75. 興味の誘導
「これって何かに似ていると思ってたんだけど…あれだ、電池だね。突起部分がプラスで反対側がマイナスみたいな」
「グレイの言う通り、電池の魔力バージョンってとこだな。突起部分に向かって魔力を注いで貯蓄していくんだ」
「成程ねぇ…だってさシルク、単純なやり方だから直ぐ出来そうだよ」
「……はい」
グレイは筒状の機械である魔力貯蔵機を手に持ちながら、背後にいるシルクに声をかける。
シルクは普段よりも小さな声で返事をするが、そこから一歩も動こうとしない。
しまいにはフードを深く被ってしまっており、表情を確認するのも難しい。
グレイは長めの溜息を吐き、やたらと視線を向けてくる者達に向かって声を上げた。
「ちょっと君達ぃ!そんなに僕の事を見ても何も起きないんだからねぇ!」
「いやお前じゃねぇよ」
カネルはジト目を向けながら突っ込みを入れ、グレイから指摘された部下達は一瞬驚いた表情を見せるも、直ぐに同様のジト目を向ける。
正確に言えばグレイではなく、その背後に隠れているシルクに視線を向けていたのだが、見過ぎていた事には変わりはない。
各自が不自然ながらも視線を逸らすが、やはりちらりとシルクの方へと視線を戻してしまう。
そんな様子にはシャロンとミュスカもつい呆れた表情を浮かべてしまう程である。
「と、兎に角!この貯蔵機と放出機を持ち帰りましょう。貯蔵機は多めにあるんですよね?」
「あぁ、さっきの倉庫に多めに置いてある。会議室に戻ろうか」
「そうだねぇ…あ、その前にさ」
グレイはジト目からころっと笑顔に戻ると、カネルに向けて興味深そうな視線を向ける。
「折角僕達も測定したんだ、カネルの魔力は今どんな感じなんだい?」
カネルは苦笑いを零し、一瞬シルクの方をちらりと見てから魔力測定器に視線を移す。
グレイの言葉には部下達も反応し、自然とカネルの方へと注目する。
「あの数値の後にするのは、何だか気が引けてしまうな」
そう言いながら、その場で手元に小型のナイフを一本取り出す。
一瞬強い魔力が込められたと思えば、そのまま魔力測定器に向かってナイフを素早く投げた。
ぶれなく一直線で放たれたナイフは風の魔力を帯びる事で、通常で投げる時よりも速度が速くなる。
魔力測定器にナイフが突き刺さるも、測定器自体はひび割れる事無く、ナイフは魔力が解放されて通常の物に戻りその場に落ちてしまう。
頂上に表示されている数値は、”二千百五十七”と表示された。
「なーんだ、カネルも良い数値を叩き出してるじゃん」
「定位置よりも遠い場所からで、しかも軽く一振りで見事な命中力…」
「やっぱカネルって凄ぇよな…分かってはいたけど魔力も高いし」
グレイに続いてミュスカとシャロンも驚いた表情のまま言葉を漏らす。
フードを深く被っていたシルクも隙間から様子を伺っており、目をぱちくりと瞬きさせている。
「…凄いです」
そうぽつりと小さく言葉を漏らすと、それが聞こえたのかカネルがくるりとシルクの方へと振り向く。
視線が合った事でシルクは一瞬肩を揺らし、再びグレイの背後に完全に隠れてしまった。
「はは、シルクさんにそう言われると何だか嬉しくなるな」
「流石隊長~、一瞬で攻撃態勢に入って攻撃を済ませてしまうんですから。隊長が凄いのは当然ですよねぇ」
ペーシェが自身満々気にカネルを称賛し、他の部下達も同様の事を考えているからか満更ではない様子である。
カネルは普段のように笑顔を浮かべながら、グレイに…では無く後ろに隠れているシルクに近付いて行く。
「魔力もそうだが、先程の拳銃の構え方からして、武器の扱いには慣れているようだし…是非他の武器を扱っているところも見てみたいんだよな」
「…他の武器、ですか」
「そうそう、例えば刀はどうだ?」
「ちょっとちょっと、僕を挟んで会話しないでくれる?」
グレイは呆れた表情でカネルに訴えかけるが、カネルは笑顔を崩さずに興味津々な様子。
刀という言葉には静かに様子を伺っていたアベルも反応し、鋭い目付きをシルクに向ける。
他の部下達も興味がある様子で、若干そわそわしている。
しかしグレイがきらりと伊達眼鏡を光らせながら部下達の方へと振り向き、部下達はびくりと肩を震わせた。
「僕の事をじーっと見ちゃって…そんなに僕とお話ししたいのかなぁぁ!!」
「あんたにじゃないですよ!こっち来んな!」
「怖い怖い怖い!そんな目で見ないでくれ!」
「いやあぁぁ!匂いが移ったらどうしてくれんのさ!」
「ふははは!逃げるなんて酷いじゃないか君達ぃ!」
わざとなのか否か、グレイは両手を大きく広げながら部下達に突進する勢いで近付いていき、それに驚いた部下達は顔を青ざめさせながら逃げ回る。
突然その場から離れてしまった事で身を隠す場所が無くなってしまったシルクだが、近くにいたシャロンとミュスカの方へ静かに移動し、フードを深く被った状態のまま背後にまわった。
「あれも先生なりの配慮だと思いますよ」
「ある意味いつも通りの光景でもあるけどな…まぁ気にすんなよ」
「…はい、ありがとうございます」
やたらと注目されるのが苦手なシルクにとっては、グレイの突飛な行動に注目が移るのに申し訳なさを覚えると同時に感謝の念を抱くものであった。
しかし次の目的を果たす為には、まずはこの場を治める必要がある。
どうにかしてグレイを落ち着かせようと考えるも、それは途中で中断される事になる。
グレイが背後からアベルの肩に触れようとした瞬間、咄嗟に振り向いたアベルがグレイの伸ばした腕を掴んで背負い投げをしたところで、グレイの暴走は強制終了されたのであった。




