神話を愛しているか、あるいは『実在する教団』なのか、だ。どちらにせよ、私もクトゥルー神話を愛する者の一人として会いに行かぬ訳には行かない。そんな使命感すら感じてしまったのだ。この時の私は半ば<クトゥルー>の像の事を忘れて、こんな家に住む者達への興味で一杯になっていた。やはり、私は自分の足下が崩れる事など信じてはいなかったのだろう。
身体が勝手に動いてしまう事を何とか抑えながら、私はしっかりとした足取りで玄関の戸を叩いていた。戸の形も見覚えの有る物に思えて、私の興味は更に強まった。
一分くらいは待っただろうか、扉は素早く開き、中から驚くべき姿をした人物が現れた。魚らしい顔立ちに、首周りの鰓に見える形が印象的で、つまりはどう見ても圧倒的にインスマス面だったのだ。見事な両生類の姿勢は<深きもの>ではないかとすら感じられた。
インスマス面とは、HPL達が描いた世界のマサチューセッツ州アーカムの近隣に有る町で、とある理由によって<深きもの>という<クトゥルー>の配下とのおぞましき混血が進んだ地だ。そこで生まれた者は最初は普通の人間だが、大人になると身体に<深きもの>の特徴を帯び、最終的にはイハ=ンスレイなる海底の何処かへと旅立ってしまうのだ。
勿論、それは小説の話である。実在したインスマス面を見た私は、驚愕の余りに身体を固めてしまった。そのままでは危険だと分かっていたのだが、それでも動けなかった。目の前に居るインスマス面は掠れた声で不審がって、私はまともに反応をする事も出来なかった。その姿を何と見たのか、彼は私の全身を這う様に見つめ、胸にぶら下がった<旧神>の印を模した物を見た途端に、笑みらしき物を浮かた。
彼は私に向かって友好的な声をかけ、握手を求めた。どうやら、彼は<深きもの>でもインスマス面でも無かった様だ。彼は自身を<オーベット・マーシュ>と名乗った。勿論、この名前もHPLの小説に登場している。海の底から響く掠れた声だったが、オーベットは私をまるで同胞でも扱うかの様に暖かく迎えてくれた。その足の動きは奇妙だが、やはりインスマスの住人や<深きもの>に限りなく近い物であった。
オーベットはそのまま家の中に居る人物へと声をかけて、私に中へ入る様に促してきた。中は不思議と魚臭さが和らいでいたが、代わりに怪しげな香りが漂う事は否めず、私が躊躇しているとオーベットが軽く謝罪を口にして、そこら中に芳香剤を散布し始めた。
少しは臭いがかき消されたかと思うと、オーベットは嬉しそうに私を家屋の一番奥に有る部屋へと案内した。その部屋に入ると同時に耳にしたのは、冒涜的なフルートの音色だ。音源を見つけようと周囲を観察すると、部屋の隅に隠されるかの様にレコードが置かれて、壊れかけた音を発していた。非物質的な何かが音を出していたのではなく、自分が急に<アザトース>に出会ってしまった訳では無いと知り、私は部屋の中に居たオーベットとは違う別の住人へと挨拶をした。
ソファに座って丁寧な挨拶を返してくれたのは、長身痩躯で浅黒い肌をした男だった。彼は片手で<輝くトラペゾヘドロン>らしき物体を弄ぶ姿に計り知れぬ世界の住人であるかの様な雰囲気を纏っていて、私もその姿に関心を抱いてしまった。
何をどう見ても、彼は<ナイ神父>そのものであった。
ナイ神父とは、<ナイアーラトテップ>の化身だ。幻夢郷の神神を保護する者にして<盲目にして白痴の王アザトース>の使者であり、エジプトの邪悪なファラオでもある存在で、今私の鞄に入った<アーカム計画>にも登場する神性だ。その化身は様々で、時には人間の姿になる事も有るという。そして、その姿は度々肌の黒い長身痩躯の人物として描かれるのである。
つまり、私の目の前で座っている人物は、一見して分かる程に<ナイアーラトテップ>の化身だったのである。が、先程のオーベットを見ていた私はさほど驚く事は無かった。むしろ、人らしい外見をした彼は話しやすく思えてしまった程だ。
想像通りと言うべきか、彼は自己の名を『ナイ神父』とした。私が「あのナイ神父か」と尋ねてみると、彼は喜んで頷いてくれた。そして、ナイ神父もオーベットと同じ様に私の持つ<旧神>の印らしき物を見つめ、やはり同胞を扱う様子で私に座る事を促してきた。
ソファの横には<アトラック=ナチャ>や<ツァトゥグア>と思わしき像が置かれていた。隅に有るのは、恐らく<イスの大いなる種族>の人形だろう。本棚には<アル・アジフ><ルルイエ異本>などが保管されていた。何れも現実味の有る物体で、ナイ神父の前でなければ名状し難い恐怖を抱いてしまったかもしれない。その時の私はオーベットとナイ神父が熱心なクトゥルー神話の信者、あるいはファンだと判断した為に、恐怖を抱く事を止める事が出来た。何せ、本棚にはHPLの生前に唯一出版された<インスマスを覆う影>の保存状態が非常に良い物や、<ウィアード・テイルズ>も山の様に、それもたった今刊行されたばかりの様な良質な状態で詰め込まれていたのだ。
安堵や親近感、感心と同時に私がソファに座ると、オーベットが部屋に戻ってきた。どうやら私の分の紅茶を用意してくれたらしく、客人を歓迎する気力に満ちた手つきであった。彼の手はやはりインスマスの住人と同じ様に人間らしく無かったが、茶を注いでくれる手つきは丁寧な物なのだ。
オーベットが茶を淹れる間にも、ナイ神父は自分達の事を紹介してくれた。二人は私の想像と同じくクトゥルー神話の熱心なマニアだと名乗り、私が自らの同胞である事を確認しようと尋ねてきた。勿論、私も程度は違うがマニアである事には違いない、私は鞄の中に入れたHPLの著作を黙って彼らに提示し、静かに笑いかけたのだ。
それが最終確認の様な物だったらしく、オーベットとナイ神父は大層喜んだ様子で話をしてくれた。
茶を淹れたオーベットに失礼だと思いつつも顔の事を尋ねると、彼は欠片も恥じる事無く答えを告げた。整形をして、わざわざ自分の顔をインスマス面に変えたらしいのだ。声帯まで変えたらしく、深すぎるファン根性が<深きもの>の血を迎え入れたのだ、そう彼は語っていた。
余りにも強い気持ちに私は若干の気後れを感じたが、オーベットは至極常識的な人物だった。なら何故町に魚臭い臭いを放つのかと疑問を抱いたが、どうにも彼は自分の住む町をインスマスと同じに変えたいらしく、その為なら周辺住人の迷惑など気にも留めていないそうだ。
それを聞いた私は反応に困ったが、ナイ神父の方は静かな冷笑を浮かべて見せ、インスマスよりもアーカムの町並みを先に作るべきだと口にした。ン・ガイの森や暗黒のファラオの神殿を作る事が出来れば尚良いとも言っていて、その言動は私の好奇心を強く刺激した。
好奇の行くままに少し深く聞いてみると、彼の方は熱心なラヴクラフト信者である事が分かった。試しにオーガスト・ダーレスに関してはどう思うとのか、そう尋ねてみると、<アーカム・ハウス>設立以外には特に思う所は無いとは言いつつも、「クトゥグアを描写された時だけは困り顔になった」と語ってくれた。ついでに書くなら熱心な<ナイアーラトテップ>崇拝者らしく、ロバート・ブロックも好きの様だ。深き知識は小説の中のナイ神父と同じ様に人の心を魅了し引きつけ飲み込む物が有り、彼はそんな自分の言動を作り上げるのは苦労したのだと苦笑していた。
隣で紅茶を飲んでいたオーベットの方は、予想通りに<大いなるクトゥルー>の信者であった。どうもインスマスの住人へ強い憧れているらしく、<深きもの>との混血は人類への素晴らしき祝福なのだと熱烈に語ってくれた。「魚臭さの漂う人間になるのは如何なものか、全ての人類は<ナイアーラトテップ>の手腕によって地の底へと落ちるべきなのではないだろうか」そんな風にナイ神父が呟いた為か、すぐにオーベットは口を噤んでしまったのだが。
しかし、彼らは私の首に着けられた<旧神>の印について強い興味を示し、次々に語り始めた。オーベットはインスマス面を歪めて嫌そうに印を見る素振りを見せて、ナイ神父に至ってはまるで見ていたかの様に<古のもの>や<ショゴス>の事を語ってくれた。オーベットも古代の地球に住んでいたとされる古の支配者達の事には興味が有る様で、本物はこう鳴くのだと言いながら「テケリ・リ」を声を吐き出していた。
どうも彼らは私など比べ物にならぬ熱意と知性を以て神話世界に沈み込んでいるらしく、彼らの並々ならぬ知識の数々に私はただただ圧倒されるのみであった。何せ、彼らが熱心に語るルルイエの姿は、まるで現物を見た事が有ると言わんばかりに現実的で背筋に冷たい物を与えるのだ。彼らが神話的誘惑を行えば、私の魂も肉体も簡単に捕らえられ、その全てが<クトゥルー>の生け贄として捧げられる事だろう。
ともあれ、私にも大いなるもの達を知る者の一人としての自信という物が存在している。脳裏の全てを関連付けられぬ人間である私は、その無知という島に乗るが故に彼らに対抗したいという気持ちを芽生えさせたのだ。(言うまでも無いのだが、この文は<クトゥルーの呼び声>の序文を借りた物である)
私は自分の鞄に仕舞い込んでいた本の数々を取り出して、彼らへと見せた。当たり前の事だが、彼らが本を所有していると知った上での事だ。
予想していた通りに、彼らは本を見るなり喜んで語り始めた。HPLが夢に見たままを記した<ナイアルラトホテップ>や<ランドルフ・カーターの陳述>に見られる共通点は何なのか。HPLはどうやら幼少の頃に<夜鬼>の夢をよく見たそうだが、それとの関連性は何か。何故<ナイアーラトテップ>は<未知なるカダスを夢に求めて>にて自らを「這い寄る混沌」としたのか。HPLの人種観とインスマスの住人の関係とは。そもそも<クトゥルー>とは何なのか。宇宙的存在である<ヨグ=ソトース>の落とし子や<ミ=ゴ>は何故犬に襲われるのか。非ユークリッド幾何学的な角度を持つルルイエの建造物の具体的な形状とは。何故<クトゥルー>は核兵器に焼かれ、蒸気船の体当たりで沈むのか。核兵器は<ナイアーラトテップ>が人類に与えた物だが、<クトゥルー>には通用してしまうのか。やはり<外なる神>である存在と単なる<旧支配者>では違うのだろうか。ところで地球外の神性を<旧支配者(Great Old One)>と呼称するべきなのか。<ティンダロスの猟犬>は神話的存在なのか。ランドルフ・カーターとHPLの関係性。HPLの著作<アウトサイダー>は神話大系に組み込むべきか。ならHPLの添削した作品も大系に組み込むか。ポオの白い巨鳥はもしかするとショゴスが変身した姿だったのではないだろうか。
余りにも馬鹿馬鹿しい物から、耳を疑う様な混沌とした知恵のぶつかり合いまで。彼らの会話は余りにも冒涜的である。オーベットは身体をおぞましきインスマス面に変えただけはあって<クトゥルー>を絶対的に肯定する側に立ち、ナイ神父は<ナイアーラトテップ>を含めたあらゆる神話大系に対してあらゆる解釈を持っている様だ。が、どちらにせよ私はただ話に相槌を打って顔に笑みを浮かべる以外には無かったのである。
それにしても彼らの会話は抑え切れぬ知的好奇心を呼び寄せていた。彼らの楽しげに興奮した様子と来たら、私ですら呆れざるを得なかったが、それでも心は話に引きずり込まれていたのだ。
ともあれ、それほどに濃い話をしていれば時間も簡単に過ぎ行く物で、気づいた時には四時間以上も喋り続けていた。オーベットもナイ神父も全く息を切らす様子が無いのは流石であり、今思えば当然の事でもあった。
この時は全く気づいていなかったので、彼らに対して警戒を解いてしまった私は、此処に訪れた目的を四時間を過ぎてやっと思い出した。父が死ぬ間際に購入した<クトゥルー>の像、それを売ったと思わしき人物がこの家に住んでいるのだ。ただ、目の前の二人が売った事は明らかだった。彼らは自らの姿までも暗黒の神話に合わせる程の人物である。本物の風格を漂わせる像を作る、それ程度の事は息を吸うよりも簡単に出来る筈なのだ。
間違い無いと判断した私は、二人がダンセイニとHPLの作品の近似する部分について奇怪な説を展開していた所に割り込んで、話をした。
今日死んだ父が<クトゥルー>の像を買っていた事、その像を売った者の住所が此処だった事、それに加えて父は昨日まで元気であった事や、像の側で死んでいた事、弟が居る事なども含めて、全てを話してしまった。どうにも、私は彼らの事をすっかりと信用してしまった様だった。
彼らは私の話を暫く聞いて、話し終わると同時に哀悼の意を表してくれて、彼らは像を売ったのが確かに自分達であると明言した。
余りにも精巧な、宇宙的恐怖すら再現する出来だったと賞賛すると、彼らは気を良くした様子で像を作った時の事を話してくれた。着想を得たのはオーベットが見た夢の中だったらしく、その夢の中では海底に沈んだルルイエの中で夢見るままに待つ<クトゥルー>の姿が存在したという。その造形を忘れずに覚えておき、偶然にも彫刻などの彫像技術を持っていたナイ神父と共に大いなる姿を作り上げたという話だ。
私は<深きもの>の血を得た者達が時折海中の夢を見る事を思い出した。成る程、その夢を完璧に記憶さえしていれば、あれほどの像を作り上げる事も可能であろう。一般常識という物をまだ持っていた私にとっては鼻で笑う程度の発想であったが、心に深く突き刺さる考えだった事は確かだった。
続いて父と会った時の事を聞くと、彼らはやはり哀悼の意を表してから、像を売る様に頼み込んできた父の話を口にした。それによると、父は像が<クトゥルー>を象った物だとは全く知らず、ただ圧倒される様な完成度の素晴らしい芸術品として買ってしまった様だ。弟とは違って感性のしっかりとした父だった為か、やはりあの恐ろしき存在を無意識にでも感じてしまったのだろう。
私が黙って話を聞いていると、彼らは今までよりも一層夢中になって像の事を話し続けた。今まで多数の神話関係品を作っては様々な場所で売っていたらしいが、その中でも父が像を買った値段は相当の物だったそうだ。私も領収書を見ていたので知ってはいたが、改めて彼らの口から聞くと、相当に凄まじい事として感じられる。
父の異常とも言うべき熱意を受けて、彼らは像を快く売ったそうだ。それがもしも父の死因になったんだとしたら、悲しむべき事なのだろう。二人が心から残念そうにしている素振りを見せた為に、私はそんな事すらも考えてた。
次第に彼らを疑う事が悪しき事の様に思えてきた私は、心に来る罪悪感から逃げる目的も有って、ソファから立ち上がった。二人はまだ沢山の話をしていたい様子ではあったが、私も自分の中の居心地の悪さに耐えられなかった。帰らなければならないと言うと二人は残念そうに了承してくれて、その事実が更に私の心を刺激した。
更に気を遣った様子で土産まで持たせようと考えたのか、<輝くトラペゾへドロン>を渡そうとしたナイ神父の好意も遠慮して、私は飛び出す勢いで車を出たのだった。
ひとまず彼らの家から出た私は、心の中で漆黒の憎悪を己に放ち、自分の浅慮を責めた。あの様な熱心なクトゥルー神話のマニア達が、父を殺す筈も無い、此処に来たのは全くの無駄でしかなかったのだ。家の前に停めた車に乗り込む時、私は周囲の魚臭さも忘れていた。
最初は逃げる様に車を走らせた私だったのだが、やがて頭の中で幾らかの思考が生まれた。何故、父は死んだのだろうか。<クトゥルー>の像が一切の偶然で父の元へ渡ったのだとすれば、原因は何らかの病だったに違いない。自分の勘違いの元である像を見る事に明らかな嫌悪を抱きつつも、素直に弟の元へと向かった。
弟はまだ父の家に居て、遺産の分配について熱心に調査を続けていた。芸術や文化にも一定の理解を示す弟だが、やはりその興味は金銭に有るらしく、見るからに価値の有る宝石などに関心は向けられている様だ。そんな弟でも私が訪問すると笑みを浮かべてくれたのが救いである。
その時の私は四時間にも及ぶ神話的な対話によって気疲れを覚えていたので、恐らくは相応に弱々しい姿を晒していたのだろう。弟は心配そうに声をかけながら、やはり父が所有していた土地などの台帳へ目を通していた。
弟が見るからに忙しそうに思えたので、私は余計な事は聞かずに地下室へ入れて貰えるかどうかだけを訪ねた。特に怪しくも感じなかったのだろう、弟は快諾して地下室の鍵を寄越し、私を置いて作業へと戻った。父の死の衝撃は既に脱したらしく、私などより遙かに良い背中を見せてくれた。それは若干の嫉妬の対象でもあったが、私は何も言わない事にした。
地下室に戻ってみると、やはり<クトゥルー>の像はシートを被せられた状態で鎮座していた。至極残念な事に夢では無かったらしく、シートの中を少し覗けば、そこには水棲生物に似た顔が有ったのだ。しかし、今度の私はそこで負ける事は無く、まるでこちらを覗き込むかの様な像を睨み返した。すると、最初から気のせいであった様に像の悪意に満ちた気配は消え去り、私の肩に負荷された重圧は無くなっていた。
正直な所、それは単なる像だ。恐るべき気配は私が<クトゥルー>を知っていた為に感じられた物で、父は決して神話的存在の誘いに乗ってしまった訳ではない。そんな思考が私の中で生まれては消え、あらゆる恐怖を鎮火しようと縦横無尽に駆け巡った。
そんな感情の動きを理解しながらも、私は部屋の様子を探ってみた。像の近くには父が倒れた場所がある様で、私はオーベット達と出会ってから不思議と鋭敏になった感覚で、父の居た場所を特定する事が出来た。が、そこには何もなく、やはり父は急死したのだという事実だけが私の胸に与えられたのだ。
落胆の念を隠せぬ私だったが、それもまた一時的な物だ。今一度像の前に立ち、今度は深く隅々までを見逃さずに調査を進めた。無論、芳しくない成果しか出なかったのだが。
そんな無意味な調査に若干の虚しさを覚えてつつ、私の手が像の背中に触れる。まるで本物の両生類で有るかの如き肌触りには強い拘りが感じられ、職人が作り上げた芸術の様な姿となっていたのだ。形が形だけに癒しを得る事は出来なかったが、この肌触りは私の心を少し変えた。
そういえば、私はまだ父の死に顔を一度も見ていなかったのだ。<クトゥルー>の像に魅せられてしまった為か、それとも父が死んだ事を考え無くないのか。今までの行動を鑑みる限りは間違いなく前者であろうが、個人としては後者であると断言したいのもまた事実である。
どちらにせよ私は一度も父の遺体を見ていなかった。それに気づいた瞬間、はっきり書いてしまえば、戦慄したのだ。私は自分の中の知的好奇心と神話への愚かしき没入で我を忘れ、当然として行うべき事を完全に暴虐してしまっていたのだから。
今度は、像にシーツを被せる事すらしなかった。私は再び慌てて荷物を手に取り、もう一度だけ像を見てから地下室を飛び出したのだ。弟はまだ忙しく働いていたが、私は遺産や財宝の類への関心は余り無い。それよりも父の顔を見ておくべきだと判断して、私は地下室の鍵を置いて走ったのである。
病院の場所が分からない、などという事は無く、私は難なく病院にまで辿り着く事が出来た。事前に弟から場所を聞かされていたのも有るが、近辺に存在する同じ目的の建造物の中では最も大きく、霊安室の類が存在するとすれば、そこしか無かったのだ。弟の言葉を半ば忘れて自分の直感で走り、私は結局その行動を成功させたのだ。
飛び込みで現れた私だったが、どうやら弟が事前に連絡を入れてくれたらしく、手続きは思ったよりも遙かに簡単に進んだ。葬儀会社の者らしき人物は、本人確認を済ませて素早く私を霊安室まで連れて行ってくれた。
途中までの道で、彼は時折私の首にある<旧神>の印に似た物へと何度も目を向けてきた。
霊安室に赴くには不適切な格好だったと私は反省したのだが、どうにも彼の意図は違ったらしく、彼は「エルダーサイン、じゃないな」と口を滑らせた様子で呟いていた。聞かなかった振りをすると同時に、私は確信していた。この葬儀会社の男も、まさしく私の同胞なのだ。状況が状況だけに話をする気にはなれないのだろうが、私がかの暗黒神話に並々ならぬ関心を抱いている事は間違いなく見抜いただろう。
この様な場所にも同胞が居るとは、と私は霊安室に向かいながら喜んだ。今の様な状況でそんな事を考えるのは酷いと思うかもしれないが、私にとっては同じ趣向を共有する者が居るという事実は歓喜に値する事だった。が、相手も遠慮をしているのだ。私もあえて口に出して語り合おうとはしなかった。
さあ、数分程歩いた私の前に幾らかの扉が現れた。その先が霊安室になっているらしく、男はとても無感動な態度で扉の鍵を開けてくれた。私も少しばかりの覚悟を決めねばならなかったが故に、その沈黙は良い物なのだ。
少し手間を必要としたが、男は暫くして扉を開けた。彼は私に対して中に入る様に告げて、一歩下がって見せた。扉の中には白で統一されているとすぐに分かる不快なまでの純白で、私に何かを告げるかの様に隅の角が埋められている。時間を越えて潜む猟犬への対策でもしているのかという発想が浮かんでは消えて、私は少し不安を覚えていた。
それはまさしく危険な部屋だと感じられた。ただし、この時の私は最早神話存在に対する懐疑的な思考が宿っており、オカルトに対する精神的な耐性を得たと勘違いをしてしまっていたのだ。愚かなる私の足は前へと進み、自然と扉の向こう側へと旅立っていた。
その瞬間、私は目を見開くと同時に身体を震わせて涙を流し、悲鳴と同時に腰が引けた様子と成り果てた。
父の遺体はしっかりと寝かされていて、傷の類は一切見受けられなかった。それは良い、それは良いのだ。別に父が起き上がって私に挨拶をしたのではないのだから、それは特に問題とはなりえないのである。では、何故私がこれほどまでに恐怖し怯え狂ってしまったのか。理由はこの名前を記入するだけでも理解が及ぶに違いない。
つまり、オーベットとナイ神父がそこに居たのだ。
彼らは父の遺体の前に立っていて、<輝くトラペゾへドロン>の奥から生じる闇が父の周辺を覆い喰らっている。インスマス面のオーベットは両生類の特徴が更なる醜悪さを以て神話存在としての圧倒的な力を示しているのだ。顔だけでなく、その体中に至るまでが何らかのおぞましき生物を感じさせた。蛙にも似た姿と明らかな魚の顔、両手両足には紛れもない水掻きが着いていて、それは暗黒の進化の彼方より出でし水棲生物にして<大いなるもの>への貢ぎ物を集める冒涜的な生き物だった。それこそ<深きもの>の一体そのものであった。
更なる恐怖はその先に存在した。ナイ神父だ。私は彼の背後に写る影が<闇に吠えるもの>の様に思えた。その両手に謎の黒い獣が近づき、舐めているのだ。少ない光源の中に居る彼は、暗黒のファラオが如き存在感を表していた。形こそ人の物であって化け物では無かったが、私にとっては関係の無い事だ。どちらにせよナイ神父はナイ神父だったのだから。
私は二人の存在を感じ姿を感じ、頭の中に直接刻み込まれる様な痛みと共に理解してしまった。そうだ、彼らは本当に<深きもの>と<ナイアーラトテップの化身>だったのだ。神話存在がそこに居る。這い寄る混沌がそこに在る。よりにもよって霊安室に存在したのだ。余りにも邪悪な気配が広まり過ぎて吐き気がこみ上げ、死が近づいていく恐ろしさが迫ってきた。
オーベットとナイ神父、いや<深きもの>と<ナイアーラトテップ>が、私の顔を覗き込んだ。心配する素振りを見せている事は分かったのだが、彼らの態度の奥底に有るのは悪魔の様な意志の塊にすら考えられる。
狂おしい意識の中で私が聞いたのは、彼らがこの場に来た理由だった。像を売った相手が死んだと知った彼らは慌てて父の遺体が有る病院に訪れたそうだ。
しかし、私は気づいていた。彼らは何故父の自宅ではなく、遺体を見る為に現れたのか。どうやって父の遺体の場所を探り当てたのか。そもそも鍵の閉められた霊安室に何故入る事が出来たのか。それらの疑問に対して彼らは何も言葉にする事は無く、ただ当たり前の様に笑うのみなのだ。
これらの疑問に答えない姿勢が私に対して強い確信を与えた。そうだ、彼らは凶悪な神話的存在として私の父の命を刈り取ったのだ。哀れな我が父は大いなる<クトゥルー>に魅せられ、恐らくは知るべきではない事を理解してしまったに違いない。哀れなる父よ、あなたは知らなかったのだ、その像が聞くもおぞましき神話の存在だという事を!
私は理解した。そう理解したのだ。唐突かつ猛烈な恐怖に襲われた私の行動は素早かった。とはいえ硬直はしていたのだが、それでも早かったのだろう。オーベットと名乗った<深きもの>が私を襲うよりも早く、ナイ神父と名乗った暗黒のファラオにして奇異なる喜びをもたらす者が<燃える三眼>の形を見せるよりも遙かに素早く動き出し、彼らから背を向けて霊安室を飛び出した。
葬儀社の男が戸惑った様子で表情を変えていたが、次の瞬間には悲鳴が私の背に聞こえてきた。おぞましき者を眼にしてしまったが故の恐慌であり、私はとても悲しみを覚えてしまう。
しかし、二人の足が止まったという事は何となく分かった。彼らは倒れたと思わしき男の側に近寄っているらしく、私に向かって悪夢をもたらす事は無かった。私の狂気にも似た感情の爆発はその程度では止まらず、葬儀社の男など構わずに逃げ去った。
外に出た私は自分の車の側に飛び込み、絶望した。鍵が無いのだ。慌てて逃げてしまった為に霊安室辺りで鍵を落としてしまったのだろう。何とか使える車が無いかと探した私だったが、その瞬間に足が勝手に逃げ出した。オーベットと思わしき<深きもの>が私を追いかけてきたのだ。
もの凄い早さだ。パニックを起こした私は車を諦め、走って逃げ出していた。恐らくは即座に追い付かれて殺される運命なのだと自分に対する諦観が浮かんでいたのだが、生存本能とは偉大な物で私の身体は意志に反して動いてくれた。
此処から一番近いのは父の自宅だ。今は弟も居る為に迷惑はかけたく無かったが、そうも言っていられる状況ではない。明らかに常軌を逸した化け物と遭遇して追いかけられるなど昨日までの私なら嘲笑すら浮かべただろうが、それはそれだ。
頭は迷っても身体は正直に父の自宅へ逃げていた。どれほど叱咤しても足は止まらなかったので、私は好き勝手にさせる事にした。
それでも背後の気配は消えなかった。私を追っている、何かが私を追っている事は明らかなのだ。あらゆる既存の概念をも越えた怪物が私の上から舞い降りて、私という存在を滅ぼす。魂すらも大いなるものの生け贄となり果て、私は消えるだろう。
恐怖に耐えかねた私は口から自然と謎の、私にとっては謎でも何でもない呪文を口にしていた。<ナイアーラトテップ>の化身や<クトゥルー>の配下に対抗するなら、この呪文を口にするしか無かったのだ。例え私の行為によって町が消え去っても構わなかった。
私が唱えた呪文、それを此処に記しておく。
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ くとぅぐあ!
いあ いあ はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたあ!
分かる者であれば、これを本当に唱えた私がどれほど追いつめられていたかが分かるだろう。
そして、何も起こらなかった。当然だ、私は黄金の蜂蜜酒を持っている訳ではなく、ラバン・シュリュズベリィでもければ彼に見込まれた青年達ですら無く、火も持っていないしフォーマルハウトは地平線上に降りていない。私の呪文に答える者など居ない。居ないのだ。
一抹の望みが断たれた私は絶望と悪態を口にしながらも必死に走り続けた。私は生き残り、その身に起きた地獄よりも恐るべき体験を何としてでも書に記さねばならない。世の中にHPLが真実を語っていた事を広め、身を守らねばならない。ルルイエが実在するならば、どんな手を使ってでも破壊するべきだ。大いなる<クトゥルー>を滅ぼす事は出来ずとも、足止めをして人類に猶予期間を与えねばならない。
恐らくは狂気に囚われていた私には、鞄の中に仕舞った<アーカム計画>が冷笑を浮かべている気すらした。その頃には背後に取り付く気配もすっかりと消えていたのだが、それに気づいたのは父の自宅に辿り着いてから後の事であった。
父の自宅の扉を私は蹴破る勢いで開き、必死になって周囲を見回した。弟は既に帰ってしまったらしく、人の気配は無い。好都合だ。私は素早く手元にあったペンと紙を取って、その場でこの文章を書き始めた。後はもう分かるだろう、今、私はこれを書いているのである。私は一階の玄関でこれを隅に有る台に乗せて書いている。
やっと落ち着く事が出来た。私は恐るべき物を見たショックで命を落とさなかった事を心から祝福したい。同時に呪いたい。どうしてHPLは真実を語ったのか。いや、私はどうしてクトゥルー神話に出会ってしまったのか。今思えば初めて読んだ時から運命だったのかもしれぬ。
ともかく、私はこんな風にして神話的存在との邂逅を果たしてしまったのである。この紙はあくまで私の自己満足として書いた物であって、誰が読む物でもあるまい。書き終えたら、すぐにあの像と一緒に焼いてしまおうと思っている。
さあ、もうそろそろ書き上げる頃か。この紙を持った私は恐らく今から地下室の像を取りに行き
しまった。待て、誰かが玄関をノックした、いや、何だこれは。玄関の向こうの影は明らかに人間の物ではない。間違いないオーベットだ。私を殺して像を回収するつもりなのだ。いや、分かる筈がない。窓はきっと大丈夫だ。早く地下室へ向かわなければ。
地下室には像が無かった。何だと、嘘だ。どういう事だ。弟か、我が弟は遺産として像を持っていってしまったのか。ああ、最悪だ。こんな事なら私が貰っておくべきだった。何て恐ろしい事になってしまったのだ。いや、これから私は恐ろしい目に遭うのだろうか。嫌だ。絶対に嫌だ。御免だ。死んだ方がマシだ。
そうだ、死ぬ。私は死ぬんだ。だが<深きもの>の生け贄などになってたまるか、<星の智恵派>の神父になど負けてたまるものか。世の理を知らぬ人間だからこそ出来る愚かな死を遂げてやる。お前達の所有物になどなってたまるか。
ああ、私はもう死ぬ。頼むから、像を壊してくれ。頼む。像を壊すんだ。私は今から死ぬ。
もう足音が地下室に近づいてきている。時間が無い。何で自殺するかを考えている余裕すら無い。だが、こうなれば何としてでも死んでやる。父のコレクションの中には銃もこっそり詰められていた筈だ、それで頭を吹き飛ばすのだ。
そうでなければいけない。願うべき事はただ一つ。この世界に邪神ハンターや邪神と戦う者達が存在する事だけだ。ミスカトニック大学が無い為に私のメモは誰の手にも渡らないかもしれないが、何とか名のある探求者達が気づいてくれる事を祈っている。無茶なのは百も承知だが知らん。
そうだ、そうでなければ、大いなるものは現世に於いて復活を遂げ、永遠の治世が……
そうとも、さようなら、さようならだ!
+
数日後
警察から父の家で兄が拳銃自殺をしていたと聞いた男は、愚かな者に対する嘲りの笑みを浮かべた。
「兄は馬鹿者だったか」
隠しきれない喜びを見せながら、弟だった男が像を撫でる。見事な彫刻だが、弟には余り興味が無かった。売って金銭にしようにも、コレクター達は揃って恐怖し買い取りを拒絶するのだ。
像を見ただけで怯えたコレクター達の顔を思い出し、男は更に酷い嘲笑を発した。
「神話生物なんて居る訳無いじゃないか、馬鹿な奴らが」
悪い冗談だと言わんばかりに、男は像を軽く小突いた。こんな異形の物に一体何の意味が有るのかと言わんばかりだ。
この男の兄は、勘違いをしていた。弟である男は父が死んだから遺産相続の手続きをしていた訳ではないのだ。何せ、男は父が死ぬ前から準備を進めていたのだから。
いや、もっと明確に言おう。この男こそ、自らの父を殺した犯人なのである。
遺産目当てで父を謎の手腕で殺害する事を計画し、この男はまさしく自らの手に財を持たせようとしたのである。
「上手く行き過ぎて怖いくらいだなぁ」
彼の兄は想像もしなかった。父の死は神話的存在と<クトゥルー>の像の仕業だと信じて、弟の事は疑わなかった。しかし、現実はこの通りだ。
男は父と同じ場所で死んでいた兄に対して冷笑を浮かべ、同時に喜んだ。
「まあ、兄も死んだ事だ。私に全ての遺産が入ってくるという訳だな……ふふふ」
父を殺し、兄が死んだ今、この男が遺産の全てを得る事が出来るのである。
彼らの父のコレクションは興味の無い男によって売り払われ、資金となって彼の懐を潤すだろう。そこには一切の親子の情など無く、打算だけが有った。
冷えきった男の目の奥は罪悪感ではなく、堪えきれない笑いを漏らしていた。
「……く、くくっ」
今にも高笑いの一つでも初めてしまいそうな男。実際、父を誰にも気づかれずに殺した時点で彼は目的を達したも同然なのだ。
既に男の頭には父や兄の姿は微塵にも残っておらず、ただ自分が手に入れる資産だけが存在した。
「さあ、幾らで売れるのかね、売れるのかねぇ。この像も色々と誇張して売り出せるだろ? 高く売れてくれよ、なぁ?」
像の頭を叩きながら、男は邪悪に微笑んだ。まるで神話生物であるかの様な、嫌悪感を煽る笑みだった。
しかし、そう簡単には行かないのが世の常であった。
そも、この世界は、星は<旧支配者>の所有物である。それこそ、人間の思い通りになど行く筈も無い。あるいは、これこそ兄が最後の力を振り絞って送った弟への罰だったのかもしれない。
つまりは、窓の外で名状し難きものが男を見つめていたのだ。
蛙の様な特徴を持つ、両生類的な存在<深きもの>、そんな存在が窓の前に立っていた。不快な魚の臭いを漂わせる背中は、かろうじて人型だが姿はまるで違う。
その手に何故だか車の鍵を持った<深きもの>は、何がしかのメモらしき物を読み込んでいた。その顔からは意志が感じられず、僅かに握られた紙だけが何かを表している。
そこから少し離れた場所で見ているのが、神父らしき格好をした長身痩躯の浅黒い男であった。
片手に持つのは内部に闇を包み込んだ多面的な物体であろうか。まさしく<輝くトラペゾヘドロン>そのものだ。更に、もう片方の手に有るのは奇妙な存在感を放つ薬、いや、宇宙より現れし酒だろう。それは人の感覚を呼び覚ます効果を持ち、セラエノの道を開く道具だった。
浅黒き肌の神父は、今ここで薬を飲み込んだ。素早く目を見開いた彼は、高らかに呪文を唱える。
いあ いあ はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたあ!
アルデバランへ届かんばかりの声が響き渡り、それと同時に何者かが現れた。
蟻の身体に蝙蝠の羽を生やした<バイクアヘー>と呼ばれる生物が、<星の智恵派>神父の前に現れる。
途端、<バイクアへー>は窓の方に居る<深きもの>を睨んだ。
オーガスト・ダーレスの説によれば、<ハスター>と<クトゥルー>は完全な対立状態にある。その配下である二つの神話生物が互いを嫌悪するのは当然と言えた。
今にも殺し合いを始めそうだが、その手は窓に向かっていた。
それは、どれほどの探求者であっても耐える事は叶わぬまでに邪悪な光景である。余りにも深き悪徳に対して人類は抵抗も叶わず、家から出る者も道を歩む者も居ない。誰も、彼らを認識していない。
冷笑を浮かべたナイ神父は、横で燃える火に近づいた。放っておけば<バイクアヘー>と<深きもの>が全力の死闘を始めただろうが、その前に神父は行動した。
火の前に立った神父が遙か遠くを見つめた。あらゆる建物を無視した先に見える地平線上には、フォーマルハウトが昇っている。
神父は冷笑の中に僅かな不快を宿して、おぞましき呪文を口にした。
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ くとぅぐあ!
呪文が終わると同時に、浅黒い神父の全身が燃え上がった。<クトゥグア>の配下である火の精が見え隠れし、怨敵を滅ぼさんとしているのだ。
しかし、神父は冷笑のまま<輝くトラペゾヘドロン>を掲げる。それと同時に<闇をさまようもの>が解き放たれて、闇が町の中に広がった。
<バイクアヘー>と<深きもの>が一斉に窓を割って屋内に飛び込み、燃え上がるままに神父がそれへ続く。
まるで、故人の遺言を歪んだ形で叶える様に、それらは大いなる像に向かっていったのだ。
そして、部屋の中で笑う男が振り向き、おぞましき物と出会った事で悲鳴を上げる。
そこから先がどうなったのかは、言うまでもあるまい。
Q.何でこんなラストになったの?
A.これも全て黒い人の陰謀なんだ。
本当は手記だけで終わらせるつもりだったのですが、どうも『クトゥグアを召喚するナイ神父』という光景を想像したら面白かったので採用しました。
では何故<深きもの>と同居してたかと聞かれると……立川に御住まいの神々みたいな感じなんじゃないですかね。神話存在なのは本当ですが、普通に現実社会に馴染んじゃってます。
本作を書く上で参考にさせていただいた書籍
新紀元社『クトゥルフ神話ガイドブック 20世紀の恐怖神話』
創元推理文庫『アーカム計画』(ロバート・ブロック著)
青心社『暗黒神話大系シリーズ クトゥルー』(主にハワード・フィリップス・ラヴクラフト著『インスマスを覆う影』『クトゥルーの呼び声』、ロバート・ブロック著『尖塔の影』、オーガスト・ダーレス著『永劫の探求』『闇に棲みつくもの』)