【君は私のヒーロー 】―頑張る君へ、恋する私から―
普段はなかなか意識しないけれど、私たちが物語を楽しめるのは、それを支えてくれる人たちがいるからこそ。
そんなことを考えながら、頑張る彼と、彼を応援したい彼女のお話を書いてみました!(≧▽≦)
不器用で、ちょっと音痴で、でも愛情だけは全力な彼女の応援が、誰かの心にも届きますように♡ヽ(=´▽`=)ノ
【君は私のヒーロー】
――頑張る君へ、恋する私から――
◇◇◇
「今日もおそっくなる、のかな〜♪」
彼女はノートパソコンの前で、鼻歌まじりにペンを走らせていた。
小説家になろうのメンテナンスは、十七時から十八時までの予定。
大好きな彼は、システムエンジニア。
彼が守っているのは、ただのサイトじゃない。
誰かが書いた物語が、誰かに読まれ、本になり、アニメや映画になって、世界へ飛び出していく。その始まりを支える場所だ。
だから、彼女は応援したかった。
『お姫様を救う騎士。』
『世界を救うスーパーヒーロー。』
『ざまぁしちゃう落ちこぼれ。』
みんなが憧れるヒーローはいろいろいるけれど、彼女にとっては、スーツ姿でパソコンに向かう彼こそが、ヒーローだった。
ノートには、弾むようなリズムでラブソングを書いた。
♪ 頑張れ! 頑張れ!
♪ 私だけのヒーロー!
♪ 本になれ! 映画になれ!
♪ 君の守る夢、世界へ届け!
歌詞の横には、マントを羽織った彼が、自分をお姫様抱っこしている絵。
顔はうまく描けなかったけれど、そこは想像で補えばいい。
抱かれた女の子の頬には、小さく、赤いハートを足した。
「……えへへ。」
自分で描いて、自分で照れた。
彼女は、ノートをスマートフォンで撮った。
『お仕事、がんばって。私だけのヒーローへ』
送信してから、ふと、時計を見る。
十七時を、少し過ぎていた。
◇◇◇
その頃、彼は、画面を睨んでいた。
昨日も、遅かった。一昨日も。
張りつめた空気の中で、誰もが短い言葉しか交わさない。
キーボードの音と、手順を読み上げる低い声だけが響いている。
緊急の作業は、これで何度目だろう。
疲れは、もう、肩の奥に居座っていた。
その机の端で、スマートフォンが、小さく震えた。
見る余裕は、ないはずだった。
それでも、視線が、ほんの一瞬だけ動いた。
画面に、ノートの写真があった。
元気いっぱいの歌詞。
赤いマントの、顔がよく分からないヒーロー。
抱かれた女の子の頬に、小さなハート。
『お仕事、がんばって。私だけのヒーローへ』
「ははっ……」
彼は、息を吐いた。
肩から、ふっと力が抜けた。
口元が、ゆるんだ。
「……どうした?」
隣の同僚が、横目で訊いた。
「いえ。なんでもないです」
彼は、画面に目を戻した。
さっきまで霞んでいた文字が、はっきり見えた。
指の動きも、迷いが消えた。
一行。また一行。
作業は、静かに、滞りなく進んでいった。
◇◇◇
玄関の鍵が、静かに回った。
部屋は静かだった。
彼は、ノートパソコンの前で眠る彼女を見つけて、足を止めた。
腕を枕にして、すやすや眠っている。
その横には、開いたノート。
マント姿のヒーローと、彼に抱き上げられた女の子。
彼は、目を細め、笑った。
近くにあった毛布を、彼女の肩にかける。
それから、ペンを取った。
イラストの顔の下に、小さく書き足す。
『うまく描けてる。ありがとう。』
少し迷って、もう一行。
『俺のヒーローは、君だよ。』
──書いてから、顔が熱くなった。
◇◇◇
肩に、ふわりと温かなものが触れた。
彼女は、もぞもぞと身じろぎした。
「……ん?」
顔を上げると、すぐそばに、彼がいた。
「……ヒーロー?……わたし、寝すぎた……?」
「ただいま。こんなところで寝てたら、風邪ひくよ」
「ふぁ〜ぁ……おかえりなさい……」
時計を見る。
──まだ十八時にもなっていない。
「えぇっ!? もう、終わったの?」
「うん。早く終わった」
「すごい……!さすがは、わたしのヒーロー♡」
なんで早くお仕事が終わったのか、よくわかんないけど……。
でも、彼が帰ってきてくれた!
それだけで、胸の中が、ぽかぽかした!
「見て見て! 君の応援歌!」
まだ夢の続きにいるような、ぽややんとした笑顔で、歌い始めた。
♪ 頑張れ、頑張れ、私のヒーロー♪
♪ 君の守る場所から、夢が飛び出すよ♪
♪ 本になれ、映画になれ♪
♪ みんなの心に届けー♪
最後は、ちょっと音程が外れた。
それでも彼女は、満足して彼に抱き着いた。
「頑張ったね!私のヒーロー♪」
彼は、こらえきれずに笑った。
「ありがとう。すごく、元気が出たよ。……写真も、届いてた」
「ほんと? 見てくれたの?」
「見た。あれで、ちょっと、楽になったよ」
彼女は、目を丸くして、それから、にんまりと笑った。
「うふふっ、よかった〜♪」
小さく、そう言った。
それから、ふと、ノートの余白に目を落とした。
動きが、止まった。
『――うまく描けてる。ありがとう。』
『――俺のヒーローは、君だよ。』
彼女の顔が、ゆっくりと、赤くなっていった。
「……これ」
「あ」
彼は、目をそらした。
「その……なんだ……」
彼女は、ノートを胸に抱えた。
「消さないでね」
「消さないよ」
「ずっと、取っておくからね」
「それは、ちょっと恥ずかしいな」
「だめ。決定!」
彼女は、にこにこ笑ったまま、彼の袖をつまんだ。
「ねえ、一緒にご飯、食べられる?」
ほんの少しだけ、甘えるような声だった。
「うん。食べようか」
「やったあ!」
彼女の顔が、ぱっと明るくなった。
──世界を救う騎士も、空を飛ぶスーパーヒーローも、きっと素敵だ。
でも、彼女にとって、世界一のヒーローは、忙しい仕事を終えて帰ってきても、眠ってしまった自分に毛布をかけてくれる優しい人。
そして今夜は、一緒にご飯を食べてくれる人。
それだけで、もう十分だった。
──そして、彼にとっても。
疲れて帰ってきた夜に、元気いっぱいの下手な歌と、ノートの中の小さなハートで迎えてくれる人こそが、いちばんのヒーローだった。
「いつも、お疲れさま。ありがとう♡」
彼女が、言った。
「その一言で、また頑張れるよ」
「うふふ、いつでも言うよ。何度でも」
彼女は、毛布を肩にかけたまま、彼の隣を歩き出した。
鼻歌は、まだ続いている。
『♪ 頑張れ、頑張れ、私のヒーロー♪』
今度は、彼も小さく口ずさんだ。
音程は、やっぱり少し外れていた。
ふたりは、顔を見合わせて、同時に笑った。
世界の物語を守る君へ。
そして、君と私の物語も、これから先へ続きますように。
(了)
緊急のメンテナンスで、17時から18時までの予定が17時15分に終わるって、すごくないですか!?
ホントに、いつも、ありがとうございます♡(人ꈍᴗꈍ)




