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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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71. 見本

 エレベーターから降りると、広々とした空間が視界に広がった。


 普段から訓練場として使用されているこの場所は、魔物討伐特攻隊だけでなく、他の部隊の者達も使用しているとの事。

 しかし今日は人が少ない…どころか、今やって来たシルク達しかこの場にはいないようだ。



「丁度この時間帯は使用する人は少ないんだ。いつもは夕方頃になると多く集まりやすい。午前中は基本的に各自の業務で忙しいからな」


「へぇ、今日は魔物討伐特攻隊はお休みだったり?」


「いいや。これも一応業務の一環として許可を取ってるんだよ」



 カネルは訓練場の奥を指し、皆がその先に視線を移す。

 大きい球体が目立つ、チェスの駒のポーンのような見た目のオブジェが置かれている。




「あれは普段の訓練でも扱っている魔力測定器でな、あれなら本気で魔法をぶつけても大丈夫だぞ」



 カネルはさぁどうぞ、と促す様にシルクに視線を向ける。


 明らかなご指名にシルクは少し肩を竦め、ストールの中で溜息を吐く。



 しかし完全に嫌という訳でもない。

 自身の魔力がどれだけのものなのかを把握していないのも事実だ。

 これを機に魔力量を測って、魔法の扱い方を改めて見直してみるのもアリなのかもしれない。


 ただ、目立つことは避けたい。だからあまりじーっとこちらを見られるのは困るのだ。

 隠れられる場所があれば直行して隠れてしまいたい、そんな気持ちに襲われそうになる。



 シルクが一歩前へと足を踏み出そうとするのと同時に、突如グレイが声を上げた。




「ちょっと待ってくれないかい。どうせならまずは見本を見せてほしいよねぇ?」



 グレイはそう言いながら、部下達へと視線を移して満面の笑みを向ける。

 グレイにとっては純粋な興味からの笑みであるのだが、これまでグレイに振り回された経験のある者達はその笑顔が若干怖く感じられてしまう。


 カネルはふむ、と視線を斜め上へと向けてから、ではこうしようと提案を出す。



「じゃあ打ち抜き試験だ。各自本気で魔法をぶつけて、七百五十以上の数値を叩き出せたら合格だ」


「…七百五十って桁違いな数値に聞こえるんだけど、これが基準なのか?」




 シャロンは聞き間違えたか?と引き攣った表情でグレイに訪ねる。


 通常の測定とは異なり、本気の魔法という条件での数値である為、通常と比べれば高い数値になるのは頷けるだろう。

 それでも明らかに高い設定じゃないかとシャロンは困惑し、ミュスカも隣で同じような反応で冷や汗をかいている。



「基準…とはいい難いかなぁ。六百以上あれば十分強いんじゃなかったっけ」


「そうだな。試験で六百以上の数値を叩き出せれば高得点、五百台で及第点ってとこだ」



 そこでシルクはふと思い出す。


 アパートにてグレイに表示された魔力量は五百台であった。その数値は通常の、本気の魔法をぶつけていない状態での魔力量だ。


 本気の魔法をぶつけて五百台なら及第点と評価されるのであれば…


 シルクはグレイの方をじーっと見つめる。

 実際グレイは魔法障壁を素速く貼れ、研究中も魔法を使いこなし、物を軽々と浮遊魔法で浮かせられる。

 ヘリオスフラワーを開花させた時も、回復ポーションを使用せずに最後まで粘り強く耐えていた。



「博士も是非やってみて下さい」


「えぇ、僕は別にやらなくても…」


「良い機会だ、グレイも強制参加な」


「ちょっとカネル!?」




 それならば、と後ろから見ていたシャロンとミュスカにも声がかかり、結局はこの場にいる者全員が魔力測定器を使用する事となった。

 自分だけじゃないなら、とシルクは心の隅で安堵の息を漏らした。




――


 まず始めに誰が挑むかとなり、ならば俺からと声を上げたのはレザンだ。


 魔法測定器から一定の距離のところで立ち止まり、慣れた手つきで武器を構える。

 レザンは主に銃を扱い、遠距離攻撃を得意としている。



「女性に見られてるからって緊張して外すんじゃないよ~」


「変なちょっかいをかけるなよ!」



 シルクの後ろ姿を見るだけでは平気な様子であったが、真正面だったり視線がぶつかりそうになると一気に顔を赤くさせて緊張してしまう様子が見られ、同僚達に軽くからかわれしまう。


 女性と関わる機会が少ないとこうなるのか、とシルクはそのまんまの感想を心の中で呟いた。



 レザンはちらりとシルクの方を見ては直ぐに顔ごと視線を逸らしてしまうが、魔法測定器に視線を留めると軽く呼吸を整え、真剣な表情へと変わる。

 切り替えが早いんだな、とこれも素直な感想を心の中で呟く。




 魔力を持たない者が武器を使用する場合は、通常通りの正しい方法で武器が使用される。

 今回の様に魔力を保持する者が武器を使用する場合、銃では実弾の代わりに魔力が込められた物質が放たれる。


 魔力保持者の扱う魔法の属性によって分類が異なる為、物質という表現になるのだ。


 火属性の魔法となれば、火の弾丸。

 水属性の魔法となれば、水の弾丸。

 氷属性の魔法となれば、氷の弾丸…といったように、属性によって変化していく。



 レザンは銃を構え、魔力を込めるように意識を集中させる。

 目の前で魔力が跳ね上がる感覚に、ミュスカとシャロンは軽く鳥肌を立たせて身震いした。



 魔物討伐特攻隊は戦闘能力が高い者達の集まり。

 一般的な魔法使いと比べて、高い魔力を保持する者達だ。


 目の前で武器を構えている者が魔力を込めるのに意識を向けた瞬間、その者が纏っている魔力がぐんと跳ね上がる。

 戦闘経験がほとんど無いと言えるシャロンとミュスカにとって、驚きを隠さずにはいられないものであった。




 狙いが定められ、水属性の弾丸が勢い良く魔力測定器にぶつけられた。

 衝撃音が響き渡り、弾丸が通った辺りには砂煙が軽く舞う。


 魔力測定器の頂点に”八百三十”と数値が浮かび上がった。



「よし、合格だな」


「は、八百…」


「この後本当に僕達もやるんですか!?」



 目の前で本場に近い実力を見せつけられ、シャロンとミュスカは狼狽えながらグレイとシルクを交互に見る。


 グレイはにやにや笑いながら「頑張ろうね」としか言わず、シルクは無表情のまま「やってみましょう」と自身の胸の前で拳をつくって軽く揺らした。



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