73. 張り合い
「僕は武器を所持してないからなぁ、普通に魔法をぶつけるだけでも良い?」
「勿論良いぞ」
「そんじゃあ張り切ってやっちゃおうかな~!」
グレイは左肩を軽く回しながら定位置へと向かった。
普段から主に浮遊魔法や、研究中の際に火や水の魔法を使用しているところしかシルクは見た事が無く、攻撃魔法として見るのはこれが初めてとなる。
感じ取られる魔力の流れや、即座に魔法障壁を貼ったりと器用に魔法を扱っている所から、魔法の才能が十分備わっているのは既に伺えている。
皆が興味津々で注目する中、グレイはいつもの笑顔で魔力測定器に向かって左手の人差し指を向けた。
「普段から使い慣れてる魔法の方が威力は上がりやすいからねぇ、てなわけで…」
指先に魔力が込められると、一つの火の玉が出現した。
魔力が込められると火の玉は大きくなっていき、部下達は息をのんでその様子を見守る。
「レッツファイヤー!…なーんて、ねっ!」
橙色に熱く輝く炎が魔力測定器へと一直線に放たれ、勢いよく衝突する。
衝突と同時に魔力測定器の球体部分が炎で包まれるも、吸収されるように炎は消えていく。
その後頂上に数値が表示された。
「…九百三十二」
部下達は驚きを隠せない表情で固まったままグレイを凝視している。
ふうと深く息を吐いたグレイはけろっとした表情でカネル達の方へ振り返った。
カネルは部下達の様子を見て苦笑いしながらグレイに語り掛ける。
「本当相変わらずと言うか…正直部隊に欲しい人材ではあるんだよなぁ」
「僕は研究一筋だからね、運動系じゃないって言ってるでしょ~。魔力が高くても体力はそこまでだし」
「徹夜で研究できる体力があるんだ、鍛えれば何とかなるだろ」
「それとこれとは別なのさ。さて、次は君達の番だよ」
グレイはシルクの背後にまわってしまっているシャロンとミュスカに声をかける。
二人はびくりと肩を震わせて顔を引き攣らせている。
「分かってはいたけど、先生も本当えげつない魔力量なんだよな…改めて実感できたというか」
「もう、腹を括るしかありませんよね」
「…頑張ってください、御二人も良い魔力を持ってますから」
シルクに励ましの言葉をかけられ、互いに覚悟を決めたような表情を向け合って頷く。
緊張感を纏いながら二人は前へと進み、途中で同時に立ち止まる。
「…どっちから行くんだ?」
「僕はどちらでも大丈夫ですよ」
「じゃあ先にミュスカに譲るよ」
「おやおや、後になる方がプレッシャーなんじゃないですか?シャロンが先でも良いんですよ?」
「どっちでも良いから早く始めなよ…」
順番の押し付け合いが始まったところでペーシェの突っ込みが入る。
後ろではグレイが笑いを堪えているのか小刻みに震えていた。
結局はじゃんけんで順番を決める事になり、ミュスカが先となった。
「絶対笑わないで下さいよ!」
「笑うわけ無いでしょ~、自分で言うのもあれだけど僕らは比較対象外だよ」
「頑張れ~」
ミュスカは気持ちを落ち着かせるように深呼吸し、魔力測定器に向かって両手を掲げる。
目を閉じて意識を集中させると、掌から風が巻き起こり、少しずつ勢いは強くなっていく。
「ミュスカは風魔法が得意なんだよねぇ、この前吹き飛ばされた時はびっくりしたなぁ」
「お前何やったんだよ…」
そう言えばこの前、疲れたと言いながら広間のソファでだらだらしていたところを「掃除の邪魔だ」と言われながら吹き飛ばされていたような…とシルクは静かに思い出す。
確かに掃除の最中にだらだらと過ごされていては、正直邪魔でしかない。
風魔法で吹き飛ばした事で余計に掃除の箇所が増えてしまい、後々大変だったのは此処だけの話だ。
風圧の塊がミュスカの手元から放たれると、勢いよく魔力測定器にぶつかった。
放つ勢いが安定していなかった為か、放たれると同時にミュスカはバランスを崩して後ろに尻もちをついてしまう。
魔力測定器の頂上には、四百三と表示される。
「学生で四百以上を出すなんて筋が良いじゃないか」
「まぁ、まだまだ青いけどねぇ」
魔法を放った後のミュスカは軽く息を切らせており、数滴の汗を流している。
日頃から強い威力の魔法をぶつけることに慣れていない為、いきなり本気の魔法をぶつけるとなるとコントロールが難しくなるのだ。
「さぁ、次はシャロンの番ですよ。精々僕より高い数値が出るのを期待してますからね」
「自分の番が終わったからって良い気になるなっての」
互いに軽く睨み合いながらすれ違い、続いてシャロンが定位置に着く。
二人の絡み合いはいつもの事である為、グレイは微笑ましそうに様子を伺い、シルクも無表情ながらも安心したような雰囲気である。
シャロンも同様に両手を掲げて意識を集中させると、冷たい空気が掌の先に集まる。
氷の塊が冷たい音をたてながら少しずつ大きくなっていく。
「シャロンの魔法も頼もしいよ。植物を崩さずに凍らせたり、足元を凍らせて動けなくさせたりと器用に扱うからねぇ」
「足元を凍らせてってのはお前の体験談か?」
そう言えばこの前、実験の手伝い中にシャロンをからかい過ぎてしまい、誤ってかわざとか足元に氷魔法をぶつけられて身動きが取れなくなっていたな、とシルクは再び静かに思い出す。
そもそも二人から魔法を繰り出された時に即座に魔法障壁を貼れば良かったものをそうしなかったのは、グレイが二人に対して甘いからなのか、信用しているが故なのか。
正直どちらも有り得そうではある。
氷の塊が拳一つくらいの大きさになったところで勢いよく放たれ、魔力測定器にぶつけられた。
シャロンは軽くよろけながらも転ぶことは無く、後ろに一歩下がった状態で魔力測定器の頂上に注目する。
頂上では四百十と数値が表示されている。
シャロンは即座にミュスカの方へ振り向き、にやりと笑みを浮かべた。
「どうだよミュスカ、俺の方が高い数値だっだぜ!」
「僅差じゃないですか!せめて十以上の差をつけてから自慢したらどうです!」
「はいはい、二人とも喧嘩しないの~」
グレイは言い合いを始める二人の頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でる。
あまりにも嬉しそうに撫でているのを、部下達は意外だなと言わんばかりにこそこそと会話をしだしていた。
「あの人でもあんな表情するんだな」
「いつもにやにやと怪しい笑顔で追いかけて来るイメージが強すぎるもんね」
「…やめろ、思い出させるな」
「あ、やっぱりアベルも被害に遭ってるじゃん」
「…こほんっ、それじゃあ次は君の番かな」
カネルが軽く咳ばらいをすると、言い合っていたシャロンとミュスカがぴたりと止まる。
部下達も改めて姿勢を正し、シルクの方へと視線が集中される。
シルクは再び視線が集まっている事に身を軽く強張らせ、誰とも目が合わないように視線だけを逸らした。
カネルだけでなく部下達全員も、シルクから感じ取られる魔力の流れに興味津々な状態である。
「……頑張ります」
シルクは無表情で固まったまま、ぽつりとそう呟いた。




