一章 その6
大鎌を握りしめ、祈っても大鎌から何も反応がない。
実体化する時は大鎌から赤く発光し、実体化するはずなのに。
「なんで、なんで!! ルビーなんで出てきてくれないの!?」
出てきてよ。ルビーがいないと寂しいよ。僕を助けてよ。
「お願いだよルビー! 助けて! 僕一人じゃ寂しいよ……。ぐすっ……一人にしないで……。」
僕は大鎌を握りしめながら床に崩れ落ちてしまった。
これから、どうしたら良いのか解らない。僕の島はアンデットに支配され、街は瓦礫になり、お城は……。お城?
「そうだ……。お城に行けば……。」
「ミコト?」
そうだお城に、何で忘れてたんだろう? まだお城は遠目だけど瓦礫にはされてなかった!
まだ、お城に剣のヒルドと魔導書のベネットがいるはずだ。なんですぐに思い出さなかったんだろう。
この世界で、あんな所に僕は置き去りにしてしまうとは、僕はバカだ。行かなくては。
僕は立ち上がり、ルビーの大鎌を一旦アイテムボックスに戻す。
ルビーも必ず後で実体化させてあげるからね。
「行かないと、お城に行かないと……。」
「何バカなことをいってるの! サラさんに島がどういう状況か、ミコトあなたもどんな目にあったか忘れたの?」
僕が玄関の方に向かおうとすると、リンちゃんが前に塞がり止めようとする。
「お願いリンちゃん……、僕を行かせて、まだあそこに他の守護武器達が、お城を守っているはずなの……、置いてきちゃったの。助けないと……。」
「ミ、ミコト?」
リンちゃんが何故か驚いたような顔をする。なぜだろう? リンちゃんを逸れて玄関へ向かおうとすると、今度はミーシャちゃんが後ろから肩を掴んで止めてきた。
「だめだにゃミコト。まだ体調も回復してないのに無理だにゃ。」
体調の事なんて、気にしてられないよ。肩を振り切ろうとしてもミーシャちゃんの手が離れない。
「お願いミーシャちゃん、手を離して。お城に行きたいの。」
「ダメだにゃ。落ち着くにゃ。」
なんで? なんで行かせてくれないの? なんで邪魔をするの!
「ミーシャちゃん離して! 離してよ! お城に行くの!」
「ミコト!落ち着いて。落ち着くんだ。」
力を込めて振り切ろうとしても力が入らないせいか、ミーシャちゃんが力強いのか手は離れず、暴れようとするも今度はミーシャちゃんに僕よりも大きい体と腕で羽交い締めにして、動けなくなってしまった。
「離して!! ミーシャちゃん離してよ!! 何するの!! いやあああああああ!!!」
「サラさん!」
「ええ、そのまま抑えてて!」
暴れてもビクともしない、なぜ邪魔をするの? 放っておいてよ!
「いやあああああああ!!!! むぐっ!? 」
何か甘い匂いのする布を僕の鼻と口に当てられ、吸いこんでしまう。
「んぅーーーー!!!」
頭を振っても強く当てられ、余計にその匂いを吸いこみ、なけなしの体の力も抜けてきてしまう。
「んん……。」
急に眠気が襲ってくる、行かないと行かないとなのに。
島に戻らないと……、お城に行かないとなの……に。
「……。」
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錯乱してしまったミコトを睡眠薬で眠らせたサラ達は、ほっと一息付いた。
サラはミコトが同業であり、魔法抵抗が高いであろうことを予測し、確実に落ち着かせる為に睡眠薬を使用した。
「まったく、こんな全然力も入らない状態でケガした所に舞い戻ろうとするとはにゃ……。よいしょっと。サラさん、ミコトはどのくらいで起きるにゃ?」
ミーシャは、サラとターヤの家に連れてきたときと同じように軽々と抱え上げた。
「……。ミコトちゃんの体格から考えると、嗅がせたのは強い薬だから、そうね5,6時間は起きないんじゃないかしら。」
「了解だにゃ、ほんとちっちゃくて軽い天使様だにゃ。 ……痩せ細ってるし王様なら良いもの食べてたんじゃないのかにゃ? 抑えるときにポキっといいそうで怖かったにゃ。」
抑えつける際に両腕をミコトの体に巻き付けたミーシャは、ミコトの線の細さに驚いていた。
ミコトぐらいの背で、この国の人達に比べると明らかに痩せ細っているように思えた。
「そういえば、病気で一度死んだ……とか言ってたわね。サラさん、どうなのですか?」
「衰弱以外はどこも体には異常は見当たらなかったわ……。体にはね。」
「そうですか……。」
衰弱以外には異常は見当たらないという、サラの答えに一先ずは安心するリン達であった。精神状態は今までのミコトの状態、先ほどのミコトを見ていたので、一目瞭然であった。
「ミコトをベットに寝かせに行くにゃ、起きたらミコトに良いもの食べさせるにゃ、栄養付けさせるにゃ。リン釣りについてくるにゃ。」
「え、けど……」
「ミコトちゃんは私が看ておくわ。ちゃんと釣ってくるのよ? ターヤ、あなたは残ってくれる? 他の族長と長老達に手紙を書くわ、届けてほしいの。ミコトちゃんの体調が戻っても他の族長達との会談予定は当面、私が許すまで延期よ。」
「うん、わかったよ。じゃあ、それまでは僕がミコトちゃん看てるから。」
「サラさん、……いえ、サラ族長。それなら私達が届けた方が良いのでは?」
リン、ミーシャも族長の娘である。直接、自分達の父に渡しに行った方が早いのではないかと思いリンは疑問を口にした。
「いいえ、ターヤは次期族長、そしてこの国の次期代表よ。だからターヤが私の書面を届けさせた方がいいの。」
「わかりました。失礼をしました。」
「ううん、いいのよ。 リンちゃんの気持ちは嬉しいわ。」
ラナンキュラスは連邦国であり、3種族が輪番制で代表を変える。現代表はネコ族の族長が代表を行っているが、次はウサギ族の次期族長が代表を兼ねる。
サラはウサギ族の元々族長では無かったが、無くなった夫が族長をしていて、ビショップとしての功績により、族長を引き継いでいた。
しかし、厚生と医療に関しては口を出すが他の国政に関しては代行を立て、あまり参加はしていなかった。
サラ達がミコトに自分達の立場を未だに明かさなかったのは、ミコトの状態を鑑みて精神的負担を減らすためでもあり、お互いが社会的立場のある状態と知った時に負担になるのではないかと考えた為だ。
ミーシャはミコトを寝ていたベットに下し、リンはミコトの様子を窺う。
ミコトの目蓋に涙の跡が見えた、ハンカチを取り出し跡を拭う。先ほどのミコトの悲痛な叫び、そしてその前の精の抜けた表情を思い出し、胸が酷く痛む。
ミコトの乱れた前髪を整え、頭を撫でた。
「ミコト……」
ターヤを残しミコトの部屋を出て、ミーシャとリン達は釣りに出かけるため玄関に向かう。釣り道具は前回のドタバタでミーシャとターヤの分があるので、準備には問題はない。
「それでは、ミコトの状況ですが父上や、お爺様にお会いしたら伝えても?」
「そうね……。ミコトちゃんの知識、技術、さっきの守護武器に関しては、現状は私達の秘密にしておきましょう。他国に漏れた時が怖いわ。後でミコトちゃんにもしっかり言い聞かせておかないと危ないわね。解っていると思うけれど、他の人には一切ダメよ。」
「解りました、それでは行ってまいります。」
「いってきますにゃ~。お魚には期待しておいてほしーにゃ」
「ええ、いってらっしゃい」
サラとターヤの家を後にするミーシャ達は釣りに出た。
リンは釣りに行くとミーシャは言っていたが、どこに向かうのか知らなかったのでミーシャに聞いた。
「そういえば釣りに行くって、どこに行くのよ?」
「決まってるにゃ。オリノコ川にゃ。」
ミーシャの大好物の獲物なのか。リンはため息を付く
「それ、ミーシャの好物じゃない。それ、私が行っても釣りあげられないわよ」
「大丈夫にゃ。引っかけたら手伝うにゃ。」
リンは昔、ミーシャに連れて行かれた時に引っかけたが、釣りあげられず川に落ちたことがある。それ以降、自分の釣り具は持ってないし釣りをしたことがない。
今回は、ミコトの為に釣りに付き合っている。
ターヤの家から木々に囲まれた下り坂の道を抜け、住居区から商業区へ向かう。
ミーシャ達はよく世話になっている食料品店に来た。
「ちょっと、釣るんじゃなかったの?」
「……釣れなかった時の保険だにゃ。」
もしもの時の保険である。必ず持って帰ると言ってしまった以上、釣れなかった時のキープは必要なのである。
「よう、お嬢達! いらっしゃい! 今日はどうしたんだ? ターヤ嬢は今日は一緒じゃないのか?」
「こんにちは、クルトさん」
「やぁやぁ。ターヤは家に居るにゃ。ちょっとサーモンのキープをだにゃ……。」
「ハハハッ 何だ? またなんかお嬢やらかしたのか?」
ここ食料品店の店長クルトはやたら気さくなネコ族の壮年の男で、族長の娘であっても言葉を選らないで話す人物であった。
ターヤが嬢と呼ばれているのは、いつもミーシャとリンと一緒にいるため3人娘などと大人連中に呼ばれてしまっている。本人はかなり嫌がっているが、定着してしまい困っていた。
クルトが族長の娘にも関わらず軽く話しているのは、ミーシャは堅苦しい言葉で話しかけられるのはあまり好きではなく、それを知っている住民が多いため、気軽に話す人が多い。
なんて言い訳するかミーシャは悩む。ミコトの事は各族長に長老会、一部の者とミーシャ達しか知らないのである。
ミーシャは仕方ないと思い、食料品店の店長クルトに嘘を付いた。
「……まぁ、そんなとこだにゃ。」
「相変わらずだな。お嬢は」
「私をなんだと思ってるにゃ!」
「まぁ、そう思われても仕方ないわね。」
クルトは呆れるようにミーシャを見て、リンは苦笑していた。
「じゃあ、一昨日卸された奴で冷凍してるのがあるから、釣れなかったら来な」
「すいません、世話になると思います。」
「釣りあげてやるにゃ! あくまで保険だにゃ!」
「ハハハッ! がんばれよ、お嬢達!」
からかわれるように送り出された事に憤慨しながら店を出たミーシャ達は、商業区の北側へ向かう。
都市の外、リャーノ平原に出るための門へ向かった。
「御苦労様にゃ。」
「こんにちは、ロロさん」
「ミーシャ嬢、リン嬢。 今日は釣りですかな?」
門の見張りをしている門番のネコ族のロロがいる。
ここラナンキュラス首都では海から外国人が入ってくる事が多く、商業区と港区の間にある西門は人の出入りが多いが、ここ北門ではリャーノ平原にある集落や街からの人が来るのが殆どであり人の出入りはあまりない。
「うん、ちょっと釣りにね。この間の子の為にね。」
「……。失礼ですがどこに耳があるかも解りません。ある程度は伺っております。」
このロロはミコトを都市に入れる際に見かけた門番であった。
ミーシャが族長の父に報告する際に、証人として連れていった人物である。
「うん。それで、嗅ぎまわったりしてる連中とかいるかにゃ?」
「いえ、おりません。各国大使館もおとなしいものです。街中の様子も確認しましたが、漏れている様子はみられませんでした。裏道でサラ様のご自宅まで向かわれたのは賢明なご判断でした。」
ロロはその一部の軍人であり、ここ北門の守備隊長の優秀な人物でもあった。
ミコトの件については3族長により緘口令が布かれていた。
サラの自宅まで連れて行った際に、商業区と住居区を通らず、3族長一家と一部の者しか知らない近道にもなる緊急避難地下通路を使い向かった。
ミコトをそのまま連れて行ったら港区には外国の大使館もあり、余計な混乱にもなりかねないと思い裏道を使ったのだった。
「そうかにゃ。」
「オリノコ川でしたら、橋の近くにフェルナン老とゲン老がおられます。 お近くで釣りをされると宜しいでしょう。 要らぬ世話かもしれませんが、お話になられるのでしたら、周りにはご注意を。」
「解りました。ありがとうロロさん」
「ありがとにゃ~」
「お気をつけて」
都市を出ると、見渡す限りの緑の平原が見渡せて、遠くには山々が青みがかって視認できる。
緑の草原が揺れ、木々は少ないリャーノ平原は長閑に見えるが、大型のモンスターもいる。都市や街の近くには現れないが、山の近くや森林地帯の散策は危険が伴う場所なのである。
北にしばらく歩き大きな丸っこい岩がポツンとあり、それを目印に北西に進路を変える、人が良く歩く進路であり草が生えてなく土肌が見えており迷うことはない。
木で出来た橋が見えてきて、ミーシャはロロが言っていた人物を探す。
目的の後ろ姿の2人が並んで釣りしている。
「じいちゃ~ん! 釣れてるかにゃ?」
「こんにちは。フェルナンお爺様、ゲンお爺様」
ネコ族のフェルナンとキツネ族のゲンは、ミーシャとリンの祖父で、よく二人でミーシャとターヤのように、よく二人で釣りをしている。
「おお? ミーシャとリンか、珍しい組み合わせが来たの。まだ今日はさっぱりじゃ」
「釣りに来たのか? リンは珍しいの。」
ミーシャは他に人がいないか、あたりを見回す。
二人以外が居た場合に、釣りをしながら話す内容も限られてくるからだ
「大丈夫じゃ、周りには誰もおらん。 何じゃ、娘子絡みかの?」
「いえ……。あ、はい。ミーシャがミコトに栄養を付けるため、釣りにと。」
「身分の割には痩せ細ってたのが解ってにゃ、サーモン食べれば多少はマシになるにゃ。」
ミーシャは竿と仕掛けを取り出し、釣りの準備をする。
リンは出来ないため、ミーシャ任せだ。
「そうか……。芳しくないのか?」
「いえ、体は快調に向かっております。ですが……。」
「何があったのじゃ?」
リンはミーシャが仕掛けの準備ができるまで、今日ミコトと会話した内容……職業や錬金術、守護武器を除いて話す。また、釣りに来る前のミコトの状態をゲンの隣に座り報告した。
「ふむ……。」
「なんとも、ゲンよ。この間も話したが祖父達が昔言っていた事を思い出すの……。」
キツネ族がラナンキュラスに来た経緯をフェルナンは思い出す。
キュウコから亡命し、フェルナンやゲンの祖父、曽祖父がキュウコから亡命してきた時代である。
「それ以上だろうよ。ワシらキツネ族の祖国は追い出されたが今もある。何とも……な。」
「悠久の時を超える娘子か。いや、こんな事を申しては失礼かの。」
キツネ族はキュウコ国の王と王弟の対立の動乱があり、王弟の息子、配下とその家族を連れラナンキュラスへ亡命してきた。
ラナンキュラスは、ウサギ族は受け入れに賛成し、ネコ族は渋っていたが当時はウサギ族が代表をしていて、ウサギ族と長老会の賛成により、すんなりとは行かなかったがキツネ族はラナンキュラスの一員となった。
しかし、キュウコ国からの王族の高圧的な引き渡し要求や暗殺の刺客などが起こり一時緊張状態となったが、ラナンキュラスとキュウコ国は海をまたいで遠く離れており、戦争にまではいかなかった。
現在でもキュウコ国との国交はラナンキュラスは結んでいない。
ゲンは目を瞑り顔をしかめる。
「神に見初められ天上人となり、年若い身であの浮島を授かり一国を立ち上げ、病を患ったんじゃったな。 時を考えれば国が既に無いのも頷けるやもしれぬ、だが現界して島があの状況ではの。絶望に打ちひしがれても仕方あるまいて。しかし、心を許した家臣を思い乱心するとは……哀切極りないな」
「つくづく、ただの姫子ではないのぅ……。そういえば、姫子の歳はいくつなのかの? どういう子なんじゃ?」
ミーシャとリンは名前で呼んでおり、近い歳なのか気になりフェルナンは孫娘に聞いた。
「17だにゃ。けど、小っちゃくて見た目は12ぐらいかと最初は思ってたにゃ」
「ええ、かなり幼く見えます。私よりも身長は小さく、性格も体格相応にかなり子供らしくて少し人見知りする気があるかもしれません。」
「リン達はどうやって姫子の心を開かせたのだ?」
「ミコトの目が覚める時にターヤが看ておりましたので、私とミーシャはターヤから紹介してもらう形となりました。最初は怯えるようにターヤの後ろに隠れてしまい……。キツネ族を見るのはその時が初めてのようで私を見て驚いた様子でした。私の尻尾に興味を持ち、触れさせましたら目を輝かせて大変喜んでおりましたよ。ただ……本当に心を開いているかどうかは解りません……。一人にしないで、と泣き叫んでおりましたから……。」
「ふむ……。」
リンはミコトの生気の抜けた顔、そして泣き叫ぶ声を真正面から見て聞いていた。
「リン。」
「……何?ミーシャ。」
「昨日、キツネ族の技術、使ったにゃ?」
「よくわかったわね……。」
リンはミーシャの観察眼に驚いた。
「リンよ。使ったのか?」
「はい。感応道交を使いました。ミコトの震える姿を見て未熟ではありますが、ほんの一部でも緩和しようと……。ミコトの恐怖は私にとって大変濃密で恐ろしいものでした。……今日、ミコトの生気の抜けた顔、泣き叫ぶ姿を見ただけで恐ろしくなってしまい……。情けない事に癒して差し上げることができませんでした。」
キツネ族は特有の技術を持っており、他者の心を穏やかにしたり、また恐怖などの負の心の動きを共有し分散する技術を持っている。
他者に触れ、手でもよいが特に尻尾を触れさせる事により強く作用する。
リンはまだ未熟だが、ミコトを心を癒そうと努力していた。
「リンよ。感応道交で恐怖を扱うのは初めてであったのだろう?」
「はい。」
「ならば仕方あるまい。報告で聞いた姫子の恐怖はワシであってもキツイものだろう。恐怖はワシらが耐えねば共振し、逆に増幅してしまう。気をつけよ。」
「精進せよ。感応道交を使わずとも、ワシら自慢の尻尾を触れるだけで喜んでおったのだろう? それだけでも癒す事はできる。」
「はい。精進します。」
ゲンはリンの頭を撫で慰める。今日、長老会で決定された内容をリンに伝えた。
「ワシら長老会は全会一致で既にサラの判断に委ねると決定しておる。身も心も十分癒すようサラに伝えると良い。」
「この国に来たのが不幸中の幸いじゃて。」
「はい。ありがとうございます、サラ族長に必ずやお伝えします。」
「うむ、頼むぞ。リンよ、お前は本当に息子と違って良い子じゃのぅ。」
「お、お爺様!」
ゲンは頭を撫でリンを褒めると、リンは頬を赤く染め動揺していた。
「リンよ……。姫子は深く傷つき、それを癒し支える者が必要だ。リンが望むなら良き友となり支えてやれ。ミーシャもな。」
「はい。ミコトが望むなら是非もなく。」
「もちろんにゃ。リン、仕掛けできたにゃ。……高い仕掛けだから持っていかれないでにゃ?」
「それは約束できないわ。」
え~…と、リンに渡すのを渋るミーシャだが、リンは掻っ攫い釣りを始めた。
ゲンに相談し、リンは心が軽くなった気がした。
長い付き合いのミーシャだ。言葉には出すのは照れが出てなかなか言い出せないが、心の中で感謝する。
「ほっほっ、ミーシャも良い孫娘じゃ。あの固物の息子から生まれたのか不思議じゃて。誰に似たんだかのぅ?」
「お前に居たんだろうよ。小さい頃から釣好きで、のんびりした所なんかお前そっくりじゃろうが」
ミコトの話は終わり、その後は他愛もない話をしながら、フェルナンやゲンと一緒にミーシャ達は釣りを始めた。
「き、きた!? 来たわよ、ミーシャ!」
「お、食いついたかにゃ?」
竿に魚の当たりが来て、リンは戸惑った。
なかなか釣れる魚ではない事は、ミーシャの釣果を知っている分あって、自分に来るとは思ってなかったからだ。
「ムリムリムリ!引っ張られる!落ちちゃう! ミーシャ早く、早く!」
「任せるにゃ!」
リンは非力ゆえ、引きの非常に強いサーモンを釣り上げる事は出来ないので、ミーシャに助けを求める。
ミーシャは自分の竿を上げリンの方へ向かう。
「こ、これはデカイにゃ! リンよくやったにゃ! 」
「ハァハァ……。あ、あんた逃がすんじゃないわよ! ミコトへのお土産なんだから。」
リンは当たりを引いた竿をミーシャに渡すと座り込み息を整る。
ミーシャは強い引きの竿に期待が高まるが、あまりに強い引きに戸惑っていた。
「ま、まじでデカイにゃ。 ぬぬぬ……。」
「ミーシャ、ワシが手網で掬いあげるぞ。弱らせたら寄せるんじゃ。」
フェルナンとゲンの指示通りに竿を操り、時間を掛けて魚の体力を奪っていきフェルナンの手網に寄せて行く、期待通りの大きい魚影が網の中に入って行った。
「おお、これは大きいのぅ」
「ミーシャ、やったわ!」
「つ、つかれたにゃ」
バラされたり、高い疑似餌をもっていかれるのではないかと冷や冷やして、長時間の格闘に息も絶え絶えなミーシャであった。
「ほぅ。これは非常に大きいのぅ100ありそうだな」
「ワシらでも、ここまで大きいのは今年は釣ってないのぅ」
「や、やったにゃ。」
フェルナンやゲンでも、ここまで大きいのは今年釣りあげてないらしい。
ミーシャは疲れながらも大きい獲物を見て微笑み喜ぶ。
「今日はこの辺で帰るかのぅ」
「だな。 そうだミーシャ、リンよ。さすがにそのホワイトサーモンをサラが捌くのは骨じゃろう。ワシが家で捌いてやろう。」
ミーシャ達も大物が釣れたため、帰る準備をする。これ以上釣っても、サラやターヤ、ミコトを含めて五人でも食べきれない。
「それならゲンよ。アレも一緒に持って行かせるとよい。」
「良いのか?」
「アレって何にゃ?」
「ケージじゃ。釣ってすぐゲンが捌いて凍らせたから。生でもいけるぞい。」
「ケ、ケージ!?ち、小さい頃食べたやつっ!?」
「フェルナンお爺様。そ、そんな貴重な魚を?」
ホワイトサーモンで一万匹に一匹と呼ばれる幻の魚で、通常のホワイトサーモンと比べ脂が乗って、生で食べると非常に美味いと言われる。
ミーシャは小さい頃にフェルナンに勧められリンの家でそれを食べ、それが忘れられず釣りを始める切っ掛けとなった魚だ。
「ワシらで食うよりはミーシャ達に喜んで貰う方が良いのじゃ。もちろん姫子にもしっかり食べさせるのじゃぞ? 女子が痩せ細ってちゃいかん。それと、回復したら会うのを楽しみにしていると伝えておくのじゃぞ? 」
「ありがとうじーちゃん! 」
遅れてすいません。スノーフォックスです。
ルビーを実体化させるか。すごい悩んだ。
今後、実体化させるかは……、お楽しみに。




