第五章 プール
1
ギラギラの快晴の下、蝉時雨が騒々しい夏の日だ。窓や扉を全開にした体育館に詰め込まれた全校生徒は、ひたすら暑さを我慢していた。蒼真もまたその1人だ。
「この夏休みは、みなさんが自分の時間をどう使うかが問われる期間です。部活動に打ち込む人、受験や勉強を進める人、アルバイトや家の手伝いをする人——過ごし方は違っても、」
校長の言葉が、左耳から入って右耳に抜けていく。この後まだ、夏休みの大会に向けての部活の壮行会なるものも予定されている。げんなりする。だが、この半日を我慢すれば夏休みに入る。それだけが蒼真の希望だった。
2
「校長先生の話と重複するから細かいことは言わん。各自よく考えて夏休みを満喫するように。ホームルームは以上だ」
アラーキーも終業式の長さに思うところがあったのだろうか。若干校長をディスる言葉で1学期を締め括った。
「学校からの解放っス!」
大河が狂喜している。
「毎日部活はあるけどな」
大河と同じバスケ部に所属する蓮が冷静に水を差している。
「大河君、夏休みの練習は朝早いから遅刻しないでね」
バスケ部マネージャーの結月が追い打ちをかける。
大河がシュンとする。
「朝から晩まで部活漬けなのか?」
蒼真は結月に投げかけた。
「いいえ、昼は危険な暑さになるので11時くらいには終わるの」
「ああ、あの体育館に真昼に運動したら確かに危険だな」
蒼真は午前中の終業式を思い出しながら答えた。
「あと、水曜日と日曜日は休みね」
「部活勢は勤勉だねえ。でも遊ぶ時間もちゃんとあるじゃないか」
帰宅部の直が割って入ってきた。
「そうっスよ。だから思いっきり遊ぶぞー!」
大河が息を吹き返した。
「大河、宿題!」
玲奈が大河にまるで「お手!」と命じるかのように釘を刺す。
大河のテンションがまた下がる。
「大河がサボらないように勉強会でもやる?」
蓮が提案した。
3
夏休みに入って最初の部活休日。蒼真の家で勉強会が行われることになった。
場所については、学校や図書館、ファミレスなど案が出たものの、
「蒼真の家でよくない?広いし」
という直の提案が賛成5反対1の多数決で採択された。反対票はもちろん蒼真が入れた。
電車で来る結月、蓮、大河、玲奈の4人を直が迎えにいって蒼真の家に案内してくることになっている。
インターホンが鳴ったので、蒼真が応答した。
「着いたよー」
直がカメラを覗き込んでおり、インターホンの画面が直の顔でいっぱいいっぱいだ。
蒼真はサンダルをつっかけて、玄関ドアを開けて外に出てアプローチを駆けて門扉を開けた。そこにはニコニコ顔の直と口をぽかんと開けた他4人の姿があった。
「立派な家だね」
玲奈が建物を見上げて呟いている。
「プール付きか?」
蓮が蒼真に問うてくる。
「ドーベルマン飼ってる?」
大河が問うてくる。
「なんだか緊張する」
結月がこぼす。
「プールはないし、ドーベルマンもいない。普通の家だから緊張しなくていい。さあどうぞ入って」
蒼真は5人を玄関に誘導する。
玄関ドアを開けると、小春が正座でおしとやかに手をついて伏し目がちに待機していた。
「いつも兄がお世話になっております。ようこそお越しくださいました」
蒼真はこめかみに指を当てて小春に訊ねる。
「お前、何してるんだ?」
「お兄さまのお友達にご挨拶を」
「蒼真君の妹さん?かわいい!お世話になります」
玲奈が小春に挨拶を返す。
すると、小春は下げていた顔を上げて面々を確認し、その瞬間におしとやかな仮面が剥がれた。
「え?女の人?2人も?! どっちが兄の彼女さんですか?」
「どっちも違うよ」
言いつつ、蒼真は小春の背中をペシっと叩く。
「じゃあじゃあ、どっちが立候補しますか?!」
「候補者募集してねえよ」
蒼真はまた小春の背中をペシっと叩く。
「お母さーん!兄が女の子連れてきたよ!男子もいるけどー!」
叫びながらリビングに駆け込んでいった。
と思ったら、すぐに戻ってきた。
「小春も一緒に勉強する!自由研究は『兄のウキウキ高校生活!検証!男子高校生の青春は本当に甘酸っぱいのか?』だよ」
「自分の部屋で数学やれ!」
蒼真は小春を階段に向けて押し出してやった。小春は階段を駆け上がりつつ言う。
「フィールドワークは継続中だからねー!!
青春はデータを裏切らないー!!」
「相変わらず、台風みたいな妹だな」
直が肩をすくめる。
「兄妹仲がいいね」
玲奈が少し間違った認識をしたようだ。仲がよいのではない。小春がちょっと変なだけだ。
結月はくすっと笑う。
「……恥ずかしい」
「で、お邪魔してもいいのかな?」
結月が小春の大騒ぎがひと段落したことを確かめるように確認してくる。
「どうぞ、部屋は2階ね」
直が勝手知ったるという感じでさっさと上がり込んで2階に上がっていく。
それぞれ「お邪魔します」と言いつつ直に続いていく。結月は皆の靴を揃えてから階段を上がった。
蒼真の部屋にはあらかじめ折り畳み机を用意しておいた。
「適当に座って」
蒼真が言うと、直がリクライニングするワークチェアに我が物顔で座る。
「いや違うだろ」
蒼真は床に敷かれたラグを指差す。
直が蒼真の隣に、玲奈が大河の隣に、そして結月が蓮の隣に座った。
「分からないところがあったら蒼真君教えてね」
向かい側に座っている結月が言いながら問題集を鞄から取り出している。皆もそれぞれの課題に取り掛かる。
「蒼真君…」
蓮が何か言いたげだ。
「今日は蒼真先生だな」
直が肘打ちをしつつ茶化してくる。蒼真はちょっと直をにらみつつも何も言わなかった。
各自が勉学モードに入ってしばらくして、扉を3回ノックする音。
「蒼真、お茶持ってきたから開けてくれる?」
母の声だ。蒼真は扉を開ける。
「今日は暑いでしょう?冷たい麦茶を持ってきたわ」
蒼真は母からと麦茶の乗ったトレイを受け取る。
「ありがと」
と言って母を帰そうとするが、母は部屋の中に入ってくる。
「皆さん、蒼真と仲良くしてくださってありがとうございます。こんなにたくさんお友達が来てくれて、私とても嬉しいの」
母はにこやかに一人ひとりに視線を向ける。
「遠慮しないでね。足りなかったら言ってちょうだい。ゆっくりしていってね」
そう言って、母はゆっくりと扉を閉めて出ていった。
「素敵なお母さんじゃん」
玲奈が言う。
「まあ、そうだね」
蒼真は短く言う。
4
「蒼真君、ここなんだけど教えてほしい」
結月がチョンチョンと自分の問題集をつつく。
「それは平方完成の標準形になってるから、頂点はそのまま(2,3)だね」
蒼真は簡潔に答えるが、結月は首を傾げている。
「へいほうかんせい?」
結月が口の中で未知の言葉を転がす。
「蒼真は頭良すぎて教えるのド下手なんだよなー」
と直が評してくる。
結月の隣から蓮が問題集を覗き込む。
「頂点ってグラフの一番とんがってるところだろ?この式だとここがゼロになるときのxとyで…」
「分かった。ありがとう。蓮君教えるの上手だね」
結月が蓮に微笑む。
蓮が照れた顔をしている。
蒼真は結月と蓮の顔の近さと「蓮君」呼びする結月の心の近さを感じて複雑な気持ちになった。
「バスケ部、仲良いな」
と蒼真はつぶやいていた。
「帰宅部同士も仲良いだろ?」
横から直がまた茶々を入れてくる。蒼真はスルーした。
勉強時間も1時間半くらい経って、麦茶と玲奈が持ってきたお菓子で休憩にすることにした。
「蒼真っちはさぁ、なんで洲原高なの?もっと上行けたでしょ!?」
玲奈から蒼真への質問だった。
他のみんなも、うんうんと頷きながら蒼真を見つめてくる。
「洲原、校舎綺麗だから。あと桑原とか南とか家から遠いし」
「てことは、成績的には十分狙えたってことだよね」
玲奈が詰めてくる。
「まあ、そうだね」
「蒼真はひねくれ者なんだよ」
直が言うと、一同「あー」と納得の表情をする。
「蒼真、志望校とかあるの?」
今度は蓮が訊いてくる。
蒼真は言いづらいなあと頭を掻きながら答える。
「名大とか?」
一同から「うわー」という声が出る。
「秋から桑原に通いなよ」
大河が真面目な顔で言ってくる。
「それは無理だけど、洲原からは相当きついよ」
玲奈も真面目な顔で言ってくる。
「なんとかなる、と思う。トイレ行ってくるわ」
蒼真は逃げた。
5
休憩後も勉強会はしばらく続いた。
「蒼真先生、世界史の年号覚えるコツとか教えてほしいっス!」
大河が蒼真に勉強のコツを訊いてくる。
「年号は覚えない。年号問題なんて出ないか、1問くらいだから。それより原因と結果の関係性で同時期に起きたことを覚えた方がいい。例えばフン族の西方進出でゲルマン民族の大移動が起きて西ローマ帝国が滅亡に向かうとか」
「なるほど分からん」
大河がちょっと引いている。
「あー、なんか絶望を感じたッス!希望がほしいッス!ということで、今日の本題に入ります!」
「本題とは?」
結月が頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべている。
「要は大河は遊びの予定を決めたいのよ」
玲奈のアシストに、うんうんと頷く大河。
「バスケ部的には来週の水曜だな、マネージャー」
「そうだね」
蓮と結月が早々に日付の確定に動く。
「じゃあそれまでに結月と一緒に水着買いに行く!」
「えっ?えっ?」
結月が玲奈の方を見てワタワタしている。
「なんか知らんけど水着着用は決定なんだな。じゃナガシマにしよっか?」
直がまとめに入る。大河と玲奈は「賛成!」と手を挙げている。蓮も異論はないようだ。結月の顔には戸惑いが消えていないが、反対することもないようだ。
「蒼真も俺と水着買いに行こうな!中学の部活のやつしかないだろ?」
直がノリノリで迫ってくる。
「ああ、うん」
蒼真は押し切られた。
6
どこまでも高く青い空。きらめく太陽。
早々に水着へよ着替えを終えて女子2人を待つ男性陣。大河は一生懸命浮き輪を膨らませている。今は2つ目に取り掛かっている。
「腐っても元水泳部。今日は水を得た魚のごとき活躍を見せるぜ。それにしても蓮はいい筋肉してるな」
「直もしっかりしてるな。腐っても元水泳部」
「まあな、ふふふ」
直と蓮は待ち時間でお互いの筋肉を褒め合っていて少し気持ち悪い。
「なあ直、サーフパンツのダボっとした水着は競泳水着に比べるとなんとも頼りないな」
直は蓮から蒼真の方に振り向いて、
「ああ、スースーするなぁ。特に尻が」
「スパッツでもよかった」
「いやいや、蒼真。それではリゾート感が台無しだよ」
「言うほどリゾートか?」
「お待たせしましたー」
玲奈のはしゃいだ声がした。
男子は一斉に声のした方を振り向く。
そこには、黒いアシンメトリーのワンショルダービキニを大胆に着こなす玲奈がポーズを決めていた。
どう?と言わんばかりの自信ぶりだ。
確かに自信を持てるスタイルの良さだ。
「俺のレナをエロい目で見るな!」
「あんたが一番エロい目してるんだよ!」
「いいだろ彼氏なんだから」
「TPOをわきまえなさいよね」
蒼真は真顔を装いながらも、無意識に上から下までしっかり見てしまった。洋服姿でも目立っていたバストは黒の水着でも存在感がある。露わになったウエストはきゅっとしていて、ヒップはふんわりと。いわゆるボンキュッボンとはこういうスタイルのことを言うのだなと蒼真は正しく理解した。そして胸を再度確認してしまった。
玲奈の後ろで肩をすくめて小さくなっている結月を玲奈が「ほらほら」とか言いながら引っ張り出す。
結月は恥ずかしそうな顔をして、上目遣いでこちらを見てくる。
結月の水着はミントグリーンのセパレート。大ぶりなフリルとリボンが可愛らしい。肩幅から胸周りはほっそりとしている。しかし、腰から太ももにかけての曲線美がなんとも柔らかそうで目が離せない。玲奈の豊かさに比べると全部足してもたぶん玲奈の半分もないのに、結月に女性を感じている蒼真がいた。
「ほらほら男子ども感想は?」
玲奈が男子の語彙力を試してくる。
結月が蒼真をチラチラ気にしている。
「2人とも似合ってる」
蓮が一番無難な感想を最初に言った。蓮はこういうところでソツがない。
「レナはレナっぽい!結月は結月っぽい!」
直は分かるような分からないようなことを言う。
「蒼真君は?結月すごく迷ってこの水着買ったんだよ?」
「結月、かわいいと思う」
「かわいい!?」
「いや、水着がフリフリでかわいいなって!」
結月が赤面するもんだから、蒼真もつられてアワアワしてしまう。
「揃ったところでまずは準備運動を」
直がアキレス腱を伸ばしている。そんな直を置き去りにするように、ほかの5人は流れるプールに入っていく。
大河と玲奈は1つの浮き輪に仲良くつかまって流れに任せている。遅れてきた直はさっそく蓮に水をかけている。蓮もやり返す。
結月はもう1つの浮き輪の中に収まってバタ足をしている。
ビーチボールを抱えて突っ立っていた蒼真にも直の水攻撃が襲ってきた。スイッチが入った蒼真は直に大外刈りを仕掛けて水中にうずめてやる。その水しぶきが結月にかかって、結月がキャッと声を上げている。結月が浮き輪の中から笑顔で蒼真に抗議の水をかけてくる。
「結月、ウォータースライダー行かない?」
蓮が結月に声をかけた。
「俺も行くっス!レナ行こう!」
「あたしはいいわー。飲み物買ってくる」
大河が玲奈に袖にされている。
「じゃあ直、一緒に行こうぜ!」
「レナ、大河君借りるわねー」
直が大河に腕を絡めて玲奈ににっこりしながら許可を求める。
「蒼真は?」
直が確認してくるが、蒼真は荷物番を買って出た。
蒼真は休憩所で2つの浮き輪と1つのビーチボールを見守りつつ、行き交う人々を見るとはなしに見ていた。
そこに玲奈がストローの挿さった紙コップを両手に持ってきた。
「ほい」
「さんきゅ」
片方を蒼真に渡してくる。頼んでないものだったが、蒼真は素直に受け取った。
コーラだった。
玲奈はゆっくりと蒼真の隣に座って、人混みに目を遣っている。そのままの目線のまま、ぼそりと話しかけてくる。
「蓮君、結月のこと気になってるっぽいよね」
「そうかな。蓮は誰にでも優しいからな」
「うーん、蒼真君は結月のことどう思ってる?」
「高校での大事な友達だと思ってる」
「あっそう。まぁ大事友達なんだったら、ちゃんと見ててあげなよ」
「レナ、何飲んでるの?」
「爽健美茶」
「そっか」
蒼真は苦手ジャンルの話題から離れようとしたが会話を止めてしまった。蒼真はコーラをごくりと飲んだ。玲奈は日焼け止めを塗り直している。
「蒼真君、背中塗ってくれない?」
「バカ!大河にやらせろ!」
「あはは!だよねー」
玲奈は蒼真のウブな反応を笑った。
7
ランチタイムを挟んで昼過ぎまで遊んだ一行は、帰路についた。駅までのバスに揺られている。結月の隣に玲奈、直の隣に蒼真、大河の隣に蓮が座っている。彼らも含めてバスの客は心地よい疲れに包まれているようで、会話の声も控えめだ。
「今度はジェットコースター乗りにこよう」
「えーやだー」
「怖い?」
「内臓が浮かび上がって気持ち悪いよ」
直と玲奈だけが通路を挟んでボソボソ話している。
結月は車窓を眺めて静かにしている。蒼真も玲奈たちの会話には入らずぼんやりしている。
大河は蓮の肩に身を預けて寝ている。
玲奈と直はコソコソと話を話を続けているが、蒼真には聞こえなかった。
バスが駅に着いた。
「大河、明日の部活、遅刻するなよ!」
言い残して、駅まで自転車で来ていた蓮が分かれる。
大河と玲奈は2駅先の旭駅まで。直と蒼真、そして結月はしばらく先の海蔵駅まで電車に乗る。
屋外の駅ホームは灼熱だったが、電車の中はしっかり冷房が効いていた。すでに赤くなってしまっている大河の鼻の頭を、玲奈がつまんで遊んでいる。玲奈は何度も日焼け止めを塗り直していたので白さをキープしているように見えるが、本人曰く「焼けたわー」とのことだ。
旭駅でカップルが降りた。それに続いてなぜか直が降車した。
「直、なんで?」
蒼真が問う。
「レナがハーゲンダッツ奢ってくれるから」
と、分からない返事をしてきた。
電車の扉が閉まると、玲奈と直が悪い笑顔で手を振っていた。
「日焼け大丈夫そう?」
結月と2人になった蒼真は、腕に化粧水をひたひたと塗る結月に問いかけた。
「痛くならないように今のうちにケアしとかないとね」
と結月はこちらを向いて微笑んでくる。
「蒼真君も塗る?」
と言って、結月は化粧水の容器を蒼真に見せてくる。
「元水泳部は日焼けなんて気にしないさ」
蒼真は言った。
電車は洲原高校の傍を通過していく。
校舎は夕暮れに染まりつつあった。
「今日、すごく楽しかったね」
「みんな元気だったなぁ。結月も結構はしゃいでたよな」
「はしゃぎすぎて疲れたよ」
「そうだな」
会話がふっと途切れて、結月が蒼真に身体を預けてきた。結月を見てみると眠っていた。腕に伝わってくる結月の体温を感じながら、蒼真は穏やかな気持ちに包まれた。安心感のようなものが心に満ちていた。そのまま蒼真も眠ってしまいそうだったが、寝過ごさない程度にかろうじて意識を保った。
恥ずかしげに水着姿で現れた結月。浮き輪の上に座って綺麗な足を惜しげもなく投げ出していた結月。歓声を上げながらスライダーを滑ってきた結月。蒼真は今日の結月の姿を自然と思い出していた。
海蔵駅の少し手前で結月の膝をとんとんして蒼真は結月を起こした。どうやって起こそうかいくつかの方法を考えた上での膝とんとんだった。
「ごめん、寝ちゃってたね」
「もう駅に着くよ」
「自転車どこ?」
改札を出ると結月は訊いてきた。
「あっちに駐めてある」
「じゃここで待ってる」
結月はここからも一緒に帰るつもりのようだ。
蒼真は結月の横を自転車を押しながら歩いていた。
「さっきは寝ちゃってごめんね」
結月が再び謝ってくる。
「いいよ、疲れたよね」
「なんかね、蒼真君といると、なんか楽なんだよね。なんでだろ」
「僕も。僕もさっきから同じようなこと考えてた」
「じゃあ、ここで大丈夫だから」
「あ、うん。通り道だったから」
「ありがとう。またね!今日の写真とかメッセするね!」
「うん」
結月は少し小走りで路地に入っていく。途中で振り返って蒼真に手を振ってきた。蒼真も手を振りかえして結月を見送った。
1人になった蒼真は自転車にまたがることなく歩いていた。
玲奈の「ちゃんと見ててあげなよ」という言葉を思い出す。
「見てるよ、ちゃんと」
蒼真は心の中でつぶやいた。




