一章 その14
この都市の比較的高い場所にあって僕の部屋の窓から有望できるんだけど、自然と都市が一つになっているのが都市を歩いても解る。
住居区と商業区の区間は小高い丘がありその谷間に道がある、丘自体は手を付けず林になっていて、その区間を通る時はまるで都市の中を歩いているとは思えなく、山道を通っている気分になった。
リャーノ平原にある近くの山岳からこの商業区を通り港区へ、そして海へと小さな川が繋がっているみたい。
この都市にある小さな川のもう一本は、お家の近くの丘に湧水があり、住居区から商業区へリャーノ平原から来ている川へ合流する。
比較的平坦な所は建物が立ち並び、こう配が急なところはそのままの自然が残っていた。
水と緑の緑が多い都市なんだって、改めて理解できる。本当に綺麗な都市だと思うよ。
この都市の中で平地が一番広くある場所に商業区や港区は作られているみたい。
わわ、人がいっぱい居るよ。
ターヤ君やサラさんみたいに大きなウサギ耳がある人、ミーシャちゃんと同じネコ族、
キツネ族はそんなに多く居ないのかな? ウサギ族とネコ族と比べて少ない。
そのほかの種族は時折見かける程度で殆ど見かけない。
僕と元は同じ鳥翼人は2,3人見かけた程度だよ。他の種族も同じだね。
港区に行けばもっといるのかもしれないね。
サラさんから出かける前に貰った住民証と、サラさん、コウさん、ゲンさんの冒険者推薦書、サラさんの弟子の認定書とビショップの褒章を持って冒険者登録をするため、冒険者ギルドに向かってるんだ。
その後、リンちゃんのお爺ちゃんのゲンさんに前から誘われていた、リンちゃんのお母さんの快気祝いと、僕の歓迎会に招かれてのお泊りにリンちゃんのお家に行くんだよ。
サラさんやターヤ君、ミーシャちゃんは直接リンちゃんのお家に後から行くみたい。
「そういえば、ミコトは商業区に来るのは初めてだったわね。」
「うん。人がいっぱい居るね。」
僕はリンちゃんと手を繋ぎ、ボディガード変わりに小型犬サイズのホワイトタイガーのシロちゃんも連れ冒険者ギルドを目指していた。
ターヤ君もミーシャちゃんも居なくて、ちょっと不安だったから召喚してるんだよ。
後ろ見るとをちゃんとついてきて、てくてく歩いてるよ。うん、やっぱり可愛い。
サラさんと政務区へ一緒に行った時は商業区は通らなかったので、あまり人は見かけなかったんだよね。
「もう昼過ぎだから、これでもあまり人は少ない方よ? 人が多いのは朝方からお昼時ぐらいまでかしら? 朝市があるから。港区に近い冒険者ギルドの辺りと港区内は、いつも人が多いわね。」
様々なお店が立ち並んでいるね。野菜、果物を並べているお店、お肉屋さんかな? 鮮魚を置いている出店はもちろん。 それを取り扱う専門のお店もある。 雑貨、家具はもちろんの事。武器や防具、衣服のお店もあるみたいだね。魔法具屋はあるのかな?
「よう! リンのお嬢! お? 鳥翼人のお嬢ちゃん連れて、どこいくんだ?」
鮮魚を取り扱うお店の前を通ると、そのお店の店主の人から声をかけられた。
「こんにちは、クルトさん。これから、この子の冒険者登録をしに行くんです。この子は最近この国の住民になって、サラさんのお弟子さんにもなったのですよ。」
「は、初めましてミコト・ニューフィールドです。」
「なんだって!? じゃあ、コウの旦那の奥さんを治したってのはお嬢なのか!?」
「は、はい。」
なんだか、もうレンさんを治した事は広まってるのかな?
「そいつあ驚きだ。こんな小さなお嬢ちゃんがサラさんのお弟子さんとは! 歓迎するぜ! ここの店の店主やってる、クルトってんだ。
ようこそラナンキュラス、モリルーカへ。 これからよろしくな! ウチの魚食ってくれよ!」
「はい! よろしくお願いします。」
クルトさんと握手をすると、クルトさんの手はとても大きくて固い手だった。
腕も太くて力強そうなんだけど、優しく握手してくれたよ。
良い笑顔のする人だね。
「冒険者登録が終わったら私の家に向かいますから、すぐお世話になりますよ。」
え? リンちゃんのお家でクルトさんのお世話に?
「ああ! レンさんの快気祝いにミコト嬢が参加するのか!」
「いえいえ、ミコトの歓迎会がメインですね。 母上の快気祝いはおまけです。」
え!? それ逆じゃない!? 私の歓迎会がメインっておかしいでしょ!
「そ、それ逆じゃないの? は、初めて聞いたよ?」
「あれ? 言ってなかったかしら?」
聞いてないよ! なんでそんな大事なこと言ってくれないの!
今日がお祝いの日って事は聞いてたけど、なんで今になってー!
「まぁ義理固いキツネ族の事だからな! お嬢ちゃんもこれから頑張れ! 俺も今後世話になるかもしれんが、その時はよろしくな。」
「は、はい。」
クルトさんのお店を後にし、しばらく歩くとひときわ目立つ大きい木造2階建ての建物が見えた。
西部劇とかで良く見る開き戸があり、中の様子が少し伺える。あまり人はいないのかな?
「素行の悪いのは、この時間は居ないと思うんだけどね……。」
え? 怖い人いるの? いやだなぁ、シロちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど。
ちょっと不安になった。
「シロちゃん、困った時はお願いね?」
「ギャーオ!」
うん、なんとなく、まかせろ!って言ってくれてる気がする。まかせたよー
頭を撫でて上げて、褒めて上げる。やっぱり召喚獣を連れてると心強いよ。
「その子、ホントに役に立つの? 可愛いけど……。」
「うん、本気だせば強い子だよー」
なんてったって、神獣だもん。単純な物理攻撃ならトップクラスの子だよ。
リンちゃんに急かされ、ギルドの中に入ると冒険者らしき人がちらほらと居る。
男の人ばかりだ。誰かを待っているのかな、机を囲んで椅子に座っている数人が僕達の方を見てきて、最初は驚いた顔をして僕達の方を見てニヤニヤしている。
なんだか怖い。リンちゃんの方を見ると何やら苦い顔をしている。
さっき言ってた、素行の悪い人とか居るのかな?
「おや? リン様、今日は如何されましたか?」
カウンターに2人居るウチの1人のネコ族の女性の人がリンちゃんへ声を掛けて来た。
「今日はこの子の新規登録に来たんだけど。」
「左様でございますか、……それでは2階へどうぞ。そちらで承ります。」
あんなガキがかよ。とか声が聞こえる。どうやらリンちゃんが言ってた人達が居る見たい。怖いのでそっちは見ないようにしてるけど。
受付の女性に連れられ2階へ行く、どうやら2階には部屋がいくつかあるようで、その内の一つの部屋に僕達は通された。
「こちらで少々お待ち下さい。」
部屋の中は会議室のようで、僕とリンちゃんは椅子に座る。
僕とリンちゃんは座ると一息をついた。
「なんだか怖かったね。」
「まさか、こんな真昼間にいるとはね。ミーシャだけでも引っ張ってくれば良かったわ。困ったわね……。」
どうやら、リンちゃんが懸念してた人達が、先ほど僕達を見てた人達なのかな。
たぶん、そうなんだろうね。怖かったもん。
しばらく待っていると、先ほどのネコ族の女性がまたやってきた。
「お待たせしました。」
何やら書類や冊子を持ってテーブルの向かい側の席に座る。
「お待たせして申し訳ありません。改めまして私、当ギルド受付のマイラと申します。 よろしくお願いします。本日は冒険者ギルドへの加入で宜しいでしょうか?」
「はい。」
「それでは、恐れ入りますが加入には加入登録者様ご本人の身分を示す物と、職業の証が必要となりますが、ございますでしょうか? 推薦書もございましたらお出しいただいてもよろしいですか?」
僕は持っていた書類入れを机の上に置く、すべて必要なものはその中に入れておいた。
そういえば、ゲーム内ではこんな登録に身分を示すものとか、証とか推薦書なんて必要なかったのにね。
ここが改めて異世界なんだって思えちゃうよ。
「拝見させていただきます。」
マイラさんが僕の出した書類と証の確認を始めると、驚いたような顔をしたが、すぐ普通の顔に戻る。
あまり感情を表に出さない人なのかな? なにやらリンちゃんがニヤニヤとしてたけど。
「さすがにマイラさんでも驚かれますか?」
「それはもちろんですよ。リン様もお人が悪いですね。
サラ様のお弟子様ですか、それに推薦書がサラ様、コウ様、ゲン様とは……推薦理由も驚きです。しかもミコト様は御若くてビショップですか……驚かない方はいらっしゃらないでしょう。」
マイラさん自身が持ってきた書類に書き終わると、それを僕に見せてくれた。
どうやら、僕の冒険者証に登録される情報みたい。
僕の名前、所属国、職業などが記載されるみたいだね。
さすがにゲームみたいにレベルやサブ職業とかは記載しないんだ。
ん? 備考に色々書かれてる。
モリルーカ治療院 院長 サラ・ジェイルの弟子、ラナンキュラス国ウサギ族族長サラ・ジェイル推薦、同国キツネ族族長コウ・ヒザクラ推薦、同国キツネ族元族長 長老会代表ゲン・ヒザクラ推薦……。
こ、これ冒険者証に書かれるの?
そ、それに治療院の院長だったの? 僕、今まで知らなかったんだけど……
「備考がすごい事なってるわね。私は魔法の先生ぐらいよ。ターヤとミーシャも大体私と同じよ。」
「え!? リンちゃん達がどうして?」
「いくら子供だからって、父上とかが推薦しないわよ。そんな技術とか持ち合わせていないわ? ミーシャの父上なんて一国の代表からの推薦になるのよ? 重いわ。そうそう貰えないわよ。」
そ、そうなんだ。いくら娘だからって、貰えるものじゃないんだ。
「ぼ、僕が推薦貰っちゃって良かったの?」
僕が貰ってよかったのかな? そんなすごい物だったなんて、ちょっと怖くなってきたよ。
「なに言ってんの! ミコトは母上を治したのよ? これ以上ない推薦理由でしょうが!」
リンちゃんは耳としっぽをピンと立て、大きい声で捲し立てた。
そ、そんなに怒らなくても、何でそんなに怒ってるんだろう?
「このプロフィールでミコト様は信用たる人物である事を示せますよ。登録証の記載はこれでお間違いはございませんか?」
「は、はい!」
マイラさんは冒険者証に記載される書類と入れ替わりに冒険者になるあたってのガイドラインと書かれた冊子を僕は受け取り、それを見ながら説明をしてくれた。
大体はゲームで言われた内容と同じ、冒険者同士でのトラブルは責任を負わないとか。
ギルドを経由しない依頼主とのトラブルも同じ。
まぁ、ゲーム内では冒険者同士のトラブルなんて、冒険者ギルドはどうしようもないしね。 ギルドを介さない人からの直接依頼はイベントクエストになってたかな。
マイラさんの説明から聞いて驚いたのは今回は新規登録にも関わらず、いきなり国公認の冒険者になってしまった事だった。
ギルドランクがG~S の8段階のランクがあり、G~Eはギルドからの依頼のみ受注でき、D以降は国からも冒険者であることが認められる。より難度の高いギルド依頼と国からのクエストを受注することができる。
ゲームと違うのは、所属国からは名指しでの依頼もあり、基本国からの依頼は拒否することはできないんだって。
所属国以外のギルド依頼はその所在ギルドからランクに応じた全ての依頼を受注することが可能であり、国からの依頼は受注できるものとできないものがあるみたい。
ランクの昇格については、一定数以上の依頼の受注達成とギルドよりランク昇格にあたって通知があり、一段階上の依頼を受注し達成すると昇格となるみたい。D以上については国からの依頼も関係してくるのだとか。
国公認はやっぱりサラさん達、一国の責任者からの推薦が効いたのかな?
つまり僕はこの世界で、Dランクからの冒険者デビューとなった。
「いきなりミコトは私達より先輩の冒険者になるんだ……。あたりまえかぁ。」
「う、そんなこと言わないでよリンちゃん。僕だってビックリだよ。」
冒険者登録に推薦書が必要なのかなと思っていて、まさかこういう形で役に立つ物とは思っていなかったよ。
サラさん達には、改めてお礼いわないとだね。
「それでは登録手続きに関しては以上となります。冒険者証は明日の昼過ぎにはお渡しできるかと思います。諸注意の冊子はお手すきの際にお読みください。それと……」
ん? なんだろう、マイラさんの顔が曇りなにやら口ごもっていた。
「当ギルドにご来店された際にお気付きと思いますが、冒険者の中には素行の悪い物もおられます。ミコト様はビショップであられ、お若く女性でございますので、一時的なパーティ結成してのギルド依頼受注などは、十分ご注意下さい。」
野良パーティ作ってのクエスト受注はトラブルが多いから気を付けてね。って事かな。
ゲームでは野良パーティってほとんどやったことなかったな、大抵一人か裕や美奈と一緒にやってて、人数が必要なクエストはギルドの人と消化してたからね。
低ランクのクエストは一人でも十分やれると思うし、大丈夫じゃないかな……たぶん。
「一人ですることが多いと思いますので、臨時パーティは組まないと思います。大丈夫です、頼もしい子がいますから。」
「ギャーオ!」
膝の上に乗っていたシロちゃんがまかせろと言わんばかりに吠える。
この世界でシロちゃんを呼び出してから、とても懐いてくれてるように思える。
ゲームの中では、後ろを付いてきてくれるだけだったもん。
他の召喚獣もそうなのかな? 機会があれば他の召喚獣も呼んであげなきゃね。
「頼もしいボディーガードなのですね。ですが、どうか気にとめておいてください。」
シロちゃんは机の上にヒョイと乗ってしまい、止めるまもなくマイラさんに寄って行く
机の上に乗せていた手を嗅いでいると、マイラさんも気に行ってくれたのかシロちゃんの頭を撫でてくれた。
シロちゃんも嬉しそうに首を鳴らしている。
マイラさんは良い人みたいだね。こうやって心配してくれているし、シロちゃんも懐いているんだから。
「はい。ありがとうございます。気を付けますね。」
手続きが終わり、リンちゃん、マイラさんと共に会議室を出る。
さて、次はいよいよリンちゃんのお家に行くよ。どんなお家かな、楽しみだなー。




