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一章 その10

今回は残酷な描写が一部入ります。


苦手な方はお気をつけください。































「サラよ。屋敷を汚してしまうが許されよ。……ではご免」


 リンちゃんのお爺ちゃん、お母さんのレンさん、リンちゃんの瞳から生気と言えばいいのかな? 光がなくなって、どこか遠くを見るような目に変わった。


 みんなが一斉に小刀を首にあてる。

 イッシ? ジサイ? 何を言ってるの?

 その小刀はなに?

 なにをするつもりなの?

 

「ゲン老! レン! リンちゃん! やめなさい!」

「ゲンじいちゃん! レンさん! リン! 何を考えてるんだ!? 」


 横を見るといるサラさんとミーシャちゃんが怒った顔で大きい声で叫んでる。

 ふと、視界の隅で赤い何かが舞った。リンちゃん達へ改めて。

 リンちゃん達の首から赤い何か噴き出している。


「…ン……! レ…! ……ち……!!」

「…ラ……!! ……………を!!」


 あれ? サラさん達が何か叫んでいるけど何も聞こえない。

 何を言っているんだろう?

 サラさんを支えにしていた僕は、急にサラさんが居なくなってしまって

 その場に座り込んでしまった。


 リンちゃん達3人から首からすごい勢いで赤い何かが噴き出し始めた。

 部屋は一面噴き出した赤い何かで染まっていく。

 ふいに、僕の顔にもそれがかかった。。


 手でそれを拭ってみる。とっても温かい。

 ヌルリとしてて、あれ? 以前にも触った事があるような?


 ミーシャちゃんが僕に向かって叫んでる。


「………! ………………! ………………………………………!」


 何を言っているんだろう? 僕には何を言っているのか解らない。

 僕、耳が遠くなっちゃったのかな?

 すごい悲しそうな顔で何かを訴えているような気がするんだけど……

 僕の体をミーシャちゃんがゆする。

 リンちゃんの方を見ると体は倒れ未だ小刀を首に当て、僕の方を見て瞳には光がなく赤い何かを噴き出していた。

 サラさんはその小刀をリンちゃんから取りあげようとしている。

 

 赤い、とっても赤い。この温かみをつい最近、感じたことがある。

 これは……そう僕のお腹で……確かアンデットに刺された時に……?


 これって、僕のお腹から溢れて来たものと同じ感じだ。

 ということは今いっぱい3人から溢れているものって………血?

 それっていっぱい出ちゃうと……


「あ…………ああ……、あああ……!」


 駄目だよ。そんなにいっぱい出したら……

 僕だってあの時、死んじゃうんじゃないかって

 死んじゃう? 死んじゃう………、リンちゃん達が?


 リンちゃんを見るともう顔は蒼くなってて、未だ血を強く噴き出していた。

 

「だめ、だめ、だめだよ……。リンちゃん!!だめええええええ!!!」


 ダメ、死んじゃ駄目! 何でこんなことを!


 即座に魔法ウエポンブレイクを範囲化し、未だ小太刀を首に当てているお爺ちゃんやレンさん、既に小太刀から手を離しているリンちゃんの武器に向かって使う。

 小太刀の刃が光り弾け、柄の部分をだけを残し消え去った。

 同時に僕は、リンちゃん達に向かってエリアヒールを掛けた。

 手加減なしで複数人まとめて瞬時に回復させるためのエリアヒーリングIIIX

 白いとても眩しい光の奔流が突如視界いっぱいに現れ、3人の体に向かって流れて行く。


 それに何やら首を斬った時に様子がおかしかった。

 ついでに状態異常の回復する為のキュアオールを範囲化して唱える。

 こんなに一気に魔法を使ったの久しぶりだ。






「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 魔法を一気に使ったせいだろうか?

 ちょっと疲れたような気がする。

 僕の生命力を確認するとギリギリ3割手前ぐらいになっている。

 あぶないまた強衰弱になるとこだった。

 魔法を使いすぎると疲れるみたい。

 エリアヒール使ったせいかな。あれってものすごい生命力を使うし。滅多に使わない。

 範囲化も人数分×消費2倍になるし……。キュアオールはなんでも治せる分コスパが悪いって言われてる。


「………ミコトちゃん! 平気なの?」


 リンちゃんに着いていたサラさんが僕の元にかけよってくる。


「はぁ……はぁ……へ、平気です。ちょっと魔法を使いすぎちゃいました。」


 手加減できなかった。だって、リンちゃんが死んじゃうと思ったんだもん。


「む……? どういうことだ。」

「……あら?」

「う……?」


 リンちゃん達が目を覚ましたみたい。

 なんだか、僕は無性に腹が立ってきた。

 リンちゃんのお爺ちゃん、どういうことだ。じゃないよ!!


「なんで……ぐすっ、なんでこんなことしたの!!」


 なぜこのような真似を行ったのか、問い質したくなった。


「……私どもはミコト殿に許しを請う為に。そしてこの国、我が家の汚名を返上する為にしたことでございます。

 我らは命を差し出す所存でございました。」

「ぼ、僕がそんな事望んだ!!? 汚名ってなあに!? わけわからないよ!!」

「私共キツネ族はこの国に訪れ百余年、この国に忠を誓い、恩に報いて参りました。

この度の愚息の行いは、国に泥を塗る所業、そして貴方様への暴挙は許されることではございません。」

「だから!! 今回の事は、私もリンちゃんのお父さんもお互い様だったって僕は言ったじゃない!! こんな真似しないでよ!! 僕は怒ってなんかいなかったの!!

 許すもな……げほッ! げほ……。」


 あまりに叫びすぎたせいか僕は咳こんでしまった。

 息が苦しくなり、朦朧としてきた。あたまもクラクラする。

 こんな頭に来て叫んだことって今までなかったかも。


「ミ、ミコトちゃん!? ゲン老、ミコトちゃんはこのように申しております!

 ゲン老、長老会からは私の判断、一任すると仰っておりましたね?

 先ほどのあなた方を救うため大魔法を行使し、体力を削っております! ミコトちゃんは未だ傷病の身!

 今回は休ませ改めて席を設けましょう。 この議は私が預からせていただきます! 

 これ以上、軽率な行動はお控えください! よろしいですね!」




 サラさんは僕を抱きしめ、リンちゃん達に怒ってこの場を一旦収拾した。

 サラさんの胸に頭を預ける。僕のさっき頭に血が上ったせいか、ぼーっとする。

 前にもしてもらったことあるけど、とても落ち着く。

 本当にサラさんにはお世話になってばっかりな気がする。


「ミコトちゃん、一旦部屋に戻りましょう。」

「はい……。」

「……私が運ぶよ。私にやらせて」


 ミーシャちゃんが僕を運ぶのを買って出てくれた。

 僕はミーシャちゃんにお姫様抱っこされる。

 ちょ、ちょっと恥ずかしい……。


「ミーシャさん、ありがとうございます。」


 ミーシャちゃんにお礼を言う。よくミーシャちゃんには抱っこされてる気がする。


「……ううん、いいんだ。 このぐらいやらせて?」


 ミーシャちゃんは何故か複雑な表情をしていた。

 どうしたんだろう?

 ミーシャちゃんとサラさんを連れ、僕はいつも寝ている部屋に戻った。




 部屋に戻り、僕はリンちゃん達の血が付いてしまった服や体を清潔にして一段落着いた。

 結構、びっくりするぐらい血で汚れていた。

 そりゃそうだよね。だって、3人が首を斬ったんだもん。

 正直、ぞっとしたよ。あの時は気付かなかったけど。

 リビングすごいことになってるんじゃないかな……。

 僕が体を清潔にしている間「なにこれ!!?」ってターヤ君の声が聞こえてきた。

 ……たぶん、すごいことになっているんだと思う。


 ターヤ君の声が聞こえて、そのあとすぐターヤ君が僕の部屋に訪れた。

 なんだかすごい勢いで部屋にターヤ君が来て、僕が裸になっててサラさんに体を拭いてもらっている最中だった。

 ミーシャちゃんと、サラさんにものすごい怒られてたっけ。

 一瞬の出来事だったので、なんで二人とも怒ってるんだろうって? 最初は思った。

 そうなんだよね。今の僕って女の子なんだよね。

 そう僕は昨日と今日で2度も、ターヤ君に裸見られちゃったんだ……。うぅ……。

 体を拭いてもらう時、気づいたんだよ。

 サラさんやミーシャちゃんに裸を見られるのは、別に恥ずかしくなかったの。

 最初はあれ?って思ったんだけど、あの時恥ずかしかったのはリンちゃんのお父さんやターヤ君に見られるのが恥ずかしかったからなのかなぁ?

 なんだか、気づかない間に女の子になっちゃってる気がする。

 

「サラさん、ミーシャさんありがとうございます。」

「ううん……、それより聞きたい事があるの。いいかしら。」


僕が体をきれいにして、着替え終わった後にサラさんに問いかけられた。


「リンちゃん達を治癒した時、なんの魔法を使ったの? それに……ミコトちゃん、あなた詠唱をしてなかったわよね? 無詠唱でどれだけ生命力使ったの?」

「えと……確か、ウエポンブレイクを範囲化してリンちゃん達の武器の小刀を壊して、エリアヒールをしました。

 そのあと、リンちゃん達の様子がおかしかったので、再度範囲化の状態異常を回復させるためのキュアオールを使いました。

 魔法の詠唱はハイビショップになると、通常必要ありません。

 必要消費も通常と同じです。」


 魔法を唱えなくても、魔法や能力を発声しなくても使う事ができる。

 ただ、発声することによるメリットもあったりする。

 消費量を抑えられるんだよね。

 魔法名を唱えるだけで消費量は1/2

 呪文と魔法名を唱えると1/3にもなる。

 かなり大きなメリットだけど、基本はやはり無詠唱になっちゃう。

 無詠唱による魔法や能力使用は、すばやく展開出来る為、戦闘中ではこちらの方が大きなメリットになるんだよね。

 

「意識下で全ての魔法を……? 私だと倍の消費になるのに……それと範囲化ってミコトちゃんの能力なの?」


 プリースト、ビショップだと、無詠唱が倍、短詠唱で通常、呪文詠唱で半分で、

 クレリックは無詠唱は3倍、短詠唱は2倍、呪文詠唱が通常消費となっている。

 クレリックの時は大変だったなぁ……。戦闘だと短詠唱ばっかりだったし。

 呪文覚えきれないよ……。


「はい。サラさんもお解りかと思いますが、通常ウエポンブレイクやキュアオールは単体でしか効果を発揮しません。ハイビショップの特殊能力になります。

 それを使ってまとめて行いました。

 ただ、一人ひとり魔法をかけるより倍の消費量を伴いますが。」

「キュアオールを倍……6人分ってことなの? エリアヒールだけど……あれは何段階なの?」

「はい。エリアヒールは最上の8です。消費が激しくて滅多に使う魔法じゃないですが。

 何分急なことだったので加減ができませんでした。」


 加減なんてしてたら、間に合わなかったかもしれないし。

 するつもりはなかったけどね。


「なっ!? ミコトちゃん、そんなことして大丈夫なの!? 私だって、4段階習得してるけど2回でも唱えたら、魔力のほとんどを空になってしてしまう割に合わない魔法なのよ!?」

「はい。大丈夫ですよ。生命力の7割近く使っちゃいました……また強衰弱になるとこでした。あはは……すいません。」


 自分で言ってて気づいた。また強衰弱にでもなったら、今でも辛いのに本当に寝込んじゃうとこだった。

 あぶなかった~。


「っ!? ミコトちゃん!! 良い? あなた今も昨日も言っているわね? 

 あなたは魔力では無く、生命力を使っているって。

 ミコトちゃんは魔法を使う度、ケガをしているのと同じなの!!

 自分の命を削っているの!! 笑いごとじゃないのよ!!」


 瞳に涙を浮かべてすごい怒ってる。

 さっき、リンちゃん達に向かって怒ってたみたいに。すごい剣幕で。

 いまサラさんの言っていたことを反芻してみる。

 命を削る……そっか……いまここで魔法を使いすぎじゃったら、下手をしたら……


「ごめんなさい……」


 もしかしたら、僕は死んじゃうかもしれなかったんだ。

 もし、魔法を使いすぎて生命力が無くなっちゃったら僕はどうなんちゃうんだろう?

 生命力が0になったら、僕はどうなっちゃうの?

 本当に死んじゃうの? 一度、死んだはずの僕はどこへいくの?

 そんなことを考えてたら、怖くなって体が震えて来た。

 そんな僕をサラさんは僕を抱きしめてくれた。



「ううん、私の方こそごめんなさいね? ミコトちゃんに助けてもらったのに怒ってしまって。 本当にごめんなさい。

 ミコトちゃん、約束してくれないかしら? 

 あなたの魔法は、私よりずっと慎重にならなければいけないの。

 魔力ではないのだから、慎重に使わなければならないのよ? それだけは解って?」


「はい。ぐすッ、はい……ごめんなッ……さい。ふぇ……」


 サラさんは僕を抱きしめながら、背中をやさしく僕が落ち着くように叩いてくれた。

 本当にサラさんは僕にやさしくしてくれる。

 お母さんみたいに時には怒って、そのあとは抱きしめてくれて。

 本当にお母さんみたいだ。




 しばらくして、僕は泣きやんだころ。


 「ミコトちゃん、落ち着いたかしら?」

 「はい。」

 「じゃあ、私はこれからリンちゃん達に今日はミコトちゃんの大事を取るために、お話は日を改めるよう言ってくるから。おとなしくしててね? ……それと」


 僕の頭を撫でて、言葉を続けた。

「畏まった場でも無い限り、普通に話してくれるかしら? 言葉使いが丁寧なミコトちゃんも可愛いけれど。こんな時は普通にして欲しいわ。ミコトちゃんも疲れちゃうでしょう? 」

「でも……」

「私たちが隠してたのは申し訳ないと思っているわ? けどプライベートぐらい普通にしてて欲しいの。 私も普段のミコトちゃんとお話したいのよ? もちろんミーシャちゃん達にもね。私とリンちゃんはお家がアレだから仕方がないのだけれど。」

「ですが、サラさんはこの国の族長で、ミーシャさん達は……」


 サラさんは何故かイタズラをするように笑い。

 僕の頬を突っつきながら、言葉を続ける。


「あら? そんなこと言ったら、ミコトちゃんはなんだったかしら? 天界人で4大天使様と同じで、ハイビショップで言ってみれば私の先輩よね? しかも王様でこの国でいう代表よ? 私達の方が普通なら畏まらなきゃいけないわ。 ……そうして欲しい?」

「や、やだっ!」


 サラさん達にそんな普段から畏まられたら、気がおかしくなっちゃう!


「ふふ、じゃあちょっとリンちゃん達の所にいってくるわ。また後で来るわね。」

「う、うん。」


 僕の頭を再度撫でてくれた後、サラさんは部屋を出た。


「ミコト……」

「う、うん? なあに?」


 ミーシャちゃんは深刻な顔をして、急に頭を下げ謝り始めた。


「ミコト、本当にごめん。リン達があの時、首を斬った時に私はミコトにヒーリング使うようお願いして……。

 私だって昨日ミコトの魔法の事を聞いてたのに気づかなくて。

 唯でさえ怪我をして、体が弱ってる所にあんな大魔法使わせて危うく私はミコトを……本当にごめん。」

「え?」


 ミーシャちゃんがお願い?

 あの時……? 

 あ……突然の出来事に頭が真っ白になっちゃった時にミーシャちゃんが言ってた事はそういうことだったんだ。


「気にしないで?

 僕が好きでリンちゃん達を絶対に助けたくてしたことなの。

 だから、ミーシャちゃんが気にする事じゃないよ?

 だけど、僕ってダメだよね。

 サラさん達にまた迷惑を掛けちゃうんだから」

「迷惑だなんて思ってないよ。

 当たり前のことをしただけなんだから。

 サラさんはそれが生業だし、私達は怪我をしてたミコトをグリフォンから預けられたんだ。

 そんなミコトを見て、看病をしない奴なんているわけないでしょ?

 ……今回はリン達が死ぬ所を助けてくれてありがとう。

 それだけは言わせて欲しい。

 危うく大切な友達を失くすとこだったよ。」


 ミーシャちゃんはいつもの口癖を止めて、真剣に僕を見てそう言った。

 当たり前……、当たり前なんだ。

 今回リンちゃん達を僕がヒールした事と同じってことなのかな?

 

「うんっ。僕も半人前だけどヒーラーだからね。」

「サラさんより、上位のヒーラーが何いってるにゃ……」


 あ、もとの口調に戻った。普段のミーシャちゃんも可愛いけど、真剣な表情のミーシャちゃんってカッコイイよね。

 抱っこされてた時に見た表情とか……。


「どうしたにゃ?」

「ううん!な、なんでもないよ。」


 う~。なんだかドキドキしてきちゃった。

 顔赤くなってなければいいけど、バレてないよね?


 しばらくミーシャちゃんとお話してたら、ターヤ君が部屋にやってきた。

 いま、サラさん達はリビングの掃除をしているらしい。

 ミーシャちゃんは手伝ってくると言い、ターヤ君と入れ変わりになった。


「ミコトちゃん……大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ?」


 ターヤ君がホッと息をつき、微笑む。

 さっき、ターヤ君にまた裸を見られてしまったのを思い出し、顔が赤くなる。

 うう、また恥ずかしくなってきた。

 なんで僕は元々男の子なのに、こんなに恥ずかしくなっちゃうんだろう。

 女の子に変わった影響なのかな?

 

「さっ、さっきはゴ、ゴメンね? ビックリしちゃって。」

「う、ううん。いいの……。」


 うう、謝られると余計に恥ずかしくなっちゃうよぅ……


「お母さんから聞いたよ……ミコトちゃんありがとうね。リンちゃん達を助けてくれて。

 体は大丈夫? すごい魔法使ったって話しだったけど……」


「うん。大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃっただけだから。けど、サラさんに怒られちゃった。 サラさん怒ると怖いんだね? 」

「あはは、普段はとっても優しいんだけどね。お母さんは怒ると本当怖いよ~。 さっきリビングに戻ってきた時は、今までで一番怒ってて怖かったんじゃないかなぁ。ゲン老やレンさんすごい怖がってたよ。」


 え? そ、そこまで?

 あれ、でもさっきまで優しかったのにどうしてだろう?

 リンちゃんのお爺ちゃんが、怖がるってどれだけなのだろう。

 き、気になるけどみたくないな。


「うちのお母さんは、この国で一番怒らせてはいけないって言われてるんだよ。

 代表や長老会のお爺様達やこの国の殆どがそう思ってるんだ。

 怒った時のお母さんに近づきたくないもん。 本当に怖いし。」

「へ、へえ~……」


 本当に怖いらしい。

 お、怒られないように気をつけなくちゃ!


「ウサギ族の女性はみんな、機嫌が悪くなっり怒ると怖いって言われてるね。

 普段は気が優しい人が殆どなんだけどね~。」


 うーん、普段と怒る時の差がすごい激しいのかな?

 なんとなくそんな気がする。

 けど、ターヤ君やサラさんを見てると普段ホントに優しい人が多い気がするよ。


「ターヤ君もとっても優しい人だと思うよ。」

「そ、そうかな? 僕はちょっと気が弱いだけだと思うよ。」

「そんなことないよっ。 僕が寝て起きた時とか手を繋いでてくれたし、ベットから起きる時とか助けてくれたもん。」


 うん、とても優しい人だと思うよ。

 病院の看護士さんみたいだった。


「あはは、ありがとう。あ、そうだ。お母さんに頼まれてた事があったんだ。」


 ターヤ君はポケットから箱を取り出した。

 リンちゃんのお爺ちゃんが持ってきた箱だった。

 あ、僕の指輪!

 箱を開けてターヤ君は指輪を取り出した。


「左手の親指に確か付けてたよね? 手を出してくれる?」

「え? うん。」


 左手を差し出すとターヤ君は僕の手を取り指輪とつけてくれた。

 なんだか、顔が急にかぁっーと熱くなる。


「あ、ありがとう。」

 

 声が上ずってしまい変な声が出ちゃった。

 なんだか今まで一番恥ずかしい。ターヤ君に指輪を嵌めてもらうのって……。

 なんだか裸を見られた時以上に恥ずかしくなった。

 だって、これって……!これって……!

 現実の恋人が結婚する時の風習とか、結婚式の風習なんて知らないと思うし。

 第一、親指だしね? 左手の薬指じゃないし。

 僕が意識しすぎてるだけなんだよ。

 顔を手で隠す、だって絶対すごく赤くなってるよ。

 


「ミコトちゃん? どうしたの?」

「え、えと……そ、そのぉ……。指輪付けてもらう時って、こ、告白とか結婚式みたいで……」

「えっ……ええー!? そんな意味があったの!? ほ、僕知らなくて……。」


 ああぁー! 自分で説明したら余計に恥ずかしくなってきたよ!

 知らないなら知らないままで居てもらった方がよかった!

 顔が熱いよ! 僕何を言ってるんだろう……もう!

 熱いのが止まらない。絶対顔が赤くなってる。

 ターヤ君には変なところしか僕は見せてないんじゃないかな!

 もうやだ……。

 ふあ、頭がクラクラしてきた。


 「はわわ……ぐすっ」


 うう、泣きたくなってくる。自分が馬鹿馬鹿しくてなけてくる。


「ご、ごめんね…… 本当にごめん……僕なんて言ったらいいか……」

「じ、事件だにゃー!!」

「え、ミーシャちゃん!? ちょっと母さん達には!! まずいよ!! 今は本当にまずいってば! ミーシャちゃん!」


 ミーシャちゃんの声が聞こえると、駆ける音が聞こえた。

 えっ!? ミーシャちゃん聞いてたの? ちょっとサラさん達に言いに行ったの?

 まって! 余計に僕を恥ずかしくしないで!

 ターヤ君はミーシャちゃんを追いかけていった。

 僕も僕も止めにいきたいよ! 僕の靴は!? 僕のフロートシューズどこ!?


 靴が無いので仕方なく僕はベットの上でシーツに蹲った。

 うー……ミーシャちゃん、ひどい。

 

 しばらくして、ターヤ君はミーシャちゃん、サラさんを連れて戻ってきた。

 ものすごい真剣な表情をしてる。

 それにターヤ君、叩かれたのだろうか? 左頬が赤く腫れあがっている。

 サラさんに怒られて叩かれたのかな?

 

 サラさんは僕に平謝りしていた。

 慌てて僕は止めさせる。ただ僕がそう思っちゃっただけで、確かに結婚式でする儀式だけどって言ったら、なぜか余計にサラさんは謝るのをヒートアップしちゃって……。

 ああもう! 全部説明しないと駄目かな!? 説明するのも恥ずかしいのにー!

 左手の薬指に異性から付けてもらう事や、教会で同じようにお互い付け合うことも説明して事態の収拾はついた。


 僕の靴は洗濯しているみたい。 夜には履けるから待っててって言われた。

 そっか、昨日汚しちゃったもんね。聞くんじゃなかった……。


 もう、色々な事がありすぎて本当に疲れたよ……



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「はぁっ……はぁっ……」


 またあの悪い夢を見た。

 スケルトンに追われ、捕まってしまい刺される夢。

 

「はあ……はあ……」


 呼吸を落ち着かせる。

 まだ部屋の中は暗い、まだ夜みたい。

 窓からさす月明かりで少しは部屋の中を見渡せる。

 目を瞑ってもう一度寝ようとしても、またあの夢をみてしまうのではないか考えてしまい眠りに付くことはできなかった。


 「どうしよう……」


 眠ってからどのくらい時間が経っているのか、朝まであとどのくらいなのか見当がつかない。

 うう……いま一人で居るのも怖い。

 一人だともう眠れそうにないし……どうしよう。


 夜眠る前にフロートシューズは返してもらった。

 だからお家の中を移動することはできる、ちょっとサラさんの所にいこう。

 できたら、サラさんと寝たい。一人で眠るのが怖いんだもん。

 ベットにある枕を持って、サラさんの1階の部屋に向かった。


 

 コンコン、とサラさんの部屋の前に立ちドアを叩く。

 

 「ターヤ? どうしたの? 」


 ドア越しから、サラさんの声がする。

 起きてたみたい。良かった。


 「ぼ、僕です。ミコトです。」

 「ミコトちゃん? 」


 ドアが開き、サラさんが出てきてくれた。


 「ミコトちゃん、どうしたの?」

 「え、えと。その……」


 なんと答えれば良いのかな……


 「とりあえず、中に入って?」

 「う、うん……」


 サラさんの部屋に迎えてもらい、中に入った。

 サラさんのお部屋は結構広かった。壁際に棚は様々な薬が沢山、本棚には本がびっしりと並んでいる。

 部屋の中央のテーブルには、様々な薬、器具が置かれ其処で調合しているのかな。

 窓際には書斎机が置かれ、ランプが灯されて、本が開かれていたから読んでいたのかな?

 学者さんのお部屋? って感じ、かっこいーかも。


 「ふあ~。すごいお部屋。」

 「ふふ、ありがとう。それでミコトちゃん、どうしたの? 」

 

 何て言おう、正直にお話しするしかないかな。うん……


「怖い夢を見て、それで目を覚ましたの……昨日もそんな夢を見て。

 それで寝るのが怖くなっちゃって……」

「そうなの……じゃあ、一緒に寝ましょうか。 少しは安心できるでしょう? 」


 よかった……、一緒に寝てもらえる。けど……


「けど……、いいの?」

「ええ、私はいま一段落ついてた所だから……。ミコトちゃんは目が覚めちゃって眠れないのかしら?」


 ちょっと怖くて、今は眠れない。

 目が覚めちゃってるみたい。


「うん、怖くて目が覚めちゃった。」

「じゃあ、何か温かい飲み物でも作りましょうか。それを飲んで、少しお話をしてから一緒に寝ましょう?」


「うん、サラさん。ありがとう」


 よかった。一緒に寝てくれるって。

 ホントによかった~。

 けど、サラさんってどこで寝ているんだろう?

 この部屋には談話用のソファーが部屋の隅に2組あるけど、寝る所は……


「ああ、2階にも私の部屋があるのよ。ミコトちゃんの寝てる部屋の前ね。

 ここは私の研究室みたいなものだから……。まぁ、いつもそこのソファーかリビングで寝ちゃってて2階は着換えるぐらいであまり使わないのよね……。」


 なるほど。って、いつもソファーって……

 ええ……体は大丈夫なの?


「ふふ、慣れよ慣れ。 伊達にヒーラーをやってないわ。さ、行きましょうか? 」


 この世界のヒーラーって大変なのかな……。

 ダイニングでホットミルクを作ってもらいサラさんの部屋へ行く。

 小さいテーブルに椅子が2つ。クローゼットにドレッサーとベット。

 少し広いけど結構質素なお部屋だった。 僕のお部屋と余り変わらない。

 サラさんって族長だから、もっと豪華なお部屋なんじゃないかなって思ったけど、そうでもないみたい。


 ちょっとお行儀が悪いけど、ベットの上で作ってもらったホットミルクを一緒に飲む。


 この国には、国勤めのクレリックやプリーストが常に待機してる病院みたいな所があって、誰かが怪我をしたり、病気になったりしたらそこで大抵は済むのだけれど、中にはそれでも解決しない場合は、昼夜問わずサラさんに助けを求めに来るらしい。

 最近は呼び出しもあまり無いらしいのだけれど、名残で本を読んだり、調合などをしてて眠くなってくると、ソファーで寝ちゃうんだとか。

 健康に悪くないかな? 肌に悪かったりしないのかな? けど、サラさんは肌も綺麗だし健康そうだし美人だし……すごいなぁ。 


「ふふ、伊達に薬師もやってないわ。 それの御蔭かしらね。」


 け、健康なのに。お薬に頼ってるの? ホントに大丈夫なのかな……


「あそこは大変なのよ。いつ怪我をしてくる人がやってくるか解らないから、昼夜交代制だし、待機してても勉強するか研究をしてるかどっちかなの。寝たくても寝れないし、だから眠気を覚ます薬とか作ってみたりね。あとは何か大事故や……、そんなときは寝ていられないわ。 栄養剤とか作って飲んで、マジックポーションとか飲んで飲んで、1日中ヒーリングしてたわね。 大変よ? 冒険者のヒーラーとはまた違う意味で大変な場所ね。」


 わぁ……ホントに大変そう。

 けど……、今日僕はリンちゃん達にヒーリングを使って思ったんだ。

 ゲームの中の僕と同じように、今の僕も魔法を使える。

 サラさんに少しでも恩返しできるかもしれない。


「サラさん……、お願いがあるの。」

「うん? どんなことかしら?」


「今、僕の国があんな風になっちゃってて、僕どうしたらいいか解らなくて……

 復興できればしたいとは思ってるの……けど本当にどうしたらいいのか解らなくて……

 今の僕に何ができるのかなって。ずっと思ってて。

 それに、サラさん達に助けてもらったお礼もしたいの。

 リンちゃん達にヒーリング使った後に気づいて、少しでもサラさんのお手伝いができないかなって。

 僕もヒーリング使えるし、サラさんと同じでお薬も作れると思うから。

 だからお願いします。お礼を、少しでもお手伝いをさせてください。」


 うまく言葉にできない。けど僕が思ってた事を全部ぶちまけた。

 

「駄目……でしょうか。」

「まずは体を直さないとね。それからよミコトちゃん。」

「うん……。」


 良いとも駄目とも言われなかった。体を直した後、答えてくれるのかな?

 けどやっぱり駄目かな……。


「お手伝いはそれからよ。期待しているわ。」


 うつむいてしまった僕は予想外のサラさんの答えに驚いた。

 よかった。体が治ったらサラさんのお手伝いができる! できるんだ!

 嬉しくてサラさんに抱きつく、えへへサラさんのお手伝いをたくさんしよう。

 それでお礼ができると思うんだ。



「ありがとう! ありがとうサラさん!サラせんせっ!」

「あら? ビショップの私がミコトちゃんに教えられる事あるかしら?」


 そのあとは他愛もないお話をして、サラさんと一緒にベットに入り一緒にお休みした。

 悪い夢を見ることはなかった。



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