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一章 その1

「にゃ~。今日はまったく釣れないにゃね~。」


 せっかくの休日だというのに、今日の釣果はゼロである。

 リボンの付けた尻尾を揺らしながら茶髪ポニーテールの猫族ミーシャは、いかにも退屈そうにボーっと浮きを見つめていた。


「ミーシャちゃーん、そろそろ帰ろうよ~。族長達に怒られるよ~」


 細長い長い耳を持ち左耳にリボンを付けているのはウサギ族のターヤ。

 ミーシャの隣で一緒に釣りをしながら、そわそわしてミーシャを見ていた。


「なーに、びびってんにゃ。男の子のクセにタマタマどこいったにゃ。」

「なっ!? なんて恥ずかしいこといってるの!ミーシャちゃんは!!」


 頬を赤くさせ怒ってるのか恥ずかしがっているのか解らない顔をするターヤは、とても中性的な可愛い顔をしているため女の子にもみえる。

 ウサギ族の女から非常に人気があり、性別は周知の事実にも関わらずウサギ族の男からも人気がある。男女問わず告白されるのだ。それにウサギ族は男と女の区別がつきにくい面倒な種族だとミーシャは思っていた。

 何かブツブツいっている、だったらもっと男らしくせいと。

 あー……、やたら男臭い一部の猫族男衆よりはマシか……。悩ましい。


「こらあ!! あんた達ー!」


 お? この声は。

 ミーシャは後ろを振り返ると頭の上にミーシャよりも大きな耳、ふわふわしたとても大きな尻尾を持ち、腰まである金髪ロングヘアーで右サイドにリボンを付けたキツネ族のリンがいた。


「やぁやぁ、リン。魔法のお勉強は終わったの?」

「終わったわよ。まったく、いつもいつも…怒られるわよ?」

「サーモンが食べたい日なんだにゃ。それにパパもママも食べれば気分良くなるにゃ」


 そう、釣れれば問題ない。問題ないのだ。


「で?釣れてるの?」


 う…。そこは聞かないで欲しい。


「こ、これからにゃ。」

「ぷ、相変わらず釣りが下手ねぇ。魚好きのクセして。」

「うっさいにゃー! だったらリンも釣りしてみろにゃー!」

「いやよ。メンドクサイ。私は別に魚好きじゃないしー」


 きー!口やかましい女狐にゃ。


「ちゃんと栄養取らないから、ちっぱいのまんまなんだにゃ」


 ヤレヤレ、と両手を広げるミーシャ。いつもの戯れである。


「ミ、ミーシャちゃんチョットぉ…」


 顔を赤くさせつつ、自分の居る場所でそんな話はしないで欲しいと思うターヤ。


「キツネ族のおねぃ様方はとっても大きいのに、なんでリンはちっちゃくて、ちっぱいなのかにゃ~?」

「い、言ったわねー!? わ、私はこれからよ!あんたは猫族のクセしてそんな胸してるくせに!!」

 自分の背丈、胸にコンプレックスを抱いているリン。キツネ族は男女問わず長身で女は大半が凶弾持ちであり、他種族の男ですら虜にする妖艶なお姉さま方が多いのだ。


「これは、女のステータスだにゃ。付加価値だにゃ、フッ」


 リンは鉄拳の制裁を放つもミーシャはヒョイと避ける。避け続ける。

 猫族は持ち前の敏捷さを活かす体型をしており無駄な脂肪が無く、敏捷に必要な筋肉を維持しているような、スポーツ体型、モデル体型が多い。

 一部で猫族の男は筋肉を鍛えることに燃えに燃えている戦士連中がいるが…。

 小さいころは3人共同じ背丈だったが、ミーシャが一つ頭抜いている。

身長は160センチぐらいで一切無駄の無いモデル体型。だがリン曰く、胸部の脂肪が大変無駄らしい。


「ち、ちょっと。ミ、ミーシャちゃん…。それ猫族の大半と、ウサギ族の女の子を盛大に喧嘩売ってるよ?」


 リンはターヤとミーシャと同じ歳で15歳ながら大変小柄で、140後半のターヤと同じぐらいの背丈であり、他の種族からしてみれば大変良いモノを持っている。

 リンは知らないが他の種族、主にウサギ族の女衆からだが、ウサギ族は男女問わず小柄でありターヤの身長で既に成人男性とほぼ変わらない。なので、ウサギ族の女性はそれ相応であり…、リンも既に羨望もとい嫉妬の的だった。

 またウサギ族の大半の男、一部猫族とキツネ族の男衆に大変な人気がある。


「はぁ…、はぁ…。タ、ターヤ…? いま!こいつは!キツネ族のあたしに!!思いっきり喧嘩うってるわ!!!」


 ん? ターヤ、女の子の事を良く見てるね? やっぱりターヤも男だったか…さては?


「ターヤぁ。良く見てるじゃにゃい~。もしかして、おっきいおっぱい好きなのかにゃ?」


 まるで年下の男の子のようにからかうミーシャ。ミーシャにとってはリンもからかいやすくて面白いのだ。


「なっ!? タ、ターヤ…そうなの?」

「ちょ、え!? いやいや、ぼ、僕は……。……?」


 真っ赤になりながら、あわあわとしていたターヤが何かに気づいたように後ろを振り向く。


「リンちゃん、ミーシャちゃん!静かに!」

 緊迫した声に、リンとミーシャはターヤに顔を向ける。


「ん? 釣れそ?」

「どうしたの?」


 ターヤは川の下流の方に顔を向け、真剣な表情で耳をせわしなく動かしていた。

ミーシャはふと気付く、ウサギ族の何か聞き慣れないもの、何か危険なものを察知したんだろうと気付いた。

 腰に付けていた短剣の固定ベルトを外し、いつでも抜けるように準備する。


「下流の方から大きな翼をたなびかせる音、この音は鳥翼…?けど人の大きさじゃないと思う。ヒポグリフに似てる……」


 ターヤは脇に置いてあった長槍を手に取り立ち上がる。リンも脇に下げて居た短杖を手にした。


「っ!?速い!! ヒポグリフに似てるけど、すごい大きい!それに信じられない速さだよ!!」

「どっちの方角へ向かってる?」


 ミーシャは子供じみた言葉づかいを無くしターヤに感情を殺した声で聞く。


「まっすぐこっちに、僕達の方向に来てる!」

「リン!詠唱準備!!」


 ミーシャはリンに叫び短剣を抜いて、迎撃準備の為ターヤの前に出た。


「迎撃するの!?」

「岩溶かし…大地を削る…赤き精霊よ…集いて…」

「大型の魔獣ならもう補足されてるよ。ターヤも魔法!」

「えぇ……。ウリエルの祝福を受けし精霊よ。我ら小さき者のために見えざる鎧を与えたまえ……プロテクト!」


 ターヤは対物理強化魔法を唱え槍を構える。二人が戦闘態勢に整った事を確認し、襲来してくるであろう方向へ目を向けミーシャも構えた。


「もうすぐ見えるよ!」


 3人はじっと構え、襲来してくる先を見据えた。


「見えたっ!」


 バサッ、バサッと羽ばたく音が聞こえる。


「ホントに大きいね。小さく視認できてすぐ音が聞こえるっていうのは」


 確かに飛行する魔獣というのは解るけど、ん……?


「ターヤ、あれヒポグリフじゃない。どこかの国の外交使節かしら?」

「え? え? ……ほんとだ。」


 リンは魔法を解き、ミーシャは短剣を下し緊張が解けた。


「ヒポグリフでも、それぞれ大小はあるにゃ。すこし大きいぐらい……」


「大きいぐらい……」


 3人が緊張を解くが、そのヒポグリフは3人へ一直線に飛んできている。

近づき、その大きさは明らかになっていく。


「「「でかっ!?」」」


「ちょ、ちょっとあれヒポグリフなの? 魔法解いちゃったわよ! どうするのよ!?」

「い、いやそんなこと言われても……にゃ? ヒポグリフを襲ったら大変だし」

「こ、こっちくるよぉー。ミーシャちゃん! 大丈夫なの? 大丈夫なの!?」


 もうミーシャ達の数百メートルまで来ており、その距離も刹那で縮まっていく。


「「「ひぃっ!!」」」


 通常の倍はあろうかと思われる大きさのヒポグリフはミーシャ達に向かってスピードを落とし、10メートル手前で降りてその大きな体を横に向けた。


「ん……?」


 ヒポグリフの敵意の無い行動を見て、ミーシャは違和感に気付く。小さな人物が首にしがみ付き乗っていた。確認する為、ミーシャは近づくことにした。


「ミ、ミーシャちゃん!?」

「やっぱり大丈夫にゃ」


 ヒポグリフはミーシャの意思をくみ取ったかのように座った。鳥翼人だが小柄で子供だろうか。服装を確認すると非常に高価そうなフード付きのローブを着ておりメイジと思われる。意識はないようだ。

 突然、ヒポグリフからふわりと浮きあがり、仰向けに姿勢を変え眠るような格好でミーシャの前へ降り空中で静止している。


「クァーッ!」


 ヒポグリフはミーシャに向かって、まるで受け取れと言っているかのように鳴いた。

 ミーシャは抱くように腕を前にだすと、その腕の中に降りる。

 仰向けの姿勢のせいでフードが取れ、ミーシャの腕の中に降りてきた者を見ると、ピンク色の髪をした小さな可愛らしい女の子で、身長もリンよりも小さく非常に軽い。

 ローブで隠れていた小さな頭の上に、まるで魔法で作られたかのような黄色い輪っかをミーシャはどこかで見たことがあると思いだそうとするも、思いだせなかった。    


 それにもう一つ気になるのは、この子のきれいな純白の翼だ。

 有翼種、通常は1対2枚が当たり前である。有翼種に分類はされないが例外で精霊種のフェアリーがいるが、あれは蝶のような羽であり、有翼種で3対6枚の翼など聞いたことがなかった。翼を見る限り、鳥翼種のそれであり疑問は解けない。


「!?」


 服装を改めて見ると、ローブの配色だと思っていた赤色は模様ではなく血であった。ローブの腹部に剣で突きさされ、破かれた跡がある。破かれたローブ下は生地の配色ではなく出血で染まっていた。

 すぐさま口に耳をよせ呼吸を確認する。呼吸が小さい、かなり衰弱しているようだ。


「ターヤ!リン!急いで家に戻るよ!」


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