79. 別行動
シルクはフードを被っていない状態で、且つ真顔のままこの場をどう切り抜けようかと考えていた。
目の前には魔物討伐特攻隊の一員であるぺーシェがにこにこと笑顔を浮かべており、その隣では同じく魔物討伐特攻隊のプラットが静かに外の景色を眺めている。
シルクの隣では、シャロンが緊張しながら目の前の二人の様子を伺っている。
現在シルクはクロテッド社長の自家用車に乗り込んでおり、ぺーシェとプラット、シャロンも同行している。
自家用車はクロテッド社長の邸宅へと向かい移動している状態である。
何故このような状況となったのか、時は数十分前に遡る。
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孫娘と会って欲しいというクロテッド社長の真剣な願いに、シルクはどう答えようかと当初困惑したのだが、代わりに答えるようにグレイが隣から声をかけた。
「会うくらいなら良いんじゃないかな。体力をどうにかできるなら、その分時間を稼げるだろうし」
「…それでもよろしいでしょうか」
「構わない、可能であれば今直ぐにでも会って欲しい」
クロテッド社長は食い入るような勢いで答えた。
初めて会った時は表面上では余裕の笑みを浮かべているように見えたが、やはり内心は焦っていたようだ。
様々な人と関わる中で観察眼が鍛えられていたシルクは、予想が当たったことにほんの少しだけ安堵するも、直ぐに気持ちを切り替えてクロテッド社長と向き合う。
しかし、再び直ぐにどうしようかと困惑した。
この後は関連施設に出向く予定が入っている。パナシアンベリーの種を保管している重要な施設であり、種を扱う許可を得る為にも出向き必須だ。
グレイ自身は施設等で活動していた際の理不尽な対応を思い出すのもあって、出向くこと自体に積極的では無いのだが、流石に今回は必要なことである為仕方がないと無理矢理割り切らせている。
しかしやはり行きたくないからか、グレイはクロテッド社長の元へと向かうことへ興味津々な様子である。
「これはもう今直ぐに行くしかないでしょ、という訳でささっと準備を…」
そこに、ぽんとカネルの手がグレイの肩にのせられる。
カネルは笑顔であるものの、無言の圧を感じさせる雰囲気を漂わせていた。
「グレイはこの後、関連施設にパナシアンベリーの種を使用する許可を貰いに行かないといけないだろう?」
「…それは社長さんの所に行ってからでも遅くは無いんじゃないの?」
「あくまでもシルクさんが会うようにと言われているんだ。それにそろそろ昼時なんだし、この時間帯を狙った方がアポを取りやすいんじゃないか?」
グレイの表情がみるみるうちにしかめっ面になっていくのに対し、カネルは笑顔のまま対抗する。
「確かに施設から許可を得るのも大切な役割だ。グレイ君、よろしく頼んだよ」
そこにクロテッド社長が追い討ちをかけるように声をかける。
本人に至っては追い討ちをかけているつもりは無いのだが、グレイは雷に撃たれたかのようなショックを受けた表情を浮かべた後、肩をがっくりと落として項垂れた。
「…てことは、先生とシルクは別行動?」
シャロンが引き攣った表情で呟く。
ミュスカもしまったとでも言うように、眉間に皺を寄せて指で押さえた。
シルクも固まって一瞬思考が停止した。
現時点で此処にいられるのは、グレイ達と共に行動しているからだ。
仕事ならば兎も角、一応プライベートでもある状況で一人見ず知らずの場所へ、しかも素顔を出したまま向かう事は未だに慣れていない。
狐面をつければと一瞬考えるも、このタイミングで今更素顔を隠したところでなぁ、と諦めの領域に達してしまう。
もうこうなれば仕方が無い、割り切るしかない、と心の中で無理矢理言い聞かせた。
「…そうなりますね」
「そんなぁ~…ねぇカネル、施設で許可を貰うのは君でも十分なんじゃないの?」
「実際に扱うのはグレイなんだし、本人無しで許可を貰うのは難しいな。一応僕も同行するからそう心配するな」
「うぐぅぅ」
グレイはしかめっ面から悲しげな表情に変わり、シルクの方へ視線を移す。
施設に行くのが相当嫌なのだろう、若干瞳が潤んでしまっている。
「でもほら、シルクだけで行かせるのは僕の良心が痛むしさぁ…」
「なら誰かを同行させれば良い、グレイは強制的にこちら側だぞ」
カネルはグレイの肩を掴んで離さず、圧を含んだ笑顔で制止させる。
呻き声のようなうな唸りを小さく上げながらグレイはカネルを横目で睨み、再びシルクに視線を向けては仔犬のように潤ませた瞳に切り替わる。
なかなか器用なことをするなぁ、と静かに考えながらシルクは軽く溜息をついた。
「私のことは気にしないでください。施設の方に関しては博士にしかできないことなんです、頑張りましょう」
「そうだよ先生、もう腹を括れっての」
最終的にグレイは縦に頷いたものの、魂が抜けたかのようにぐったりしながらミュスカにもたれかかった。
溜息交じりにミュスカがグレイの方へ同行すると言い、それならばとシャロンがシルクの方へと同行することが決まる。
こうして別行動のメンバーが決まった…と思いきや、ここでカネルがとある提案を持ち掛けた。
「流石にこの状態のグレイを、僕とミュスカだけで面倒を見るのはなぁ…もう何人か来てくれないか」
その瞬間、部下達は直ぐにカネルから視線を逸らした。グレイと関わるのは正直懲り懲りだと言わんばかりの視線の逸らしようである。
流石にカネルもこの反応は予想できていたのか、ならばと更に提案を追加した。
「どうせならこちらも二手に分かれてしまおうか。二人は僕達と施設へ、もう二人はクロテッド社長の邸宅へとな」
この提案にはシルク達も驚いた。
意図が読めない提案にシルクは困惑するも、部下達はこの提案にぴくりと反応する。
カネルはにこりと笑顔を浮かべ、言葉を続けた。
「今回の依頼の件でグレイとシルクさんは重要な存在だ。この二人に何かあっては困るから、しっかり護衛しないとだろ?」
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そういった経緯があり、シルクとシャロンにはペーシェとプラットが護衛としてついて来ることになったのである。
ちなみに、アベルとレザンはグレイから指名されほぼ強制的に連行されて行った。
『アベル君とはまだまだ魔法植物について沢山語れてないもんねぇ!その次にはレザン君だね、以前話していたハイドロリリィの生態についてまだ途中だったし、これを機にまた語ろうじゃないかぁ!!』
…と、やけになったグレイにがしりと捕まえられていた光景を思い出し、シャロンは静かに苦笑いを零した。
「…博士、大丈夫でしょうか」
「まぁ…何とかなるんじゃねぇの?」
あの二人よりもグレイの方を心配するのか、とシャロンはまた別で苦笑いを浮かべた。




