プロローグ
「んう……?」
僕は眠りから覚めた。あれ? 何で僕は寝てたんだろう。
酷く頭がボーっとしている。それにちょっと頭も痛い……寝すぎてしまって居たのかな。
「ここは……?」
辺りを見回すと、どこもかしこも壊されて瓦礫しか見当たらない。
「なんでこんな所で僕は寝てたんだろう? それに僕……立ったまま?」
目が覚めてから立ち上がったりした記憶は無い。ふと目線を下に向けてみると地面に足はついていなくて浮いているようだった。
僕は足元を見ると、見慣れている靴を履いている。
「ああ、ここゲームの中なんだ。」
親友の祐一、妹の美奈に誘われやり始めたVRMMO。中学生の頃にお母さんと一緒に病院にお見舞いに来て、勧められたゲーム。
中学に入ってからずっと病気で入院していて、まともに歩く事もできない僕は自由に歩き回れる事に憧れていたんだ。
祐一や妹はそれを知ってか、VRMMOのゲームに誘ってくれた。
けど先天的に足が不自由な僕は、ゲームの中でもやはり歩けない事を告げられて一度は断ろうと思ったけど、このファンタジーハートは空を自由に飛ぶことができると聞いて遊ぶ事になった。
いま僕がなっている種族、天翼人なんだ。
僕の今の容姿は、純白の白い翼が背中にあり、頭の上に天使の輪、背丈は現実だと140センチ後半あるかないかで、中学の時の背と同じ。
薄いピンク色の髪をしており、腰のすこし上あたりまである髪をおさげにしている。
髪型は美奈や、友達の女の子にいつもいじられているので、良く変わるんだけどね。
短くしたいってリクエストしてるんだけど、聞き入れてくれない。
目は少したれ目で、色はオレンジっぽい赤。ウサギの目のような感じで気に行っている。
雪のように白い、まったく日に焼けた事がないような綺麗な肌をしており、胸は……やはり女の子なのか、ホンの少しある。
そう、このキャラは女の子なんだよね。
本当は僕は男でやりたかったんだけど、無理だったんだ。
VRMMOでは、通常は現実の性と異なること普通はできないんだって。
購入と同時に手続きに入り、個人情報の入力情報を元に性別は同期されるからだそうで。
ならばなぜ、現実の僕は男なのに女の子なのか。
それは僕の分の購入と手続きはお母さんが行ったから。
僕は入院してるから、購入手続きなんてできないし仕方がないって言えば仕方がないんだけどね。
鳥翼人から転生して天翼人に今はなって、ゲームを初めて3年半経った。
左手を軽く前に掲げ人差し指と中指で十字を切るジェスチャーをする。
このゲームのメニュー画面が表示される。
NAME:ミコト・エンフィールド それが僕の名前。
ステータス、習得アビリティ、スキル、魔法、装備所持アイテム、所持金なども表示される。
簡易ステータスには僕の職業、ハイビショップとセカンド職業のハイサモナー。
祐一と美奈、そしてゲームを始めてから知り合ったギルドの皆と夢中になって遊んで、気づけば両方ともカンストしてたんだ。
いろいろメニュー画面を見ながら思いだしてたけど、そろそろ動かないと思いメニューを閉じる。
「それにしても、ここどこだろう?」
辺りを見回す、ほぼ廃墟の光景が辺り一面にある。
建物は瓦礫となり雑草の蔓が伸び絡んでいる。
舗装された道の石畳の隙間からは雑草が僕の肩あたりまで繁っており、廃墟と化してから相当の年月が経過しているみたい。
雑草の茂みよりも僕は高く浮いて散策していると、町の中央と思わしき広場に出る。
「うわ、雑草だらけで良く分からないけど……。」
広場の中央に噴水の残骸がある。噴水の周辺、またその中で何かを燃やしたのか石材は黒ずんでいる。
僕はその噴水の付近に近づいた。
噴水は半径で6,7メートルはあり結構大きかったようだ。
周りには噴水の瓦礫や真っ白な大小の石が散乱していた。
噴水の中央には石像が元々建っていたようだが、足元を残し崩れてしまっている。
「何の石像だったんだろう……。」
付近に石像の残骸がないか地面ギリギリまで降り、辺りを浮遊しながら調べてみる。
しばらく噴水の周りを散策していると石像の上半身を見つけた。
「これかな?」
後ろ姿からすると女の子の石像のようだ。
ところどころ罅が入っているように見えるが上半身の原型は保っているようだ。
石像に近づき、正面から見てみる。
「……え?」
その石像は僕に似ていた。石像の髪型、纏っているローブの上半分も酷似している。
僕が今着ているローブと非常によく似ていた。
いや、僕そのものだった。
ふっと力が抜け、噴水の白く軽い石が敷かれている中で僕は座りこんでしまった。
なんの冗談だろうか、改めて石像を見つめる。僕そっくりの石像が崩れ横たわっていた。 なぜ、こんな廃墟の中に僕の石像があるのだろうか。こんなところにあるはずがない。僕の国、僕の街の噴水に建っているのみのはずである。
「な、なに?なんなのこれ……」
動悸がして息が苦しくなってくる。良くない僕の体の前兆だ。
体が重くなってきたら、そのうち碌に体も動かせなくなる。
体を浮かして周りを見渡すと、この噴水を中心として大きな円を作り広場になっており、東西南北に道が造られていたようだ。
広場の外周には建物が並び建っていたようだが、やはり殆どが瓦礫になり果てていて、建ち残っているものも元がどんな形をしていたのか想像が付かないほど壊されている。
「……え?」
噴水から北の方向の道を目線で辿っていくと、約1km先に見慣れた城が見える。
僕の国とまったく同じ造形の城があった。
「なに!なんなの!ここは!!?」
僕に瓜二つの像、そして城。道の設置構造なども非常に酷似している。
また周辺をしばらく見回しながら考える。
ファンタジーハートで国の領地を手に入れるには、キャラクターの種族レベルのLv100とクランランク8以上のリーダーであることが必要なクエストの「王の条件」を受ける。
クエストをクリアすると領地を手に入れることができ、国を作ることができるのだ。しかし、その領地を手に入れるのがとても大変なのである。
ファンタジーハートにある既存の国の名声を上げ、その国の騎士になり、貴族になって王から領土を貰い独立するか。戦争をしかけて領土を奪うか……。
国に属されていない僻地の土地を領土とし、一から国を築くか……。
国を作る方法としては様々な手段があるが大変苦労する。
僕が行った方法はその多くある中で偶然にも織天使の称号と、3対6枚の翼を貰った際の報酬から土地を選んだもの。
既存のものではなく、新しく用意される土地。大きな島であり、大空に浮かび飛ぶ島だったんだ。
裕や美奈、そしてクランメンバー達は大変驚き、よろこんでくれた。
ファンタジーハートすべてのプレイヤーもそれは衝撃だったようで、国作りの条件が転生前の種族Lv100でも可能であり、転生クエストが実装される前から存在するシステムだった。
ほとんどのクランリーダーが既に王の条件をクリアし領地を持っていたのだから。
王の条件をクリアして領地を持っておらず、偶然にも条件が揃い神の試練で領地を貰ったプレイヤーは僕一人だったのである。
他のサーバーで誰かが手に入れたとの情報は僕の知る限り無かったはずである。
真似て作る分で文句は言わない。けど僕の石像を作り、ご丁寧に城や街を似せ、なおも破壊し街を廃墟にするなど、そんな手間暇を掛け沢山のお金を溝に捨てるようなことを誰がするのだろうか。
「ひどい! なんでこんなことを!」
僕は怒りの余り叫び息を弾ませる。体から力が抜け、また地面へと降り座り込んでしまう。
辺りが薄暗くなってきて、空が赤みがかってきた。いつの間にか日が落ち始め、今は夕方時らしい。
息が苦しい、体も重くなってきて寒気がしてきた。まずい、本格的に体調が悪くなってきたらしい。
今まで現実の体調はゲーム内では影響は無かったが、かなり悪い状態なのだろうか。
目の前の不快な状況と色々疑問があるけどログアウトしたほうがいいのかもしれないと思い、メニューを表示させる。
「ない!? なんで……どうして!?」
メニュー画面にあるはずのシステムタブの表示が無い。
システムタブのメニューへ移動ができなければ、ログアウトができない。
いや、もう一つあった。僕は仮想キーボードを表示させる。使ったことはないが、コマンド命令でログアウトすることができたはずだ。
エンターを押しコマンド入力状態が表示される。$logoutと入力し、エンターを押した。
何も反応がない。もう一度コマントを入力するが何も起きなかった。
慌てる手でもう一つのコマンドを試してみる。通常ログアウトの場合、エントランスロビーと呼ばれるゲーム会社の仮想フィールドへ戻り、そこでまたログアウトをしなければならない。
そのもう一つの方法とは、そのエントランスロビーをショートカットし現実へと戻る方法だ。急遽、現実へと戻らなくてはいけない場合等に使われる。今まさにその時だ。
$shutdown と入力し再度エンターを押した。
「どうして! どうしてなの!?」
スペルが間違っていれば「存在しないコマンドです」とか、正常ならログウィンドウにカウントダウンが表示されていくはずなのだ。
しかしログウィンドウには僕が入力したコマンドのみ表示され、ログアウトするカウントダウンのシステムメッセージは表示されなかった。
どうしたら、どうしたらいいのか頭が真っ白になり、体は震え固まってしまう。
「お願い! 出てよ! なんで出ないの!!」
ログウィンドウを見つめる。なぜ実行されないのか、スペルが間違っているのか見直すが間違ってはいない。なぜ、なぜ、何故?
待ちわび懇願する僕の前にログウィンドウからメッセージがようやく表示された。
「ミコトは身体衰弱になった。」
「ミコトは魔力衰弱になった。」




