77. 魔力貯蔵機
クロテッド社長も会議室内に案内され、倉庫から追加の魔力貯蔵機が運ばれてくる。
あるだけの量が取り出され、ミュスカとシャロンは開いた口が塞がらないとでも言うようにぽかんとした表情を浮かべていた。
「流石に多すぎじゃね…?」
「まさかこんなにあるとは思っていませんでした」
テーブルの上に置かれている貯蔵機の数はざっと三十。
ちなみに魔力放出機一台に対し、貯蔵機は一つ挿入される仕組みになっている。
「放出量が多い分貯蔵機の消費量も比例して多くなってしまうからね。うちの開発部で創り上げた物でも、今はこれが限界なんだよ。最大値で放出するとなると、一つの貯蔵器で約三時間が限界になってしまう…まだまだ改良が必要になるだろう」
クロテッド社長は笑顔ながらも、申し訳なさそうにそう答える。
「パナシアンベリーは大量の魔力を必要とするから、放出量は最大値で良いだろうね。となると三時間分を三十個だから、九十時間はもつ…としても、足りないだろうねぇ」
パナシアンベリーの人工栽培は事例が無く、成長過程や時間は未知数となる。
追加で魔力を注いだり肥料を使用して成長を早めようにも、元から膨大な魔力を必要とする分時間はかかってしまうだろう。
「この貯蔵機一つに対してどれだけの魔力を注ぐ必要があるのかも気になります。適宜注いでいくとなれば、その時間も考慮しないといけませんよね」
ミュスカがそう疑問を呈すると、シルクも同様に気になりながら貯蔵機を手に取る。
すると突起部分がある側面の端で小さい四角のランプが赤く点滅した。
シルクはこの瞬間、魔力が貯蔵機の方へと流れていく感覚を覚える。
「我が社の開発部で何度か試験を繰り返したんだが、集中して魔力を流して最速一時間といったところだね。流石に一時間ずっと集中してではなく累計にはなるのだが…貯蔵中は赤いランプが点滅して、貯蔵が完了すれば緑になるはずだよ」
成程と思いながら、シルクはそのまま魔力を送り込むことを意識してみる。
貯蔵機の構造が気になるのか、グレイも一つ手に取ると手元でくるくると回転させたり下から眺めたりしてみる。
「累計かぁ…確かに一時間もずっと魔力を流し込むのに集中するのはなかなか大変だろう、ね…」
グレイはぴたりと動きを止め、シルクの手元に視線を留めた。
シルク自身も手元の貯蔵機に視線を留め、目をぱちくりとさせる。
赤く点滅していたランプは、既に緑色になっていた。
累計で一時間かかるはずでは?とシルクは軽く首を傾げてしまう。
「手に持って魔力を注ぎ込むのを意識するだけ、と言葉だけでは単純に聞こえるだろう。しかしグレイ君の言う通り、一定量の魔力のまま持続して注ぎ込むのには大きな集中力が必要となるんだ」
向かい合わせで座っているクロテッド社長には位置的に緑のランプが見えておらず、難しそうな表情で説明を続けている。
シルクは既にそれなりの魔力が内蔵されていたのかもしれないと思い、テーブルに置かれている貯蔵機の山からもう一つ取り出す。
そちらからも魔力が送り込まれていく感覚を覚え、そのまま意識を集中させてみると直ぐに赤いランプが点滅した。
「一時間と言うのも、開発部の中で魔力保持量が多い者が実際に行って最速だった時間になる。数回に分けて行ったとしても魔力が消費している訳だ、貯蔵後はしっかり魔力を回復させる必要があるから、それも考慮して使用してほしい。ばててしまったら元も子もないからね」
「分かりました、扱う際には気を付けるようにします」
返答したカネルは貯蔵機を持っているシルクの方へと視線を移す。
シルクの両手にはそれぞれ一つずつの貯蔵器。
どちらもランプの色が緑色になっていた。
シルクは顔色一つも変えず、再び首を軽く傾げてからちらりとグレイの方に向く。
グレイは笑いを堪えているのか、吹き出さないように口をきゅっと閉じて肩を震わせている。
「…実際に魔力を流し込んでみても良いでしょうか」
「あぁ勿論だとも。魔物討伐特攻隊の皆さんは高い魔力をお持ちでしょうから、もしかしたら三十分もかからないかもしれませんな」
カネルの提案には部下達も反応し、各自が一つずつ貯蔵機を手に持っていく。
つられてミュスカとシャロンも手に持ち、試しにと魔力を送り込む事に意識を集中させてみた。
「…魔力が流れていく感覚がありますね」
「一気に高い魔力を注ぐのもありなんでしょうか」
「勿論ありだとも。だがそれに比例して魔力が消費されるから気をつけるようにね」
各自で魔力を流し込んでみるが、皆赤いランプが点滅したままだ。
唯一緑色になっているのはシルクの持つ貯蔵機のみ。
自身の魔力が消費されたのは確かなのだが、相変わらず疲れた感覚は無い。
至っていつも通りの感覚である。
「う…確かにこれをずっと一定のまま集中して送り続けるのは大変かもな」
「この量の貯蔵器全てに魔力を送り込むとなると、相当な魔力量になりますけど…シルクさんは今どんな感じですか?」
軽く質問するノリでシルクに尋ねるミュスカだが、シルクの手元を見たまま固まってしまう。
近くにいたシャロンも同様に固まってしまい、シルクは真顔のまま手に持っている貯蔵機をランプが見えないようにして膝の上に置いた。
何やら視線を感じると思い、ふと顔を上げるとカネルがじーっとこちらを見つめていた。
興味深そうに、好奇心を抱いているかのように目を軽く細めている。
見なかったことにしよう、とシルクは直ぐに視線を逸らした。




