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冥土の土産が長すぎて助かるわ

作者: たこす
掲載日:2026/03/30

 今、オレはピンチに陥っている。

 それはもう絵に描いたような絶体絶命の大ピンチだ。

 なぜなら敵対する組織の幹部に銃口を突きつけられているからだ。


 A国のエージェントであるオレは敵国の中枢に侵入して機密情報を持ち帰る任務を遂行していたのだが、ヘマをやらかしてしまった。

 まさか機密情報を保管しているサーバールームに催眠ガスがしかけられてるとは。

 おかげで気を失い、今はロープで身体を縛られた状態で取調室のような場所で椅子に座らされている。


「ふふふ、伝説のエージェント『不死身の鷹』と呼ばれるお前をこの手で始末できる日が来るとはな」


 組織の幹部はよほど嬉しいのかものすごい笑顔をオレに向けていた。


「どんな戦場でも死なないということからつけられたそのコードネームも今日で終わりだ」


 不死身の鷹。

 数々の死線をくぐり抜けてきたオレだが、今回ばかりはさすがに助かりそうもない。

 オレは覚悟を決めた。


「……殺すなら殺せ」


 どうせ家族もいない。

 知り合いも友人もいない。

 極秘任務だからオレの死も機密扱いとして闇に葬られるだけだ。

 A国も「知らぬ存ぜぬ」で押し通すことだろう。


「そうだな。今すぐに殺してやりたいところだが……。それよりもなぜお前がこんなに簡単に捕まったか知りたくはないか?」


 ニヤリと笑う幹部にオレは鼻をならした。


「知ったところでどうなるものでもあるまい」

「まあ、聞け。冥土の土産に教えてやろう。実はこの作戦はA国から暗号通信で我らの情報機関に送られてきてたのさ」

「……なに?」

「つまりお前の国には我が組織のスパイがいるのだよ」


 ハッハッハッと高らかに笑う幹部。

 どうりでこちらの動きが筒抜けだったわけだ。


「どうだ、驚いただろう? ちなみにそのスパイが誰か知りたくはないか?」

「知ったところでどうせオレは死ぬんだろう? だったらさっさと殺せ」

「まあ慌てるな。冥土の土産に教えてやる。A国のスパイは貴様の上官エドワードだ」

「エドワード大佐だって?」


 そんな、まさか……。

 家族のように親身になってオレを世話してくれてた上官がスパイだったなんて……。


「ふふふ、驚くのはまだ早い。そのエドワードの上官クリスも我が組織の人間だ」

「クリス長官も!?」

「冥土の土産をもう一つ教えてやる。そのクリスを送り込んだのはA国の軍事最高責任者サルサ将軍だ」

「サルサ将軍が!? 将軍もお前の組織の人間なのか!?」

「ハッハッハッ、そういうことだ。お前は我らの手のひらの上で踊らされていたというわけだ」


 なんてことだ。

 これは国を揺るがす大事件だ。

 なんとかこの情報は持って帰らないと。


「さぁ、おしゃべりは終わりだ。貴様の息の根を止めてやろう」

「くっ……」

「……と思ったが、冥土の土産はもっとたくさんあったほうがいいな。他の情報もくれてやろう。えーと、そうだな。実はオレはバツイチだ」


 なんかどうでもいい話をし始めた。


「あとアメリアという恋人がいる」


 それもどうでもいい。


「もうすぐ結婚する予定だ」


 どうでもいいことこの上ない。


「えーと、他にあったかな。そうだな、アメリアとの馴れ初めを話してやろう。あれは忘れもしない、数年前の冬だ。あまり覚えてないが、なんか寒い時期だった」


 忘れもしないと言っておきながら、なんで覚えてないんだよ。

 しかしチャンスだ。

 ヤツの冥土の土産話が長引いてるうちに脱出できそうだ。


 オレは身体の関節をはずし、ロープから抜け出していった。


「彼女はバーの店員でな。オレはいつものようにスコッチを飲みながら日々のストレスを発散していたんだ。そんなオレに彼女が優しく語りかけてくれた時はもう恋に落ちていた。彼女の美しさと言ったら、湖上ではばたく白鳥のような…………ぐえっ」


 長口上を垂れてるうちに、オレはロープから抜け出して幹部の頭をチョップして気絶させた。

 本当は殺してもよかったんだが、結婚間近ということらしいし、やめといた。

 幸せそうなヤツを殺すのは目覚めが悪いしな。


 それよりも、一刻も早く脱出しないと。

 オレはすぐさま幹部の持っていた銃を手に取り逃走をはかった。


 しかしオレの逃走はすぐに気づかれてしまった。 

 建物中に警報が鳴り響いたからだ。


「ちっ」


 とにかく袋のネズミにならないよう、通気口や下水道を通って逃げ続ける。

 だがオレが侵入した建物は迷路のようになっており、なかなか簡単には抜け出せそうもなかった。

 そうこうするうちに、アサルトライフルを持つ敵兵に取り囲まれてしまった。

 まさか二度も絶体絶命のピンチに陥るとは。


「ふふふ、追い詰めたぞ。不死身の鷹」


 なんかどこかで見たことあるようなないような印象の薄い男が前に出た。


「うまく逃げ回ってたつもりだろうが、無駄な努力だったな。こんなこともあろうかと貴様が気を失ってる間に服の袖にGPSを仕込んで置いたのだ」

「なんだって?」


 見るとなるほど、袖に発信器が取り付けられていた。

 オレはすぐにそれを取り外して踏みつけた。


「ハッハッハッ、今さら遅いわ! 不死身の鷹と呼ばれた貴様もこれで終わりだな! このまま蜂の巣にしてやる。全員構え!」

「くっ」


 ライフルを持った兵士たちが一斉にオレに銃を向ける。

 いよいよオレも年貢の納め時か。


「……と思ったが、殺す前に冥土の土産に教えてやる」

「なんだ?」

「貴様はクリスの誕生日を知っているか?」

「クリス長官の? いや、知らん」

「11月15日だ」

「……」


 ……それ冥土の土産なのか?


「奇遇にもオレと同じ誕生日なのだ」


 どうでもいい。


「クリスの好物は知ってるか?」

「知らん」

「ワインだ」


 いや、いらんて。


「……それがどうした?」

「先日のことだ。クリスが誕生日を迎えてな。組織内で誕生日プレゼントは何がいい? という話になったのだ。ヤツはワインが好きと聞いていたから、ワインなんてどうだ? と私が提案したら、エドワードがワインなんてナンセンスだとほざきやがってな。じゃあ何がいいんだ? と聞いたらなんてヤツは答えたと思う? 花と答えたんだ。信じられるか? 誕生日に花だぞ? 鼻で笑ってやったわ。そしたらエドワードのヤツ、怒りやがって。今、絶縁状態なんだ」


 ……ペラペラとよくもまあ冥土の土産をしゃべる男だ。

 でもまあいい。

 オレはこのチャンスを逃さなかった。

 延々としゃべり続けるヤツの目の前で手製の煙幕弾を作成した。


「それでオレはエドワードに謝罪の手紙を送ろうか、電話で謝罪しようか迷った末に直接会いに行ったんだが、あいつは会ってくれなくてな。……正直オレは少し寂しいんだ」

「いまだ!」


 ヤツの目がそれた瞬間に、オレは即席の煙幕弾を足下に叩きつけて煙幕を張った。

 瞬間、モクモクと周囲に煙幕が張られていく。


「な……!」


 オレは驚くヤツの顔を見届けてから煙幕の中をひた走った。


「に、逃がすな! 撃て、撃て!」


 直後に無数の弾丸が飛び交ったが、煙幕の中に身を潜めたオレに当たるわけもなく。

 逆に同士撃ちが始まった。


「ま、待て、撃つな! 素手で捕まえろ!」


 慌てふためく声を聞きながらオレはその間に包囲網を突破。

 無事に窮地を脱した。

 今回も冥土の土産が長いヤツで助かった。




 しかし安心したのも束の間。

 どこに隠れていたのか、またもやライフルを携えた兵士たちに取り囲まれてしまった。


「ふふふ、逃げられると思っているのか」


 今度は別のヤツが不敵に笑いながらやってきた。

 さっきのヤツよりもガタイが大きい。

 屈強そうな軍人タイプの男だった。


「こんなこともあろうかと、貴様のブーツに発信器を取り付けていたのだ」


 見るとなるほど、ブーツのかかと部分に発信器が取り付けられていた。

 オレはそれを取り除くと踏みつけた。


「今さら取り外してももう遅い。貴様はここで死ぬのだからな」

「くっ……」


 まさか三度も絶体絶命のピンチに陥るとは。

 さすがに今回ばかりは逃げ切れないかもしれない。

 せっかくここまで逃げおおせたのに……。

 それにこの男は見るからに「冥土の土産」なんか口にしなさそうなヤツだし。


「殺す前に冥土の土産に教えてやろう」


 ……あ、普通に言うやん。

 思いっきり言うやん。

 なにこの組織。

 冥土の土産を言わなきゃいけないルールでもあるの?


「世の中にはブリーフとトランクスというものがあるだろう?」

「あ、ああ、あるな」

「オレはブリーフ派だ」

「……」


 心底どうでもいい。


「ちなみにエドワードもブリーフ派だ。クリスはトランクス派と言っていたな。ふん、トランクスを履く人間の気がしれん」

「はあ……」

「どうだ、知らなかっただろう?」

「ええ、まあ……」

「冥土の土産に教えてやる。我らの組織の人間の半数以上がブリーフ派だ」

「……」


 冥土の土産にならないんだが?


「しかし市場ではトランクスのほうが圧倒的に多くてな。好みのブリーフを探すのが大変なんだ。ブリーフ派が生きづらい世の中になったものだ。そう思わないか?」

「はあ、そっすね……」

「そもそも人類の歴史上、男が下着を身につけ始めたのは紀元後という説があり……」


 それから数十分もの間、冥土の土産話をしてくれたおかげでオレは即席のロケットランチャーを作成することができた。

 すごくない?

 目の前でロケットランチャー組み立ててるのに冥土の土産話で盛り上がって完全無視だからね。


「な……! 貴様、どこからそれを……!」


 ようやく気づいたブリーフ派の大男は、驚いた顔で後ずさった。

 オレはロケットランチャーを構えて言った。


「長い冥土の土産話をありがとう」


 そう言ってロケットランチャーをぶっ放すと脱出を再開したのだった。




 その後、オレは何度も敵に包囲されたが、その都度発信器の場所を教えてくれて冥土の土産を聞かされるものだから難なく突破することができた。




 そしてA国に無事戻れたオレはその足でサルサ将軍の元へと向かった。

 執務室にいたサルサ将軍はオレの姿に驚いていた。


「き、貴様は不死身の鷹! 死んだはずじゃ……!」


 驚く彼にオレは銃口を突きつける。

 そしてこう言ってやった。



「冥土の土産に教えてやる。冥土の土産話は短めにすべきだ」と。




 パアン。




おわり

主人公がピンチになるときってたいてい冥土の土産が始まるからいつも助かってますよね。

って話を大げさに書いてみたくなりました。


お読みいただきありがとうございました。

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