70. 注目の的
シルクはアベルに対して軽く会釈をすると、そのままグレイの方へと向かい背後へと隠れてしまう。
そんな様子にアベルはついむっとした表情で目を細めるが、グレイの姿を見た瞬間片眉を引きつらせ、明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
同僚達はアベルが戻って来たのに気付くと、待っていたぞと言わんばかりに詰め寄る様に迫って行った。
「ようアベル、お前グレイさんが来ること黙ってただろ!」
「お陰で僕達寿命が縮むような思いをしたんだからな!」
「さりげなく戻ってきやがって!次はお前の番だからな!!」
「あー…悪かったっての」
そう言えば来客について同僚に詳しく伝えていなかったな、とアベルはわざとらしく視線を斜め上に逸らしながら軽く謝罪する。
再び視線をカネル達に向けるが、その中にいるシルクは完全にグレイの背後に隠れてしまっており姿が見えにくい。
シルクは前日の質問攻めの事や裏魔法協会での出来事もあり、完全にアベルを警戒対象として見てしまっていた。
「もしかして、あの人がシルクさんを困らせたっていう例の部下の人…?」
「みたいだな…確かに目付き悪いな彼奴」
ミュスカとシャロンは互いに小声で様子を伺う。
目付きが悪いという言葉が聞こえたのか、近くにいたカネルは笑いそうになるのを堪えてから部下達に声をかけた。
「よし、全員揃ったな。アベルには戻ってきてすぐで申し訳ないが一旦場所を変えよう。実際にこの装置にどれだけ魔力を溜められるか試す必要があるのと…」
カネルはちらりとグレイの方へと視線を移す。
正確に言えばその背後にいるシルクに向けてだ。
「僕達が普段から使用している訓練場に魔力測定器があってな。この前シルクさんに使った機械では数値が出なかったが、訓練場にある物ならより精密に数値を叩き出せると思うんだ」
是非来てくれ、とカネルは笑顔で宣言する。
数値が出なかったという言葉に、アベル以外の部下達は一斉に視線をグレイに向ける。
正しくは背後にいるシルクに向けてであるが。
「そんなに見つめられると…照れるじゃないか」
「ドヤ顔で言うなよ先生」
「実際注目を浴びてるのはシルクさんの方ですし…」
シルクはそろりとグレイの背後から顔を出そうとするが、集中してくる視線に耐えられず再び完全に背後へと隠れてしまう。
装置を回収するのが目的であって、その目的はもう果たされそうになっているというのに。
どうしてこうなったと思いながら無表情のまま影を落とした。
―――
―――
訓練場は地下にあり、専用のエレベーターを使用する必要がある。
シルク達はカネルの案内に従って共に行動するが、そんな中カネルの部下達は後ろからシルクの様子を伺いながらひそひそと小声で話し合っていた。
「なぁアベル、あの人って何者なのか知ってるか?」
「この前隊長と一緒に会ったんだろ?」
アベルは怪しむように目を細める。
何者なのかと問われるも、実際アベルも詳しく知らないままである為説明し難い。
何でも屋をしている事、秘めている魔力がとてつもなく高い事。
それにも関わらず、自身を「只の魔法使い」と称している事。
以前いくつか質問したが、どれも淡々と無表情で答えられて流されてしまったような感覚であったのを思い出す。
『得意な魔法は、攻撃魔法と武器召喚魔法です』
『異言語魔法…はい、これもよく使います。潜入捜査の時に重宝しますね』
『箒ですか?藁の箒をいつも使ってます。…壊れた事ですか?今のところはありません』
『…私は一人でやる方が向いているんです。詳しい内容は言えません、ごめんなさい』
最後の質問だけは無表情では無く、僅かに歪ませたような複雑な表情をしていた気がする。
納得いかないまま謎が残ってしまい、結局は魔力がとんでもなく高いのであろう、というはっきりとしない事実しか分からなかった。
実際にこの目で見たものしか信用しないアベルにとっては複雑なものであった。
確かに魔力測定器ではエラーが表示され、最終的にはカンストしていた。
しかしそれでは具体的な数値が不明なまま、中途半端な結果のまま終わってしまった事になる。
初めてシルクと会った際に感じた妙な魔力の流れからして、魔力が高いのは明らかなのだろう。
だがどうにも煮え切らない、何とももどかしい。
複雑で納得いかない思いを渦巻かせながらも、同僚からの質問に答えた。
「俺にもよく分からねぇ奴だよ。何でも屋をやってるようだが、詳しい事は不明だ」
「何でも屋かぁ…そういや以前アベルが受け持った後処理の依頼でも、何でも屋の話が出てなかったっけ?」
「もしかして、その何でも屋があの人…?流石に決めつけるのは早いんじゃないの?何でも屋を名乗っている人なんて世の中にどれだけいると思ってるのさ」
「それに見た感じ大人しそうな人だよな…俺達よりも年下じゃね?」
ひそひそ声で各自思い思いの言葉を交わしながら、シルクの後ろ姿を見つめる。
大きめの黒いローブを身に纏い、首から口元にかけてストールをぐるぐると巻き付けた状態。
あまり喋らず大人しい様子なのもあり、フードを被ってしまえば暗闇の中に溶け込んでしまいそうな、静かすぎる印象である。
但し、シルクから感じ取られる魔力の流れは、部下達は見逃していなかった。
「…見た目で判断するには早いってやつ?」
「どうだろうねぇ」
長く複雑な道筋となる通路をしばらく歩き、エレベーター前に辿り着いたところで会話は一旦区切りを付けられた。




