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一章 その7

「ふむ……。」

「まだ見ぬ天使様のご容態は芳しくないようだね。

 早くお会いしたいが、これではね。気の毒な事だ。」

「可哀そうに……。私も看てあげられればいいんだけど……。」


 ターヤは公務区の各族長、代表が集まり政務を行っている。議会室に来ていた。

 目の前にはネコ族の族長でミーシャの父、ラナンキュラス代表のロドリグ・ラヴィン

 キツネ族の族長でリンの父の、コウ・ヒザクラ

 ウサギ族の族長代理でサラの妹、シェリル・ジェイルがいた。



「こちらとしては、早急に対処したいのだがな。

 報告によればあのアンデット島の元国王だと言うではないか怪しいものだ。

 天使というのも本当かどうか。」

「彼女が嘘をついていると?」


 ミコトが嘘を付いているのではないかと思っている代表ロドリグの言葉にカチンときた。


「明らかに怪しいであろう? 他国の工作員と考える方が無難であろう。」

「4カ国との関係は現在良好だ。それに嘘ならもう少しマシな嘘を付くのではないかね?」

「お前の祖国のキュウコはどうだ?」

「あそこはな…。だが遠方だ。それに天使様はキツネ族ではないだろう?」


 キツネ族のキュウコ国は国交は結んでおらず、外交関係は険悪の状態になっている。

 しかし、ミコトはキツネ族では無いため、コウは工作員の指摘は否定した。


「他の種族の子供を攫って工作員に仕立て上げる事もできよう。」

「そんな真似許されるわけないでしょう!?」

「わざわざ、この遠方の大陸まで来て子供を攫って工作員の教育を?

 そんな手間を掛けるとは思えないな。 奴らならキツネ族の暗殺者を送ってくるよ。

 今までもそうだったろう?  」


 時折、ラナンキュラスでキュウコ国の刺客が送られてきては、ヒザクラ家の人間を始末しようとしていた。

 

「亜人はどうだ? ここ数年、亜人共の動きも怪しい。街や集落で子供を攫い仕立て上げる可能性もある。」


「あの、彼女は」

「そんな報告、どこの国からも今までありませんわ!」

「ふむ……。 確かにリャーノ平原の街や集落は確かに何度か襲われている。

 可能性は捨てきれないが……。シェリル代理、ちょっと落ち着こう。ね? 」

「ええ、すいません……。」


 ダン!とウサギ族代表代理のシェリルが机を叩き否定するが、熱くなりはじめたシェイルをコウが抑える。


「お待ちください!! 彼女が亜人のスパイだと言うんですか!? 

 彼女は大怪我を負ってここまで来たんですよ!? 」


 ターヤは思いもよらない彼女へのスパイ疑惑に怒りを覚えた。

 

「報告によると出血の跡はあるが、実際に怪我は負ってなかったのだろう? 」

「確かに仰る通りです。しかし、彼女は怪我による衰弱をして、満足に動くことすらできないのです! 

 生まれつきまともに歩くことすらできないのですよ!? 

 そんな彼女が工作員なんでやれるはずがないでしょう!  」

「姉上の診断によれば、彼女の着ていた服は貫通により損傷しており、刃物による刺傷ではないかと診断されております! 

 衣服に付いた血液は、死亡になりかねない出血量で現在、衰弱であることも間違いないありません!」


 ロドリグ代表の指摘に、ターヤとシェリルは彼女に向けられる疑惑に怒り心頭だった。

 まともに動くことすらできない人間相手にどうしてそこまで疑惑の目を向けられるのか信じられなく、ボルテージはどんどんと上がっていく。

 

「演技ではないのか?」

「そんなはずがありません! 

 彼女は先日の族長が報告した内容の証言をして恐怖に怯え、今日も本当に錯乱しているのですよ! 演技のはずがありません! 」

「暗示による洗脳の線も考えられるがな。」

「なっ!? 代表あなたは!」

「姉の診断が間違っていると仰るのですか!!」


 ターヤとシェリルは非情な指摘に、ロドリグに掴みかかる勢いになり、コウが止める。


「まてまて、代理もターヤ君も落ち着きたまえ。

 はぁ~……。親友よ、疑ってもキリがない。実際に会ってみなくては解らぬだろう? 

 それにその考えはスマートじゃないな。リンもそばに居て、あのサラが看ているんだよ? とっくにその線は洗っているだろう。」

「コウ族長。それはどういう?」

「キツネ族の技術は忘れたかい? 

 我らは心の動きを見通せる。嘘も見通せるというわけさ。 

 彼女、リンの尻尾を触りながら話していたのだろう?

 工作員ならすぐに解るさ警戒するだろうしな。

 暗示や洗脳に関しては、サラが確認しているだろう。」


 ターヤは思い出す。確かにリンは自分の尻尾をミコトに触らせていた。

 しかし、あの時リンがその可能性を調べるために触らせ、そして母が診断の合間に確認を取っていたのか解らなかった。

 

「ならば、なおの事。刺客などの線はありえませんね。

 現状は彼女の治療を優先すべきでしょう。面談はそれからです。」

「彼女はあのアンデット島の元国王と言ったんだな?

 そしてそこから逃げてきたと。 

 仮に本当だとしたら、あそこのアンデット共がこの国へ押し寄せて取り戻しにくるかもしれんぞ?」

「あそこは浮島で海の真ん中なのですよ!

 どうやってアンデットが遠いこの国まで押し寄せてくると言うのですか!

 それに彼女はそのアンデットに襲われて怪我をしているのですよ!」

「アンデットは死亡後、その地、その執念に囚われます!

 報告の内容では襲ってくるなど考えられません!」

「浮島なら移動するかもしれんだろう? 

 今までは聞いたことは無いが、島ごとこちらに襲ってくるかもしれんぞ? 」


 ターヤはもう我慢がならなかった。

 ロドリグは何を考えて、ミコトをどうしたいのかはっきりさせたかった。


「代表! あなたは何が仰りたいのです? ハッキリと申してください!

 彼女を早急に追い出したいのですか!?」

「それを決めるために早く尋問を行いたいのだ。

 ターヤ、サラに早急に整えるよう伝えよ。」

「尋問!? 代表! 今までサラ族長へは面談の予定はいつになるかと仰っておりましたね!

 彼女に本当は尋問をなさるつもりだったのですか!?

 ならばなおの事、彼女に尋問など無期延期です! 

 彼女を壊すおつもりですかっ! 」

「代理としても、ヒーラーとしても報告の内容では尋問の実施など許しません!

 工作員でもスパイでもない子供相手に何をするおつもりですか! 」


 ターヤは尋問を行うなどとは思いもしていなかった。

 面談を行ったとしても、ロドリグを相手だ。ミーシャやリンに初めて会った時に自分の後ろに隠れたほどだ。

 そんな彼女にとっては尋問と大差ないだろう。

 だが、ロドリグは早く尋問を行いたいと言った。

 

「私は伝えろと言っている。」

「「~~っ!!」」


 二の句も踏ませないロドリグの言に、ターヤとシェリルは怒りで顔が真っ赤になる。

 そのまま掴みかかり殴りかからんと言うばかりの二人に、ため息を付きコウは彼らの肩を持ち止める。


「まてまて、シェリル代理、ターヤ君。落ち着いて、落ち着こう。ね? 

 あ~……。はい、深呼吸。落ち着こう、落ち着こう。よしっ。

 何も強制的に連れてこいって言ってるわけじゃないんだ。

 尋問は……まぁ、言葉の綾だと思うよ。

 代表の気持ちを伝えてって言ってるだけなんだ。」

「……。代表のお考えは確かにサラ族長にお伝えします。

 ですが、ウサギ族サラ族長の判断は変わりません!

 報告は以上になります。失礼します!」

「私も失礼しますわ!!」


 ターヤとシェリルは憤るまま、会議室を退出していく。

シェリルはまだロドリグ達と打ち合わせがあるのにも関わらず出て行ってしまった。


「おつかれさま。ターヤ君。あ、代理! まだ他の案件が、ちょっと!?

 ……はぁ~。親友、二人をいじめすぎだよ。

 私の身にもなってくれ。ウサギ族を抑えるのは疲れるんだよ?

 何度私に能力使わせれば気が済むんだい? 倒れちゃうよ。」

「……すまぬな。」


 ウサギ族はいつもは温厚な性格でとても情に厚く、一度怒りだすとなかなか止まらない。

 今の案件は彼らの琴線を触れに触れ、切らんばかりの内容だった。

 コウは自身の能力を使い、彼らに触れその怒りを抑え会議を継続させていた。

 ぐったりと疲れたようにコウは椅子に座る。


 だが、ロドリグの言うことも解る。身分を示すものは無く、意識のないまま血だらけでこの国へ訪れ、意識が戻ったら自身は天界の種族だと言う。

 そしてあの浮遊島の主であり、元国王だと。

 この国に害をもたらすのではないか、と不安になる要素は多いに持っている。

 ロドリグの言っている事も尤もなのだ。


 コウは自身の先祖がこの国に助けられた事は昔から耳にタコができるほど家族から聞かされてきた。

 本当であれば同じ境遇、いやそれ以上の境遇のまだ見ぬ彼女を助けられるならば助けたいと思っている。

 しかし、今はこの国に忠を尽くす身。この国に生きるキツネ族は大恩がある。

 どうすればいいのか、コウは悩み悩んでいた。

 

 ネコ族は自分達の国の身内には優しく、それ以外の者には排他的な傾向がある。

 大して、ウサギ族は他国の者にも情に厚く、温厚に接する種族だ。

 

 過去のキツネ族がこの国に亡命した時はウサギ族が代表で、ネコ族には有無を言わさず国の一員にしたと言う。

 本当に極端な種族だ。とコウは苦笑いする。

 

 何時も通り、キツネ族はこの2つの種族の緩衝材に、中間であらねばならないだろうと考えた。



「ターヤ君も、どんどんサラ君に似てくるねぇ。まだ可愛げがあるからいいけど。

 ……きっとサラ君がここに居たら、ああだよ? 

 私は死にたくないからね? 簡便してよ? 

 きっと、ターヤ君が帰って今の一部始終伝えちゃうよ?

 サラ君が乗りこんで来ないといいけど。

 はっ!? リン……。愛しの娘よ、がんばれ! 父を助けておくれっ」


 ウサギ族の女性はかなり温和だが怒るとかなり怖いと知られている。特にサラはコウの能力を持ってしても、すぐに再熱して激情するため抑えにくいのだ。

 

「だな……、あいつにも似てきた。」

「ああ……、本当にね……。 疲れたな~。私も帰っていい?」

「ダメだ。」



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 ターヤとシェリルは議会所を出てからも憤っていた。

 2人はサラの居る自宅へと帰路についている。


 「まったく! 代表は何を考えているのかっ。彼の非情さには呆れ返ります!」

 「その通りです! 母さんにも抗議してもらわないとっ」


 代表の本音は解った。早急に尋問にかけたい、と。最後に漏らしたのだ。

 断固としてそのような真似はさせてはならない。

 

 「ミコトを尋問にかけるなど、本当に小さくてちょっと臆病な子なんですよ?

  そんな真似許されるものですか! 」

 「17、なんですよね。 まだ子供じゃないですかっ! 

  あまりに非情です! 断固として許しません! 」


 憤りながら、帰路についていく。

 内容が内容だけに緘口令がしかれているにも関わらず文句を垂れていた。

 だが、シェリル、ターヤは普段は温和な彼らが珍しく憤っている所を見て、近寄ろうとはしない。逆に離れている。

 怒りの形相に体からあふれ出す禍々しいものが見えそうな彼らに触れたら、とばっちりが来てしまうのではないかと逃げていた。

 だが、彼らに無謀にも話しかけるものが近くにやってきた。


 「おろ? どうしたにゃ? シェリルさんにターヤ。珍しく怒って。」


 ミーシャとリンの二人である。


 「ミーシャちゃん。 母さんの書面を届けに議会所にいってきたんだよ!」

 「ちょちょ、当たらないでにゃ。 パパにゃがとうかしたのかにゃ? 」

 「ちょっと落ち着きなさいよ。ちょっとミーシャこれ持ってなさい。

  珍しいわねターヤが怒るなんて。」

 「怒ってあたりまえです。あのような事、許されるはずがありません!」


 リンが2人の手を握り、じっくり時間を掛け怒りを納める。

 この二人が憤ってては話も聞けない。

 何より、ミコトの事だろうと予測し、緘口令が布かれているにも関わらず道端でこれ以上愚痴られてもまずい。

 ……誰も近づかないと思うが。


「どうどうにゃ。ターヤ、シェリルさん。どうどう。」

「茶化さないのミーシャ。落ち着いた?」


 不機嫌な顔をした二人は普段の様子に戻り、すこし顔を赤らめている。。

 どうやら、二人は落ち着き自分が憤ってた事に恥ずかしがっているようだった。


「あ、ありがとうリンちゃん。もう大丈夫だと思う。」

「リンちゃん手間をかけさせたわね……。情けない所を見せてごめんなさい」

「いえいえ、気になさらないでください。これが私達の御役目ですから。」


 キツネ族の役目は、キツネ族はウサギ族、ネコ族の間を取り、この国と他国の緩衝材となることが重要な役目と言いきかされている。

 怒りの制御は尤も重要な1つでリンは厳しく教えられており、リンにとっては慣れたものであった。

 

 この二人があそこまで怒っていたということは、やはりミコト絡みかと予測する。

 かなりまずい事態になっているのか、とリンは思った。


「だいたいの事は予測できますが……、私とミーシャもターヤの家に向かう途中だったのですが。

シェリルさん、私やミーシャが聞いたらまずい内容であれば改めた方がよろしいですか? 」

「いえ、大丈夫よ。 一緒に向かいましょうか。 ところでミーシャちゃん、ものすごい量の食材ね? それどうしたの? 」

「にゃ~。痩せ細った子の滋養のためにゃ。じーちゃん家で釣った魚を捌いて貰って、お土産も沢山もらったにゃ。」

「そうなの……。じゃあ、私も料理は手伝わせて貰うわ。勢いで議会所から出てきちゃったけど、戻りにくいし。」

「えっ? だ、大丈夫なのかにゃ? 」


 4人はサラとミコトが居る家へ一緒に向かった。


 

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「んう……?」


 あれ、僕いつのまに寝ちゃってたんだろう?

 ベットから起きると、僕の宛がわれた部屋に居た。

 窓を見ると薄暗くなっており、既に薄暗く夕方になっているようだ。

 

 確かサラさんが作ってくれたお粥を食べた後、サラさん達とお話して……


「あっ……。」


 そうだ、サラさん達とお話してルビーを呼び出そうとしたけど、出て来なくて……

 寂しさにいっぱいになっちゃって訳が解らなくなっちゃって……

 サラさん達に酷い事を言っちゃったような気がする。

 このお部屋には誰もいない、嫌われちゃったかな……。


「ぐすっ……。」


 謝らなきゃ、サラさん達に嫌われたくない。

 1階のリビングにサラさん達いるかな?

 ベットの脇には僕の靴、そしてチェストの上には身に着けていた指輪とネックレスがあった。

 今は必要ないだろうけど、指輪とかは僕がいつも身につけていたものだ。

 指輪とネックレスを身に付け、靴を履く。

 身だしなみとかちゃんとしたいけど鏡は無いし、髪の毛がちょっとぼさぼさになっているのを手で撫で梳く。

 うー、よくわからない。跳ねてるところはないと思うけど……たぶん大丈夫かな?

 急がなきゃ。急いで謝らないと。


 部屋を出て階段を下りる。宙に浮きながら階段を降りるのって怖い。

 階段に当たり降りてしまうとバランスを取るのが難しいんだよね。

 そのまま落ちちゃったら絶対怪我をしそう。

 ご飯を食べに降りた時はサラさんと手を繋いでたから怖くなかったけど。

 最後の一段の所で気をぬいて、階段に触れてしまいバランスを崩してしまった。


 「あっ」


 ビタン!! と音を立て、床に僕は倒れてしまう。

 手を膝がじくじくと痛む、擦りむいちゃったかもしれない。

 自分が情けなくて情けなくて泣けてくる。

 

「ぐすっ、ぐすん……。」

 

 早く、ミーシャちゃん達に謝らないといけないのに力が入らなくて立ち上がれない。


 「ミコト!? 大丈夫にゃ!?」


 あ、ミーシャちゃんだ。僕が階段から落ちちゃったのが聞こえたのかな?


 「ぐすっ、ミーシャちゃん……」


 ミーシャちゃんが倒れた僕を抱え起こしてくれた。

 うぅ……、僕って本当に迷惑を掛けてばっかりで嫌になってくる。


 「まさか、階段から落ちたの? 怪我は!?」

 「ミコトちゃん!? 階段から落ちたの!? 大丈夫!?」

 「ぐすっ、ミーシャちゃん、リンちゃん、ターヤ君……ごめんね? ごめんなさい……」

 

 迷惑をかけた皆に謝る。謝らないと嫌われちゃう。


 「何を謝ってるにゃ? 怪我は……あ~、手を擦りむいちゃってるにゃ。」

 「ぐすっ、酷いこと……ミーシャちゃんとリンちゃんに酷い事言っちゃったから……ぐすっ、怒って……ない? ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 あの時の僕はどうかしてた、酷い事いったような覚えはあるけど何をいったのかは覚えてない。

 本当に酷い事いってたらどうしようと思って、謝るしかなかった。


 「そんな怒ってないにゃ。気にしてないにゃ。ほら、リビングに連れてって上げるにゃ。」

 「ええ、私も気にしてないわ。」

 「ミコトちゃん、手を出して? 治してあげるからね?」

 

 サラさんがヒーリングを掛けてくれた。

 なんだか、とても温かい。ヒーリングってこんなに温かいんだ。

 サラさんだからなのかな? 優しくて温かいヒーリングだった。


 「サラさん……ごめんなさい、ぐすっ。迷惑ばっかりかけて、ごめんなさい……。」

 「迷惑だなんて、思ってないわ。」

 「ごめんなさい……ぐすっ、酷い事言って、迷惑ばっかり掛けて、ぐすっ、嫌われちゃったかと思って……ごめんなさい……うぇーん」


 みんなが優しくて、怒ってないって言ってくれて、それが嬉しくて涙が止まらない。


 「あ~、泣かないでにゃ。嫌いになんてならないにゃ。よしよし」

 「ごめ……なさいっ、うぅ……、ごめん……ひぐっ、なさい。うぅー」


 ミーシャちゃんが僕を抱きしめてくれて背中をトントンと落ち着かせてくれる。

 それが安心できて、嬉しくてしばらくミーシャちゃんの中で泣いていた。




 しばらくして、僕が落ち着いてからリビングへ、ミーシャちゃんに下して貰って自分で向かうことにした。

 すると、見たことのないサラさんとターヤ君と同じ青い色をした髪で、ロングストレートの髪型をしたメガネを掛けた知らない女の人が居た。


 なんだか、知らない人を見ると怖い。

 ちょっと僕を見てすごい驚いてるし。

 なんだか、驚いてるのが怖くて、ミーシャちゃんの後ろに僕は隠れた。


 「その子が……」

 「怖がらなくていいにゃ、この人は怖くないにゃ。」

 「シェリル・ジェイルよ。初めまして、姉上から伺ってるわ。ミコトちゃん」

 「私の妹のシェリルよ。大丈夫、安心して?

 ミコトちゃん、ちょっとここで待っててね? じゃあ、私はお夕飯作ってくるわ。」

 「僕も手伝ってくるよ。

あ、ミルクか何か作って持ってきて上げるからね。」


 あ、ターヤ君とサラさんがダイニングへ行っていなくなっちゃった。

 ちょっと寂しい……。改めてミーシャちゃんの体から顔を覗かせて、シェリルさんを見た。

 微笑んでいる。怖い人じゃないみたいだ。少しほっとする。

 自己紹介されて、ずっと隠れているのも失礼だと思うので、ミーシャちゃんから出る。


 「ぐすっ……、ミ、ミコト・ニューフィールドです。」

 「怖がらないで大丈夫よ。」


 シェリルさんと握手をする。サラさんに似てる。

 僕を見るミーシャさんはやっぱりサラさんに似ていて、優しく微笑んでいた。

 悪い人じゃないみたい。


 広いリビングのソファーに僕とリンちゃん、ミーシャちゃんとシェリルさんで座る。

 横に座っているリンちゃんが尻尾を僕の前に出してくれた。

 触って良いみたい。リンちゃんの尻尾を抱きしめる。

 ふかふかの尻尾を抱いてると、本当に心が落ち着く。

 いいなぁ、僕も尻尾欲しいなぁ。


 「ありがと、リンちゃん」

 「ミコトちゃん、体の方は大丈夫なの? 」

 「えと……、まだ本調子じゃないけど、大丈夫です」

 「そう、早く良くなるといいわね。それにしても本当に綺麗な翼ね。 それに頭の輪っかも。本当に天使様みたいね。」


 なんだか、そう言われると照れてしまう。

 そんなに綺麗かな? 僕の翼って、鳥翼族の人とそんなに変わらないと思うけど。


 「えと、ありがとうございます。」

 「そうだにゃ、ミコト。今日の夕飯は期待するにゃ。今日は私が釣ったサーモンと、私のじーちゃんからのおすそ分けで、ケージが食べれるにゃ。ケージは生で食べると、すごい美味しんだにゃ」


 サーモン? 幻のお魚? 魚料理なのかな?


 「サーモンって、鮭の事? 生ってお刺身?」

 「ミコト、良く和名知ってるわね? お刺身まで……、キュウコ国行った事はないのよね?」


 キュウコ国? あぁ、和食がキュウコ国から来たんだっけ?


 「ううん、行った事ないよ? けど和食は好きだよ。」


 僕、日本人だしね。和食が嫌いな人はいないでしょ?


 「ミ、ミコトは箸とかも使えるのかにゃ?」

 「うん? 使えるよ?」

 「す、すげーにゃ。さすがだにゃ。」

 「2千年前に伝わってたのかしら……。」


 あー、そう思われちゃうかぁ。そういえば、御米とかって遠い島国の穀物って紹介されてたような。


 「うん。食材とか料理は伝わってたよ~。

  そういえば、御米ってキュウコ国から来てたんだね? 

  そんなに多くは伝わってなくて貴重で高かったよ~。

  お味噌とかもある程度は伝わってたかも。お味噌も高かったなぁ~」

 「ミ、ミコトちゃんって博識なのね。すごいわね。」


 ゲーム内でも食事は作れたけど、あくまで戦闘前の一時的な能力値アップの為のアイテムで和食も作れた。

 その和食を作るために御米やお味噌とかやっぱり外せなくて必要なんだけど、和食で必要な素材とかは本当に高いんだよね。

 梅は元々あったから梅干しとかは作れたけど、梅干し御握りとか作るのにはやっぱりお米は必要だし。あ、海苔はあるのかな?

 あ、鮭御握りとか食べれるのかな~?たのしみっ


 ゲーム内での性能アップとかは置いておいて、そんな事情を僕は説明した。

 

 シェリルさんが、すごい驚いた顔をして僕を見てる。

 うーん、ゲームの情報だからすごくもなんとも……。あっ!


 「リンちゃん!!」

 「なっ!? ど、どうしたのよ急に大きな声だして? 」


 キュウコ国から、リンちゃん達が来たってことなら、あれもあるかも!!

 是非みたい、見なくては!


 「リンちゃん! ミーシャちゃん! 着物とか振袖とかある!? 持ってる!? 」

 「えっ!? 民族衣装まで……。ほんとに詳しいわねミコトは……家にあるわよ? 」

 「私が持ってるわけないにゃ。あんなめんどそうなのはキツネ族だけにゃ」


 わぁ!! あるんだ!? ぜひ見せてもらわないとね!

 リンちゃんが着たら可愛いんだろうなぁ。綺麗なんだろうなぁ

 けど、なんでキツネ族だけ?


 「なんでキツネ族だけなの?」

 「百年ぐらい前にキュウコ国から初めてキツネ族がこの国に来たのよ。

  着物とか振袖は、そのキツネ族の民族衣装よ?

  そういえばキツネ族はこの間初めて見たのよね?

  民族衣装だけは知ってるのね……」


 あ、そういうことなんだ!キュウコ国って昔の日本風の国なんだね!

 なんだか、お米とかお味噌で疑問に思ってた事がすっきりしたよ。


 「そうなんだ!? あ、それより、リンちゃん持ってるんだね!?

  あるんだっ!! わぁ~! 今度見せてくれる?」

 「い、いいわよ。ちょっと着るのが少し手間よ? ミコト着てみる?」


 えっ? 僕が着るの? どうして? 

 

 「あ、えと……。リンちゃんが着てるとこを見せてくれるだけで良いよ。

  僕が着ても似あわないよ。」

 「そんなことないわよ。 じゃあ、体が治ったら暇な時に持ってきてあげるわ。

  ミコトに似会うの持ってきて上げるから。一緒に着てみましょ? 」

 「え、けど……。着物とか振袖って高いでしょ? 汚しちゃったら大変だし……。」


 そうだよ。僕が着て駄目にしちゃったら大変だよ。


 「よ、余計な所まで……。ああもう! 見たいならミコト! あなたも着る事!」


 ええ~? そんなぁ~……。見たいだけなのに……。


 「う~。そんな~。 う~ん……。わかったよ、着るから絶対に見せてね? 」

 「よしっ。じゃあ約束ね?」


 リンちゃんは小指を僕の前に出してくる。指切りだね?


 「うんっ、指切りげんまんねっ」

 「風習まで知ってるのね……。」

 「すげーにゃ……。ほんとに元鳥翼人にゃ? キュウコ国ってキツネ族だけじゃないの?」         

 「……ほぅ。天使殿は本当にキュウコ国についてお詳しいのですな?」


 ここに来てから初めて男の人の低い声にビクっとする。

 声のする方を見ると、キツネ族のリンちゃんと同じような色で髪の長い、とっても綺麗な男の人がいた。


 「なぜこちらに!? 」

 「やぁ。リン、ちゃんと天使様の御世話はしているようだね。安心したよ。」


 その男の人は、僕を見る目が本当に怖い。僕をなぜだか睨んでるように見える。

 立ち上がるリンちゃんの後ろに僕は避けるように隠れた。


 「父上、こちらにはまだ来られない方が宜しいと申し上げたはず!

  どうしてこられたのですか!」

 「事情が事情でね……。悪いと思ってるよ。お初にお目にかかります。

  私はラナンキュラス国キツネ族族長 コウ・ヒザクラと申します。お見知りおきを。」

 「え? ヒザクラ?」


 え、族長? ヒザクラ、父上……。ということはリンちゃんって。

 僕は今まで抱きかかえていたリンちゃんの尻尾から離れた。


 「左様にございます。リンは私の娘にございます。娘共々、今後とも改めて宜しくお願い申し上げます。」


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