第二話 お隣大妖怪さま、ここに見参!(2)
カチャン、と古書店の扉が開けられた時、最初に思ったのは「ああ、姉さんが帰ってきたのか」だった。
勿論今は開店時間である。黎堂古書店の扉の前には、堂々と「OPEN」の札が掲げられている。
だがそれは掲げているだけで、効果を示していない。
実際これを二日間続けて掛けたが、先ほども言った通り、この古書店に訪れたのはあの奇妙な客人、承安が最初で最後なのだから。
第一この古書店は山梨の田舎の田舎にある。
窓を見渡す限り、見える風景は畑、畑、畑・・・。近所は皆農家さん。ただでさえ今年は不作の方だというのに(姉さんから聞いた)、本を買おうとする金と余裕のある人は果たしているのだろうか。
おじさんは一体どうやってこのおんぼろ古書店の経営を続けられたのだろう。
それが最近の僕が良く考える事だ。現役高校生が考えることなのだろうか、これは。
姉さんは夕食の材料を買いにスーパーへ出かけていた。最近の彼女の楽しみはスーパーへ行く事らしい。
聞くとどうやら「スーパー友達」ができたそうな。それでいつも待ち合わせをして一緒に買い物をするのだという。
それをしてなにか意味があるのかと聞くと、ないよとあっさり返された。
女の子がすることは、僕には良くわからない。
とりあえず、出迎えしよう。きっとまた、「ただいま」よりも先に僕にその「スーパー友達」となんのおしゃべりをしたかを最初に言ってくるだろう。
毎度嬉しそうに話す姉さんをみて、僕はなんだか微笑ましいなと思っていたのだ。
姉さんが嬉しそうでなによりだ、と。恥ずかしくて本人の前では言えないけれど。
「姉さん、お帰りなさい・・・・っ?」
コタツから出て急いで扉のほうへ出向くと、入ってきたのは姉さんではなかった。
・・・いや、最早女ですらない。
「邪魔するぜっ!」
そういってずかずかと古書店に入ってきたのは、僕と同い年に見える青年だった。
まさかお客さん?という考えが脳裏をよぎったが、それにしても随分と・・・アレだ。
模様入りの黒ジャケット、「夜露四苦」と大きく書かれたロゴ入りTシャツ、加えて仕上げは金髪。
(し、昭和の不良だあああああああ!)
僕は心の中で悲鳴をあげた。
不良というものはテレビなどでなにかしらそういう感じのを見たことがあるが、本物をみるのは勿論、初めて。
例えそれが時代遅れの格好をしていても、迫力はやはり存在する。怖いものは時代関係なく怖いのだ。
そんな僕の心情を知ってか知らずか、青年はその吊り上げた目で僕を見据えた。
瞬間、なんだか背筋に冷たいものが這い上がってきたのは言うまでもない。
「お前が、杵寺院杏璃か?」
「は、はいっ!?」
不意に青年に声を掛けられ、更に身が竦むのを感じた。青年はそんな僕を見下げ、「まあ、確かに似ているな」と呟きをもらしたが、誰に似てるのですかなんて問う勇気は僕には持ち合わせていなかった。
(どうしようっ・・・!もしかして僕、今生命の危機にさらわれてるっ!?)
「こ、心得、心得!!起きてお願い!!」
もうこうなったら不本意ではあるが彼に助けを求めるしかない。そう思い、急いでコタツで気持ちよく眠る青年古書を叩き起こす。古書は不服そうにゆっくり起き上がった。
「誰だ、我が眠りを妨げる輩は・・・。どうした杏璃、顔が真っ青だぞ」
「ふ、不良さんが!ここここ、この人が!」
「意味が分からん。お前は鶏か。・・・・ん、この妖気・・・」
どうやら僕の判断は正しかったようだ。古書こと心得は、不良さんからなにかを感じ取ったようで、眉を寄せて彼に近づいた。
その後ろ姿はまるで、悪をなぎ倒す正義のヒーローだ。僕は漠然とそう考えた。・・・例えが古いのは気にしないで欲しい。
(こういうときだけ格好いいんだな)
そう感心したのもつかの間、心得は不良に近づくが否や、突然彼を見て目を輝かせた。
「やはり本物か!ここに属して五十年、ずっとお前のような妖に会ってみたいと思っていたが、まさか本当に会えるとはな・・・吃驚したぞ」
・・・ん?なんか違わないか。なんで不良さんを見て目を輝かせてるんだ、心得は。
「ははっ、そうか、変だと思ったら。俺の気配に気付くなんてすごいな!一応これでも抑えてるんだけどなあ」
こちらの不良さんも、満更でもないという顔で笑った。・・・ますます状況がつかめない僕。
それに、一つの問題点がある。この二人は普通に会話をしているが、心得が見えるのは僕だけのはずだ。
それに、たとえ不良青年が彼を見れたとしても、膝から下にあるものがないのをみれば少なからず動揺するはず。なのにそんな感じが全然ない。一体何なんだろう、この人は。
「あ、あのー・・・」
恐る恐る、青年に近づく。すると彼は「どうした?」と神妙な顔を僕に向けた。
どうしたもこうしたもないですよ!と言いたい所だが、それはギリギリで我慢した。
「・・・どうして心得が見れるんですか」
「心得?」
「我の事だ。実に不本意だがそう呼ばれている」
と、古書は憎々しげに僕を見る。ふん、今更だよ、今更。僕はいつも通り無視をした。
それを見た不良さんは、仲がいいんだな、と笑う。どこをどう見れば仲がよさそうに見えるのだろう。
まあなんにせよ、と青年は言葉を続けた、が。
「俺は普通に『見える』よ、お前と同じように。なにせ俺は――・・・あいでっ!」
「!?」
突然、不良青年は頭を抑えて呻いた。どこからかハリセンが彼の頭に下されたのだ。
そこに視線を向けると、いつの間にか青年の後ろに二つの影が佇んでいた。
「もう、なんで君は変なところで行動が早いのかな。見ててあきれるよ」
「・・・全くだ」
あきれ気味に喋る二つの影。その姿がはっきりしてきた途端、僕はまた叫びたくなった。
(へ、変人が増えたああ!!)
と。
どうやらこの古書店に訪れる者にはろくな人がいないようだ。
て・・・展開が速い・・・。相変わらずのこの文章力のなさ(涙)
承安の次に古書店を訪れた奇人三人は一体何者なのか!?まあ、大体分かると思うんですけど、期待してやってください(笑)
(3)に続きます。次回でやっと全キャラが揃われます!